第5話 信じるものの戦い

 爆発がテーマパークのあちこちで起こる。
 ピエロ仮面が乗るテーマパークの華やかなパレードの車に取り付けられた重火器による攻撃に、バットマンは近づくことが困難となっていた。
 ジョーカーは、そもそもバットマンを倒そうという気持ちはない。
 時間さえくれば良い…。
 そこでバットマンは、思い知るのだ。
 自分はいかに無力か…そこで光は闇に墜ちていく。
 それを見ることができる…まさに、笑いが止まらない光景を見ることができるのだ。

 都内では、ジョーカーから解放された人たちが、口にはガムテープ、手を縄で縛られた状態で彷徨っている。
 助けを求める、その人間たち…その身体には爆弾が仕掛けられたもの、逆に、まったく無害なものが混在し…街を歩く。
 一般市民は怯え、どうして良いのかわからずに戸惑い、立ち尽くす。
 助けるべきなのか?自分の命のために逃げるべきなのか?
 本当なら、答えはない。だが…ジョーカーはこう思うだろう。
 見捨てるものは、結局、わが身可愛さで、その人間を殺めた殺人者となんら変わりはないと。

 光と闇は常に正反対でありながら、密接に関係している。
 人間の心は、この二つの存在に揺れ動かされながら…存在しているのだ。

 目の前で、助けを求める存在…。
 だが、それには、爆弾が仕掛けられているかもしれない。
 自分の身を危険に晒すことになったとしても、助けようとするものが、この安全の国、日本において…どれだけいるだろうか?
 ジョーカーの問いかけは、そこにある。
 テレビを前にして戦争の光景を見て、『可哀想だ』『戦争はやめよう』と容易くえるのは、所詮は第三者としての視線でしかない。
 その環境、情勢を知らずに、容易く言うことは、そこにいるすべてのものに対しての冒涜なのだと…。

 さんざん自分を笑いものにした第三者の国は、今まさに自分たちが、その当事国となった。
 今度は自分たちが他の国に、興味の目に晒され『可哀想だ』『何も出来なかったのか?』と言われることになる。

「…結局は、俺たちのやっていることなんかショーなのさ!バットマン。誰もお前に同情するものなどいないし、誰もお前を助けるものなんかいないのさ」

 ジョーカーの部下であるピエロ仮面の機銃掃射を前にして、人間爆弾の制御スイッチを持つジョーカーに近づけないでいた。
 時間はあまり残されていない。

「フハハハハハ!焦っているか?焦るだろうな、お前は無力だ、たった一人で、何も出来ずに、くたばれ!!」

 ジョーカーは頭をあげて、大声で笑う。
 そんなジョーカーの視線に入るもの…笑い声は途切れ、目を丸くする。
 視界に入ったのは、月が見える夜空に浮かぶ、白き女の姿。
 その女は、槍のようなものを握り、こちらに標準を定める。
 そして空から放たれた巨大な光が、ジョーカーの乗るパレードの華やかしい車を貫き、少しの間をおいて、爆音とともに、火の玉となる。

「はああああ!!!」

 他のパレード用の車も、黒き女の持つ巨大な剣の形をした道具により、切り裂かれる。
 ピエロ仮面は爆発に逃げ惑いながら、爆風に巻き込まれ吹き飛ばされる。
 空から降り立つ白い服の女…高町なのは。
 切り裂いた、黒き服の女…フェイト・T・ハラオウンがバットマンの前に立つ。
 なのはとフェイト…2人の視線の先にいるジョーカーは、立ち上がり、埃を払う。

「……ックックック、素晴らしい、素晴らしいな~~その力…。君たちの力を持ってすれば、俺など容易く殺せるだろう?」

 ジョーカーは拍手をして、目の前の二人に頭を下げる。
 ジョーカーは、自分の前に集ったバットマン、そしてなのはとフェイトを見つめながら、
 紅蓮の炎の光に照らされつつ、ゆっくりと歩き出す。

「ここまできたお嬢さんたちには、ひとつ、教えてあげないといけないな」

 ジョーカーは、歩きを止めて振り返りなのはとフェイトのほうに視線を向ける。

「お嬢さんの、娘…名前はヴィヴィオだったか」

 フェイトは怒りを感じ、拳を強く握る。
 自分たちのせいで巻き込んでしまったヴィヴィオ。
 彼女を早く救い出したい。彼女を助けたい…。
 その気持ちを抑えこむ反面、相手に対する憎悪は増していく。

「かわいらしい子だ。フフフ…、お嬢さんのことを何一つ話そうとはしなかった。
 きちんと教育をうけたいい子だったな。どんなに痛めつけようが、苦しめようが……
 涙を堪えて話さない姿……俺は、感動さえ覚えたよ。フフ…フハハハハハハハ」

「くっ!!」

 聞くに堪えないその言葉にフェイトは道具であるバルデッィシュを握り、距離を縮め相手を切り裂こうとした。
 だが、そのフェイトの行動を察知したのか、
 なのはが握るレイジングハートがフェイトの身体を抑えるように前に出される。

「…怒り、憎悪を表に出せばあいつの思う壺だ」

 後にいるバットマンは、冷静に告げる。

「わかってはいるけど……」
「いや、君じゃない。本当に怒りで我を忘れかけているのは、むしろ…もう1人のほう」

 フェイトは隣にいる、なのはを見る。
 なのはは冷静そうな顔をしているが、レイジングハートを握っていないもう1つ手は怒りを抑えるために、
 強く拳を握りすぎたためか、血が流れて、地面にと落ちている。

