【ガンフー】(名詞)
 銃(GUN)+カンフーの合成語。銃の射撃に東洋の格闘技の秘儀や禅の思想などを取り入れて、道を究めること。現代では、アデプトがその能力を格闘技ではなく、射撃に注ぎ込むこと。参照→ガンスリンガー・アデプト
        『現代英語辞典』2070年版より

Lyrical in the Shadow
 第2話「アウェイクンズ・マッドパーティー!」その3
  ~白い鳩を彼女は欲した~


「見つかった?」
 思わず、素っ頓狂な声をあげてしまった。
 それもそうだ。まさか、昨日の今日で見つかるなんて思っていなかった。だが、目の前の男(昨日情報収集を頼んだスクワッターの一人だ)は、さも当然のように言う。
「特徴がありすぎるからな。新入りで女二人組なんて、見つけてくれ、って言ってるようなもんだ」
 ……まぁ、確かに。ストリートの危険度を考えれば、まず、ありえない条件だ。目立ったとしても仕方がない。
 とはいえ、こうもあっさり見つかるとは思わなかった。あまりに簡単すぎるんじゃないのか?
「ただなぁ……」
 だが、そう続けた男の言葉が、その甘い考えを捨てさせた。
「あのあたり、ギャングの縄張りなんだよなぁ……」
「ギャング……ですか?」
 ……あぁ、そう言えば、そんなのもいたような気がするなぁ……
 思わず聞き返していたなのはだが、俺には、1つ思い当たる節があった。
「確か……『ホワイトスカル』だっけ?」
「あぁ。しかも、最近はさらに『ヤバく』なったらしい」
 ホワイトスカルと言えば、それなりの規模を持つ、武闘派集団だったはずだ。それが、さらにヤバくなったっていう事は……出来れば、関わり合いにならないほうがいい、と言う事か。
 二人組の正確な場所と、ギャングどもがどうヤバくなったのかまでは判らないそうだが、有益な情報ではある。とりあえず、情報をくれた礼と少しばかりの金を渡し、そのスクワッターと別れた。
 しかし、そんな中に行かないといけないと言うのは、さすがに気が重くなるが……
「……まぁ、戦闘になったら、なのはに任せるか」
「え? 丸投げですか?」
「いくらなんでも、その態度は問題でしょう」
 俺の言葉に、なのはも刃衛さんも、呆れ顔で答えた。……でもなぁ……
「俺、実働部隊にいたわけじゃないから、戦闘って、あまり得意じゃないんだ」
「……いろいろと問題ある発言ですよ、それ」
「と言うか、ここまで来てそれはないでしょう」
 いやまぁ、言いたい事はわかるんだが……やっぱり、得手不得手というものがあってだなぁ……
 と言い訳しようにも、二人の顔が怖くて見れない。とは言え、嘘をついたり、ごまかしたりするよりはましだと思うんだけどなぁ……
 まぁ、なんにせよ、ギャングと関わりあいになる可能性がでてきた、と言うのが問題だ。正確な数や武装がわからないせいで、果たして、現状での突入は十分かどうか、判断に苦しむ。
 いざ戦闘になった時、何処までやれるか……何せ、「なのはに任せる」と言ったものの、変身無し、レイジングハートの補助無しで何処までやれるのか、俺は知らない。
 刃衛さんに至っては、そもそも戦闘が出来るのか以前に、なにが出来るのかがわからない。それを何処まで計算に入れるのか、悩むところだ。
 と言うことは、やはり……
「……フェイを召喚するか」
「フェイさんを?」
 なのはが、驚いた声をあげる。
「でもそうすると、チップの捜索は……」
「高町さんの言うとおりですね。何より、チップの在り処の方が重要なのですから」
 なのはに続き、刃衛さんも反論の声をあげる。確かに、向こうの優先順位の方が高かった気もするが……
「向こうの進展次第で、だけどな。手がかりも掴めていない、って言うんなら、こっちを先に捕まえて吐かせたほうが、早いかもしれない」
「……確かに、これほど早く二人の位置を特定でいるとは思いませんでしたしね」
 そう言って、刃衛さんも唸り始める。しかしなのはは、
