アリサの家で行われたお茶会が終わってから、数日が過ぎていた。
ほんの少しだけ、なのは達との間に距離を感じていたアリサにとって、雄介を交えてのお茶会は現状を打開する良いきっかけとなるはずだった。
そのつもりで、アリサは雄介を自宅へと招き入れた。少なくともそのつもりだった。
だが、しかし現実はそう上手くいく事は無く。
結果は何も変わらぬまま、アリサは自分の不器用さを嘆いていた。
そんな複雑な感情を抱いた日々が続いたある日の出来事だ。

「アリサちゃん、それ何?」
「え?」

朝一番の授業が終わって、次の授業を迎えるまでののんの少しの休憩時間。
席に座ってただぼんやりと何かの“かけら”を見つめていたアリサに声をかけてくれたのは、すずかだ。
あぁ、と一息。かけらを机に置き、すずかに向き直る。

「これね、庭で拾ったのよ。うちの子たちがどこかから持って来たのかしら?」
「へぇ……なんだか凄く綺麗だよね、ちょっと見せて?」

すずかの申し出に、「うん」と一言。
石ころにしては少し大きな、何かの模様が入ったかけら。
それをそっと掴むと、顔の前まで持ち上げて眺める。
美しい輝きを放つ黄金のかけらは、すずかの瞳を魅了しているようだった。
そんな風にさえも思えてしまうほど、このかけらは何処か不思議な力を持っている。
何処か、人の目を釘づけにするような力。
もしかするとそれだけには留まらないかもしれない、神秘的な雰囲気。
それをすずかが眺めていると、気付けば周囲にはなのは達も集まっていた。
いや、今になって集まってきた訳では無い。元々すずかと一緒に居たのだ。

「すっごく綺麗だね、それ」
「そうでしょ? 持ってたら何かいい事あるような気がしたのよね」
「じゃあ、アリサちゃんのお守りなんだ?」
「うーん……まぁそんな感じかな?」

微笑みかけるなのはに、アリサは少し照れくさそうに答えた。
こんな何気ない一時が、アリサの欲していた日常。
今この時は、何の壁も感じることなくなのは達と笑い合えている。
それが、アリサにとっては幸せだった。




「お守り、か……」

公園のベンチに一人腰かけたアリサは、そんな事を考えながら手にしたかけらを眺めていた。
太陽に翳してみる。それを受けて、かけらは金色に光を反射する。
目を細め、視線を落とす。そして、はぁ、とため息を一つ。
ちょっと言い過ぎちゃったかな、と。そんな事を考えながら、今日の午後の出来事を思い返す。
些細なことから言い争いに発展し、はやてと口喧嘩をしてしまった。
出来る事なら仲直りがしたい。だが、どんな顔をしてはやてに会えばいいのか。そんな悩みがアリサを苦しめる。
ふと、足音が聞こえた。視線を上げ、前を見据える。
目の前に立っていたのは、ストリート系のファッションをした、不気味な男。

「リヅベダジョ・ダグバ」
「え……?」

アリサが疑問を浮かべた刹那、轟音が響いた。
反射的に両手を耳に当て、音から顔を背ける。
これは何の音だ? 考えを巡らせ、答えはすぐに出た。
同時に、視界に映るのは漆黒のバイク。それに跨るのは、よく知った人影。
前輪を上げて突っ込んだバイクは、瞬く間に目の前の男に激突。
つい先ほどまで目の前にいた男は、アリサが見た事もないような異形へと姿を変え、地面に転がった。

「大丈夫、アリサちゃん!」

そうだ。今の轟音は、バイクを高速で走らせた際の爆音。
そして、そのバイクに乗っているのは、他でもない。五代雄介その人だ。
状況も解らぬまま、雄介と目の前の異形を交互に見比べる。
そうしていると、異形が先に口を開いた。

「クウガ……、また僕の邪魔をするなんて……ッ!」

すかさず雄介は、腹部に両手を翳す。
刹那、雄介の腹部が薄くオレンジ色に輝いた気がした。
しかし、何も起こらない。状況がまるでわからないアリサは困惑の表情を浮かべて雄介を見る。
だが、困惑の表情を浮かべているのは自分だけでは無く――いや、雄介が浮かべている表情は困惑では無い。
どちらかというと「焦り」に近い表情を、雄介の顔は表していた。

