光太郎がミッドチルダに居を構えてから一年が過ぎた。
相変わらずの暮らしぶりとは行かず、彼が過ごした時間の分だけ変化もあった。
朝起きた光太郎が軽く運動をしてシャワーを浴びた頃に眠たそうな眼をしたウーノが入れ替わって浴室に消える。
さっぱりした光太郎が朝食を作っていると、熱いお湯を浴びて眼を覚ましたウーノが嫌な顔をせずに隣に立ち、共に朝食を作るのが日常と化したのは6ヶ月を過ぎた頃の話だった。

パンの焼ける匂いやコーヒーメーカーから漂うコーヒーの良い香りを楽しみながら光太郎は運動の際に手に入れた魚を炒め、ウーノは野菜を切る。
口に出さなくても役割分担が出来るようにはなっていたが、隣に立つ彼女のしっとりと濡れた髪や微かにするリンスの香りに光太郎は未だに少し気恥ずかしい思いをさせられる。

それに気付いたウーノが薄く笑い、光太郎はちょっとだけ乱暴に魚をウーノがタイミングよく差し出した皿に乗せた。
朝食の間はお互いが作った簡単な料理に一言感想を言ったり、時に調味料の分量や実験として入れた物に気付いて話をする。

大抵は「光太郎、貴方センスがないから思いつきで入れるのは止めた方がいわ」と締めくくられてしまうのだが。
その日は逆にウーノがドレッシングの分量を変えていて光太郎は一舐めするなりこれはないよ、と言ったが。

「いつもの方がいいな」
「そうみたいね。いいと思ったんだけど…」
「ウーノ。君にはセンスがないか…」
「ごめんなさい……貴方に言われると腹が立つわね」
「最後まで言わせてくれてもいいだろ!?」

ウーノはコーヒーを一口飲んで、笑顔で言う。

「駄目よ。癪に障るわ」

そう言われると、光太郎はそれ以上は言えないのだった。
朝食を終えた二人は食器を戻し、光太郎は出かける準備を始める。

「でもお詫びに今朝は私が食器を片付けておくわ。そこに置いて貴方は服を着替えてきたら?」

光太郎は肩を竦めてシャツの袖に腕を通す。
ミッドチルダの隅の隅、廃棄都市近くに住むようになった光太郎はスーツを着ることが増えていた。

「うん、そろそろ時間だし行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。私ももう直ぐ出るわ」

食器を洗い終えたウーノが急ぎ服を着替える為に自室に戻っていく。
今日の予定を確認していた光太郎は確認を終えてジャケットを羽織る。

「ウーノ。君の帰ってくる時間も近いし迎えに行こうか?」

軽く化粧をしていたウーノは手を止めて、閉まった扉の向こうにいる光太郎へと顔を向ける。
一緒に暮らし始めてから一年以上経つが、光太郎からそんなことを言ってくるのは初めてのことだった。
少しだけ鼓動が乱れるのもそのせいだと断定して、ウーノは少し上ずった声を出した。

「お、お願いするわ」

言ってから、ウーノの頭に、「そんなに(先日)クロノから貰ったバイクを運転したいの?」と言う言葉が浮かんだが、一瞬遅かった。

「わかった。じゃあ行ってくるよ」

そう言って光太郎は外に出た。
光太郎が時々変なことを言うとどうも調子が狂わされる。
化粧台の鏡に向き直ったウーノの表情は、不機嫌そうに眉根が寄せられていた。

そんなことには気付かずに部屋を出た光太郎の向かう先…アパートの駐輪場には一台のバイクが置いてある。
誕生日プレゼントとして贈られたそのバイクはアクロバッターやスズキRGV250Γに乗ってきた光太郎にとっては聊か物足りないが、普段乗るバイクがない光太郎は重宝していた。
例え初めて見せた相手に口を揃えて『似合わない』と言われようともだ。

独特のデザインを持つそのバイクはべスパGTV250ie、ボデイカラーは1946年オリジナルカラーのアビオグレーのそれに乗り、光太郎は出かけていった。
最初プレゼントにしても少々高価すぎると光太郎は断った。
だがクロノはもう別のバイクを買ったというし、渋る光太郎に渡すことになった経緯を聞いて光太郎も苦笑いをして幾らかのお金を払って受け取ることにしたバイクだった。

その話は笑い話にしかならないので他言禁止となっているが、かいつまんで説明するとある日光太郎に影響されて地球での足にバイクを買おうとしたクロノは後ろに乗せることになる恋人に相談したらしい。
そうするとその彼女はベスパを勧めたのだが、クロノが買ってきたGTV250ieを見てがっかりしたらしい、という話だった。