「……でも、正確な位置を特定できたわけじゃないですよね?」
 と、問題を提示する。確かにその通り。だが、
「手がかりを捕まえた以上、あとはその糸が切れないように手繰って行けばいい。確かに難しいかも知れんが、早めに手を打てば、それだけ捕まえられる可能性は高い」
 おおそよの場所が判ったのならば、素早く動いた方がいい。少なくとも俺は、そう考えている。下手に時間をかけて、逃げられた上に手がかりまで消されたとなれば、元も子もない。
 もちろん、向こうも手がかりを掴んでいるのなら、そちらを優先させるべきだろう。だからこそ、「向こうの進展次第」と言ったわけだ。
「なんにせよ、向こうの進捗状況を確認するのも悪くはないでしょう。こちらに呼ぶかどうかは、それからでも遅くはないでしょう」
 刃衛さんの言葉によって、方針は決まった。

[どうしたの、アレン]
 コムリンク越し(正確には、チャットソフトも経由しているが)に、ランドールの声が聞こえる。
「あぁ、そっちの状況はどうかと思ってな」
 そう言って、こちらの状況も伝える。もし手が開いているのなら、貸して欲しいことも。
[こっちはまったくだめだね。ただ、手がかりらしいものと言えば……
 ……もしかしたら、まだ売っていない可能性があるよ]
 ……何?
「それは本当ですか?」
 思わず刃衛さんが答える。
 当然だ。こちらは、即換金していると踏んでいたのだから。いや、恐らくほとんどの人間がそう思うだろう。
[僕も疑ったよ。だけど、フィクサーの情報によると、ここ数日に裏で動いたシムセンスのソフトはないらしい。
 もちろん、他の企業に持ち込んだり、フィクサーが関われない組織に売り払ったりしているなら、その限りじゃないけどね]
 それはそうだろうが……
「しかしそうなると、本人に聞いたほうが早くなるんじゃないのか?」
[だろうね。本人が見つかるのなら、だけど]
 なるほど。それなら……
「そう言うことなら、こっちの方に来て欲しいんだが……どれくらいかかる?」
[そうだね……2、30分、と言ったところかな]
 まぁ、それくらいなら、待っても問題ないだろう。そう返答しようとしたが、
[ごめん。ちょっと切るよ]
 ランドールはそう言うと、さっさと電話を切った。
「……どうしたんですか?」
 いきなりのことで呆然としている俺に、なのはが声をかける。とは言え、俺も返答に困るのだが……
「……解らんが……何かあったのかな?」
「……事故じゃないでしょうね?」
 ……さすがに不安になるか。そりゃそうだ。ヴィヴィオも乗ってるしな。
「恐らく、それはないでしょう。
 ……あの運転で、なぜ事故にならないのかは疑問ですが……」
 そんななのはの不安を刃衛さんが和らげようとするが……煽ってるよな、それ。
「まぁ、運転してるのはフェイだからな。突っ込もうとしない限り、大丈夫だろう。
 ……突っ込もうとしなければな……」
 思い返せば、ランのたびに何かに突っ込んでるよな、そう言えば。主に壁に。
「あの……安心できる材料って、ないんですか?」
「「う~ん……」」
 俺も刃衛さんも、思わず唸ってしまった。まぁ、下手ではないんだが……なんと言うのか、荒いんだよな。
 なんにせよ、いろいろと不安を抱えながら、俺達はフェイ達を待つことにしたのだった。



「そこにいるのは判っている。出てこい」
 これからのことについて、いろいろと相談をしている時、突然、そんな声がかかった。
 さすがに、外で話し込むのはなんだ、という事で、近くの廃ビルにいたわけだけど……当然、外から見えるような場所じゃない。なのに……
 その声は、私達がいる事を断定していた。
「……どっかで見つかったのか?」
「防犯カメラに映っていた、とか……」「しかし、こんな場所にそんな物を付けるのも無駄でしょう」
 確かに、刃衛さんのいう通り、こんな廃ビルの近辺にカメラを置くなんて、普通は考えられない。だけど、