「変身、出来ない……!」

雄介の嘆き。それを聞いた異形は、元の男の姿へと戻ると、ニヤリと口の端を釣り上げた。
指を口へと持って行き、爪を甘く噛む。そして、男はくるりと踵を返すと、駆けだした。
呆気に取られるアリサを置いて、男はすぐに姿を消す。
雄介もすぐにその影を追いかけ走り出したが、やや走ったところで見失ったのか、きょろきょろと周囲を見回していた。


EPISODE.10 変身


それからややあって、公園のベンチに座る影が二つ。
五代雄介と、アリサ・バニングスの二人だ。
45号が次の殺人ゲームを開始するまでに、45号を見つけ出し、この手でトドメを刺す。
その目的で八神家を飛び出した雄介であったが、予想外な事態が発生した。
まず、前者はその道中ではやてと喧嘩していた筈のアリサを見かけたこと。
そして、何よりもそのアリサに“奴”が迫り寄っていたこと。
勿論雄介は奴――未確認生命体第42号のやってきた事を絶対に忘れはしない。
まだ未来のある子供たちを大勢その手にかけ、怯える子供達の姿を「楽しい」と嘲笑った相手だ。
そんな相手を雄介が許せる筈もなかったし、初めて「黒いクウガ」のビジョンが見える程に憎んだ相手なのだから。
しかし、奴が何故生きている。奴は確かに紫の金のクウガで。この手で仕留めた筈だ。
その相手が生きていて、しかもアリサの目の前に立っていた。放っておける訳もない。
どうやら自分は、もう一度クウガにならなければならない宿命にあるのは間違いないようだ。
しかし―――

(やっぱり出来なかったな、変身)

心中で呟き、俯く。隣に座るアリサも、心配そうに雄介の顔を覗き込む。
それに気づいた雄介は、アリサを心配させるまいと笑顔をつくる。

「五代さん、さっきの奴って……もしかして、五代さんの世界の?」
「うん……未確認生命体って言って、俺が元居た世界で人間を襲ってた奴らなんだ」
「未確認生命体……? 何でそんな奴らがこの世界に……」
「うーん……それは俺にも解んないんだよね。」

それを聞いたアリサは、不安そうに俯き、呟いた。

「もしかしてアイツ、私を狙って……?」
「……」

何も言えなかった。雄介にはただ黙りこんで、俯くしか出来なかった。
42号がアリサを狙っていたのは、雄介の目にも明らかだったからだ。
しかし、本人にそんな事を言って、不安にさせるのは得策とは思えない。
だから、黙りこんだ。
しかし――

「なんであんな奴に私が狙われなくちゃいけないのよ……」
「……理由なんてないよ――」
「そんな……」
「――だから、殺させない。あんな奴らに絶対、アリサちゃんを殺させない。」

その思いは、揺るぎのない物だった。
奴らの殺人ゲームに、意味などない。人間の命をただのゲームの駒としか見ていない奴らの行動に、意味などある筈がない。
だからこそ、雄介は確固たる意志を持って答えた。
奴らがアリサを狙うなら、自分はアリサを守り抜く。人間として、クウガとして。
再び笑顔を作り、アリサに微笑みかける。

「でも、殺させないって言ったって、どうやって……」
「未確認の奴らには、クウガっていう天敵がいるんだ。」
「クウガ……何それ?」
「俺が居た世界でも、クウガは未確認と戦ってたんだよ。皆の優しい笑顔を守りたいから」

きょとんとした表情で、アリサが雄介の顔を覗き込む。
クウガというヒーローが、皆を守ってくれる。そんなおとぎ話のような事が、実際にあるのか。
そんな現実を見つめるような瞳。それでも雄介は、アリサの瞳をじっと見つめる。

