戦闘機人。
身体能力を強化する為に人の身体と機械を融合させ、常人を超える能力を得たミッドチルダの技術。
いわゆるサイボーグに等しい。
倫理的、技術的に大きな問題がありタブーとなっているが、一部の非合法組織では未だに開発が進んでいる。
少女の名はスバル・ナカジマ。
一見すると、何処にでもいそうな普通の少女かもしれない。
その正体は姉のギンガ・ナカジマと同じく、陸戦魔導師の捜査官クイント・ナカジマの遺伝子を用いて、戦闘機人の実験体として人工的に生み出された『タイプゼロ』。
14年前、戦闘機人の捜査を進めていたクイントに発見され保護される。
その後の検査で姉妹の遺伝子がクイントと一致すると知り、クイントと夫のゲンヤ・ナカジマは二人を娘として受け入れた。
閉鎖された廃墟の都市、渋谷の一部――エリアZ。
地下深くに存在するその部屋は暗闇に包まれ、コンクリートと鋼鉄によって異常なまでに冷えており、鉄の生臭い匂いが漂う。
そんな劣悪な部屋に置かれているモニター画面の前にバットは立っていた。
『ほう、ゼロセカンドの捕獲に成功してくれたか!』
「その通りです」
画面に映る男はバットの報告に気持ちを高ぶらせ、歓喜の声を上げている。
それはまるで無邪気に遊ぶ小さな子供のようだった。
その男は自身の身体を白衣に包み、薄紫の長髪は肩にまで伸び、瞳は金色に染まっていた。
ジェイル・スカリエッティと呼ばれるその男は多くの犯罪を起こし、広域指定次元犯罪者として指名手配されていた科学者だった。
かつて自らが起こしたミッドチルダを震撼させたJS事件の末に逮捕され、第9無人世界の「グリューエン」軌道拘置所に数年間収容されていた。
彼の正体は時空管理局最高評議会がアルハザードの技術を使って生み出した人造生命体であり、無限の欲望を意味するコードネーム――『アンリミテッド・デザイア』を名付けられた異能の天才児。
あらゆる分野に驚異的な知識を持ち合わせていて、それを用いて数多くの技術を生み出している。
もしも、違法研究に手を染めなければ間違いなく後世にその名を残していただろう。
現在は解放された娘たちと共に、ワームを補佐する技術者となっている。
「もう少しであれを元にしたホッパーが完成します」
『ご苦労だった……さあ、早くアジトに帰還して後はこちらに任せると良い』
「いえ、これから最後の仕上げに入るところです。ですから帰還はそれを終えてからで」
『そうか、ではそちらでお願いしよう』
「分かりました」
そのままスカリエッティは嬉々した態度で口を開く。
モニター画面から放たれる光で蝙蝠を模した仮面が照らされる中、バットは一礼する。
顔を上げてから見えるスカリエッティの笑みは、何処か落ち着いた物となっていた。
『それにしても君はゼロセカンド相手によくやってくれた。パーティーの一つでも開きたいくらいだ』
「それ程の事でしょうか? あまりにもあっけなくて拍子抜けしましたが」
『それでも、ISを使わせなかったのは大したものだよ』
「恐れ入ります」
スカリエッティは感嘆したように言うが、バットは大した仕事をしたとは思っていなかった。
戦う為に生み出され、常人を遙かに上回る力を持ち、ISという機能までも付いている。それがバットが聞いた戦闘機人という存在だ。
その為に計画の一環としてネイティブの肉体を強化改造したバットが捕獲を担当された。
ところが実際やってみれば、確かに向こうは異様な運動能力とネイティブにダメージを与えるほどの力は持つ。
しかし救援に来た同胞の不意打ちに敗れ、そこから攻撃を数発加えればあっけなく意識を失ってしまった。
『しかし君らネイティブやワームの擬態能力、ファンガイアの変化とは実に素晴らしい。私の生み出したライアーズ・マスクをも上回るとは……管理局の情報を引き出すのに助かる』
「いえ、前に確かめてもらいましたがあれもなかなかでしたが。あのような物を組み込める貴方のような方が我々に加わってくれて本当に助かります」
『そうかい、それは光栄だ』
バットは仮面の下で喉を鳴らしながら、スカリエッティと似たような笑みを浮かべる。
「さて……そろそろ作業に入ろうと思うのでこの辺で」
『そうか、では我々は待っているよ』
そのやり取りを終えるとモニター画面の光は消え、再び部屋に暗闇が包まれる。
それと同時にバットは微かな青い光に照らされる見慣れた廊下に出て行く。
最後のデータ書き換えを終えれば、邪魔者を始末する為の戦力が飛躍する。
喉を鳴らし続けたままその思いを胸に抱え、乾いた足音を響かせていた。
その思考はすぐに終わりを告げる。
静寂に包まれたはずのエリア内に、突如としてけたたましいサイレン音が鳴り響く。
青く照らされている廊下の照明が赤く明滅し、否が応でも緊急の事態が起こったことをバットに知らせる。
警報音が通路に響く中、一体のネイティブが慌ただしい様子で駆け寄ってくる。