「ギャングのアジトが近くにあるのなら、警戒してカメラを置く可能性はありますよね」
「確かにあるが……
 ランドールなら、簡単にわかるんだろうけどなぁ。さすがに、俺では判らん」
 残念そうにアランさんが呟く。確かに、ハッカーのランドールさんなら、監視カメラの場所ぐらい探り当てそうだけど……いない以上、それを期待しても仕方がない。
「どうした? 死ぬ順番でも相談しているのか?」
 外から聞こえる声に、剣呑な響きが混じる。同時に、何人かが集まってくる気配もする。
「……あまりのんびりしてもいられないみたいですよ。動くなら、早いほうがいいと思います」
 退くか闘うか。決めるなら早い方がいい。
「確かに。
 どちらにしても、敵戦力の把握をしておいたほうが良いと思いますがね」
 私の意見に、刃衛さんも同意する。その上で、外を確認できる位置まで移動し……そのまま固まった。
 何があったんだろう? そう思って、私もアレンさんも外を確認して……同じように固まった。
 このビルは、ちょうど曲がり角の外側にある。そのため、目の前が開けており、そこに集まってくることは予想できた。
 しかもここはギャングの縄張りに近い。何人か、或いは何十人か向かってくるだろうと踏んでいた。武器だって、ピストル程度じゃなく、マシンガンとかライフルとか、もっと物騒なものを持ち込まれることも予想済みだ。だけど、私たちの目に映ったのは……
 10人ほどの武装集団。これはいい。手にした武器が、日本刀を始め、草刈用の大鎌や鉈、果ては鉄パイプというのも、大した問題じゃない……と思う……多分。
 それよりも問題なのは……なんでみんな詰襟と和服もどきなんですかっ! ここはアメリカのはずですよっ!?
 こんな風に予想を外されるとは、思いませんでしたよ、さすがに……
「……そろそろいいか?」
 先頭に立った長身痩躯の詰襟男が、タバコをふかしながら尋ねる。オールバックでまとめた髪といい、手にした日本刀といい、この中では比較的まともな方に思える。
「……アレンさん、本当にこの人達と闘うんですか?」
 その声で我に返った私は、何とか声を出すことに成功した。出来ればこのまま帰りたい、という気持ちが滲んでしまったのは、仕方がない事だと割り切って欲しい。
「そうですね、私も反対に一票入れましょう。というか……
 関わってはいけない気がしてなりません」
 刃衛さんも相当嫌そうに続ける。気持ちはわかります。
「気持ちはわかるが……やる気満々の向こうが、逃がしてくれるかが問題だな」
 ……アレンさん、言いたい事はわかりますけど、むしろ逃げたいんです、私達は。
 もっとも、そのアレンさんにしても、あんなのに関わってしまった己の不運を嘆いているみたいだけど。
「それに、あれがホワイトスカルのメンバーなら、何らかの情報が得られるかも知れん」
 盛大なため息と共に、私たちよりも自分自身を納得させるように、アレンさんは呟いた。
 ……アレンさん、何かを諦めましたね、いろいろと。
「……武闘派、と言うのは、ああいう意味なのですか?」
 こちらも何かを諦めたように、刃衛さんが訊いてくる。だけど、アレンさんも困惑した様子で、
「いや、もっとまともな奴らだったと思ってたんだが……」
 と答えただけだった。
 こちらのやる気のなさはどうにもならないが、それとは関係無しに事態は動く。と言うか、動いてしまった。
「あまり時間をかけるつもりもない。そちらから来ないなら……」
 そう言いながら刀を抜き放った詰襟オールバックは、右手を前に突き出し、その親指に乗せるように左手で刀を構えた。
「こちらから行くぞ」
 そのまま駆けだす。それに後ろの人たちも続き……なし崩し的に戦闘が始まってしまった。
 ……嫌だなぁ……

 しかし、この詰襟オールバックの構え、いかにも、「左手片手突きをします」と言わんばかりの構えだ。ブラフなのかは知らないけど、似たような構えが他にもちらほら見えることから、それなりの構えなのだろう。
