「うっ……」

張り付いたような背中の冷たさと、身体に広がる激痛によって、スバルは深い眠りから強制的に目覚めさせられた。
重い瞼を開いた先に広がるのは、薄闇の世界。申し訳なさそうなくらいの淡い電灯の光に、照らされている。
それが何なのか分からないが痛む身体を起こし、周囲を確認する。そこは機械に覆われた部屋だった。

「何ここ……痛っ……!」

起きあがった瞬間痛みが広がり、呻き声が漏れてしまう。
一体ここは何処なのか。そもそも何故こんな所にいるのか。
スバルは一瞬で思い出した。あの蝙蝠を模した仮面を被る異形と、昆虫の蛹を連想させる異形に姿を変えた男達に襲われ、意識を失ってしまった。
多少は抵抗したが不意打ちに負け、そこから完膚無きまで叩きのめされた。

「気がついたようだな」

自分の不甲斐なさに唇を噛み締めていると、聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返ると、そこには天道総司が両腕を組んで佇んでいた。

「天道さん!? 何で……」
「それはこっちの台詞だ」

驚愕するスバルの言葉を遮るように天道は冷ややかに答える。
ふと気がつくと、腰に異物感を感じる。見るとそこには、ずっしりと重たい奇妙なベルトが巻かれていた。
これは一体何か。

「ナカジマ、見させて貰った」

新たなる疑問が頭に芽生えてくると、天道はその口を再び開く。
すると天道からファイルのような冊子を突きつけられ、スバルはそれを受け取る。

「何ですか、これ……?」
「戦闘機人 タイプゼロ・セカンド」

不意に天道が出した言葉に、スバルは両目を見開いてしまう。
一体何故それを知っているのか。
居候としての自分ではなく、戦闘機人である自分を知っている。
スバルは受け取られたファイルを開く。見るとそこには機械によって書かれた様な無個性な字で、自分のことについて記されていた。
戦闘機人である自分についてと、振動破砕の概念。機動六課所属時と特別救助隊での功績。使用魔法について。
そして、管理局員である自分について。
それら全てが一寸の間違いもなく、スバルの持つ戦闘能力のデータだった。

「一体お前が何者なのか、全て話して貰おう」

冷静な表情のまま、天道はスバルの顔を見ながら詰め寄る。
逃げられない。
その様子を見て―瞬で確信した。
スバルは自分の正体、ファイルに書かれている単語の説明を始めた。
時空管理局
魔導師
戦闘機人
時空管理局とは、数多にある次元世界の平和を守る為に存在する組織で、それを行う者達が魔導師と呼ばれる。
そして、自分は戦う為に人の身体に機械を融合させた存在――戦闘機人であることをスバルは告白する。
振動破砕とは自身に組み込まれた戦闘機能であり、四肢から振動波を発することによって目標物を破壊する性能を持つ。
それを終えると、彼女は先程会った異形達に襲われたことも話した。
それら全てを天道は何一つの疑いを持たず、真摯な表情で聞いていた。
管理局のこともそうだが、正体については出来ることなら言いたくなかった。けれど彼は全てを知ってしまった。
もしかしたら天道は、自分のことを拒絶してしまうかもしれない。

「成る程な……」

全ての話を聞き終えた天道は、納得したように言葉を出す。
その瞳から見られるのは、いつものように冷静そのものだった。

「あの裂け目から現れた時点でお前がただの人間とは考え難かったが、そういうことか」
「驚かないんですね……」
「今更驚いてどうする」

悲しい表情を浮かべながら告げるスバルに対するかのように、天道はあっさりと返す。
その言葉はスバルを呆気にとらせたが、同時に微かな安心を覚えさせた。
それがいつかは分からない。けれどずっと昔にも似たようなことを聞いたことがあるような気がして、心が温まっていく感じがする。

