光太郎がこの世界に来てから三度目の秋が訪れた。
ミッドチルダの秋は短く、すぐに冬が訪れる。
その為か現在光太郎が住まう廃棄都市区画近辺では、既に冬に向け衣類や防寒具が店先に並んでいた。
三人…光太郎とウーノの暮らしはセッテが加わっても然程変わっておらず、短い秋を楽しもうと季節の野菜や果物を買い、帰り道を歩いていた。
途中古本屋と露天を覗いてウーノが並べられた商品の中から、外出時、べスパを運転する際にと少し古いタイプのカイロを購入して光太郎に渡す。

「ありがとう…変わった色だな?」

どこか別の管理世界から輸入したらしい、得体の知れない皮製のケースに入った金属製の薄っぺらいカイロを受け取った光太郎は、カイロに眼を落として言う。
ポケットの中に入れやすいサイズで皮製のケースに入っているのは直接触ると火傷しかねない温度まで熱くなってしまうからのようだ。

「その姿の時は寒いんでしょ。管理外世界(番号は忘れたわ)の惑星ポポルにいるカエルの皮だったかしら」
「……何ていうか、胡散臭さいな。しかもカエル?」
「何よ?」
「あ、ありがたく使わせてもらうよ。でもよくわかったな」
「去年冬にコーヒー豆をきらした時、少し震えてたでしょ」

財布を仕舞い、マフラーを直しながら歩き出すウーノに少し遅れて光太郎と光太郎の傍に無言で立っていたセッテも歩き出す。
魔法が発達しているとはいえ非常に珍しいカートリッジを挿して、込められた魔力を燃料にして発熱するらしいカイロを弄りながら歩く光太郎をウーノは軽く嗜める。
明日は久しぶりにシグナムの相手を務める予定だったので早速使ってみようと決めて、光太郎はカイロをポケットに仕舞った。

シグナムとの関係は続いているが、回数自体は減っていた。
ハラオウン家に預けたヴィヴィオが大きくなり、シグナムもよく顔を出しているらしい。
いい子で皆に可愛がられている、ということだった。
大した悪さもしないからちょっと物足りないくらい、とは母親であるリンディの弁だ。

そういえば、と不意に光太郎は黙って隣を歩いているセッテに顔を向けた。
共に暮らして暫くたったが、セッテはあまり二人の会話に口を挟もうとはせず、光太郎の挙動を観察することが多かった。
元々話し下手というか人間味の薄い性格らしいと既に理解している光太郎達は何も言わず、セッテのしたいようにさせていた。
今もセッテは光太郎を観察していて二人の目があった。

「どうして俺が兄なんだ?」
「ではパパとお呼びしましょう」
「ど、どういう意味だっ!?」
「セッテ。もう少し最初から話さないと私にもわからないわ」

狼狽する光太郎に少し前を歩くウーノから助け舟が入った。

「貴方が私の戦闘形態のオリジナルに当たる方だからです。パパよりは兄様の方がいいだろうと言われたのですが、間違いだったようですね」
「い! いやそのままでいいぜ」
「…わかりました。光太郎兄様。帰ったらまたバイクの整備を手伝ってもらえませんか?」
「ああ、勿論構わない」

セッテの頼みに光太郎は二つ返事で頷いた。
光太郎がアクロバッターやベスパを持っているようにセッテも一台のバイクを持っている。
お金を貯めて買ったものではない。一緒に住む事が決まると直ぐに何処かからセッテの元にバイクが届いたのだ。

一見するとそのバイクはミッドチルダでそこそこ有名なメーカーのバイクだった。
だがウーノの他の二人から比べると用心深い性格と、RXの目は誤魔化されない。それは擬態に過ぎなかったのだ。
本性はどこかアクロバッターを意識したデザインをしたセッテをサポートするだけの性能が与えられたバイクだった。
光太郎がスキャンした情報を正確に設計図としてチラシの裏に書き込むと、それを見たウーノは使われている技術から言って間違いなくスカリエッティの生み出した作品だと断言している。

ついでにスキャンしたとはいえフリーハンドで設計図を引いて見せた光太郎にウーノ達は感心したことを記しておく。

「光太郎ってそんな特技があったのね」
「以前ワールド博士の設計図からライドロンを作ったお陰かな」

感心していたウーノは返された返事に興ざめしたような顔をみせた。

「冗談はいいわ。貴方にそんなこと出来るわけないじゃない」
「嘘じゃないって! 見てろ、今から全部チラシの裏に書いてやるから! セッテ、悪いけど向こうからチラシを持ってきてくれ!」

