業火と煙にまみれるアースラのとある一角・・・
そこに一人の男が佇んでいた・・・
「さて、”野暮用”も片付いたし、目くらましもこの位で十分だろう。
では、本命を果たしに行くか・・・」
その男の右手には、朱雀のデバイス、ランスロットが握られていた・・・
同じ頃、カレンやクロノ、エイミィはなのはの証言を元に八神朱雀のデータの
再検証を行っていたのだが、やはり彼のデータが見当たらず、困惑していた
「ダメ。やっぱり該当データが無い・・・どうして?地球の人達の全て個人情報は
国連のデータベースから逐一更新しているのに・・・」
「アヴァロンのデータはミッドチルダの本局から受け取った古いデータなんだけど
このデータにすら彼の情報が無いなんて・・・」
「フェイト、君は以前から彼の事を知っていたんだろう?何故僕達にそれを
報告しなかったんだ?」
「そっ、それは・・・」
朱雀の素性についてクロノがフェイトを糾弾しようとした、その時・・・
突如として発生した轟音と振動でその場に居た者達全てが床に倒れこむ
「何だ!?今のは!?ブリッジ、応答しろ!!」
リンディ同様、クロノ達もブリッジと連絡を取ろうとするがやはり一切の応答が無かった・・・
「・・・何かトラブルでもあったのか・・・?僕はブリッジに行きます!
皆はここで待機していてください!」
「待ってクロノ君!私も行くわ!」
「私も!!」
「アタイも行くよ!」
カレンとエイミィ、そしてアルフがクロノとの同行の意を示し、彼もこれを承諾する
「・・・分かりました。フェイト、君はなのはの傍にいてくれ。状況を確認したら
僕達も直ぐに戻る。いいね?」
「・・・はい・・・」
こうしてクロノ達はなのはとフェイトを救護室に残し、ブリッジへと向かう。
だが、その途中で彼等が見たアースラの惨状に一同は呆然とする・・・
「・・・こっ、こんな事って・・・」
アースラの廊下に充満する爆炎と噴煙・・・それらが彼等の行く手を遮り、廊下の端々では
多くの局員達が彼等に助けを求めていた
「・・・ともかく今はこの火災を何とかしなくては・・・いくわよ、クロノ君、アルフさん!!」
「ええ、分かってます!!」
「あいよっ!!」
カレンとクロノはそれぞれのデバイスを展開し、絶妙な連携で火災を鎮火させていった
カレンの発生させる風の魔法で火の勢いを弱め、クロノの氷魔法で火元を一気に断つ・・・
アルフは結界魔法を張り、負傷した局員達を身を挺して護り、
エイミィもまた、局員達を安全な場所まで誘導し、クロノ達の消火作業に一役買っていた
「クロノ君!!皆を救護室に!!」
「・・・駄目だっ!!せめて付近の鎮火が済むまで待ってくれ!!」
エイミィの提案をクロノが一蹴する
「なんでさっ!?」
「この火の回り様・・・、明らかに人為的な物だ。もしかすると奴の、八神朱雀の仲間が
アースラ内部で破壊活動を行っているのかも知れない・・・」
そして一方・・・
八神朱雀の捕らえられている第二留置室・・・
そこに一人の男が突如ドアを突き破り中に入り込んでいた・・・
「・・・無様だな、八神朱雀・・・」
男はそう言いながら右の手の平に魔法陣を発生させ、朱雀のバインドを全て解除した
「・・・貴方は、確か・・・ジェレミア・・・さん・・・?」
長時間バインドで繋がれていたので手足の感覚が戻らず、おぼつかない足取りで
起き上がりながらも朱雀は自分の目の前にいる人物にそう尋ねた
「・・・ほう、覚えていたとはな・・・まぁいい、話は後だ。行くぞ」
「・・・どこへ、ですか・・・?」
「決まっているだろう。貴様の妹や供の者の所にだ。このままここに留まっていても・・・」
「・・・妹や皆の所の戻って、今更僕に何をしろと・・・?」
朱雀は死んだ魚の様な目つきでジェレミアを見つめ、そう尋ねた
そんな彼の表情を見たジェレミアは溜息をつきながら彼に悪態をつく・・・
「ほう、そうか。ならば貴様は自身の妹の死に目にも立ち会わず、管理局の奴等の言いなりに
なって只その日を生きるだけの屍の様な人生を送ると、そういう事か」
朱雀はハッとし、目を大きく見開いた
「貴様は妹や供の者が誰かに殺されてもそれを観て見ぬ振りをすると・・・?