「でも、そのクウガってのもこの世界に来てるかどうかなんてわからないじゃない」
「ううん、いるよ。未確認がまた人を襲うなら、クウガは絶対にもう一度現れる。俺が保証するよ
 だから安心して、アリサちゃん。アリサちゃんの事はクウガが絶対に守るから」
「絶対にって……何で五代さんにそんなこと言いきれるのよ」
「えっと……それはまぁ、勘……かな? それに、アリサちゃんは一人じゃないんだから!
 アリサちゃんには、はやてちゃんやなのはちゃんみたいな、心強い友達が居るでしょ?」

とぼけるように頭を掻きむしりながら、雄介は笑顔を絶やさぬまま言った。
そんな雄介の笑顔に、アリサはため息を一つ落とし――笑った。
くすくすと、何かおかしなものでも見かけたような表情で。
それに釣られるように、雄介もくすくすと笑い始める。

「なんか五代さん見てると、本当に安心出来ちゃうから不思議なのよね
 そうよ、良く考えたら私にはなのは達がいるんじゃない。あんな奴らより、なのはの方がよっぽど凄いに決まってるわ!」
「そうそう、その調子だよアリサちゃん。アリサちゃんのピンチに、黙ってるような人たちじゃないでしょ?」

雄介の問いに、アリサは罰が悪そうに眼を反らした。
「あー……」等と言いながら、気まずそうに苦笑い。
原因は、もう雄介には解っている。が、それは大きな問題では無い。
アリサとはやて、二人の気持は既に答えが出ているのだから。
あとは、それを実行するきっかけがあればいい。雄介に出来る事は、ただそれだけだ。

「んー……ま、まぁそりゃそうよ、私たちは友達なんだからね。あ、でも――」
「でも……?」
「いやー……ちょっと聞きたいんだけどさ、はやて、私のこと何か言ってた?」
「ううん、俺は何も知らないけど……あ、でも、そういえば……!」
「そういえば……?」
「アリサちゃんともう一度お話がしたい、みたいな事言ってたかも……!」
「え……本当!?」
「うんうん、ホントホント」

そっか、と一言呟くアリサ。その表情は雄介が今日見てきた中で一番明るいものだった。
安心感に、胸をなでおろす。もうこれ以上の心配はいらないだろう。
後は二人が話し合って、仲直りすれば全て元通り。雄介の表情にも、心からの笑顔が灯る。
二人が安心しきった、その時だった。

――『五代君、聞こえる?』――

二人の耳に入ったのは、女性の声。雄介にとっては最早聞きなれたと言える、声だ。
声が聞こえるのは、雄介が止めていたビートチェイサーから。
すぐに雄介はビートチェイサーに駆け寄り、ヘッド部に搭載されていた無線機に顔を近づける。

「はい、聞こえます。どうしたんですか!」
『ついさっき、海鳴市の地下街の入口に、トラックが突っ込んだらしいよ』
「間違いありません、45号です! 場所はどこですか?」
『そこから近いよ、北東に1km程。既にフェイトちゃんとなのはちゃんが向かってるよ』
「解りました、俺もすぐ行きます!」

勢いよくそう告げると、ハンドルにぶら下げていたヘルメットを手に取り、アリサに向き直った。
自分は行かなければならない。ここでアリサとは一旦別れることになるが――

「アリサちゃんなら、大丈夫! じゃあ俺、もう行くから」

きっともう自分の助け船は必要ない筈だ。親指を立てて、笑顔を向ける。
気付けば、アリサもまた、照れくさそうに右手を突き出し、親指を立てていた。
そんなアリサの表情に、雄介の迷いも最早消えていた。自分は何の為に戦いたかったのか。
アリサやはやて、他の皆の笑顔を守るためだ。
自分は約束をした。“絶対に守る”と。クウガが、アリサを、皆を絶対に守り抜くと。
ならば、それを実行するまで。最早雄介に、恐れるものは無くなっていた。
バイクのアクセルを吹かし、ビートチェイサーを進める。
ミラーに映るアリサの影が、どんどん小さくなっていく。そんな時だった。
アリサの声が聞こえたのは。大声で告げるアリサの声は、雄介の耳にはっきりと聞こえていた。