躍起になった光太郎に言われ、セッテがゴミの日に出すために溜め込んであるチラシを取りに行くのを尻目にウーノは席を立った。

「はいはい。頑張ってね」

チラシの裏に書き込まれた専門家が書いたような設計図―それもクライシス帝国の学者が設計した超マシンのもの、を見せられたウーノはまた別の意味でため息をついた。
詳しくは割愛させていただくがウーノは一言「この人、早くなんとかしないと…」と零したらしい。

ともかくセッテはそれを愛車として使うことにした。
最初光太郎はすぐにスクラップにしてしまおうとしたのだがウーノに勿体無いと一言で却下されて今に至っている。

「ふぅん?」
「なんだ?」

前を歩いていたウーノの思わせぶりな反応に光太郎は眉を潜めた。

「光太郎はドクターが作った物なんて触りたくないんじゃない?」
「奴がどんなつもりで生み出したかは知らないが、今は一緒に人を助ける仲間だからな」

道端の売店で売られている新聞の写真に視線をやりながら光太郎は応えた。
そこにはライダーの記事が載せられていて、共に活動しているライダー…セッテと彼女が乗るそのバイクが写真には写っていた。

「単純ね」
「そんなことはないぜ」

ウーノがフッと鼻で笑う。
光太郎は聞き逃さずに抗議したが、全く相手にはされなかった。
反論は無視されて、話題はすぐにセッテから振られた今晩の夕飯や明日のことに変わる。
だがそれを気にする風も無く光太郎は二人と古い路地を歩き、アパートへと戻っていった。

家に近づくにつれて光太郎の表情に微かな変化が訪れた。
光太郎の超感覚が三人の部屋の前にいる何者かの気配を伝えてきていた。
セッテも遅れて気付き、光太郎の指示を仰ぐようにちらちらと光太郎の目を見る。

そんな能力はないウーノの方は、部屋に近づくなり怪訝そうな顔をした光太郎とセッテが視線を交わすのを見て気付いていた。
ウーノは変身しない所から見て、脅威ではないのだろうと考えていた。

「光太郎さんお久しぶりです」

戻ってきた光太郎を見てそう言っておじぎをした少女に光太郎は困ったような顔をして挨拶を返す。

「やっぱりフェイトちゃんか。こんな時間にどうしたんだ? 悪いがヴィヴィオのことなら…」
「ち、違います。今日は仕事の依頼に来ました」

慌てて頭を振るフェイト。
ヴィヴィオを助け出した時に知り合ったクロノの義妹で、今はヴィヴィオの義姉でもある少女をウーノとセッテは胡乱げな目で見つめた。
執務官の制服が様になって
よく手入れされ腰の辺りでリボンで結ばれた金色の髪が、沈んでいく夕日に照らされていた。
眩しく黄金に輝く髪が女性へと成長しつつある少女を彩っていて、ウーノは思わず自分の製作者に文句を言いたくなるほどであった。

「シグナムから話は聞いています」
「殴り合いならご免だぜ。彼女だけでも困ってる位なんだ」
「くす。シグナムはヴィヴィオの相手をしながら嬉しそうに話してくれましたよ?」
「ねぇ光太郎―夕飯の用意もあるし早く済ませてくれないかしら?」

困ってはいるのも確かだろう。だが、それ以上にどこか楽しげに言う光太郎とそれを見て笑いながら脱線しようとするフェイトに釘を刺すようにウーノが言う。
セッテは姉の邪魔にならないようにどこからか取り出した最近お気に入りの新聞(―その新聞社はマスクド・ライダーの記事をよく掲載している上に好意的な書き方をするのだ)を読み始めていた。
助けた女の子からのお礼が書かれている辺りを見ながら、セッテはさり気なく光太郎に助けを求めるような目をやった。

「ご、ごめんなさい。すぐに済みますから」

少したじろぎながら、軽く謝罪をしてフェイトは気持ちを切り替えたのか凛々しい表情で光太郎を見た。

「光太郎さんにはレリックの輸送の護衛を依頼したいんです」
「レリックだと…」

呟く光太郎の脳裏に、光太郎がスカリエッティと袂を別ち、ウーノらと奇妙な同棲をすることになった原因が浮かび上がった。
体を焼く膨大なエネルギーと、消滅していく人々の姿を幻視した光太郎の拳が硬く握り締められた。

 *

数日後、光太郎は普段見せない硬い態度で異世界から移動する船に乗り込んでいた。
時折周囲を刀のような鋭い眼差しで撫で、スカリエッティのところにいた頃作ったスーツを着込む姿に隙はない。
依頼したフェイトは驚いたものの、執務官の制服を着て隣に立つ姿は普段通り冷静に職務をこなしていた。
移動の合間にヴィヴィオと会うように説得する時は熱く語りかけ、保護者になっているという子供のことを話す時は年相応の表情をしていた。

