時は未来――2004年。
現在の所持金は僅か240円。
持ち者はバイクとヘルメット、今日の日付の新聞のみ。
これが五代雄介を取り巻く現在の状況である。
そして極めつけは、五代が現在いるこの場所。

――海鳴市

「……ってどこだっけ?」

現在地、不明。
暫くバイクを走らせた五代は、ようやくこの場所の地名を記した看板を見つける事が出来た。
が、しかし。
五代にとって海鳴市などという地名は聞いたこともない。
まず東京ではないのは間違いないとして、何処かに海鳴という名前の街があったかと思考する。
されど、それはやはり冒険家として様々な土地を渡り歩いてきた五代にすら聞き覚えのない地名であった。
しかし五代は、現在の状況をそれほどの危機だとは考えていない。
普通の人からすれば、これこそ最大のピンチなのではとも思えるような状況でも、
五代はいつだって乗り越えてきた。それはやはり冒険家として鍛えられた魂あっての物なのだろう。
そんな五代がまず選んだ道は、なんとかして東京へと戻ること。
そして、自分が住んでいたポレポレへと戻り、再び冒険の準備を整えること。
確かにここが未来――3年後の世界だという事は意外ではあるが、多分自分にはどうしようもない。
それならば、この未来を冒険することが今の自分に出来る最善の行動だと判断したのだ。

「それじゃあ、まずはここが何処なのか……そこから調べないと」

取りあえず、五代は大きな国道を探すことにした。
恐らく国道を道なりに進めば、何処かで大きな高速道路にぶつかるか、
県境を現す標識、もしくは何らかの位置を示す物と巡り合える筈だからだ。
そう考えた五代は、海鳴市の公道の上、バイクを疾走させるのであった。


EPISODE.02 捕獲


同日、次元空間航行艦船アースラ、作戦会議室―――05:42 p.m.
時空管理局が保有する巡航L級戦艦。なのは達が時空管理局と出会うきっかけにもなった船である。
ここに現在集合しているのは、艦長であるリンディ・ハラオウンに呼び出された
高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、アルフ、それからクロノ・ハラオウン以下アースラスタッフの一員だ。
それぞれが自分に用意された椅子に腰掛け、リンディが話を始めるのを待機している。
本日、学校はまだ始まったばかりという事で、なのはもフェイトも早めに帰宅することが出来たのであるが、
帰宅してからややあって、休む間もなく再びリンディによって収集されたのである。
ここに八神はやて及びヴォルケンリッターが来ていないのは、恐らくリンディが気を利かせたからなのだろう。
まだ学校が始まったばかりということもあって、色々な準備や、何よりも家族皆で過ごせる時間を尊重させてあげたい、と。
それに何より、今回の任務にそれほどの戦力は必要ないと判断されたのだろう。
といっても、恐らく後からこれをはやてが聞けば、「何で私らだけ呼んでくれへんかったん!?」等と騒ぎ出すのだろうが。
さて、一同が揃ったところで、リンディが軽く咳払いをした。

「えー……学校が始まったばかりなのに、何だか悪いわね?」
「いえ、気にしないでください」
「私達は望んでこうしてる訳ですから」

ばつが悪そうに言うリンディに、フェイトとなのはが揃って微笑む。
リンディはそれに安心しながらも、二人の優しさに少しばかり嬉しくなる。

「それじゃあ、今回の任務を簡単に説明するわね。エイミィ」
「はい、取りあえず……これを見てください」

と、リンディの言葉に応えるように、エイミィがスクリーンに一枚の画像を映し出した。
なのは達はそれを食い入るように見つめるが、映し出された画像はピントが合っていないのかぼやけてよく見えない。
何となく、空に浮かんだ黒い影のように見えはしたが。

「これは、今朝この第97管理外世界で撮影されたものです」
「私達の世界で……?」
「ええ、なのはさんにはこれが何に見えるかしら?」

問われたなのはは、うーんと唸りながら、画像を見つめる。
画像がぼけていて「黒い影」程度にしか見えないのに、何に見えるのかと聞かれても困るに決まっている。
エイミィがスクリーンに映し出された写真をスライドさせ、次の画像に切り替える。
今度の画像もまた、先ほどと余り変わらない黒い影にしか見えないが―――