「ありがとう、五代さん!」




海鳴市北東、地下街入口―――06:27 p.m.
日も落ち始めた街中の風景は、いつもならば街を行きかう人々で賑わっている筈だった。
されど、今日の賑わいはいつもとは違う。街に響く声はどれも、悲鳴や絶叫。
突然のトラックの暴走。地下街の入口の破壊。それらの状況が、街を大パニックに陥らせていた。

そんな中、地下街の中に無理矢理入ろうとする異形が一人。
濃い緑の体色は、まるで鎧をまとっているかのように。怪力を持って瓦礫の山を軽々と持ち上げる姿は、人間業では無い。
そして、そんな異形を見つめる影が一つ。
ビルの屋上から、下方を見下ろす瞳が捉えるものは、ゴ集団最強三人衆の一人――ゴ・バベル・ダ。
風に煽られたベージュの髪が、彼女の頬を撫でる。

「二日で既に637人―――ゲゲル達成間近……。」

彼女――リニスの右手には、巨大な“何か”が握られていた。
大きな枠にいくつものカウンターがついたそれは、見方によってはそろばんにも見える。
その正体は、プレシアが復元した、“バグンダダ”。
グロンギの民がゲゲルを行う際に、殺した命の数を数えるのに必須のカウンター。
しかし、それを持つリニスの表情は、何処か浮かばない表情でいた。

「……! これは……!?」

刹那、リニスが声を荒げた。感じたのは、魔法の気配。
何処かで、或いはこの場所の近くで、誰かが魔法を使ったのだ。
そして、それはリニスが気配を感じる程に広域な魔法。
ふと空を見上げれば、リニスの遥か上空を覆っていたのはドーム状の壁。
元々ミッドチルダ生まれのリニスにとって、これが何なのかは一目で理解出来た。

「結界……まさか、フェイト……?」

リニスの表情に浮かんだのは、再会を望む僅かな希望の色。
しかし、その色はすぐに塗りつぶされることとなった。
フェイトの身を案じるリニスの優しさと。バベルの恐ろしさを知る恐怖心によって。




バベルが地下街に侵入しようと、瓦礫を軽く押しのけていた、その時であった。
頭上から降り注いだのは、黄金に光輝く一筋の閃光――否、稲妻。
光に飲み込まれたバベルは、ほんの一瞬動きを止めた。

「やっぱり未確認……こんな攻撃じゃ効かないのか……」

空から見下ろすは、美しい金髪を二つに分けた少女。
若干10歳にして、天才的な魔法のセンスを身に付けた、管理局の嘱託魔導師。
その名を、フェイト・テスタロッサ改め、フェイト・T・ハラオウン。
ややあって、漆黒の鎌を振り下ろし、構えるフェイトの視界に映る影が動いた。
大きな瓦礫をその両手に掴み――

「まさか……ッ!?」

――投げた。
瞬間、すぐに飛び上がる。今までフェイトが居た位置を、凄まじい速度で瓦礫が通過した。
つぅ、と。冷や汗を一滴。フェイトはもう一度、目下の未確認に視線を合わせる。
目に入ったのは、次の瓦礫を頭上に構える姿。
まずい。思考が追いつくよりも早く、フェイトはその場所を移動していた。
先程と同じように、寸でのところでフェイトの真横を瓦礫が突っ切った。
これでは魔法を使う為の隙など無いも同然だ。場所を変えなければならない、と。
フェイトは急降下し、ビルの物陰に退避。すぐに通信を繋ぎ、作戦を練る。

「なのは……アイツ、かなり強いよ」
『うん、見れば解るよ。でもこのままじゃ埒が明かないね……どうする?』
「私が敵の気を引き付けるから、その隙になのはが砲撃を……って言っても、通常の砲撃じゃあいつは倒せないよ」

ならばどうすればいい? 思考を凝らすも、いい案が思いつかない。
いっそのこと、またアルカンシェルを使うか? そうすれば、まず確実に奴を倒せるだろう。
だが、それを実行するのはまた至難の業だ。闇の書の闇の時とは違って、奴は小回りが利くタイプだ。
同じ耐久力でも、それだけでかなり不利になる。