「一つ聞こう」

暗闇の中で、広がる静寂を破るかのように天道は口を出す。

「本当にお前は偶然この世界にやって来たんだな」
「そうですけど、何で」
「本当だろうな」

スバルは断固とした物言いの天道に振り向く、見るとその瞳には何処か厳しさが混ざっていた。
彼女の中に疑念が生まれる。まるで時空管理局という組織にいる自分を疑っているのかのようだった。
しかし一ヶ月前、彼の家のリビングにあんな現れ方をして、ロクに素性を語らなかったんだ。疑われても当然かもしれない。
だけど、全てを言うことによって心の靄が少しながら晴れた気がした。本来ならば管理外世界の人間に対してミッドチルダに関する情報を教えるなどあってはならないはずなのに。

「……本当です」

スバルは嘘のない答えを返す。仮に言ったとしてもすぐに見破られるだろうから。
それを聞いた天道は数秒の沈黙の後、スバルにその声を聞かせる。

「とにかく、これ以上ここにいても仕方がない。帰るぞ」
「え? でもあいつらが……」
「奴らはもういない」

言葉を終えると天道は背を向けて、そのまま部屋から去っていく。

「あ、ちょっと!」

正体不明のベルトを腰に巻いたままスバルはベッドから降り、暗い通路に向かう。確かにこれ以上こんな訳の分からないところにいたくなかった。
彼女は天道の背中を道標に、暗闇の中を進んでいった。
まるでそれは暗闇を照らす松明のように光を放っているような気がして、安心が出来た。
途中、彼女は手をゆっくりと腰に伸ばした。指に触れる冷たい鉄の感触に、視線を落とす。
そのベルトは、人工的な金属の輝きを放っていた。



その暗闇からは、何の障害もなく脱出することが出来た。
天道が言うように自分を襲ったあの異形の気配は感じられず、待ち構えてもいない。
荒れ果てた通路を抜け出した先に飛び込んだ地上の光景を見て、スバルは言葉を失った。
理由は単純。そこはまるで世界の終わりでも訪れたかのような場所だったからだ。
無意味に広がる瓦礫の山、ひび割れた劣悪な道、原形を留めていない建築物。
どれをとってもミッドチルダに存在する廃棄都市区画を彷彿とさせた。

「何をやってるんだ、置いてくぞ」

轟くような音を含ませながら、横から飛び込んでくる声によってスバルは意識を取り戻す。
見ると声の主である天道は黒いフルフェイスのヘルメットを被り、真紅色に煌めくバイクに跨っている。
そのハンドルには同じようなヘルメットが掛けられている。

「天道さん、ここは一体……?」
「黙って乗れ」

驚愕で上手く言葉が出せないスバルは疑問をぶつけるが、天道にあっけなく遮られてしまう。
言われるままスバルはハンドルに掛けられたヘルメットを被り、両腕を天道に絡ませながらバイクに跨る。
今の彼女に出来ることはそれしかなかった。
バイクのエンジン音が唸り声を上げ、瓦礫はタイヤに抉られる。
アクセルが吹き出しながら地面から粉塵が舞い上がるのを合図にして、真紅のバイク――カブトエクステンダーは疾走を開始した。
その勢いは凄まじいの一言だ。持ち主である天道の性格を現すかのように堂々とし、如何なる壁も突き破っていきそうだった。
スバルはその背中にしがみついた。
ちょっとでも力を抜いたら、バイクから振り落とされてしまうような気がしたから。


その晩。月夜の光が差し込む自宅のバイオリン工房の中で、紅渡はバイオリンを弾いていた。
その旋律はとても繊細で、とても美しく、とても神秘的だった。
渡の奏でる優しい音色を聞きながら、彼の周りを回るようにキバットバットⅢ世とタツロットは部屋の中を飛び回っている。

「それにしてもキバットさん、あのロボットみたいなのって一体何だったのでしょうかね~?」
「さあな…… タッちゃん、俺はどうにも嫌な予感がするんだよな。何かヤバイことが起こる前触れというか……」
「一体どんな?」
「ん? そりゃあ……あれだよ。何かヤバイことだよ」

