カートリッジとして積み込んだロストロギア『ジュエルシード』の莫大なエネルギーによって限界を超えて加速し続ける偽ライドロン。
それを全身で止めようとするロボライダーの足を硬い顎で噛みながら、空気を入れ続けられる風船のように内側から光が溢れていく。
ロボライダーには何の表情も浮かぶ事はなく、血で出来た涙が一筋頬を伝う仮面は光に照らされて偽ライドロンに押し込まれ、路面を破壊しながら進む街並みを複眼に映していた。
だがロボット然とした体の内側は激情に猛り狂っていた。
最後には爆発すると言うスカリエッティの言葉をロボライダーは疑ってはいなかった。
嘘をつく理由はなく、何よりも今受け止めている偽ライドロンの限界が近づいている事が、硬い表皮越しに感じられる。
仲間であるライドロンと同じ形をした車を使い捨ての爆弾に仕立て上げたこと。
そんなものをこの街で爆破させようとしていること。
それにウーノが加担していること、
怒りか悲しみか、憎悪か様々な感情が入り乱れ彼の目の前で今にも破裂しそうに光る車と同じように、光太郎の体から溢れそうな程渦巻いていた。
そこへ徐々にフェイトが近づこうとしていた。
「ロボライダー! もう少し堪えてください!!」
複眼に写る景色に剣を振うフェイトの姿が強く映し出されていた。
ロボライダーが見慣れたバトルジャケットではない。
より軽装になり手足を晒した真ソニックと名付けた姿だった。
ロボライダーが押さえ込んでいるとはいえ加速を続ける偽ライドロンに追いつくには、普段のフォームでは無理か時間がかかりすぎると判断したのだろう。
瞬きするほどの間に対向車を吹き飛ばして進む偽ライドロンへと、フェイトは追いつこうとしていた。
迫るフェイトの周囲に金色の光が流れ、雷の槍が生み出されたかと思うと偽ライドロンの4つのタイヤへと降り注ぐ。
恐らくは全ての車輪を破壊し動きを止めようという意図を持って、撃ち出された魔法。
だがそれは、車を包む光に触れた瞬間に消滅した。
ロボライダーとフェイトの間に動揺が走る。
AMF、とフェイトの唇が動いた。
フェイトが携えた剣型のバルディッシュは『ジャマーフィールド』と言う。
魔力結合・魔力効果発生を無効にするフィールド系の上位魔法でフィールド内では攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害することが出来る。
スカリエッティの作り出した兵器、ガジェットドローンが標準で装備している魔法は…当然偽ライドロンにも組み込まれていた。
ジュエルシードの莫大なエネルギーを使って形成されたAMFがどれ程の濃度を持っているかは不明だったが、フェイトはそんなことを考える必要のない手段へと攻撃を切り替えていた。
天候操作と遠隔攻撃魔法。二つを同時に行い自然現象として発生させた雷が車に降り注ぐ。
だがそれも車をショートさせるには至らず、周囲を停電させるだけに終わる。
一瞬動揺を見せたロボライダーの体が、T字路の交差点に差し掛かりそこで店を構えていたパブをぶち抜いた。
パブを貫いて再び道路に出たロボライダーの横にフェイトが降りてくる。
次の手を打つ為に相談をしようとしたのだろうが、ある程度の距離まで近づいた瞬間その体は魔法の制御を離れてバランスを崩した。
「えっ?」
驚くフェイトの姿を複眼はしっかりと視界の中に入れている。
AMFの威力によってフェイトの体を、ロボライダーは車を抑えていた片手を離して掴んだ。
引き寄せられたフェイトの肌に硬い外皮の冷たさが伝わり、フェイトは少し赤くなった。
「すみませんロボライダー! まさかココまで強力とは…」
「フェイト! コレはジュエルシードを積んでいてもうすぐ爆発する…何か手を知らないか!?」
フェイトが息を呑んだ。
過去に深く関わったジュエルシードが今どうなっているか知っているフェイトにとってはありえないことだった。