 ……ただし、本人に技量があれば。
 接近戦は防御手段を学んだ程度で、そこまで闘えるほうじゃない。だけど、普段フェイトちゃんやシグナムさん、ヴィータちゃんを見ているせいか、ある程度の力量ぐらいは分かるようになってきた。
 だから判る。この人達……大した事はない。
 問題は数だ。こちらが3人(ただし、アレンさんは戦力外)なのに対し、向こうは10人はいる。もし囲まれたら……恐らく、防御に手一杯になって、攻撃にまで手がまわらないだろう。
 ならば、囲まれないようにすればいい。具体的には、中に入れなければいいのだ。
 それほど広くない裏通りに面しているという事もあり、入ってくる時に使った入り口の他には、それほど大きくない窓が二つあるだけだ。窓から入るには時間が掛かるだろうから、何とか対処できる。だから……
 私は、入り口に走った。そこを抜かれれば、こちらはジリ貧だ。だけど、
「喰らえっ!」
 当然と言えば当然だけど、向こうもここに殺到してくる。口火を切ったのは、さっきの詰襟オールバック。駆け出した勢いを乗せた、渾身の片手突きがっ!
「ほぶぁっ!」
 ……来ませんでした。って言うか……
 何直前で盛大にすっころんでるんですかっ! しかも、刀がどっかに飛んでっちゃってるしっ!
 あぁ、ラウンドシールドを張ろうと突き出した右手が寂しい……
「ほぉら、ボーとしてる暇はないわよっ!」
 その甲高い声に、私は意識を戻す。そこには、裾を肌蹴ながら大鎌を振りかざす、オークの姿が。だけど……
 無理矢理な裏声で話すのはやめてぇっ! 背筋をいやな物が走るからっ!
「くっ!」
 そのせいか、ほんの僅かに反応が遅れた。何とかシールドは間に合ったものの、体勢を崩してしまう。そこに、
「見様見真似っ!」
 そんな掛け声と共に、鉄パイプを振り翳し、飛び込んでくるひげ面の袴姿。だけどっ!
 いつまでも受身のままじゃないっ!
「アクセルシューターッ!」
 掛け声と共に、周囲に魔力球を生みだす。驚愕の声も上がってるけど……遅いっ!
「龍つぃ……」
「シュートッ!」
 すかさず打ち出した魔力球が、皆まで言わせず吹き飛ばすっ! 他の相手にも、ついでとばかりに飛ばしたけど、さすがにダメージを与えただけに終わった。
「なかなか出来るようだなっ!」
 次いで来た4人目は、全身包帯だらけの着流し。嬉々として日本刀を振り翳してくるが、他の相手に比べてまっとうな分、防ぐのもそんなに難しくはない。ただ……
 なんだろう。格好を除けば比較的まともな分、どこかほっとしている自分がいる……
 だけど、さすがにこの数は大変だ。向こうでは、窓から入ろうとしている人を押さえるので手一杯だ。白地に黒縁取りの法被を着た人(明らかに脂肪太り)みたいに、壁を壊そうと……でも、素手では無理だよね。変な音もしたし。
 レイジングハートの補助があれば、もっと簡単だったかもしれない。とは言え、こちらの世界では、デバイスなんてものはない。私たちみたいに、魔力球を可視化して飛ばすこと自体、珍しい部類だそうだ。
 だとすると、これ以上目を付けられないようにするためにも、なるべくレイジングハートに頼らないようにしなければ。そうは思ってもやはり、火力の物足りなさを感じてしまう。
 長期戦になる。そう思った矢先、轟音が聞こえてきた。しかもそれは、確実に近づいているのだった……



「見付けたぁっ!」
 愛車を走らせながら、あたしは叫んだ。
 アレンからの連絡を受けてから、飛ばしに飛ばしてようやく駆けつけて見れば、なのはがビルの前で変な格好をした奴らと闘ってるじゃないか。しかもその奥にも、何人かがビルの窓から入ろうとして、中の人に邪魔をされてるみたいだ。
 どうやら、おいしい場面には間に合ったらしい。そう判断し、さらにアクセルを踏み込んだっ!