彼女が欲しかったのは、地球のオールドムービー『ローマの休日』でヒロインのオードリーが乗ったベスパ125の方であったらしい…クロノが相談する数週間前にレンタルして視聴していたそうだ。
女性の気持ちはわからないと…少し飲んだくれながら言うクロノの肩を叩いた時のことを思い出して幸太郎は苦笑した。

ちなみに、このバイクはこの世界では手に入らない為人目を引いたが、この界隈で光太郎の持ち物を取るような愚か者は存在しなかった。
RXであることはばれていないが、荒事や力仕事の際は重宝する男、という評価を光太郎は貰っていた。

ミッドチルダの中心部へと続く公道を光太郎の乗るベスパが軽快に走っていく。
流石に道も覚えた光太郎は予定通り、10分ほどで目的地へと到着した。
光太郎の姿を発見し、一人の女性が駆け寄ってくる。
いつもと違う髪形だったので、光太郎は一瞬誰だろうと怪訝に思った。

「おはよう、今日もよろしく頼む」
「わかってるよ」

挨拶を返して光太郎は浮かない表情で返事を返す。
相手の為に用意しておいたヘルメットを手渡す。

「どうした?」
「い、いいや、髪型が違うから驚いたんだ」
「これを被るのに少し邪魔だからな」

手渡されたヘルメットを示しながら、桃色に近い髪を下ろしたシグナムは言う。
そのままヘルメットを被ろうとしていたシグナムは何を思ったのか手を止めた。

「そんなに驚くとは、私のような女には似合わないか?」
「そ、そんなことはないよ。とても綺麗で…うん」

光太郎の返事を聞いてからシグナムはヘルメットを被り後ろに乗った。
再びベスパが公道を走り出す。
見慣れない地球性のバイクが通り抜けていく姿に道行く人は目を留めていたが、二人に気にした様子はない。

今日の用は勿論と言うべきか、シグナムの訓練相手を務めることだ。
出会った時に手合わせをしてから暫くして、何処からか光太郎の住所を聞きつけてきたシグナムが再戦を希望して光太郎の所に押しかけてきたのが半年ほど前。
以来、ウーノとの交渉の末格安で相手を務める間柄だった。

「テスタロッサがもう少し付き合ってくれれば頼まなくてもいいのだがな」
「彼女は地球にも家があるから仕方ないだろう」
「わかっているさ。その分貴方に相手をしてもらってることだしな」

光太郎の腰に手を回した状態で愚痴るように言うシグナムに光太郎は相槌を返す。
シグナムがこういった話をするのは毎度のことだった。
仕事に加え、恵まれない子供達や妹となったヴィヴィオにフェイトはかかりきりになってしまい、自分の相手を務める機会が減ったのが残念で仕方ないらしい。

そこから察すると、代わりの相手として光太郎、RXが選ばれたのは実力以上に実力者達の中で光太郎が一番暇だと判断されたのかもしれない。
光太郎としてもシグナムのように空を飛ぶ相手が多数いるミッドチルダでいつまでも空を飛ぶ相手が苦手とは言っていられない為願ったりかなったりであった。
…値段設定低めとはいえ、ウーノが料金を設定して家計の足しにしているという事情もあったが。

ともあれ、シグナムは自分の剣が通らないほどの相手と真剣勝負の中で技を磨き、光太郎も空中を自在に飛び回る敵を相手にする経験が詰めるという趣向だった。

「そういえば、ヴィヴィオが寂しがっていたぞ」

似合わないと言われる原因の一つであるフルフェイスのヘルメットのバイザーに隠された光太郎の目元が寄せられた。
シグナムに言われるまでもなく、ヴィヴィオを引き取ったフェイトも時々やってきては会ってあげてと言われている。
だが二人乗りのため仕方なく触れる体温に居心地の悪さを感じながら、光太郎は素っ気無く言う。

「あの子とは距離を置く。俺と関わらせてもいい事はないからな」

一度顔を見に行って、光太郎はヴィヴィオとは距離を置くことを決めていた。

「ヴィヴィオから逃げる気か?」
「そう…だな。俺が招くトラブルにあの子を巻き込みたくないんだ」

シグナムに光太郎は体を硬くして首を縦に振った。
生まれがどうであれ、光太郎はヴィヴィオには平和な世界で生きてもらいたいと願っている。
光太郎は、いつまた敵が現れるかもわからない自分といてはその邪魔になると考えているのだった。