「うーん、ツノがある……?」
「そう。二対の巨大な角を持った、未確認飛行体です」
「今朝ほんの小さな次元震があって……コレがこの世界に紛れ込んだみたいなの」

なのはが答えたのは、何かツノがある黒い影。現状ではそれ以上に言いようがない。
リンディとエイミィは、それをこの世界に今朝紛れ込んだばかりの未確認飛行体と説明する。

「それは、ロストロギアなんですか?」
「……現状では何とも言えませんが、恐らくは」

フェイトの質問に、リンディが答える。
次にスクリーンに映し出されたのは、なのは達が住む国――日本列島の簡単なマップだ。
マップに映し出された赤い線は、中心あたりから始まり、だんだんと東京方面に向かいながら移動している。
現在は、位置で言う所の、神奈川県付近で点滅しているが。

「今朝確認された未確認飛行体は、長野県中央アルプスで確認され、
 ゆっくりと移動を開始しました。この進路からして、恐らく目的地は東京方面だと思われます」
「それで……今はどの辺りを移動してるんですか?」
「30分程前に、遠見市で確認されたのが最も新しい情報です」

エイミィの報告を聞いたフェイトが、その顔色を強張らせる。
遠見市と言えば、ほんの1年前までは自分が仮の住まいとして生活していた場所。
海鳴市の隣町であり、それはつまり自分達の街に接近しているということになる。
いつの間にかなのはも真剣な表情に変わっており、集められた一同もこの作戦の目的を理解し始めていた。

「もう解ってると思うけど……今回の任務は、この未確認飛行体の捕獲です。
 武装局員が海鳴市の一部に結界を張り、アルフさんがそれの補助を担当。
 なのはさんとフェイトさんが未確認飛行体を牽制し、クロノが捕獲する。
 作戦の説明は以上です。 質問は?」

一気に作戦の全容を説明するリンディ。最後に「質問は?」と一言付け加えるが、一同は特に聞き返すことも無かった。
なのはもフェイトもここまでの説明で作戦の内容は理解出来たし、ついでに言うとあまり時間がないという事も理解出来た。
要はもうすぐ海鳴に侵入しつつある未確認飛行体が、海鳴に入った瞬間に結界を展開。それを捕獲しなければならない、という事だ。
作戦自体は非常に単純。これまで数々の事件を解決してきたなのはにとって、この程度の事件なら何の問題もないと思えた。
リンディも一同の表情に安心しながら、言葉を続ける。

「それじゃあ、早速ですけど、もう時間があまりないわ。
 未確認飛行体が海鳴市を出る前に、作戦を開始します!」

リンディの掛け声に、なのは達は大きな声で「はい!」と返事を返した。




海鳴市上空―――06:27p.m.
夕方6時ともなると、4月の空は既に薄暗い。もうすぐで日も完全に沈み切るだろう。
そんな夕方の空の下、なのはとフェイトはバリアジャケットに身を包み、各々のデバイスを構えていた。
その表情は緊張に強張っており――といっても、それは当然なのだろう。
相手は戦闘能力も何もかもが謎に包まれた未確認飛行体なのだから。
そんな時、なのはら二人の目の前に空間モニターが展開された。
相手は今回の作戦を共に行うこととなったクロノだ。

「なのは、フェイト……もうすぐ未確認飛行体が作戦エリア内に侵入する。準備はいいか?」
「うん、私はいつでも大丈夫だよ」
「うん……私も、なのはと一緒なら怖いものは無いよ」

なのはがフェイトをちらりと見ると、フェイトは少し照れたように顔を背けた。
そんなフェイトに、「頑張ろうね」と、明るい微笑みを向けるなのは。
フェイトは嬉しそうにうん、と頷くと、力強くバルディッシュを握り締めた。
なのはと一緒の任務で、なのはに頑張ろうねと言われたからには、もう百人力である。

「来たよ、フェイトちゃん!」
「うん……行くよ!」

と、そうこうしている内に、気付けばなのは達の視界に真っ黒の未確認飛行体が入っていた。
速度は恐らく、普通の車と同じくらいか、それ以上。結構な速度である。
上空にいた数名の武装局員が結界魔法を発動し、アルフがそれを強化する形で補助する。
なのはが足もとに桜色の魔法陣を展開し、フェイトが未確認飛行体に向かって飛び出す。