「何事だ!?」
「カブトです、カブトが現れました!」
それを聞いたバットは仮面の下でぎょっとした表情を浮かべる。
そのままネイティブは続けた。
「全力で抗戦していますが、とても太刀打ちできません!」
「何故カブトが現れた!?」
驚愕に支配されるバットに対し、ネイティブは「分かりません」としか返せない。
「お前達で何とか食い止めろ! あと一歩で――」
「カブトの勢いは凄まじく、このままでは全滅してしまいそうです!」
苛立ちを覚え、バットは渾身の力でコンクリートの壁を殴りつける。
信じられない。
この計画はかつて、地球を支配しようとした根岸の意志を継いだごく一部のネイティブ内でしか伝わっていないはずだ。
ここでバットは一つの可能性を模索した。
もしや裏切り者がいて、ZECT総帥――加賀美陸に情報を垂れ流し、カブトを送り込んだのか。
だとしたら危険だ、このままではゼロセカンドを奪われた挙げ句に計画が察知される危険性がある。
今からデータ書き換えの手術をしたとしても間に合うとは思えず、逃げ出そうとしても鉢合わせするに違いない。
仮面の下でバットは歯をギリギリと音を立てて鳴らすと、そのまま廊下を駆けていった。
広大な廃墟の一角で、その青年は足を進めていた。
ファッション雑誌からそのまま切り抜いたようなセーターやジーンズ、マフラーに身を包む彼の年齢は若い。
彼はこの場所を困惑した表情を浮かべながら見渡している。
鼻を塞ぎたくなるような硝煙の煙、墓石のように並び立つ瓦礫と鉄骨の山、倒壊したビル、原形を留めていないほど破壊された車、折れ曲がった看板と標識。
周囲に漂うそれら全てが地獄の光景と呼ぶに相応しく、灰色に曇る空がその薄気味悪さを一層引き立てていた。
何一つの希望を感じさせい廃墟がこの世界に存在していたのか。
こんなにも恐ろしく、絶望という言葉が相応しい場所がこの世界にあったのか。
そして、一体この場所に何があったのか。
長年閉じた世界で育ってきた彼にはそれが理解出来なかった。
青年がこの場所を訪れた理由は一つ、彼とつき合いの長い相棒と父の遺した品の告げる声に導かれて。
その声は、この場所に異変が起こっていることを知らせている。
ここは警察の手で何十にも封鎖されていたが、青年は目の届かない場所から何とか忍び込んで進入することに成功した。
「にしても何なんだここ、ファンガイア以外にもヤバイ雰囲気が漂ってやがるぜ……」
青年の傍らで羽を羽ばたかせ、蝙蝠を連想させるモンスター――キバットバットⅢ世はぽつりと呟いた。
その赤い両眼で、彼もまたこの廃墟をきょろきょろと見渡していた。
対する青年はそれに答えず己の本能のまま、ひたすら足を進める。
如何なる物が待ち構えていようと、彼は進むだけだった。
やがて、彼の前に灰色の建物が現れる。
そこは瓦礫の山が広がるこの場所には珍しく形が整っており、鉄門がそびえ立っている。
青年は感じる異変がここから放たれていると本能で察知すると、途端にその表情が強張っていく。
脆弱から一変、それは決意を感じさせる物となった。
「キバット!」
「了解~!」
青年の呼び答えに対し、キバットバットⅢ世は軽い口調で返す。
そして青年は右手にキバットバットⅢ世を収め、その口を反対の手の甲に噛みつかせた。
「ガブッ!」
キバットバットⅢ世はその声と共に、自らの牙を青年の左手に突き刺す。
その途端、彼の身体に凄まじい量の魔皇力――アクティブフォースが駆け巡る。
すると青年の下顎にステンドグラスを彷彿させる模様が浮かび上がり、腰には鎖が巻き付かれ、バックルへと変質していく。
彼はキバットバットⅢ世を握る右手を勢いよく前方に突きつけると、その言葉を力強く告げた。
「変身!」
青年はキバットバットⅢ世をベルトの台座――キバックルにぶら下げるように取り付ける。
キバットバットⅢ世が止まり、バックルはキバットベルトに変化する。
するとその体は、ベルトからの波動によって生まれた魔金属――ルシファーメタルで生成されたアーマーに包み込まれた。
青年の姿は人ではなく異形へと変わり、黄金色の両眼は輝く。
様々な情報収集器官を集約し、あらゆる衝撃から頭部を守るマスク――キバ・ペルソナ。
伝説の悪魔の顔を象った首飾り――ダークネス・チョーカー。
全身を守りながら内蔵する力の暴発を押さえつけ、赤と銀を基調とした吸血鬼を彷彿させる鎧――キングシングレット。
幾重にも枝分かれした筋が通り、胸部を守る真紅色に染まった力の貯蔵庫――ブラッディラング。
銀色に輝き、内蔵する力を押さえつける為に存在する両肩部の拘束具――プテラ・プレート。
超人的腕力を与える為に巻かれ、両手首で銀色に輝くブレスレット――キングブレス。
下半身を守り、いかなる極限状態からも青年を守る漆黒に輝くインナースーツ――ドランメイル。