彼らは羽を動かし浮遊しながら語り合う中、渡は考えていた。
ファンガイアの潜んでいたあの廃墟の中で出会い、太陽の如く赤い輝きを放つ甲虫を模した戦士。
青い双眸を向けた彼もまた、ファンガイアと戦う為に青空の会に生み出された戦士の一人なのだろうか。
もしかしたらあの戦士もキバを人類の敵と見て、狙っているのか。
だがいかなることがあろうとも、自分はキバとなって戦わなければならない。戦う理由があるから。
尊敬する父は教えてくれた。人間は皆、心の中で音楽を奏でている。生きている限り、ずっと。
彼はその音楽を守りたいと祈り、戦っていた。
同じように彼もまた、自分の音楽を見つける為に戦っている。そうすれば自分は強くなれるはずだし、みんなも幸せになれるはずだから。
そして大切な物を守る為に、戦わなければならない。
その為に彼はキバとなって戦っている。

(父さん、僕は戦う……父さんが祈りを込めて戦ったように。父さんは父さんだけの音楽を見つけた、だから僕も僕だけの音楽を見つけます。大切な人を守れるくらいに強くなる為に)

渡は父の写真を見ながら、思いを込めた演奏を奏でる。
今はここにいないけど、この思いが届くことを信じて。
偉大なる父――紅音也への祈りを込めながら、彼はバイオリンを弾き続けた。


天道の家に帰宅したスバルは夕食を済ませ、皿洗いを終える。
樹花は夕食を終えてすぐに自分の部屋に向かったので、リビングにはスバルと天道の二人しかいない。
その時を見計らい、天道はスバルにゆっくりと一つずつ語った。
この世界には八年前巨大隕石が落下し、瓦礫の山と変貌した渋谷と呼ばれた都市。
落下した隕石に潜み、人間を襲いながら社会に潜伏する怪物――ワーム。
それに対抗する為に設立された組織――ZECT。
対ワームへの対抗機能――マスクドライダー。
スバルを襲ったワームの亜種――ネイティブによる人類ネイティブ化計画。
全てを聞いた彼女は、言葉を失った。そのような非現実的な出来事がこの世界で繰り広げられていたのに信じられなかった。
何より、このような異常事態に管理局は気付かなかったのだろうか。

「そんなことがこの世界であったんですか……」

スバルはテーブルの上に置かれているベルトに目を向ける。
自身の腰に巻かれていたそれは天道の推測によると、マスクドライダーの新型である可能性が高いという。
しかし平穏と思えるこの世界で、そのような物を作る必要性などあるのだろうか。

「恐らく連中は戦闘機人であるお前を弄くり、手駒にするつもりだったのだろうな」
「あたしの身体を!? 一体何の為に……」
「そんなこと俺が知るか」

天道は冷ややかに返すと、スバルはネイティブと呼ばれる異形の所為に嫌悪感が覚えるのを感じた。
かつて生体改造に異様な情熱を持ち、研究の為に命を弄んだ科学者――ジェイル・スカリエッティに対するそれに似ている。
命とは取り返せない尊い物だ。それを私利私欲や野望の為に好き勝手にしていい理由など何処にも存在しない。
本来ならば今すぐミッドチルダに帰還し、このことを管理局に報告しなければならない。だが彼女は次元を渡る手段を持ち合わせていない。
スバルは悔しさで、唇を噛み締めてしまう。

「何にせよ、これからお前は狙われるだろうな」
「え?」
「お前が別次元の住民であることを嗅ぎつけたくらいだ、連中の情報網は計り知れない」

その言葉を聞いて、スバルは息を呑んだ。
天道の言うことには納得が出来る。あのファイルにはこのような管理外世界に伝わるとは到底考えられないような、自分に関するデータが書かれていた。
もしやネイティブ達はミッドチルダに飛ぶ為の手段を持ち、局員に化けて管理局に潜伏しているのだろうか。
きっと、あの廃墟から脱出したこともすぐに察知しているだろう。
やがて天道は溜め息を吐きながら、呟いた。

「一体この世界に何が起ころうとしているんだ……」


ネイティブ達の陰謀を阻止した天道総司

しかしそれは始まりに過ぎなかった

かつて世界を恐怖に陥れた宇宙生命体――ワーム

蘇った魔の一族――ファンガイア

二つの脅威と手を結んだネイティブの目的は何か

そして、キバとは何者か

二つの世界を繋ぐ物語は、次のステージへと進む



To be continued


仮面ライダーカブト レボリューションに続く


天の道を往き、総てを司る


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年12月20日 21:53