だがその考えを聞かされたシグナムの怒りが膨らんでいくのが、背中ごしにひしひしと伝わってきた。
今の光太郎の暮らしぶりを知っているシグナムには、別に光太郎に会ったからあの子が危険に巻き込まれるなんて自惚れが過ぎるように感じられたのだろう。
後ろから殴られることも覚悟した光太郎だったが、シグナムはそんなことはせず深く深呼吸をした。

「…クロノ達とは連絡を取っているし私とはこうして会っているが」

怒鳴りつけるの堪えた剣呑な声が返される。
光太郎はばつが悪そうに返事を返す。

「一緒に戦う仲間だろ……? ヴィヴィオにはそれは求められないさ。今でさえ俺は管理局に追われる身だし」
「ふぅ、…その膝元で毎週のように美女と、しかも局員とデートする余裕はあるんだろう?」
「デートとは少し違うような気もするし自分で……あの当たってます」
「当ててるんだ。情けない…! 貴方はそれでも男か!?」

何が、とは言わなかったが同僚から魔人とあだ名されるほどの凶器に光太郎はさっさと降参する。
シグナムはそれ以上追求はしなかった。
シグナムになじられているのか、少しだけ逃げさせてもらえたのかはよくわからなかった。

クライシスやゴルゴムとの戦いで失ってしまったことが未だに尾を引いている。
話したわけではないが、光太郎は何故か自分では気付かない内に悟られてしまったのではないかという気がした。

その後二人は廃棄都市区画の一角で夕暮れまで戦った。
シグナムの攻めはいつも以上に苛烈で、逆に精彩を欠いた光太郎は押されるばかりであった。

 *

訓練相手を終えた光太郎は再び、朝シグナムと待ち合わせた場所へと戻ってきていた。
真剣勝負をし、満足した表情のシグナムが後部座席から降りてヘルメットを取った。
乱れた髪を手櫛で軽く直しながら2、3言話して光太郎は廃棄都市よりの区画へと向かってベスパを走らせた。

そこにある寂れたカフェの一軒がウーノの行き着けの店であり、今日はそこで待っているはずだった。
相変わらず客が殆どいない店の前まで来た光太郎は、区画整理を逃れ、古い石畳のままの道にベスパを止めた。
頭上で街灯に火が点る。

「あら、早かったのね」

以前RXとして助け、光太郎としても知り合いになった女生と談笑していたウーノが店から出てきてそう言った。
その女性から手を振られ、光太郎は手を振り替えす。

「彼女と知り合いなのか?」
「…ええ。マスクド・ライダーに助けられたそうね」
「ああ、元気そうだな」

嬉しそうに言う光太郎の横顔からウーノは目を背けた。
その女性の正体はスカリエッティの生み出した戦闘機人ドゥーエであり、助けたことも彼女の自作自演に過ぎないと言うべきなのかもしれない。
だがウーノは…言うことが出来ず、光太郎が差し出したヘルメットを受け取った。
それを被ろうとして、眉をピクリと動かした彼女に光太郎は首を傾げた。

「どうかしたのか?」
「余り良く覚えていないませんけど、シグナムさんだったかしら?」

ウーノのいいように光太郎は首を傾げた。
何度か顔をあわせた相手を覚えてないことなど、今までにないことだった。

「? ああ、彼女の決闘趣味にも困ったよ。もうへとへとさ」
「そう。随分身奇麗にしてから来るのね」
「何のことだ?」

微かに香ってくる花の匂いに顔を顰めながらヘルメットを被るとウーノは後ろに乗る。
不思議に思いながら、光太郎は家路を戻って行く。
悪路のせいで起きる軽い揺れに回した手に力を込められた。
今日の訓練のことを尋ねられて、対向車を気にしながら光太郎は言う。

「慣れてきたよ。俺は彼女の気配というか、生命エネルギーが見えるようになってきた気がする」
「何を言ってるのか今一分からないけど、良かったわね」
「うん。君はどうだった?」
「聞かせるようなことは余りないわ。マスクド・ライダークラブの副会長にギンガ・ナカジマって言う小娘がなったとか言う話が聞けた位かしら?」

光太郎は思わず急ブレーキをかけた。

「ギンガ・ナカジマ?」
「ええ。心辺りでも?」

後ろで性質の悪い笑顔を浮かべているだろうと思った光太郎は何も言わずに家路を急いだ。
その途中で二人の目の前を暴走する車が走り抜けていく。

スカリエッティが生み出したと思われる戦闘員達が幼稚園バスジャックを決行したのは一度だけだ。
その後同じ犯行は行われていない。
それがどういうことなのか、真意はわからないが…稀に模倣犯はいた。