突然この厄介な荷を運ぶことになり、人手が足りないので協力を依頼したのだが…フェイトやリンディには別の思惑もあった。
光太郎がレリックに対して思う所があるのはクロノ経由で知っていた。
レリック絡みの任務なら積極的に協力してくれるのではという予想は当たった。
後はこの運搬中に管理局…自分達との関係を深め、今後も協力してくれるきっかけにしたいと彼女らは考えていた。
そして折を見てヴィヴィオと会わせてしまおう、なども。
それは光太郎も…正確には同居人のウーノがフェイト達はそういうつもりだろうと釘を刺していたが、光太郎は気にしちゃいなかった。
今も、相槌をうつ光太郎の意識は抱えたトランクに向けられていた。
トランクにはもう二年以上も前に空港の大火災を引き起こしたロストロギア『レリック』が入っている。
以前と同じく空港を通る事。人員不足により人手は二人だけであることも同じだった。

ふと気になり、部外者にこんな重要な物を運ばせて良いのかと問うてみたが、フェイトは自分もいますしと不思議そうな顔をしていた。
あ、と何かに気付いたようにフェイトは不満そうに顔を顰めた。

「もう、私だって執務官なんですよ?」
「あ、いやそういう意味じゃない「もっと私を信用してください。なのはと出会うきっかけになったあるロストロギアの事件の時なんて、9歳の魔導師が責任者だったんですから」
「9歳? いくらなんでもそれは無茶だろ!?」

光太郎が自分を認めていないと感じたらしいフェイトに光太郎は驚いて聞き返した。
フェイトはやっぱりと、以前と余りにも酷似した状況に緊張する光太郎を地球の常識からすると若すぎる自分を信頼出来ていないのだと決め付けた。

「こちらの世界では能力が認められればこれが普通なんです」
「あ、ああ…そう」

呻くように言う光太郎を連れてフェイトは歩いていく。
その後ろ姿からは光太郎が普段暮らしているミッドチルダを守る地上の陸士部隊が束になっても敵わない程の魔導師にはとても見えなかった。
初めて行く管理世界への移動もそこでの受け取りとそこからの輸送は何の滞りも無く進んだ。

面倒な手続きも全てフェイトがこなしてしまい、何の襲撃も無く日程だけが進んでいく。
光太郎はトランクを抱えて、彼女の後を子供が親に手を引かれ出かけるようについていくだけだった。
時に大人達と交渉するフェイトの仕事振りに光太郎は感心し通しだった。

そうして、トランクを持って、空港へと戻ってきた光太郎は以前爆発を起こした場所とそっくりのホールで思わず足を止めた。
行きかう人々の喧騒も、建物の内装も殆ど変わらない。

突然足を止めた光太郎に、前を歩いていたフェイトが気付いて足を止めた。
行きかう人々の邪魔になっている光太郎をフェイトが呼ぶ。

「光太郎さん? どうかしましたか」
「いや…なんでも」

その時だった。光太郎の前に見覚えのあるウィンドウが開いた。
映ったのは見覚えのある部屋と焦っている同居人達の顔。

「光太郎…! 急いでそのトランクを破棄して!!」
「どういうことだ…まさか!」
「ええ。あの時と同じよ! そこに入っているレリックは…!!」

最後まで聞く必要はなかった。

やはり……!

そんな言葉が胸に浮かび、光太郎の体を動かした。

「光太郎さん? どうし…くっ!」

光太郎はフェイトにトランクを投げつけて、開いた掌を天に向けて突き出した。
何事かとフェイトを除く高速戦闘などとは縁の無い周囲の客達の目には幾つもの残像が見えたであろう。
それほどの速さで十字に振るわれた腕が巻き起こした風が華奢な者達を吹き飛ばす。

「駄目です! ここじゃあ…!」

突風に足を踏ん張って耐えたフェイトはその動きを見て光太郎を止めようとして叫び光太郎の目の奥、巨大な光に変わっていくスカリエッティが魅せられた火花に魅せられて息を呑んだ。
腹部に浮かび上がったベルトから一瞬、太陽の如き閃光が迸る。
光太郎は人から黒い飛蝗人間へ、そして更に黒い甲冑の如き皮膚を持つ飛蝗怪人へと変貌を遂げる。

軽く曲げた左拳を前に、握り締めた右拳を腰に構えた光太郎…いや、RXは変身に伴い全身へと行き渡った莫大なエネルギーの残滓で微かにベルトを輝かせながら名乗りを挙げた。