「…何も躊躇う必要はないぞ。俺は丸腰も同然…。お前の力を持ってすれば、俺など蝋燭の火を吹き消すように、
 一瞬で終わらせられるだろう。フフフフ……」

 ジョーカーは、高町なのはにターゲットを定めた。
 怒りと憎悪は、あの黒き女よりも強く根深い…。
 バットマンに見せてやれる、光が闇に落ちていくさまを…。

「それは、俺にだけ向けられるものではない。この国の警察官が、お前の娘を助けるためになにをした?
 動揺を煽り、今も事態は進行中……誰も助けられない、誰も、救えない。
 クフフフフ……、お前たちの力を持ってしても、1人の人間を助けることも出来ないんだ。
 ならば、なんのために戦う。なんのために…。
 お前が倒すべき敵は俺ではなく、無能で理不尽なこの世界じゃないのか?」

「あいつの話を聞くな…」

 バットマンは正面に立っている、なのはに言う。
 怒りにすべてを忘れてはいけない。
 ジョーカーのペースに乗ってはいけないのだ。
 だが、彼女は、それができるのか?
 やはり…ここは、自分がジョーカーを止めるしかない。時間も迫っている。

「…私は」

 なのはは、ジョーカーに向かって語りかけるように声を出す。
 それは憎悪も怒りも感じられない…。

「…私の力は、そんなに強いものじゃない。私1人の力でできることは、あまりにも少ない。
 だけど…、大切な仲間がいれば、1人じゃ出来なかったことも…できるようになる。不可能が可能となる」

 なのはは、隣にいるフェイトを見つめる。その表情は、穏やかなもの……。なのはは、知っている。
 今まで戦いで…フェイトから、そして、はやてと戦って得た強い絆。
 1人で苦しんでいたことも…同じように受け止めてくれる人がいること…
 それがどれだけ自分にとって強い力となるか。

「…私は、あなたのようにはならない」

強い眼差し…その眼を見て、ジョーカーは唸り声をあげる。
なのはが自分を見る目、それは…哀しみの目。
そう自分を哀れむ目…。

「そんな目で俺をみるなぁ!!!」

 ジョーカーは、そういうと以前、フェイトに使った手榴弾のようなガスをだすものを投げつける。
 しかし、それはフェイトにより、切られる。
 ガスをださないように、起爆装置だけを完全に…。

「なに!?」
 驚くジョーカーは、逃げ出そうとするが、その足にワイヤーが巻きつけられる。
 バランスを崩し倒れるジョーカー。
 バットマンの放ったそれに、ジョーカーは今度こそなすすべなく、捕まる。
 バットマンは、なのはとフェイトを追い抜き、ジョーカーを見下す。

「フハハ…、アハハハハハハハ…。気持ちがいいだろうな、蝙蝠男。
 俺が、あんなガキにやられるさまは?」

「……ジョーカー、人質を解放しろ」
 バットマンはジョーカーの問いには答えず、時間が迫っている人間爆弾について聞く。
「…ヴィヴィオは、どこ?」

 なのはも、ジョーカーに問い詰める。
 ジョーカーは…心のどこかでは焦っているであろう二人に向かって、笑いながら…。

「いいだろう、教えてやる…起爆装置はジェットコースター内にある。
 お嬢さんの娘が座っている座席そのものだ。
 お嬢さんが座席から降りた瞬間、どかーんと吹き飛ぶ、だが…ジェットコースターも一定速度が落ちると爆発するようセットされている。
 どっちを助けたいか、お前たちで選べ…。
 おっと、二つとも、時間が来れば勝手に爆発することも忘れずにな。
 フフフ…フハハハハハハハハ」

 ジョーカーの襟首を捕まえ、身体を起こさせる、バットマン。
「貴様、他に方法はないのか?」
「ない。一人の命を助けるか、多くの人の命を助けるか、好きなほうを選べばいいさ~ヒヒヒヒャハハハハハハ」
 バットマンはジョーカーの襟首を離す。

 テーマパークにあるジェットコースター…。
 ジョーカーとバットマンが戦いはじめたときから、動いているそれは、もう既に30分以上が経過しようとしていた。
 ヴィヴィオは目を伏せて、酔わないようにしている。
 そのヴィヴィオの座っている真下…そこに起爆装置が赤く点滅している。
 ヴィヴィオの重さにより、1つの起爆装置は止まっているが、もう1つ…それはジェットコースターの速度に反応している……。

「…卑劣な」

 フェイトは吐きすてるように言う。
 なのはは、ジェットコースターがある方角を見る。

「どうするつもりだ?」

 バットマンはなのはと、フェイトに問いかける。
 なのはとフェイトは、バットマンのほうを見て

「…両方を助けます」
「今までそうしてきたように……」

 バットマンは二人の言葉を聞き、なのはとフェイトが空を飛んでヴィヴィオを助けにいくのを見送る。
 今の彼女達に言うことは何もない。
 強き心…自分の行いを信じ、そして今の自分にはない、大切な強い仲間がいることが……その心の力を何倍も倍増させる。

 普段、人を信じることをしない、私も今日だけは信じてみよう。
 信じる心を持つものの、力を。

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最終更新:2008年12月01日 21:31