一歩、また一歩と自身に歩み寄って来る朱雀に対し
フェイトはなのはの盾になりながら彼にどう立ち向かうべきかを思案していた

(・・・こんな狭い場所では砲撃魔法は使用出来ない・・・。かといって近接戦闘では
以前のカレンさんの時の様に逆にこちらが追い込まれてしまう・・・
そうなると、バインドで彼を一時的に押さえ込んで、その隙に私の全ての魔力を込めた
一撃で彼を打ち倒す・・・それしか、無いか・・・)

「バルディッシュ、御願い。」
(Yes sir.Sealing Form. Lightning bind,get set.)
意を決したフェイトがバルディッシュに命じ、不可視型の拘束方陣を展開する
「・・・くっ・・・!」
その直後・・・
朱雀はその拘束方陣に足を踏み入れ、両手両足を円環型のバインドで縛られ動けなくなってしまう

「・・・手を貸そうか・・・?」
ジェレミアが冷淡な笑みを浮かべて言う
「・・・いえ、大丈夫です・・・」
朱雀は冷静に彼の助けを拒否する

「・・・ここで仕留めるっ!ハァァァァァッ!!」
フェイトがバルディッシュの先端に有りっ丈の魔力を込めて朱雀に向け全速で突撃する
(捉えた・・・!)
バルディッシュの魔力刃が彼の胸元に迫り、勝利を確信した、その直後だった・・・

「・・・えっ・・・?、キャァッ・・・!!」
突然朱雀の姿が自身の前から消えたかと思った刹那・・・
朱雀はフェイトの左腕を掴み、足払いを仕掛けて彼女を投げ飛ばした・・・
「・・・ああっ・・・」
宙を舞い背中を直で打ち付け悶絶するフェイト・・・
朱雀はそんな彼女の上に乗り掛かり、彼女の両肩を押さえつける。そして・・・
「・・・済まない・・・」
朱雀がフェイトにそう詫びた直後、彼は両腕に意識を集中し、光を発する。その光は
彼女の魔力を急速に奪い拡散させていく
「・・・・・・あ・・・・・・・・・あ・・・・・・」
急に魔力を奪われた事による身体の拒絶反応で痙攣を起こし、フェイトは
身動きが取れなくなってしまう・・・
「そんな・・・フェイトちゃん・・・」
友を打ち倒され、恐怖に震えるなのは
朱雀は動けなくなったフェイトを置き去りにして今度はなのはの許へと歩み寄って行く
「・・・嫌・・・来ないで・・・」
なのはの言葉を前にしても朱雀は歩を止めず一歩、また一歩と彼女の許へ進んでいく
「来ないで・・・!来ないでぇぇぇぇっ・・・!!!」
(Accel shooter)
恐怖に駆られたなのはは無意識の内にアクセル・シューターの発動をレイジングハートに命じ、
朱雀に向けそれを放ってしまう・・・だが・・・

「どうして・・・?」
朱雀はなのはの放つアクセル・シューターを避けようとも防ごうともせず
自身の身体で全てを受けきっていた
彼のバリアジャケットと”能力”で魔力的なダメージはほぼ皆無だったが
それによって生じた物理的衝撃まで無効化出来る訳も無く、彼の身体に無数の裂傷を
負わせ出血させていく・・・だが、それでも彼は障壁を張る事無く
少しずつ、少しずつ彼女の所へと進んでいくのだった・・・

「・・・ダメっ・・・ダメぇっ・・・!!」
朱雀の惨状を目の当たりにしたなのはは慌ててレイジングハートを待機状態に戻す
やがて朱雀はなのはの目の前に到達し、屈みこみ・・・
「・・・ごめん・・・」
朱雀はそう言ってなのはを抱きしめるのだった・・・

「・・・朱雀さん・・・朱雀さんっ・・・!!」
これまでの恐怖が嘘の様に晴れ、なのはは朱雀の胸の中で泣きじゃくっていた・・・
「ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・!!私・・・私・・・!!」
朱雀を二度も撃った事をなのはは泣きながら詫びた
「いいんだ・・・!君は悪く無い・・・!」
「でも、私・・・!朱雀さんの事を撃った・・・!」
「大丈夫だ。僕も、シグナムさん達も、ちゃんと生きてる・・・!」
「朱雀さんに、辛くあたった・・・!」
「解ってる・・・!嘘をついていたのは僕の方だ・・・全ては僕の所為だ・・・!」
「朱雀さん・・・!」

なのはは朱雀の言葉を聞きながらも自分の気持ちを抑えきれず泣き続ける・・・
朱雀はそんな彼女の後頭部に右手を当て、彼女の魔力を少しずつ奪っていった
彼女の頭部の魔力を奪い脳内の活動を弱め気を失わせようと、そう考えていた。だが・・・
(・・・何だ・・・?)
朱雀の魔力となのはの魔力が同調し、朱雀の頭になのはの記憶が浮かび上がる・・・
朱雀の魔力がなのはの魔力の記憶を読み取り、朱雀の頭にそれを投影しているのだ
(・・・なのはちゃん・・・)
朱雀の頭の中が真っ白になり、そこからなのはの記憶・・・思い出が彼の目の前に飛び込む
彼女の成長の記録、家族や友達とのふれあい、突然の”魔法”との出会い、
フェイトとの邂逅と親交、フェイトの”母親”が起こした事件の顛末、そして・・・
(そんな・・・僕が彼女を・・・こんなに苦しめていたなんて・・・!)
今回の事件で受けたなのはの余りに大きすぎる慟哭を、朱雀は一心に受け止めていた
そして一方・・・