それぞれの膝を守り、足先へと流れる力をコントロールすることが可能な防護具――シルバニア・ニーガード。
封印の鎖――カテナに縛られ、銀色に輝くプレートで堅く構成された右脚の拘束具――ヘルズゲート。
彼の名は紅渡。
またの名をキバ。闇の一族――ファンガイアと戦い、王の力を持つ鎧――仮面ライダーキバ キバフォームがそこに立っていた。
仮面ライダーカブト レボリューション 序章
その3 二人の英雄 新たなる仮面
マスクドライダーシステムの秘密を握り、永久に閉ざされた筈の廃墟――エリアZ。
荒れ果てたその空間は、青色の灯に照らされていた。
侵入者を拒むようなシャッターやドア、階層の移動に使われるはずのエレベーターは既に朽ち果て、その役割は果たしていない。
老朽化の所為か所々の壁が剥がれ落ちており、無惨に床に散らばっている。
時間が止まったかのような静寂に包まれるその空間には、複数の殺気が一ヶ所に集中していた。
それは武骨な銀色の鎧が特徴のライダー――仮面ライダーカブト マスクドフォームに目掛けての物だった。
殺気を放っているのは蛇を連想させる仮面で顔を覆い、黒を基調とした装甲に身を包み、鞭を片手に持つ異形――スネークと、それが率いる五体のネイティブ。
そしてカブトに傷を負わされながらも、何とか背後から追ってくる二体のネイティブ。
彼らはいずれもカブトに対する敵意を全身にみなぎらせていた。
何の事情も知らない常人がいきなりこの状況に放り込まれれば、ほんの一瞬で正気を失った後に死を覚悟するだろう。
だが敵意をまともに浴びているカブトは取り乱すどころか、一片のうろたえも見せていなかった。己を鍛え続け、数多の戦いを乗り越えてきたカブトにとってこの程度は何の脅威にもならない。
睨み合いはほんの一瞬で終わり、スネークが率いるネイティブは呼吸を合わせてカブトに打ちかかってきた。
濃緑の爪は前後左右から襲いかかり、続くように鞭が飛んでくる。敵は集団戦に慣れているのか、闇の中でもその動きには調和があった。
対するカブトは本能に従って動いた。ほんの僅かでもそれが誤っていればアーマーを傷つけられ、ダメージを受けてしまう。いくら防御に特化されているマスクドフォームでも油断は出来ない。
襲いかかる複数の爪と振り下ろされる鞭は、一寸の狂いがないように見えても僅かながらのズレが存在する。そこを見分ければ陣形が崩せる。
カブトクナイガン アックスモードを右手に持つカブトは、重量感が溢れるそのアーマーからはとても想像出来ないくらいに軽やかな動きで敵を翻弄し、斧の一撃をネイティブに浴びせる。
一体、また一体。
皮膚を裂かれたネイティブは、痛みのあまりに蹲る。
残りの敵は背後を取られないように壁や柱を背負うようにしているが、変幻自在な動きで爪を避けるカブトはそのようなことを構いもせずに斧を振るう。
数では圧倒的に敵の方が有利だが、カブトには心得があった。
多数と戦うときは自らが絶えず動き回り、敵の体勢を崩すのが上策だ。荒れ果てていて足場の条件は悪いが、この室内は広いので問題にはならない。
徐々に倒れていく敵は地の利で補おうとするが、カブトとの実力に差がありすぎる。戦闘が始まって三十分以上経つはずなのに、カブトには傷を何一つ負わせられない。
ネイティブは焦ってきたのか、その爪を乱暴に振るう。
しかし力に任せただけの攻撃など、カブトには無駄以外の何者でもない。
カブトは恐ろしいほど早く、そして正確にその爪を避けながらネイティブの脇に回り込むと、斧を用いて皮膚を切り裂き、怯ませる。
時折飛んでくるスネークの鞭を斧で弾きながら、その勢いでネイティブ達の皮膚を斬り続ける。
やがて全てのネイティブはその場に倒れ込み、残されたのはリーダーと思われるスネークのみだ。
カブトは拳銃を構えるかのような形でクナイガンを持ち替え、銃口をスネークに突きつける。
「お前達、一体ここで何を企んでいる?」
闇の中でカブトは問いかけるが、スネーク率いるネイティブは答えない。
何故エリアZの封印を解いたのか。一体ここで何をするつもりなのか。
そして、自らの前に立つ異形は何なのか。その仮面からは殺意以外の感情が一切感じられず、まるで殺戮機械を彷彿とさせる。
カブトは、左手で自らのゼクターに付く角を九十度の角度で起立させた。それを合図として銀色の鎧が外れていく。
腕部、両肩、胸部、頭部
全てのアーマーが外れると、その単語を呟いた。
「キャストオフ」
『Cast Off』
ゼクターホーンを左側に倒すと、瞬くような電子音が響き渡る。
頭部の装甲が分離し、全身の鎧が暗闇の中で弾かれ、空気を切り裂くような勢いでスネークに激突していった。
その直後、顎からは角がせり上がり、青い単眼を複眼へと変えた。
『Change Beetle』
ライダーフォーム。
それがその姿の名前だった。