現在ジュエルシードは全て管理局遺失物管理部で保管しているはずなのだ。
だが、ロボライダーが嘘を言っているとも思えなかった。
どうして車に組み込まれているのか考えるのを後回しにし、フェイトはロボライダーに言う。
「ジュエルシードを露出させることさえ出来れば…」
今こうしている間も強力なAMFの影響から脱しようとしているせいで不安は残るが、フェイトは決意を込めて言う。
「私が責任を持って封印します!」
「分かった。俺に任せろ!」
そう言うと、ロボライダーはフェイトの体を空中に投げ捨てた。
車は走り去り、AMFの効果範囲から抜け出たフェイトは再び高速で空を飛び、彼等を追いかけていった。
押えていた手を一つに減らしたロボライダーの腕が、振り上げられ拳が強く握り締められる。
その背後には、時空管理局のミッドチルダ地上本部が見えていた。
震える程握り締められた拳が偽ライドロンに振り下ろされる。
魔法など一切関係ない豪腕が車体を貫き、力任せに装甲が剥がされていく。
車内に溢れていたエネルギーが漏れ出して周囲を破壊していくが、ロボライダーはそれにも全く傷を負うことはなかった。
衝突で受けるダメージも降り注ぐ日の光を吸収し、深いダメージには至っていない。
ロボライダー、光太郎は…偽ライドロンの何処にジュエルシードが埋め込まれているのかよく分かっていた。
光太郎が設計図を受け取り、完成させた車のほぼ正確なコピーなのだから。
…スカリエッティが言っていた再現できなかった部分を開くと光り輝く宝石が嵌められた見慣れない機械が積まれていた。
そこにフェイトが幼い頃に使った魔法を放つ。
AMFを貫く為に一工夫施された魔法がジュエルシードに衝突し、光を失う。
それを見て、ロボライダーは嫌な予感がした。
ゴルゴムやクライシスと戦っていた時の馴染んだ感覚…改造人間の超感覚が僅かな観察から回答を生み出し、光太郎に嫌な予感という形となるそれ。
ジュエルシードの傍に接続されている小さな機械が、音もなく動き出していた。
「スカリエッティの仕業かッ…!!」
ロボライダーがそう叫んだ瞬間、ジュエルシードは内包する全エネルギーを無差別解放する。
光太郎がライドロンの構造から偽ライドロンに埋め込まれたジュエルシードの位置を割り出したように。
スカリエッティは彼等がジュエルシードを見つけた場合どうするのか、数通りの対策を用意していたのだ。
埋め込まれた装置が動作し、小規模の次元震が発生しようとする。
ロボライダーは生き残るだろう。
だが、街や今封印を施したフェイトは無事ではすまない。
直感的にそうロボライダーが悟った時…
その時………不思議な事が起こった。
*
翌日、薄暗いトレーニングルームでレジアスはデッドリフトをしながら友人を待っていた。
彼が購読している新聞に広告として載せたのだが、果たして気付いてもらえたかどうか…既に日は落ちて職員も殆ど残っていない。
目に入るのは器具以外では新聞一つだけ。大きく掲載されているのは暴走する車を止めようとするライダーと執務官の写真だった。
その隅に小さく二人の女仮面ライダーが戦ったという記事と、更に小さく一部が破壊された施設の前で膝を突く狸娘の写真が小さく掲載されている。
「ザマァwww…ゴホンッ、いい様だが……由々しき事態だな」
ちなみに見た目以上に過酷なこのトレーニングは腰を破壊しかねず素人が一人でやることはお勧めしない。
レジアスも若き頃には友と競い合うように回数だけに拘っていたが、老いた今完璧なフォームを身に着けた彼の動きはネットで公開され後輩達の手本とされている。
数ある中で(筋肉が)美しきゼストと(筋肉が)燻し銀のレジアスの動画は目的を同じとする動画においては最も視聴されているらしい。
予定していた回数を行ったレジアスの元に、黒い怪人が姿を見せる。