「って、フェイお姉ちゃんっ! 人、人っ! かべぇっ!!」
「とっか~んっ!」
[タスケテー]
 ヴィヴィオの歓声とランドールの声援を受けながら、なのはと闘りあってた奴らに、愛車を突っ込ませるっ!
 こちらに気付いたなのはが、安堵の表情を浮かべてビルの中へと戻っていく。同時に、その相手はいきなりの増援に驚き、蜘蛛の子を散らすように退避していく。だけど……遅いっ!
 逃げ遅れた何人かをまき沿いにしながら、あたしはハンドルをきる。そしてそのまま車を滑らせたっ!「くぁwせdrftgyふじこlp~っ!」
――ガシャァ
 ヴィヴィオの嬌声と共に、寸前で車を止めたあたしは、車から降りて銃を引き抜く。そして、いつものように名乗りをあげるっ!
「手を挙げろぉっ! 香港警察だぁっ!」

 あたしに魔力があると知ったとき、すでに、魔法に興味はなかった。あったのは、シムやトリデオの向こうにいた人への憧れ。そして、銃器――特にピストルに対しての執着だった。
 だから、あたしの魔力がどう使われるのかを知ったとき、あたしは喜んだ。
 身体能力の強化。「アデプト」と呼ばれる者達の魔力の使い方。それがあたしの魔法。
 だからあたしは、ただひたすらに鍛えた。感覚を研ぎ澄まし、より早く、より正確に銃を撃つ。ただそれだけ。
 「ガンスリンガー」と呼ばれるようになった今でも、その気持ちだけは変わらない。ただ、より実戦的になっただけだ。
 だから今日も、戦場に立って銃を取る。憧れた人――偉大なる先達、ジョン・ウー――に近づくために。

 名乗りをあげたあたしに突き刺さったのは、10にも満たない相手からの視線。
 誰も彼もが、日本テイストだ。あたしを同じガンナーがいないのは残念だが、これはこれで面白い。
 何せ、本物の「サムライ」と闘れるのだから。
「……随分と面白い水の注し方をしてくれるじゃないか」
「邪魔をすると言うのなら、覚悟は出来ているのだろうな」
 日本刀を持ったミイラ男と、両手にナイフを持った優男が、警告らしいことを言ってくる。だけど、
「最後の言葉がそれ? ちょっと陳腐じゃない?」
 鼻で笑って答える。だいたい、そんな程度で怯むようなら、ここからのアクションにはついていけない。
 だけど、向こうからすれば、それば癇に障ったのだろう。
「だったら、本当に最後の言葉にしてやるよ。俺達がなぁっ!」
 そんな叫びと共に、いっせいに突っ込んでくるっ!
 だけどそれは、こちらが待ち望んでいた状況だ。自然と笑みが浮かんでしまう。白い鳩がいないのが残念だが。
 アクション。頭の中で、そんな言葉が響く。
 緩慢な時間の中、無造作に左手をあげる。銃に取り付けられたスマートリンク・システムが、コンタクトレンズに十字のマークを映し出す。それが、ミイラ男と重なり……
 引き金を引く。銃声が響く。そして……男が吹き飛ぶっ!