全てのアーマーを脱ぎ捨てて現れたのは、スリムなスタイルが特徴的な真紅の鎧。
ボリュームのある角を持つその仮面はカブト虫を連想させ、輝きを放つ双眸を力強く向ける。
現れたのは太陽の如く赤い輝きを放ち、絶対なる強さを誇る仮面ライダーカブトの真の姿。
カブトは形態を変えるのと同時にクナイガンの引き金を引く。
暗闇の中で銃口が瞬くと、数回の轟音が響いた。
眩い閃光と共に放たれる光弾は、超高速でスネークの装甲に殺到する。
「!!!!!!!!」
刹那、光弾が命中した箇所からは火花が飛び散り、スネークは仰け反った末に硬直する。その隙を逃さずカブトは姿勢を低くし、異形の懐に飛び込んだ。
硬直はほんの数秒で解けたが、手遅れだった。スネークの目前には刃があり、闇を照らすかのように鋭い輝きを放つ。
カブトは刃を持つ形状へと変えたクナイガンを一閃させると、焼け跡が残る装甲はまるで豆腐か何かのようにすっぱりと斬れ、火花が再び噴出した。
その勢いを保ったまま刃を返し、カブトは力を込めてクナイガンを振るう。変幻自在に軌道を変える斬撃に、相手はただ耐えるしかできない。反撃など不可能だった。
息が続くままカブトはクナイガンを振るい続け、その一撃の為に勢いを溜めるように構えると、息と共に薙ぎ払う。
「はあっ!」
渾身の力を込めたカブトの一撃によってスネークは吹き飛び、背中から壁に叩き付けられて崩れ落ちた。
その衝撃によりコンクリートが破壊され、ガラガラと音を立てながら敵の上に落ちる。
カブトは油断することなく、クナイガンを構え続ける。
斬撃の連続によって乱れた呼吸を整えながら武器を手に、スネークの方へ慎重に歩き出した。動かないのなら良し、もしまだ戦えるのなら即刻にトドメを刺す。
そのまま近づいていく。だがあと一歩という距離まで近づいたとき、その足が不意に止まった。
「これは……?」
その異変に気が付くのはすぐだった。
瓦礫に埋もれたスネークからは動く気配が感じられない。だがカブトは目の前の出来事を把握することが出来なかった。
自身のクナイガンで切断したスネークの装甲は、硝煙の匂いと火花に包まれている。
その切断面からは、この世に存在する物とは思えないような金属製の回路が剥き出しになっていた。
そこからすぐにカブトは踵を返し、ネイティブ達の方へ歩を進める。
「話して貰おうか」
目前へと迫るカブトを見て、ネイティブ達はその体をぴくりと震わせる。
そのまま腰が抜けた様子でへたり込み、這い蹲るように闇の中へ逃げ出した。
だが逃がすつもりなど無い。
後を追う為に動き出そうとしたその時、それは起こった。
「ギャアアア…………」
突如、闇の中から金切り声が生まれ、廃墟の中に響き渡る。
続くように断末魔の悲鳴は一つ、また一つと増えていく。
それらは瞬時にカブトの鼓膜に入り込み、無意識のうちにその足を止めてしまう。
「何だ!?」
カブトは言うが、誰もそれに答えない。
目を凝らしても全てが闇に覆われていて、状況の把握が出来ない。
警戒を強めると、突然幽霊でも現れたかのように暗闇の中からぼうっと人の形が浮かび上がる。
しかし現れたそれは人の姿をしておらず、蛸を連想させる風貌をしていた。今までに見た怪物――ワームとは明らかに姿が違う。
その異形――オクトパスファンガイアに続くかのように暗闇から気配が迫る。
同じように現れたのはワームとはまた別の怪物と思われる異形だった。
蛾を連想させる異形――モスファンガイアは片手に剣を持ち、距離を詰めてくる。
新手か。
突き刺さる殺気からカブトは判断すると、背後から足音が鳴り響く。
気配を感じて振り向くと、そこには暗闇と同調するかのような漆黒のマントに覆われた異形が立っていた。
その異形は先程戦ったスネークのように、蝙蝠を模した仮面を被り、全身が装甲で守られている。
「役立たず共が……足止めもできんのか」
現れた異形――バットは感情を殺した冷たい声を出す。
今の一言でカブトは察する。ネイティブ達はあの異形に殺された。
「奴等はお前の同族じゃなかったのか」
「使えない奴などファンガイアの餌になればいい、邪魔でしかない」
「ファンガイアだと?」
カブトは現れた異形を再び見向くと、陸から聞いた話を思い出す。
根岸の意志を継ぐネイティブやワームと結託し、この世界に暗躍している魔の一族――ファンガイア。
それはワームと同じく人間の姿に化けて、社会に潜みながら人々を襲い、その生命力を糧としているモンスターと聞く。
その活動はワームより遙かに古く、太古の時代から人間を襲っていたらしい。
自分を止めなかったことにより、あのネイティブ達はファンガイアの餌に利用されたとカブトは判断する。
「我々を裏切ろうとした奴等など、消えて当然だ」
吐き捨てるようなその一言に怒りを覚え、カブトは仮面の下で眉を歪ませた。
周囲を囲む異形達は輪を作るようにカブトの周りに立ち、殺気を突きつけている。しかしそれに怯むことはない。