「俺は太陽の子、仮面ライダーBLACKRXッ!!」

そして光太郎の行動はそれでは終わらなかった。
RXの姿が青い閃光と化しフェイトの前から姿が消えた。

「え…?」

一瞬遅れてフェイトは、遅れてやってきた取られた瞬間のトランクであるはずの何かの感触に息を呑んだ。
しっかりと受け取ったはずのトランクは何処かへと消えてしまっていた。
何処へ消えたのか。
考える暇もなく遠くで生まれた大きな光に強く照らされ、余りの眩しさにフェイトは目を閉じた。

太陽が増えたかのような強烈な光。フェイトはそれを周りの一般人に混じって見上げた。
まだ驚きの抜けない頭の中で先ほど変身する直前の光太郎が言っていた事と空港、レリックなどの言葉が繋がり、以前救助を行った空港の災害がフェイトの脳裏に浮かび上がった。

「光太郎さんはまさか…」

どんな手を使ったのかフェイトにもわからなかったが、トランクを奪い去った光太郎はあそこまで瞬時に移動したのだろう。
恐らくそこでレリックが暴走したのだ。

死んでしまったのではないか…そう考えて青ざめたフェイトは、光の中に浮かぶ小さな人影を見つけて安堵の息を吐いた。
よく考えれば、あれほどの災害を引き起こしたものと同じレリックの暴走であるにも関わらず、この程度の距離でこの空港には何の被害も出ていないのはおかしい。
衝撃波の一つも届いてこないのは恐らくはあの光の中で光太郎が何かしているのだろう。
まさか力尽くで押さえ込んでいるとはフェイトも思いもしなかったが。

走りだし、三角形のプレートを取り出したフェイトの体が金色の光に包まれる。
執務官の制服を基にしたバリアジャケットを纏って空へ飛び立った。
そのまま加速を続け、光が収まっていく爆発現場へと急速に近づいていく。

その間にも収まっていく光に目を細めていたフェイトは、光の周囲を見て今起きたレリックの爆発の威力を想像し背中に冷たい汗が流れた。
上空の雲は消滅し、青い空がどこまでも広がっていた。
一部のビルが溶けて融解しているのも目に入り、光の中心地にいる光太郎の身が心配だった。
その時だった。急速に弱まっていく光から青い人影が海へと落下していくのが彼女の目に入った。

「バルディッシュ!」

主人の求めに従って魔力が込められたカートリッジがリロードされる。
増大した魔力を使って加速したフェイトは、海面へと激突するギリギリで青いライダーの体を抱きとめた。
RXの黒い昆虫を思わせる体と比べ、スマートな体格をしている。
昆虫の外骨格を模した硬い鎧のような印象はなくしなやかで、腕に伝わってくる感触も何処か柔らかい。

「光太郎さん、ですか?」
「ああ。ありがとうフェイトちゃん、助かったよ」

初めて見るバイオライダーの姿に半信半疑に尋ねられた光太郎は、RXの姿に戻って頷いた。
ゲル化して移動することも出来なくは無いが、二度目とはいえ精神的な疲労感から光太郎は身を任せた。
が、すぐに太陽の光を浴びてRXは全快した。

「体は大丈夫ですか?」
「全然大丈夫さ。ほら、どこも怪我なんてしてないだろ?」
「それもそれで信じられないんですけど…」

フェイトが苦笑した瞬間、光太郎は口ごもりながら下ろしてもらえないかと申し出た。
瞬時に全快した途端自分より年下の少女に抱きかかえられて空を飛ぶのが光太郎にとってはどうにも恥かしく感じられていた。

「ちょっと恥かしい」
「一つ約束してくださったらすぐに下ろしてあげますよ」
「…なんだ?」

間近にある少女の顔から顔を逸らす光太郎に、フェイトはこういうことには定評のある親友のことを脳裏に描き口を開いた。

「お、お話…聞かせて欲しいの」
「は?」
「え!ええっと…! その、ごめんなさい」

親友の口調で言ってみたものの、それが思いのほか恥かしかったらしく今度はフェイトが顔を赤くして顔を逸らした。
光太郎は口調に違和感を感じて赤く染まった彼女の耳たぶを眺めた。

「こんなことが出来るのに、どうしてヴィヴィオと会ってくれないのか話を聞かせて欲しいんです」
「シグナムから聞いてないか?」
「…教えてください。教えてくれたら、私にも協力できることがあるかもしれないから」