(えっ・・・何、これ・・・?)
なのはもまた、同調した朱雀の魔力から彼の記憶を読み取っていた
なのはの頭の中に、朱雀の記憶が浮かび上がる・・・
彼とはやての闘病生活、シグナム達との突然の出会い、彼女達との楽しい時間、
はやての容態の急変、ランスロットとの出会いと彼女との不幸な再会
彼の二重生活と士郎や恭也、そして彼女に嘘をついた罪悪感、そして・・・
(そんな・・・はやてちゃんが・・・そんな・・・!)
ルルーシュより語られた闇の書の本性、そして彼とはやての過酷な運命・・・
その事態の深刻さになのはは絶望し、そして・・・

「済まない・・・!本当に済まない・・・!!」
「ごめんなさい・・・!私、朱雀さんの気持ちも知らないで・・・!」

二人は、溢れる涙を抑えきれず互いを強く抱きしめながら啼いて謝っていた・・・

「私・・・朱雀さんや・・・はやてちゃん、シグナムさん達の事を・・・助けたい・・・!」
なのはは朱雀にそう嘆願する
「いいんだ・・・!君はもうこんな事をする必要は無いんだ・・・!」
朱雀は彼女にこれ以上迷惑を掛けまいと、それを拒否する
「でも・・・このままじゃ朱雀さんやはやてちゃんが・・・!」
「・・・大丈夫。僕が必ずはやてやシグナムさん達を助ける・・・!闇の書の事も
僕が必ず何とかする・・・!だからっ・・・!!」
「嫌っ!!私もっ・・・!!」
「・・・だめだっ!!!」

朱雀は後頭部にあてていた右腕を彼女の胸元に当て、意識を集中する・・・
そしてまばゆい光とともに彼女のリンカーコアを、ゆっくりと取り出していった

「・・・朱雀・・・さん」
「君はもう・・・こんな戦いに参加すべきじゃ無いんだ・・・!君には・・・師範や恭也さん
桃子さんに美由希さん・・・家族がいるんだ・・・!皆を苦しめる様な事は・・・してはいけない!
君は・・・まだ・・・引き返せる・・・!僕の様に・・・なったら・・・もう・・・戻れなくなる・・・!だから・・・!」
「朱雀・・・さ・・・・・・ダ・・・・・・メ・・・・・・・・・・・・」
「本当に済まない・・・!もし、出来たら・・・師範や・・・恭也さんにも・・・済まないと・・・言って・・・!」
その直後、なのはの身体からリンカーコアが引き抜かれ、やがてそれは朱雀の右腕に
収められていった・・・

「うっ・・・ぐっ・・・あっ、ああああああああああああああああああああっ!!!」
朱雀の左腕の上で眠るなのはの顔に落ちる涙・・・
朱雀は自らの犯した罪に対し只泣き尽す事しか出来なかった・・・

「よくも・・・よくもなのはを・・・!貴方は・・・貴方だけはっ・・・!!」
朱雀の嗚咽の後ろでフェイトがおぼつかない足取りで涙を流しながら朱雀を睨みつける
それを聞いた朱雀は自らの涙を隠さずに彼女の方に振り向く
「・・・彼女は・・・無事だ・・・」
「・・・えっ・・・?」
朱雀の言葉に驚くフェイト
朱雀はそんな彼女の前になのはを担ぎ上げ、そっと降ろす
「・・・彼女は君にとって心の支えであり、大事な人だ・・・その彼女の命を奪うなんて事・・・
僕には出来ない・・・」
フェイトは朱雀に自分の心が鷲掴みにされた様な気分になり、呆然としていた・・・
「君に・・・頼みがある・・・もう、彼女を・・・こんな事に、巻き込まないで欲しい・・・
彼女には・・・家族がいる・・・どうか、普通の生活に・・・彼女を・・・!」

「・・・そこまでだ。これ以上は待てん、行くぞ。」
ジェレミアが朱雀の肩を叩きそう言い放つ
朱雀は涙を拭き、頷く
「・・・解りました・・・」
朱雀はなのはとフェイトに悲しそうな表情を向けた後、ジェレミアと共に
彼女達の許から走り去っていくのだった・・・

(他者の魔力との融合、情報の共有・・・”ユニゾン”も出来る様になったか・・・
”デヴァイサー”の力、使いこなせる様になったか・・・?)
朱雀の横でジェレミアはそう考えていた・・・

そして一方・・・
カレンやクロノ達は負傷した局員たちを引き連れ救護室に向かっていたが、
朱雀の言葉にショックを受け呆けていたフェイト、そしてリンカーコアを抜かれ
倒れていたなのはを見かけ、慌てて彼女達を介抱する

「フェイト!フェイトっ!!一体、どうしたのさっ!?」
「フェイト!しっかりしろっ!!何があったんだ!?」
アルフとクロノが呆けていたフェイトの気を覚ます
「アルフ・・・クロノ・・・私・・・私・・・!」
二人の前で泣きながら詫びるフェイト
アースラの通信機能が回復したのは、この直ぐ後の事だった・・・

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年08月14日 09:32