カブトは周囲の敵を見定める。この連中の戦闘力はワームとほぼ同等かもしれないが、油断は出来ない。
殺意に立ち向かうように、クナイガンを構え直す。
荒れ果てた廃墟でカブトは一人、この状況を打破する為の算段を立て始める。
しかし、それは長くは続かなかった。
――轟。
突如として、静寂は終わりを告げた。
閉塞された空間の中に強烈な震動が襲うと、何かが壊れる音が響く。それはすぐ近くにあるコンクリートの壁が破壊される音だった。
その壁の中心に巨大なヒビが走ると、耳をつんざくような凄まじい轟音が室内に響き渡る。
降り注ぐ破片と一緒に、人型のシルエットが浮かび上がる。
それにより猛烈な勢いで煙が吹き出し、周囲の視界を遮っていく。
「!?」
一体何が起こったのか。
薄明かりしかない暗闇の中、四人はその方向を瞬時に見る。
やがて煙が晴れていき、その形が浮かび上がっていく。そこから現れた存在に、カブトは驚かざるを得なかった。
「何……!?」
現れたのはライダー。しかし今までに見たことがないタイプの物だった。
腰に巻かれるベルトには、ゼクターと思われる蝙蝠に類した物体が付けられている。
もしやZECTの新型ライダーなのだろうか。
「き、貴様は……キバ!?」
取り乱しているようなバットの声に反応し、カブトは現れたライダーを再び見つめる。
闇を照らすかのような金色の両眼、赤と銀、そして黒の三色を基調とした吸血鬼を連想させる鎧――仮面ライダーキバの姿がそこに確認出来た。
カブトはキバと呼ばれるライダーに目線を合わせる。敵味方の判別はつかないが、その双眸からは殺意が感じられない。
しかしカブトは素性の分からない奴を信用するつもりは無かった。このような場所に現れたからには何か得体の知れない能力を持っているはず。
今のバットの対応からすると、目の前の異形とは敵対関係にあるのだろうか。
だがもしも自分の敵ならばバットとファンガイアもろとも始末する、そうでなければ放置しておけばいい。
暗闇の中で二人のライダーは、視線を異形達に向ける。自らに突きつけられている殺気に臆することなく、前に踏み出した。
バットを目掛けたカブトは一陣の風となり、右腕を標準に定めてクナイガンを振り下ろす。
その一撃によりバランスを崩し、装甲に守られた胴体ががら空きとなってしまう。続けざまに素早く右から左へ、左から右へと変幻自在に腕を振るう。
バットには連続を受けることしかできない。洗礼された戦士の斬撃を止めることなど不可能だった。
「――!」
やがてその攻撃に耐えられなくなり、声にならない悲鳴をあげながら床に転がる。
バットが倒れた辺りへと近づきながら、カブトはクナイガンの刃を突きつけた。
「終わりだ」
冷たく言い放つが、バットはその仮面の下でカブトを睨み付ける。
すると突然バットは立ち上がり、自らの左手を突きだした。
「死ねぇ!」
バットの掌から幻想とも呼べるような槍が出現し、空気を裂くようにカブトを襲う。
そのまま轟音と共に、壁が破壊されていった。
あまりに唐突すぎる出来事にカブトは対応しきれず、槍にアーマーを貫かれ、為す術もなく身体が吹き飛び、壁に叩き付けられる。
コンクリートを突き破りながら床に転がり、一寸も動けなくなってしまう――
はずだった。
『One』
突然鳴った電子音声に違和感を覚え、背後を振り向く。
そこにはカブトが何事もなかったかのように立っていた。襲わせたはずの槍は何処にも見られない。
バットの構えを見たカブトは何かが来ると確信し、瞬時に床を蹴りつけながら跳躍し、かわすことに成功したのだった。
刃は微かに足を掠めたが、何ら問題ではない。彼はカブトゼクターのボタンに手をつける。
『Two』
勝利へのカウントダウンを告げる音声を連れて、カブトはゆっくりと歩を進める。
その行為を妨害するかのようにバットは荒い息遣いで拳を振るう。
だがカブトにとって粗暴なだけの攻撃など何の問題でもない。荒々しく迫る握り拳を姿勢をずらしながら軽々と躱し、無防備の脇腹を目掛けて拳を打ち込む。
拳を六発打ち込み、装甲を歪ませる。最後の一撃を終えるとその身体は容赦なく吹き飛び、地面に転がっていく。
『Three』
最後のカウントが鳴り響く。
蹌踉めきながらも立ち上がるバットを尻目に、彼はゼクターホーンを反転させる。
準備は完了した。
カブトは、その一撃を放つ為に静かに呟いた。
「ライダー……キック」
『Rider Kick』
宣言と共にゼクターホーンを再び反転させる。瞬間、ゼクターからタキオン粒子が噴出され、稲妻を模しながら角を駆け巡った。
エネルギーは左足へと流れ込み、青白い輝きを絡ませる。
タキオン粒子が宿る回し蹴りをバットに放ち、乱暴に瓦礫の中へと吹き飛ばした。纏ったエネルギーが全て敵に流れる感触を足の裏から感じる。