「このぉっ!」
「ゆくぞっ!」
 その隙に、左から大鎌使いが、鎌を振り下ろすっ! ぎりぎりで躱すと、勢いがつきすぎた鎌は、そのまま地面に刺さる。
 そして、正面からきたナイフ使いの両手が翻り、2本のナイフが踊るように襲い掛かるっ! だけど……それだけだ。ちょっと身体をずらしただけで、掠る事もなく通り過ぎる。
 さらに、白法被が拳を翳し、詰襟が刀を構え、甲冑もどきが鉈を振り上げる!
「堕ちろっ!」
 そんな刃衛の声とともに、甲冑もどきの身体が震える。多分、魔法を使ったんだろう。
 にしても、アレンよりもかなり早いなぁ。そんな事を思いながら、ナイフ使いに両手の弾丸を叩きこみ、倒した。……アレンが遅いだけかな?
「1人ぐらい残せよっ!」
 そのアレンが叫ぶ。それと同時に、起き上がろうともがいていたミイラ男が沈黙する。
 って言ってもねぇ……あたしの持ってる弾って、殺傷力を高めた炸裂弾しかないんだよね。
「弾がないよっ!」
 雄叫びと共に襲い掛かる拳を躱しながら……って、足が縺れたぁっ!?
「っらぁっ!」
 拳が振り抜かれる。ダメージそのものはないものの、完全にバランスが崩されたっ!
「終わりだっ!」
 思わず膝をついたあたしに、鋭い突きが入る。だけどそれは、転がることで何とか躱した。
 さらに、甲冑もどきの追撃っ! 振り上げられた鉈が、あたし目掛けて……
「シュートッ!」
 なのはの掛け声と共に、ピンク色の光弾が飛び込んでくるっ! それは狙い違わず、甲冑もどきに命中し、その巨体が崩れ落ちる。
 なのは、ナイスアシストッ!
 そう心の中で叫びながら、体勢を整える。そしてそのまま、法被に右手で射撃っ! 一撃目で倒し、二撃目で止めを刺す。
 それと同時に、大鎌使いの身体が崩れ落ちる。たぶん魔法なんだろうけど、アレンにしては早いし、なのはにしては光弾が飛んでこなかったし……
 だけど、悩んでいる暇はなかった。
「相変わらず、防御がなっていないなっ!」
 そう言って突っ込んでくる詰襟……って、二人目だよ……
 詰襟2号の突きを躱そうとするけど……躱しきれないっ?!
 だけど幸いに、補強されたあたしのコートに当たって、刃は滑ってくれた。これがなければどうなっていたかと思うと、ぞっとする。
 やっぱり、この数だと、ちょっと余裕がなくなるな。だけど、冷や汗を拭う暇もない。むしろ、そんな暇があったら、一人でも落とさないと、あたしの身が持たない。
「このぉっ!」
 とりあえず、冷や汗を掻かせてくれた詰襟2号に、左の銃弾を叩きこむ。放たれた2発の銃弾が、的確に命を刈り取った!