何故今そんなことを述べるかと言えば、どう見ても変態にしか見えないコスチュームが光太郎の眼に映っていたからだ。
ウーノが光太郎の背中にため息を吹きかけた。

「行ってくれば?」
「すまない。先に戻っていてくれ」

言うなり光太郎は路地に飛び込んでいった。
そして、RXが風のような速さでウーノや一般住民の頭上を飛び越えて車を追いかけていった。

それを見送り、耳に届いた声援になんともいえぬ表情をしたウーノは一人帰路についた。

彼女の視界には、RXに声援を送る子供の姿が眼に入っていた。

クラブの事といい、光太郎はいつか去ると言いながらミッドチルダで有名になりすぎていはしないだろうか?
管理局や聖王教会でもし話しに上がりでもしたら困るくせに。

「お待ちしていました。ウーノ姉様」

なんともいえぬ表情をしたまま部屋に戻ったウーノを彼女も見知らぬ少女が待っていた。
背が高く光太郎と同じくらいはあるだろうか。
少女でピンク色の髪をロングヘアーにして、額を防護するヘッドギアをつけている。

ウーノは怪訝そうな顔で尋ねた。

「貴方、何者なの?」
「ナンバーズ7番。セッテです。ウーノ姉様」
「7番?…7番はまだまだ先の予定だったはずだわ」
「ウーノ姉様が光太郎兄様の所に行かれてからドクターは気の向くままに作業されていますから」

2,3年先まで大まかな予定を組んでいたウーノはその返事に不機嫌極まりない口調でそう、と言った。
だが不機嫌さを隠そうともしない長姉にも、セッテの表情は変わらなかった。
どういう教育を施したのか機械的な印象を受けてますます棘のある口調でウーノは尋ねた。

「何の用かしら?」
「ドクターの命令でこちらに居候させてもらうことになりました。よろしくお願いします」
「はぁ!?」
「あぁ、忘れていました。ドクターからのメッセージがあります。『どうしても光太郎に見せたいので贈ることにした。暫く好きにしてくれたまえ』だそうです」

ウーノの開いた口は暫く塞がらず、セッテも無表情に彼女を見つめ返す。
暫くして、セッテが口を開いた。

「了解いただけますでしょうか?」
「光太郎に聞いて。家主は彼よ。どうせ…貴方は何も知らないでしょうし」
「はい。ドクターに繋がるような情報は持たされていません」

素直に頷いたセッテは右手につけた腕時計で時間を確認した。

「ではインスパイア元にご挨拶に行って来ます。敵の計画通りなら今日はそれなりに苦戦しているはずですから」
「ちょっと待って! 光太郎が苦戦…?」

聞き間違えたかと耳を疑うウーノにセッテは機械的に頷いた。

「この地上の現場レベルよりドクターの方がより優先的に情報を得る立場にありますから。『彼を利用しようとする管理局。レジアス・ゲイズやあるいは私より先に情報を手に入れたリンディ・ハラオウンより先に彼を助ける』のもドクターの命令ですので」

恐らくは光太郎がいるのであろう方角を見つめて地面を蹴った。
ウーノはもう勝手にして欲しいという、投げやりな気持ちからセッテから目を離し疲れた足取りで部屋へと戻ろうとする。

だがその耳に次に届いた言葉によって彼女は振り向いた。

「変身…!」
「え?」

振り向いたウーノは、空を飛んでいく恐らくはセッテ…と思われる甲冑のようなものを纏った人物の背中を呆気にとられたまま見送った。
空を自由に飛びながらナンバーズ七番であり、スカリエッティの完全な趣味によって生み出された戦闘機人、バリエーションマスクド・ライダーのタイプゼロは、
犯罪者達の相手をしているRXが早くも自分を察知した事に気付いて三日月に近いブーメラン型の刃を持つ剣を抜いた。
戦闘機人としての先天固有技能は、この高質量とバリアブレイク性能を持つ固有武装『ブーメランブレード』を自由に制御することなのだ。

「IS、スローターアームズ」

スカリエッティから詳しい話は全く聞かされておらず、ナンバーズ中最も機械的で人間味が薄い少女は相手がどんな反応を示すか全く考えようともせずに加勢に向かう。
稼働時間も殆どない少女の頭に浮かんだのは、研究所から外に搬出される直前、『もし気に入られでもしたら面白くなるかもしれないわぁ』と無責任に言ったクアットロの言葉を思い出すくらいだった。