粒子は体内を縦横無尽に踊り、組織を粉砕していく。
やがて暴走に耐えきれなくなった身体にはヒビが入り、亀裂から光を放つ。
異形の身体は断末魔の叫びを上げるかのように爆発四散し、稲妻が轟いたような轟音が廃墟に響いた。
ふと、カブトは周囲を見渡すがそこには暗闇が広がるだけで、何一つの気配が感じられない。
あのファンガイアと呼ばれた異形達も、キバと呼ばれたライダーも、そこには見られなかった。
太陽の光が厚い雲に遮られ、空は灰色に染まっている。
見捨てられた瓦礫の山の一角で、三つの異形は駆け巡っていた。
醜悪な外見を誇る二体のファンガイアは、弱者を蹂躙するかのような殺意を放っている。
しかしそれは完全な物でなく、微かながら畏怖の念も混ざっていた。
左右から放たれるファンガイアの敵意に怯むことのないまま、仮面ライダーキバは己の本能のまま立ち向かっている。
オクトパスファンガイアはその拳を乱暴に振るう。しかしキバは膝を軽く折り曲げながらそれを軽々と避けて、ファンガイアの側面に回り込む。
自らに襲いかかる拳を腕ごと掴みながらモスファンガイアに目掛けて、背負い投げの応用で投げ飛ばす。
両手を暴れさせるオクトパスファンガイアは弧を描くように空中を舞いながら、モスファンガイアに激突し、勢いよく地面に転がる。
これで勝てる。
そう確信したキバは、ベルトの脇に備え付けられている赤い笛――ウェイクアップフエッスルを取り出し、キバットバットⅢ世の口に押し込んだ。
「ウェイク・アップ!」
キバットバットⅢ世が叫ぶと美しい笛の音色が鳴り響く。それは幻想的で、どこか美麗だった。
灰色に染まる大空は漆黒に覆われ、巨大な満月が浮かび上がる。
真夜中のように深い宵闇の中、キバは両腕を胸の前で交錯させながら低い息を漏らし、右脚に力を込める。
地面を蹴るようにそれを勢いよく振り上げると、蝙蝠の羽が羽ばたくかのように拘束具が開かれ、封印の鎖は断ち切られた。
そして残った左脚を利用し、天へと跳躍する。そのまま満月の光を背に、急降下で右脚をオクトパスファンガイアに向けた。
「はあああああああっ!」
矢のような勢いを持った必殺の蹴り――ダークネスムーンブレイクをオクトパスファンガイアの心臓に打ち込み、そのまま地面へと叩き付ける。
その足の先から膨大なエネルギーが流れ込む。地割れが起こったような轟音が響き渡り、地面に皇帝の紋章を象ったようなクレーターが深く刻まれた。
ファンガイアの身体は内側から徐々に崩壊していき、やがてガラスが割れるかのように肉の破片が飛び散った。
右脚が再び封印の鎖に縛られる。夜の闇が晴れ、空は元の灰色を取り戻す。
キバは残るモスファンガイアに視線を移し、対峙する。キバの双眸を向けられたファンガイアは後がないと判断したのか背を向けて、走り去っていく。
その時、突如としてキバの脇に光が走る。一筋の熱線はモスファンガイアの身体を貫いていき、その身体を粉砕させた。
一体何が起こったのか。
背後を振り向くと、異形が立っていた。しかしその姿はファンガイアとは大きく異なる。
大柄の女のような姿をし、金属的な輝きを放つレオタードのような外装に身を包み、たった一つ付いているバイザーのような巨大な瞳。
正体は分からないが、味方が来たという可能性をキバは瞬時で否定した。証拠に、瞳からは並のファンガイアを凌駕するような殺気が放たれている。
現れた異形――マリアージュの手にはアサルトライフルが握られ、その口からは煙が空に昇っている。
「おいおい、また変なのが出てきたぞ!」
突然現れた未知の敵に対し、キバットバットⅢ世は驚愕する。
先程から立て続けに起こる未知の出来事に、彼は軽い混乱状態に陥ろうとしていた。
脅威に立ち向かうかのように、キバは身構える。ファンガイアを一撃で葬れる力を持つから、無力とは思えない。
ほんの僅かな睨み合いが終わると、キバは前に踏み出す。
マリアージュの持つライフル銃からは複数の光が放たれるが、素早く姿勢を低くしながら避けていき、懐に入り込む。
無防備の腹にストレートを当て、身体を傷つける。続けるように連続で拳を繰り出した。
一発目はその身体を守る役割を持つ布を切りながら、胸部を目掛けて突き出す。切断面からは銅色の装甲が現れる。
それを見逃すことのないまま、力を入れた二発目を繰り出す。微かながらマリアージュが揺れる。
再びその場所に狙いを定め、三発目を叩き込んだ。鋼鉄が殴られる鈍い音が周囲に渡る。
この勢いならば逃れることは不可能、あとは渾身の力を込めた一撃で吹き飛ばせばいい。キバの連撃はマリアージュの胴体を目掛けて突き進んでいた。
四発目を打ち込む。
しかし、マリアージュがそれを浴びることはなかった。
突然、キバの視界が光に包まれる。眩しいと感じたときには彼の身体が宙に浮いていた。その勢いで瓦礫の上に叩き付けられる。
凄まじいほどの粉塵が吹き上がる中、キバの胸部には灼熱の激痛が広がる。