 さらに、詰襟1号が、いきなり血を噴いて倒れ、光弾が大鎌使いとナイフ使いに降り注ぎ、その二人共が動かなくなる。
 むせ返ってうずくまる詰襟1号に銃を突きつけて、
「教わらなかったの?」
 ニヤリと笑う。
「銃に刀で挑むなって」
 そして……



「フェイさん、待ってっ!」
 止めを刺そうとしていたフェイに、なのはが制止の声をかける。
「相手はもう闘えないんですよ!? それ以上やらなくても十分ですっ!」
「え~」
 いやまぁ、なのはの気持ちはわかるんだが……あまり通用しないぞ、それ。
 あと、フェイ。そこまで露骨に嫌そうな声をあげるな。って言うか、残念そうな顔をするな、このトリガーハッピーめ。
 なんにせよ、戦闘は終わったと言っていい。フェイに跳ね飛ばされた3人は、もはやぴくりとも動かないし、動けるあの詰襟も戦意を喪失してるようだ。
 対して、こちらは危ないシーンこそ多々あったが、結果としては無傷……いや、刃衛さんが少し血を吐いている。攻撃を喰らったわけではないはずだが……
「それにっ!」
 こちらとしては終わっていたつもりだったのだが、なのはの説教は、まだ続いていたようだ。
「なんて運転してるんですかっ!乗ってるのは、フェイさんだけじゃないんですよっ?!」
[……慣れって怖いよね……]
 いつものように、俺のコムリンクから、ランドールの声が響く。まぁたしかに、俺たちは慣れちゃったんだよな、あれに……
「ヴィヴィオッ! 大丈夫ッ?!」
 なのはが車に駆け寄る。さすがに、あんな後ではヴィヴィオが心配だよな。
「……ん……ぁ……なのは……ママ……?」
 気を失っていたのか、ヴィヴィオがぼぉっとした声で応える。だがそれも、なのはを認識した途端に、泣き声に変わった。
「うわぁぁぁっ! なのはママァッ!怖かった! 怖かったよぉっ!」
「大丈夫、もう大丈夫だよ、ヴィヴィオ」
 優しく、「ごめんね」なんてあやすなのはを見て、さすがの俺も罪悪感にさいなまれた。まぁ、なんだ。俺達がフェイの車に乗せる、なんて言わなければ、あんな目には遭わなかったわけなんだし……
 トラウマにならないといいだけどな……
「大丈夫だよ、ぶつけてないし」
 嘘だ。盛大に跳ね飛ばしたし、壁にだってぶつかっている。しかも、ヴィヴィオが乗ってる助手席側が、だ。
「おいおい、フェイ……」
 もうちょっと状況を考えろ。そう窘めようとした俺だが……
 ……聞こえてはいけない音が聞こえたのは、気のせいか?
「……フェイさん?」
 ヴィヴィオを胸に抱いたまま、なのはがフェイに振り返る。幸い、こちらから顔は見えないが……フェイの表情が引きつったことで、想像はついた。
 ゆっくりあげられた左手が、フェイに向く。そしてそこに、なのはの魔法特有の魔力球が浮かぶ。
「……少し、頭冷やそう」
 ……すげぇ怖いよ、おい。
「いや、ちょっ、まっ……
 アレンッ! 何とか……」
「あぁ、無理だ。弁護のしようもねぇよ」
 フェイが恐怖に引きつった顔のまま、俺に振ってくるが……俺だって、まき沿いは喰いたくねぇよ。
[ところでアレン、あいつらのことなんだけど]
 フェイの悲鳴をBGMに、ランドールが声をかけてくる。そう言えば、何かに気付いていたようだったが……
「何か判ったのか?」
[うん。どうも、アレンのコムリンクをハッキングして、場所を確定させたみたいだね]
 ……ってことは……
「あの時、いきなり切ったのは……」
[そう言う事。あの電話できっかけを作っちゃったみたいだ。
 僕も迂闊だったよ。相手にテクノマンサーがいるって言うのに、暢気にしすぎてた]
 ……そういや、そんな事も出来たんだよな、ハッカーだのテクノマンサーだのって生き物は。
[それと、襲ってきた奴ら。おかしいと思わないかい?]
「それは……確かにな」
 あまりにも常識離れした格好の襲撃者たちを見ながら、俺は答える。だが……
「……単なるデッキヘッダーじゃないのか?」
 デッキヘッダー――シムセンスのやり過ぎで、現実と空想の区別がつかなくなった奴ら。確かにヤバイが、実害はほとんどないはずだ。……少なくとも、こうやって襲ってこなければ。
 だが、ランドールは別の答えを出した。
[残念だけど、違うよ]
 それは、俺達をさらにヤバイ状況に叩きこむには十分だった。

[奴らはチップヘッダー……やってたのはBTLさ]

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最終更新:2009年03月30日 23:24