レジアスがトレーニングを終えるのを待っていたようなタイミングだった。
「呼び出してスマンな」
「構わん。だが、余り時間を取る事は出来ない」
「BLACK。お前の考えていることは分かる。スカリエッティを探しに行こうというのだろう?」
「ああ…お前にもバレていたのか?」
「当然だ。お前がミナミコウタロウだということ位知っておる。アパートの大家には保障も考えよう」
ミナミコウタロウの同居人であったウーノとセッテが行方知れずとなり、その直前にBLACKの相棒である女ライダーと彼女と良く似た女ライダーが戦っている姿が目撃されている。
その際に、ミナミコウタロウの住んでいたアパートは破壊されていた。
暴走車の一件も、車が消滅した後仮面ライダーがすぐに立ち去らず、少しの間とはいえその場に留まっていたらしいという情報から考えると、なんらかの因縁があるのだろうとレジアスは考えていた。
RXはすぐに言葉を返さなかったが、レジアスにはRXがこの街を離れて犯人を捜しに行こうとしているのが分かった。
彼が現れて犯罪者をレジアスに引き渡すようになってから何年か経っている。
会っている時間は短かったが、RXが今どう動きたいかを察するには十分な時間だった。
「敢えて言おう。仮面ライダー、お前はココに残れ」
「それは出来ない。奴の狙いは俺だ。また今回のようなことが起これば、次こそ誰かが命を落とす」
RXの返事に迷いはなかった。
声だけでなく、胸を張って立つ姿は強い意志によって、普段の二周りも三周りも大きく見えた。
そんなRXは無敵の、それこそ教会でうたわれる古代ベルカの王が現世に姿を見せたようにさえ感じられた。
それゆえにレジアスは不安を覚えた。誰よりも信頼していた友がレジアスの忠告を無視してスカリエッティの基地に突入して死亡してしまった。
友がスカリエッティの基地に突入する直前、上から命令されたレジアスは友に止めるよう命令し、別の命令を下した。
管理局の暗部と犯罪者が既に彼等の行動を察知していることなど分かったはずだ。
だが友は相手を侮っていた。
たかが次の命令を待たずに突入するだけでどうにかなる程度の相手だと考えてか、突入を決行し死んでしまったのだ。
その経験がレジアスに不要な心配をさせていた。
「BLACK。ワシがスカリエッティのスポンサーの一人だ」
「なん…だって」
波が引くように、周囲から音が消えた。
虫の音だけではない。施設の全ての機械が動きを止めていた。
どんな理屈かレジアスに理解する事は出来なかったが、目の前で爛々と光る赤い目。額で光るセンサーらしきものの不吉な輝きが危険すぎることはわかった。
知らぬ間に震えだした体を叱咤し、口を動かす事が出来たのは過去の出来事で出来た古傷のお陰だった。
今なら監視もないだろうと、レジアスは声高に叫んだ。
「戦力が、どれだけ不足しているかは知っておるだろう!! 暗部と手を組んででも、戦力を整えていくことが俺が地上の為に出来る事だった!!」
RXが肩を微かに動かしただけで、レジアスの体は震えたが口はよく動くようになった。
「戦闘機人が人道に反していようと、俺にはミッドチルダの平和を守り、陸士も家族の下に返す義務を果たすには他の手はない!!」
「馬鹿なことを言うなッ、他の手はないというのか!?」
「あるものかッ!! 本局さえ戦力が足りんッ…陸に最低限必要な戦力を確保しようとするだけで反対されるほど足りん!!」
叫ぶレジアスに、少し冷静さを取り戻したのかRXからの圧力が減り、レジアスはようやく自分の呼吸が荒くなっている事に気付いた。
「お前は形だけ六課に所属しろ。それで今は黙らせる。スカリエッティがお前を狙っていることは知っている…奴が動く瞬間を狙え」
「六課に…?」
疑問の声を発するRXに、レジアスは頷いた。
RXが暴走車を消した一件以来、教会が突然RXに対し警戒する姿勢を見せ始めていた。