痛みに耐えながらも立ち上がり、仮面の下でマリアージュを睨む。その手に握られている拳銃からは煙霧が昇っていた。
自身が撃たれたと判断していると、再びその銃口が光る。
そこから嵐が降るかの如く閃光が襲いかかり、四肢に火花が飛び散る。
「ぐあっ……!」
悲痛な呻き声を漏らし、数歩後退ってしまう。
肩、胸、腕、太股と次々に衝撃が走る。
まるで地肌を直接火で炙られているかのような痛みにじわじわと襲われるが、吹き飛ばされないよう踏ん張りを入れる。
光の雨は止むが、その途端にキバはがくりと膝をついてしまう。
痛みのあまりに視界が歪む中、マリアージュはじりじりと詰め寄ってくる。
手強い。
初めて遭遇する敵の強さに、唇を噛み締める。
気がつくと、その両手は自身が与えた衝撃で痺れていた。このままの状態で戦っても絶対に勝てないだろう。
そう、このままでは。
全身が痛みながらも身体を持ち上げ、彼はベルトの脇から黄金色の笛――タツロットフエッスルを取り出す。
叫ぶようにその名を呼びながら、フエッスルをキバットバットⅢ世の口に装填させる。
「タツロット!」
キバが出す吶喊の声と共に、聞く者全てを奮い立たせるような力強い音響が廃墟を駆け巡る。
それに答えるかの如く軌道を描き、空の彼方から彼は現れた。
「びゅんびゅんびゅ~ん! 只今見参~!」
現れた彼は人の頭一個分の全身が黄金色に輝き、その姿は龍を彷彿とさせる。
彼の名は魔皇龍タツロット。キバットバットⅢ世と同じく彼もまた、ファンガイアと戦う渡にキバの力を貸している。
タツロットは高速でマリアージュの懐へ飛び込み、自らの身体を用いて突き飛ばす。
そしてキバの元へと向かっていった。
「テンション、フォルテッシモ!」
タツロットは羽をパタパタと動かしながら浮遊し、キバの身体から封印の鎖と拘束具を解き放っていく。
両腕、両肩、胸部、両股、背部。
全ての封印を順番に解き放つと、彼は自らキバの左腕に装着していく。
「変身!」
タツロットは叫ぶ。
その鎧に宿る魔皇力が溢れ、闇夜を照らすかのような輝きがキバから発せられる。力は全身に張り巡らされた血管と神経に流れ、新たなる装甲を精製する。
頭部の仮面が形を変え、続くように全身の装甲が生まれ変わっていった。背中には羽織る者に威厳を感じさせる真紅のマントが作られていく。
マリアージュは起き上がりながら、ただ呆然とその姿を見ているようだった。
眩いほどの光から現れた、凛然たる黄金色の皇帝を。
その名はエンペラーフォーム。
自らの中に封印された全ての力を解放した、仮面ライダーキバの本来の姿。
皇帝は絶対なる威圧感を放ちながら、マリアージュに近づいていく。それを迎撃するかのようにマリアージュの銃口から閃光が走る。
襲いかかる光を前にキバは大股で前進する。当たった箇所には火花が分散するだけで、蚊を刺す程度の痛みすら感じない。
彼は避けようとしなかった、いや避ける必要がなかった。この程度の攻撃で揺らぐなどあり得ないからだ。
光の嵐を物ともせずに進み続け、マリアージュに拳の甲を叩き付ける。
「はあっ!」
息と共にキバは打ち込み、その箇所に数トンの衝撃を与え、装甲を砕く。
鮮紅色の双眸を向けたまま、固めた拳は金属を容赦なく破壊していき、血飛沫が飛ぶかのように破片が飛び散る。
二度、三度と同じ攻撃を繰り返し、亀裂の入った胸部に蹴りを放つ。拳と同じく数トンの威力を持つ脚に勢いよく吹き飛ばされていく。
マリアージュの身体は宙を舞い、鋼鉄の欠片を乱暴に散らばせながら地に転がる。この連続をまともに喰らえばただで済むはずがなかった。
だが敵は攻撃など何ともなかったかのように立ち上がり、キバに視線を向ける。
しかしその装甲には拳ほどの穴が胸部を中心に所々空いていて、これまでの攻撃がいかに凄まじい物だったかを窺わせる。
キバの右手が、タツロットの頭部であるツインホーンヘルムを掴み、二本の角を引く。
その瞬間、タツロットから魔皇力が注ぎ込まれるのを知らせるかのように、中央のインペリアルスロットが回転する。
チャージはすぐに終わり、スロットの回転が止まった。
「ウェイクアップ・フィーバー!」
タツロットの軽快な声と共にキバは両腕を交差させ、両足に力を込める。すると灼熱の波動が全身から発せられ、辺りの瓦礫と空気を焼いていく。
キバは地を蹴りながら身体を伸ばし、空を目掛けて再び高く飛び上がった。
一瞬、マリアージュはキバの姿を見失ってしまい、追うように空を見上げる。
そこには、空を背にしたキバが黄金色の身体を太陽のように輝かせ、両足を真っ直ぐに伸ばしていた。
足の先からは、波動が突き刺さるように飛んでくる。
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
力強く、威厳の込められた皇帝の雄叫びが聞こえる。