『――って、フェイトちゃん、あれ見て!』
「え……!?」

突然慌てたように切り出したなのはに、一旦思考を中断。
未確認に視線を戻す。未確認に向かい合って立っていたのは、一台のバイクと、一人の青年。
何をやっているんだ、と。フェイトが焦りの表情を浮かべる。
そう。あの未確認の目の前に立っていたのは――




――俺は、あの子たちと約束をしたんだ。
絶対に帰るって。絶対に守るって。
ううん、あの子たちだけじゃない。優しい笑顔をする全ての人と。
いつも力を貸してくれた、一条さんや、警視庁の皆さんと。
皆の命を守る。戦えない全ての人の笑顔を、俺が守って見せるって。
俺には戦う力が有る。奴らを倒す為の、力が有る。
皆の笑顔を守りたい。これ以上、あんな奴らの為に誰かが流す涙を見たくない。
だから俺は戦うんだ。だから、俺は戦えるんだ。
そうだよな、アマダム――。

俺は、はやてちゃんとの約束を絶対に守る。
俺は、アリサちゃんとの約束を、絶対に果たしてみせる。

そうだ――もう俺に迷いなんてない。怖いものなんてない。
ここに来て、もしかしたら俺はもう戦わなくていいのかもなんて考えたこともあったけど。
それは違ったんだ。俺にはまだ、やる事があったんだ。
きっと、だから俺もゴウラムも、この世界に飛んできたんだ。
今度こそ、この長い冒険を終わらせてみせる。
今度こそ、全部終わらせて、笑顔で皆の元へ帰ってみせる。
だから、見ていて欲しいんだ。俺の―――




雄介の腹部には、銀色に輝くベルトが顕在していた。
強くなりたいと願った雄介の為に。強くなりたいと願い続けた雄介の為に。
これは、そんな雄介の為に、ようやくアマダムが取り戻してくれた力。
誇りのエナジーを湛えて、変身ベルト――アークルはもう一度姿を現してくれた。

そうだ。いつか、こんな話を聞いた覚えがある――。
――アマダムは、五代の戦おうとする意志に応えてくれる、と。
全ての迷いを吹っ切った雄介だからこそ、この力を取り戻せたのだろう。
目の前にいる未確認を倒す。そして皆を守ってみせる。それが雄介の、もう一つの冒険なんだ。

――左前方に向かって、勢いよく右手を突き出す。左手はアークルの上を沿うように、右脇腹に拳が当たる位置に移動させる。

目の前にいるのは、ただ命を摘み取るだけの者。対峙するは、笑顔を護る為に戦うと誓ったもの。
壊すものと、護るもの。相対する二人の視線が交差するこの場所に、全ての答えは存在する。
未確認をこの手で倒し、もう一度青空を取り戻す為に、雄介は“変身”するのだ。

――左前方に突き出した右腕を右方向に、反対に左腕をアークルの上部を滑らすように左へと移動させる。

今、この瞬間も雄介の闘争本能に応えて、アマダムから伸びた組織が繋がっていく。
大きく広げた雄介の腕が止まる頃には、微かに残っていたアマダムのヒビも姿を消していく。
さっきまでは確かに残っていた傷。だがそれもまるで溶けた金属が接合するかのように、綺麗に無くなった。
そして、雄介は叫ぶ。強くなるための、“魔法の言葉”を。

「―――変……身ッ!!」

前方に向かって広げた右腕を、左脇腹へと移動させた左腕に合わせる。
そしてすぐに体を開き、大の字で身構える。こうすることで、雄介の全身を黒いスーツと、白い外骨格が覆う。
やがて、オレンジ色に輝いていたアークルの中心部は、燃え上がるような赤い輝きへと変わっていた。
雄介の全身を覆った白い鎧は、まるで炎に包まれたかのように、赤く染まって行った。
天に向かって伸びる雄々しき角――コントロールクランは、すぐに大型化。
クワガタ虫を彷彿とさせる二本の角は、クウガの赤い大きな複眼の上に顕在する。
全身の装甲は白から赤へと変わり、変身は完了。
いつもと変わらぬ戦士クウガ――マイティフォームが、そこに顕在していた。


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最終更新:2009年07月27日 23:15