大した物だな・・・その様な人でなしだったとはな・・・それでは貴様の妹は・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」
朱雀は怒りを露わにし、ジェレミアの胸座を掴みあげた
「・・・貴方は知っていたんでしょう!?闇の書の本性をっ!!なら今更僕達がどう足掻いたって
妹が助かる手立ては・・・!!」
「・・・それで、そう言って貴様は諦めるのか・・・?」
「えっ・・・?」
ジェレミアの意外な発言に朱雀は驚き、思わず手を離してしまう
「・・・私は以前言った筈だぞ。”運命を覆す”、と・・・。貴様の妹に降りかかっている厄災も
もしかすると、振り払う事が出来るやも知れない・・・。その可能性を信じ、挑もうと・・・
貴様はそう考えようとはしないのか・・・?」
「・・・出来るんですか・・・そんな事が・・・?」
「・・・貴様の持つ”力”を上手く使えば、道は拓けると、私はそう考えている・・・
だからこそ私は貴様を助けに来たのだ・・・」
朱雀は沈黙し、考え込んでしまう・・・
そんな彼にジェレミアはランスロットを手渡す
「・・・留まるも進むも貴様の自由だ。だが、一度失った”モノ”は二度と戻らぬ・・・
それをよく考えた上で行動するのだな・・・で、どうする?私と共に行くか、それとも・・・?」
朱雀は自身の心の中で理想と”現実”の狭間で揺れ動いていたが、彼の心の中に
優しく他人想いなはやての表情が浮かび上がり、やがて只はやてに遭いたい、
遭って話がしたい、と、その想いが彼の心を占めていった
「・・・解りました・・・。それで、先ず僕は何をすればいいんですか?」
朱雀は覚悟を決め、ジェレミアに問いかける
「・・・ようやくその気になったか・・・先ずはこの艦の非常用転移ゲートに向かうぞ。
生憎私は個人単位での転移魔法しか使えんのでな・・・
デバイスを展開しろ。ゲートに向かう途中で戦闘になるかも知れん。」
「解りました。ランスロット、頼む。」
(Yes,My lord.Bariiier Jacket,set up)
ランスロットが騎士服型のバリアジャケットを展開し、朱雀の身体に纏わせた
「・・・よし、では行くぞ。私について来い。」
「・・・はい」
ジェレミアに促され、朱雀は留置室から脱出する。その直後、彼はバインドで繋がれた
武装局員達を目の当りにするのだった
「彼等は、僕が戦った特務師団の・・・」
「ああ、そうだ。目障りだったので今は大人しくしてもらっているがな・・・
行くぞ。そんな奴等に構っている暇は無い。」
二人がその場を離れようとした時、武装局員の一人が朱雀に警告する
「貴様等・・・!こんな事をして只で済むと思っているとでも・・・!!」
朱雀はその男に申し訳なさそうに深く一礼し、その場を立ち去るのだった・・・
その頃、ルルーシュとリンディはブリッジに到達していたが、未だ通信機能が戻らず
それの復旧作業に奮闘していた
「・・・つまり情報、通信系の全機能がやられているだけで、艦の管制機能は生きているのだな?」
アースラの管制員にルルーシュが問いただす
「・・・はい。他にも幾つか破壊された箇所はありますが、現在の艦の管制能力に
支障をきたす程ではありません。ただ、アースラ内部の全てのデータベースにウィルスが
仕掛けられた様で、それにより内部の状況を正確には把握出来ていません。」
「・・・そうか。ではアヴァロンと回線を繋いでくれ。私に考えがある。」
「了解!」
アースラの残存回線をアヴァロンに?げ、メインモニターにシャーリーの顔が映し出される
「ルル!どうしたの!?急にアースラの通信が途絶えちゃって・・・」
「・・・現在アースラ内部が何者かによる破壊工作を受けている・・・」
「ええっ!?それって・・・」
「話は後だっ!!アヴァロンのドルイド・システムをアースラの管制システムに繋げ
通信システムの補佐に回させろ!!最優先だ!!それと第一、第二部隊を転移ランチャーに待機、
アースラのブリッジに転移先を繋ぎ、準備が出来次第緊急発進させろ!!いいな!?」
「はっ、はいっ!!」
困惑するシャーリーに対しルルーシュは半ば強引に命令を下した
(・・・敵の目的が八神朱雀の奪還だというのは容易に想像出来るが、俺が今ここを離れれば
ブリッジを護る者が居なくなってしまう・・・!ちっ、手詰まりか・・・!
せめてカレンやクロノ、もしくは留置室に居る第三部隊と連絡が取れれば・・・)
ルルーシュの心の中に焦りの色が見え始めていた・・・
アースラ内部が大混乱に陥っている最中、救護室でクロノ達の帰りを待っていたなのはと
フェイトであったが、通信機能が未だ回復しない事に焦りを感じたフェイトが
自分もブリッジに行くと言い出すのだった
「・・・おかしい。未だに通信途絶だなんて・・・ごめん、なのは。皆が気になるから
私もブリッジに行ってみる。なのはは此処で待ってて。直ぐに戻るから」
「・・・うん、気を付けて・・・」
力無く返事をするなのはが少し気掛かりではあったが、フェイトは彼女を残し
救護室を飛び出そうとした、その時だった・・・
「・・・キャァッ!!」
「・・・えっ!?フェイトちゃん!?」
フェイトの突然の悲鳴に驚き、慌てて救護室を飛び出すなのは。
そこで見た光景に彼女は呆然とした・・・
「すっ・・・朱雀・・・さん・・・」
「・・・なのはちゃん・・・」
ジェレミアとぶつかり、尻餅をつくフェイトであったが、事態を察知し、なのはの前に
立ち塞がり彼女の盾になる
「なのは、下がって。彼等は私が相手をするから」
「でっ、でも・・・」
フェイトの発言に対しなのははただ狼狽するばかりだった。そして一方・・・
「チッ!ガキ共が・・・!ここは私がやる。貴様は先に・・・」
「・・・いえ、ここは自分がやります」
朱雀の甘さを知っていたジェレミアがなのは達を自ら始末しようと考えて朱雀に
そう言いかけようとしたが、逆に朱雀にそれを阻まれてしまった
「・・・討てるのか?貴様に・・・。下手な甘さは自らの首を絞めると・・・」
「・・・大丈夫です。任せて、下さい・・・」
朱雀はジェレミアに背を向けたまま彼の右腕をギュッと掴みそう嘆願した
「・・・よかろう、ただし手短に済ませろ。ここで時間を食う訳にはいかぬ、分かっているな?」
「・・・ええ・・・」
朱雀はジェレミアの右腕を離し、ゆっくりとなのは達の許へと歩み寄っていくのだった・・・
最終更新:2007年08月14日 09:31