キバは両足に魔皇力を纏いながら、矢のような勢いで己の身を落下させ、敵に蹴りを打ちつけた。
足の裏が胴体に当たったことを感じると、様々な蹴りを繰り出しながらマリアージュを壁際に追い込んでいく。
一発、また一発と蹴りを与えるごとに装甲に魔皇力が流れ込み、体内の鋼鉄を爆発させる。
全力の連撃――エンペラームーンブレイクを受けたマリアージュにはどうすることも出来ず、ただ浴びるしかできなかった。
勢いを保ちながら、マリアージュの背中をコンクリートに叩き付けた。それと同時にキバは空に舞い上がり、地面に着地する。
マントを翻すと、マリアージュの中をエネルギーが駆け巡り、皇帝の紋章が刻み込まれる。やがてその暴走に耐えられなくなり、地に伏せてしまう。
キバが背を向けたのが合図になるかのように、最後の言葉を告げるかの如くマリアージュの身体は吹き飛ばされていった。
破壊の音と同時に、この場所から放たれていた異変が消えていく。
ファンガイアの気配が消えたことを察知すると、彼は廃墟から去っていった。
戦いを終えた彼のベルトにはカブトゼクターは止まっておらず、既にエリアZから離れていた。
天道はただ一人、薄暗い廊下を歩いている。そこはマスクドライダー計画の実験が行われていたエリアXに、内装が非常に酷似していた。
やはりこの世界には異変が起ころうとしていると、天道は確信した。
何故なら永遠に閉じられたはずの朽ち果てた通路に、何者かが通ったような跡が残っているからだ。
あのファンガイアと呼ばれる連中に、ネイティブはマスクドライダーシステムの秘密を売り、協定を結んだのか。
恐らく先程撃破した異形は、ネイティブの作り出した戦闘兵士だろう。元々胡散臭いとは思っていたが、まさか影であのような物を作っていたとは。
それに対抗する為に、ZECTはあのキバと呼ばれるライダーを生み出したのか。異形の反応を見る限り、ホッパーのように秘密裏で開発を進めていた可能性が高い。
歩いている内に、彼の前にそれが姿を現した。
金属製の大きな鋼鉄の扉。天道の背丈に頭二個分が乗った大きさで、横幅は少し広い。
前に踏み出すと、息を吐くような音を立てながら横に開いた。その中は今までの空間とは異なり、電源が生きている。
青色の蛍光灯に加え、明滅するコンピューターの光に部屋が照らされていた。
しんと静まりかえっていた未知の空間に、天道は足を踏み入れる。不規則に並ぶ機械の先からは、気配が放たれていた。
もしやまだネイティブが潜んでいるのだろうか。
彼は警戒を強めながら足を進め、一際広い空間に出る直前に止める。
機械の影からそこを覗き込む。部屋の中心には検査台が置かれ、その上には人影が見える。
天道は目を凝らし、正体を確認する。直後に彼から驚愕の表情が生まれた。
「ナカジマ……!?」
視線の先からは一ヶ月前、突如家のリビングに現れた少女――スバル・ナカジマの姿が飛び込んできた。
彼女は今日、Bistro la Salleでバイトをしてたはずだ。
天道は周囲に敵がいないかを確認すると、パネルの上に横たわっているスバルの元へ向かう。目を閉じた彼女は息をしており、気絶しているだけのようだった。
その呼吸音は、この静寂した空間内では否応なく響き渡ってしまう。
見ると、服の随所が泥で汚れていた。まるで靴の裏で踏みつけられたかのようだ。
その腰には自分や加賀美、矢車や影山が所持するのとはまた別の形状の金属ベルトが巻かれていた。
ライダーベルト。天道の頭の中でその単語が瞬時に浮かび上がる。
まさかあのネイティブ達は彼女を拉致し、ここでマスクドライダーの資格者にする為、身体を弄くろうとしていたのか。
その所為に、天道は吐き気を促した。ネイティブは数十年前、拉致した少年をマスクドライダー計画の実験に利用し、自分に擬態させた。
それをまた繰り返そうとしているのか。
ふと首を動かすと、整然と立つ台が目に飛び込む。
そこに置かれているファイル状の妙な冊子に気付き、手を伸ばす。
「戦闘機人 タイプゼロ・セカンド……?」
天道は表紙を開き、最初に書かれた文字を読み上げた。一体何のことなのか。
新しいマスクドライダーの名称か? 頭の中に疑問が芽生える中、彼はゆっくりとページを開く。
そのページは、機械的な細かい字でビッシリとした説明で埋まっていた。
時空管理局
陸戦魔導師
元機動六課隊員
港湾警備隊 特別救助隊
接触兵器『振動破砕』
覚えのない単語の羅列が、天道の脳裏に埋まっていく。
書かれていることの殆どが何かの組織名のようだった。最も、それら全てが理解の範疇を超える物だが。
俺は一体何を見ているんだ。そう思いながら呆然と見るしか出来ない。
次のページを不意に開く。瞬間、そこから飛び込んできたデータを見て天道は自身の目を疑った。
「これは……!?」
最終更新:2008年12月20日 21:49