「いいか、なのは。結界はそれほど広範囲に展開できる訳じゃない。出来るだけ迅速に仕留めるんだ」
「りょーかいっ! 私に任せてクロノくん!」

言うが早いか、なのはが構えたレイジングハート本体から三枚の魔力で出来た翼が飛び出した。
同時にレイジングハートの切っ先にも、桜色の魔法陣がいくつか展開される。

「一応聞くけどクロノくん、結界の防御力は完璧なんだよね?」
「あ、ああ……その筈だけど……なのは、まさか……」
「それじゃあ安心! 一撃で仕留めるから、そっちは任せるよ!」
「ちょ、ちょっと待てなのは! 目的は捕獲であって撃墜じゃな――」
「わかってるよ! だから安心してクロノくん!」

クロノの言葉を聞いているのか聞いていないのかは定かではないが、なのははとにかく止まるつもりはないらしい。
「ディバインバスター」のチャージに入ったなのはは、飛び回る未確認飛行体に照準を定める。
逃がすつもりはない。一撃で行動不能に追いやってしまえば、こちらの勝ちだ。
クロノにとってはそれは不安でたまらないのだろうが。

「なのは、私が牽制して動きを封じるから、その隙を狙って!」
「わかったよフェイトちゃん。フェイトちゃんもすぐに離脱してね!」

なのはの自身に満ち溢れた表情に、フェイトは安心したように微笑み、うん、と一言頷いた。
同時に、フェイトが漆黒のマントを靡かせて、未確認飛行体に突撃する。
ハーケンフォームに変形したバルディッシュは、金色の魔力光を噴出しながら、唸りを上げる。
どうやらフェイトもフェイトで、手加減をするつもりはないらしい。

「はぁぁぁぁぁっ!」

勢いよく、正面からフェイトは未確認飛行体へと斬りかかる。
何処かクワガタムシにも似た形をしたそれは、前方に突き出た大きな角でバルディッシュの魔力刃を受け止める。
飛び散る火花に、二つが傷付け合う甲高い金属音が響く。
しかしフェイトも怯む事はない。すぐにバルディッシュを未確認の角から引き抜くと、上空に飛び上がった。
未確認はフェイトに構わず前方へと進み続ける。その姿はまさに、羽根を羽ばたかせるクワガタムシの如く。
その刹那、フェイトはクワガタムシの背中に、輝きを放つ緑の宝石が埋め込まれていたのを見逃さなかった。

「そこがコアか……!」

言うが早いか、フェイトはバルディッシュを振り上げて、再びクワガタムシの背中へと並んだ。
この程度の速度なら余裕で追いつける。寧ろ速度に関してはこのクワガタよりもフェイトの方が圧倒的に上だ。
フェイトは、バルディッシュの魔力刃の切っ先を、勢いよくクワガタムシの背中に輝く緑の宝石へと叩きつけた。

「――――――ッ!!」
「よし……効いてるっ!」

刹那、緑の宝石は火花を散らし、クワガタムシがふらりとよろめいた。
同時に聞き取る事が不可能な言語を洩らすが、フェイトはそれを気にしない。
どうやら背中への攻撃が弱点らしい。フェイトはよろめいたクワガタムシの背中に、再び魔力刃の一撃を叩き込む。
今度は高度を下げて、クワガタムシはフラフラと下降していく。
と、そうこうしていると、フェイトの頭の中になのはの声が流れ込んでくる。

「フェイトちゃん! ディバインバスター、発射するよ!」
「うん、わかったよなのは!」

見ればなのはのレイジングハートは既に切っ先に桜色の魔力を目一杯に溜めこんでいた。
あれを爆発させて、このクワガタを打ち抜くのだろう。
フェイトはすぐにクワガタから離れ、なのはの元へと飛んで行く。

「ディバイィィィィィィィィィン……―――」

同時に、なのはがゆっくりと口を開いた。
対するクワガタムシも、何とか高度を取り戻し、ゆっくりとではあるが元の高さへと戻っていく。
なのはとの距離もだんだん縮まっていくが、問題はない。
なのは的には撃ち落としてしまえば一緒だ。

「バスタァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

そしてなのはは、レイジングハートは溜めこまれた魔力を、一気にクワガタムシ目掛けて解き放った。
それは周囲の者全員にも聞こえるほどの轟音を放ちながら、クワガタを撃ち落とそうと加速していく。
瞬間、漆黒のクワガタムシはなのはが放った桜色の光に飲み込まれた。




フェイトの目の前で、なのはが砲撃を放っている。
あのクワガタムシは見事になのはのディバインバスターに飲み込まれ―――否。
何か様子がおかしい。なのはの表情が、強張ったまま変わらない。
なのははただ真剣な面持ちで、ディバインバスターを照射し続けている。
刹那―――

『押し切られます』
「うそ……っ!?」
「そんな……!?」

レイジングハートの警告音が響いたかと思うと、なのはの目の前――
ディバインバスターの魔力照射部から、漆黒のクワガタムシが飛び出してきたのだ。
つまりあのクワガタムシは、ディバインバスターの光の中を、構うこと無く前進していたという事になる。
驚く暇も与えられないままに、なのはとフェイトの二人は咄嗟に左右へと飛びのき、クワガタムシとの激突を避ける。

「そんな……ディバインバスターの直撃で無傷!?」
『ドンマイです、マスター。次、行きましょう』

と、驚くなのはをよそにレイジングハートは第二射の発射を要請する。
だが、そうしている間にクワガタムシは既になのは達を置き去りに遥か後方へと進んでいた。
どうやらあのクワガタムシになのは達を襲うつもりはないようだが――それでも、アレを倒さない事には任務成功とは言えない。
故になのはは諦めない。なのはのプライドが、このまま諦めることを許さないのだ。
再びレイジングハートを構え、カートリッジをロードさせる。

「なのは、今からチャージしてちゃあの未確認飛行体が結界を出るまでに間に合わないぞ!」
「安心して、クロノくん。今度は結界、持たないかもしれないけど……絶対撃墜するから!」
「ちょ……だからそれじゃ困るんだよ!」
「大丈夫だよ、クロノ。今度は私もいるから」

と、クロノは焦って抗議するが、今度はフェイトが答える。こうなったなのはとフェイトはもう止まらない。
なのはに至っては一撃目を防がれた事による悔しさか、今度は心なしか目付きも変わっているように見えた。
次は先ほど以上に魔力を集束させる。相手の防御力が想像以上であるなら、自分はそれ以上の魔力をぶつけるまで。
ただのディバインバスターで無理なら、特別版ディバインバスターEXで。それで無理なら、もっと凄い魔法で。
フェイトもなのはと並んで、足元に黄色の魔法陣を展開させ―――魔法のチャージに入る。

「私のプラズマスマッシャーとなのはのディバインバスターで、あの未確認飛行体を撃墜します!」
「いや、だから目的は撃墜じゃなくほか―――」
「行くよ、フェイトちゃん!」

最早クロノの言葉に聞く耳など持たない。
二人とも、意地でもあのクワガタムシを撃墜して持ち帰るつもりだ。
そんな事を言っている間にも、二人の眼前にチャージされた黄色と桜色の魔力光は増幅していき―――




黒いクワガタムシが、凄まじいパワーで結界を内側から圧迫する。
二対の角が結界の壁にぶち当たるが、それでもクワガタムシは無視して突き進もうとしているのだ。
アルフは結界を保つため、必死で補助魔法を掛け続けるが―――
しかし、それももう時間の問題だ。あと少しでこの結界は絶対に崩壊する。
何故なら。

「全力全壊!」
「疾風迅雷!」

なのはとフェイト。二人が叫んだと同時に、二色の閃光はクワガタムシ目掛けて奔っていた。
結界を破壊しようとただひたすらに力押しするクワガタムシの背後から二色の閃光が迫り、
クワガタムシごと結界を撃ち貫こうとしているのだ。
クロノは最早呆れた表情でそれを見るしか出来ず、アルフはアルフで必死の形相。
とにかく耐えようと、補助魔法を掛ける腕に力を込める。
が、そんな努力も虚しく――