一方RXは止まった車両の上で足を止め、突如自分に向かって空中を高速移動し始めた何者かを凝視していた。
顔をそちらに向けた途端に飛んできた射撃魔法を手の平で受け止める…飛び散った魔法の光が足元に転がった犯人を掠って浅い傷を作る。

二発、三発と繰り返される魔法の射撃をRXは全て掌で受け止め、RXを仕留めようと射手の数が増えてもその場から動かない。
否、悪戯に動く事は出来なかった。再び行われたかに思われたバスジャックはRXを誘い出すための罠だった。

この場から飛び去った途端にバスへと放たれた魔法が、窓とその先にある座席に穴を開けていた。
警告のつもりか乗客のいない席が狙われたのが光太郎にとっては幸いだった。

魔法を放った者達の位置を超感覚で探りながら、次々と飛来する攻撃魔法を止める。
殴り倒し車両から引きずり出して足元に転がしたバスジャック犯には悪いが、車両内に押し込める余裕はなかった。

恐らく余り時間は残されていない。

シグナムとの訓練で多少は死角からの攻撃に慣れたRXにとって防ぐのは容易かったが、敵が何時までもそれで良しとするわけがない。
管理局が来ればRXはバスを守ることに専念するか、バスを任せて犯人を追えばいいのだから。

彼らが次の手を打つ前に、相手の位置を正確に把握しボルテックシューターで皆殺しにする。
ボルテックシューターはロボライダーに変身した時に取り出せる銃のことだ。
RXが持つ唯一と言っていい遠距離武器だが、同時に幾多の怪人達を倒してきた必殺の武器でもある。
使えば相手を殺す覚悟が必要だった。

そしてRXは進んで殺そうという気はないが、バスの乗客を人質に使うような輩に加減をする程お人よしではなかった。
決断したRXは自由に空を飛びこちらへと向かってくる何者かを警戒し、魔法を防ぎながら目を向けていた。
敵であったなら、この場で最も脅威となるのがそいつだとRXは本能的に感じ取っていた。

昆虫を意識した意匠と思われる…RXとは違って曲面を極力減らした、なんというか尖った野暮ったいデザインのバトルジャケットに身を包んでいる何者かがブーメランがブーメランを投げるのが見えた。
間断なく狙撃を受け続けている状況にも関わらず、この世界のバイクや車を見た時にも感じたが、デザインセンスがないなとRXは思った。

見当違いの方向に投げつけられたように見えたブーメランブレードが、その間に空中で方向を変えて、RXを狙撃していた敵を両断する。

一人目の犠牲が出てやっと敵は何者か…セッテの存在に気付いたらしい。
RXを襲う狙撃が一瞬止んだ。

その瞬間を、光太郎は逃さなかった。
射撃魔法が止んだ瞬間RXの姿が内側から発せられる光に包まれた。
光の中で生物の質感を幾らか失くした金属の甲冑の如き肉体へと変貌していく。
光からいち早く抜けた腕の中には拳銃が握られ、銃口はRXを狙った敵へと向けられた。
引き金が引かれ、クライシス帝国の怪人をも一撃で葬り去る光線が銃口から迸る。

光太郎の姿の中で最も非人間的な姿でありながら、そこだけは他の姿よりもはっきりと光太郎の激情が刻まれたロボライダーの仮面は既に次の標的を見定めていた。

RXに加勢した戦闘機人、セッテはその姿か性能に驚いたようだが、すぐに立ち直り更に一人を切り倒す。

全ての敵を倒したロボライダーはRXの姿に戻り、普段通り何も言わずに飛び去った。
その後をセッテが追いかけていく。

ビルを飛び越え、建物の陰に潜むように移動したRXは何個目かのビルの陰の中で足を止めてセッテの背後に回った。

「何者だ」

追いかけていたはずの自分の背後に立つ怪人に、セッテは手を上げた。
それを聞いたRXがどのような行動に出るか考えるよりドクターの命令をセッテは優先して、ウーノにしたのと同じ説明をする。

翌日から、光太郎とウーノの部屋にはもう一人の住人が出来た。

だがウーノと光太郎の仲はぎこちないものになり…
ご近所の奥様方の間では、セッテは光太郎の浮気相手で今修羅場なのだという微妙に間違った噂でもちきりになったという。

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最終更新:2010年03月07日 19:59