フェイトの目は真剣だった。
今回同行する間にも義妹のことを光太郎に話してきたフェイトの表情は信じられる。
話したくは無いが、ヴィヴィオの家族である彼女には話しておくべきなのかもしれないと光太郎は思った。
「………わかった」

光太郎は暫く悩んだ末、建物の影に入った瞬間を見計らい変身を解いた。
人間の姿になったせいでフェイトは最初光太郎が味わっていた恥かしさを味わう羽目になり、誰かに見られていては困ると光太郎の顔を隠しながら飛ぶ事に集中しようとする。
建物の陰に隠れて飛び続けるフェイトの顔をぼんやりと見ながら、どこから話そうか光太郎は頭の中を整理しようとした。

光太郎が接触を拒む理由は、クライシス帝国との戦いで世話になった叔父夫妻を死なせ、まだ幼い彼らの子供達に銃を取らせてしまったことに起因している。
クライシス皇帝を倒し、そのままこの世界へと来てしまった光太郎は残された子供達がその後どうなったか知る術はない。
先輩ライダーや共に戦った仲間達がいるからそう心配することはないと楽観的に考えるようにし、深く考えないようにしてきたが…

ゴルゴムとの戦いで全てを失い、疲れ果てていた光太郎を迎え入れてくれた家族を守れなかったことは、光太郎の心に未だ残る傷の一つだった。
話しだすのを待っているらしく沈黙するフェイトに気付き、光太郎は考えを止め内心を語った。

「…俺は怖いんだ。ゴルゴムの時も、クライシス帝国と戦った時も、俺は大事な人達を守れなかった。信彦もおじさん達も…俺は、またいつか同じような敵が現れた時にヴィヴィオから家族を奪い去ってしまうんじゃないかって不安が、消えないんだ」

一度言葉を切る光太郎の憂いに満ちた顔をフェイトは信じられない面持ちで眺めながら、人目につかない適当な場所に降り立った。

「それでも関わりを完全に絶てないのは、俺が臆病だからだ。覚悟したつもりでも、まだ一人になるのは耐えられない…」

まだ先輩達のようにはなれないのだと自嘲気味に語る光太郎にまだ困惑しているフェイトは、その場で上手く言葉を返す事が出来なかった。
自分が全て無くしたと思った時になのはが手を差し伸べてくれた。
そうして親友になった。なのはのようにはうまく出来ないと落ち込むフェイトを見て光太郎は誤魔化すような笑みを浮かべた。

「すまない。年下の女の子に言うようなことじゃあなかったな。ヴィヴィオが望んでくれるのは嬉しいけど、悪いな」

 *

その頃フェイトと同じく一般人に混じって光太郎を眺めていたスカリエッティは、チェーン店のコーヒーを飲みながら先ほどの光景を思い出して恍惚としていた。
まだどこか別のところを見ているような目を隣に座るセインと何故か最近口うるさいチンクに目を向ける。

「チンク、今の映像は後で入手できるかね?」

尋ねられたチンクは眉間に皺を寄せ、ずずーッとカフェラテを一息に飲み干してからスカリエッティを睨みつけた。

「ああ。それは出来ると思うが…ドクター、本当に爆発するなんて聞いてないぞ!」
「何を言っているんだね。私は危険はないと言っただけさ。対応が間に合ったりして爆発しないとは言っていないよ」
「いいや言った! 何度も確認したじゃないか!」
「そうだったかな? それはすまないね」

スカリエッティはどうでもよさそうにそう言うと、今回の成果を整理し始めたのかニヤニヤしながら明後日の方向を眺め始めた。
適当な手駒がなかった事もあり、わざわざ横流しされたレリックを管理局に返還し、爆破させた目的は達成されたのだ。
もうこの場に留まる理由は無かった。

未だ見ていないRXの能力を見ようとしてまさか不定形のゲルっぽい物体に姿を変えて高速移動するとは…予想の斜め上どころではなかったが。

「…まあいい。先ほど光太郎は私達に気付いたかもしれない。早く戻りましょう」
「ああそうだね。ちょっと熱心に見すぎたらしい」

全く悪びれないスカリエッティを殴り倒そうかと真剣に考えて拳を震えさせるチンクの手を、苦労してるなぁと他人事のように乾いた笑いを浮かべたセインが掴んだ。
どうしようもない男だとは思うが、流石に手を出すのは拙い。

「じゃあ行きますね」

セインに抱えられ、床に沈んでいく男を見送って店内で一斉に安堵のため息が零れた。
薄笑いを浮かべたまま体にぴったり張り付くボディスーツを着た幼女と少女を連れた白衣の男がいなくなっただけで、店内は全く別の店になったかのようだった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年04月28日 20:38