「駄目だ……あたし一人じゃ、結界を保てな――ッ」

と、アルフが歯を食いしばるように言葉を紡ぐが、それは最後まで間に合わず。
同時に、二色の魔力光は結界を貫き、遥か彼方の空へと吸い込まれていく。
結界が破壊される寸前、結界全体に亀裂が入ったために、アルフが言うまでもなくクロノはもう諦めていたのだが。
そうして、二人の魔法により放たれた光の照射が止んだとき―――そこにあのクワガタムシの姿はなかった。
そんななのはの眼前に現れた空間モニターに映るエイミィの表情は、苦笑い。

『未確認飛行体、ロストしました』
「あれ……撃墜しちゃった?」
「逃げられたんだよ!」

二人の会話に割り込んで、クロノが大声で怒鳴った。
結果として、二人の魔法はあのクワガタムシを加速させる結果となったのだ。
何かの装甲のような物を身に纏った頑丈な体は、魔法では傷を付けられないということなのだろうか。
光に押され、そのまま遥か彼方へと飛んで行ったクワガタムシは、既にアースラ側からの追尾を振り切っていたという。
それが今回の結果。つまり、作戦は失敗だ。
そんな結果に、なのはとフェイトは大きく肩を落としていた。




平成13年4月―――科学警察研究所。
ようやく平和になった世界。勿論そんな平和な世の中に未確認生命体などが現れる筈もない。
――にも関わらず、科学警察研究所……通称「科警研」の科学者である、榎田ひかりは職場へと呼びだされていた。
大切な一人息子である冴との貴重な親子の時間を削ってまで来たのだ。それはやはりつまらない理由である訳もなく。
榎田は、眼鏡の奥の鋭い眼光で、白衣の男を見据え、言った。

「で、ゴウラムが消えたってどういうこと?」
「そのまんまの意味です……ここに保管されていたゴウラムが、突然消えたんですよ」
「ちょっと待って意味がわからない。 消えるって何? 監視カメラは!?」

呆れた口調の榎田に、白衣の男もまた困ったようにパソコンのキーボードを操作した。
男が操作することで、パソコンの画面に小さなスクリーンが映し出された。
そこに映っているのは、「ゴウラム」と呼ばれる戦士クウガの力強い味方。それを保管していた一室だ。
カメラに映し出されたゴウラムは、最初は何の動きも見せなかった。が、やがてその羽根を開くと、ゆっくりと浮かび上がり――
背中に埋め込まれた翠の霊石――アマダムが、力強く光を放ち始めた。
その光はどんどん強さを増して行く。やがて一瞬ではあるが、カメラに映った全ての映像が緑の光によって遮断された。
カメラに何も映らなくなるほどという事は、それこそよっぽど強力な光を放っていたのだろう。
ややあって、カメラがその視界を取り戻した時―――

「ゴウラムが消えてる……」
「はい……そういう訳です。何が何だか……」

ゴウラムは、その姿を消していた。
榎田はその肩を大きく落としながらも、パソコンの画面をじっと見つめている。
こればっかりは対処のしようもなかった、というかまさか未確認との戦いが終わって
三ヶ月も経過してからゴウラムがその姿を消すとは誰も思わなかっただろう。
もしも戦士クウガが「聖なる泉」を枯らした際には、ゴウラムは砂になる。という説は聞いた事はあったが、
流石に消えるというのは予想外だ。

榎田は腕を組んで、思考する。
五代雄介とBTCSが姿を消したという報告は警視庁から連絡されていたが、もしかしたらゴウラムも何らかの関係があるのだろうか?
しかし、未確認との戦いも終わった今、何故彼らが消えるのかがわからない。もしかすると、まだ何かするべき事があるから?
だがそれならば何処かでクウガかゴウラムの目撃情報が出る筈である。

「……何にしても、今はどうしようもないわね」

考えても今は推測の域を出ない。榎田は、大きくため息を落とした。
消えてしまった者をどうこう言っても仕方がない。
とりあえず今自分に出来る事と言えば、ゴウラムが消えた事に関する報告資料をまとめる事くらいしかない。
また帰るのが遅くなってしまう事に、我が子への罪悪感を感じながらも、榎田はポケットから携帯電話を取り出した。
仕事で帰りが遅くなる場合は、冴が待つ自宅へと「かえれないコール」を掛けることにする。というのが、榎田親子の約束なのであった。


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最終更新:2008年12月30日 02:55