これまでマスクド・ライダーに対する教会の態度は好意的だった。
レアスキルを有難がり、よく当たる占い程度の精度しかない予言を信じて曰くつきの連中を集め、新部隊を設立する為に暗躍する連中がどういった考えで態度を変えたのかはレジアスにもまだ分かっていなかった。
今スカリエッティへ遮二無二突撃させたくないが、レジアスは教会の思惑に乗るのも気に入らないと考えていた。
レジアスのレアスキル嫌いを彼等は見下し、レジアスは個人の技能任せやよく当たる占いの結果などに莫大な予算を注ぎ込み、規則の裏をかいて人材を集中する彼等を憎む。
広大な空を守り抜くには人材が不足している為最も効果のある手段を選び、それが結果としてレアスキルを信用する傾向となって現れる教会と管理局本局。
レアスキルなど持たない者しか陸に残らない為、対症療法的な計画ばかりで対処するやり方に納得することは出来ない地上本部の溝は深かった。
数年前から『地上本部が倒れるのを先駆けに管理局が崩れ落ちる』という予言を防ぐ為教会は本局に働きかけ、もう直ぐ予言を阻止する為に六課という部隊を新たに設立、運用することを決定している。
その部隊には、RXと行動を共にしていたという連中が所属する予定になっていた。
レジアスとしてはそこにRXを入れ、悪く言えば教会の重鎮に伝手のある彼等の情に付け込んで教会と本局の動きを止めると同時にRXにこれまで通りの働きをしてもらいたいのだった。
逆にレジアスも六課を叩く事が出来なくなるが…
「…この街にいる犯罪者の相手を陸士達が出来るようにはなっていないのか」
「…その通りだ。お前には、感謝している…だが、俺達のヒーローになった責任は果たしてもらうぞ!!」
RXがポツリと零した言葉にレジアスは深く頷いた。
マスクド・ライダーに対抗するように、ミッドチルダの犯罪者達は強力になった。
それでも治安が良くなっているのは、ライダーという強力な助っ人がいるからだ。
RX目当てに集まった犯罪者達が、RXがいなくなると同時にいなくなるかと言えばそんな事は無いだろう。
それに対応できる程の人材は、今の地上本部には存在していない。
ライダー二人の戦力が少なく見積もってもSランク魔導師と同等という地上には有り得ない戦力を本局から引っ張ってくるのは容易ではないし、その間に出る被害は地上本部が負担するには重すぎる。
「上層部はライダーを捕らえるよう命じ、現場はそれに従わずお前に協力する…この構図を餌に陸の人員を増やしておる。
お前の協力で浮いた資金で装備を整え、対策を練らせる。市民達も、現場の人間には協力的だ。だが、まだ足りん…後10年、最低でも5年は必要だ」
RXはレジアスの心情をある程度理解しているのか、ゆっくりと頷いた。
「……わかった。俺に事件の情報が入るように手を回しておいてくれ。伝手がなくなってしまったからな」
「任せておけ…所詮、俺に出来るのはそこまでだ」
二人は頷きあい、レジアスは満足した様子でRXの消えた辺りを暫く眺めた後、シャワーを浴びて帰っていった。
「…長官、お疲れ様でした」
「君か。分かっているだろうが、今ココで見たものは他言無用だ」
「分かっております…その代わり、今度食事でも如何でしょうか?」
「……その話は断ったはずだ。君の気持ちは嬉しいが、年齢もある」
「細かい事はいいじゃありませんか。オーリスも説得して見せますわ」
外で待機していた秘書と只ならぬ様子で去っていくレジアスを見送って、RXも月明かりに生まれる影に溶け込むようにして消える。
脳裏に浮かぶのは戦闘跡の残るアパートでも、偽ライドロンによって破壊された六課宿舎の前で膝をつくはやての姿でもなかった。
ジュエルシードのエネルギーによって小規模の次元震が発生する一瞬の時間。不思議な事が起きた。
あの瞬間、光太郎は咄嗟にキングストーンエネルギーをベルトから照射するキングストーンフラッシュを行った。
レリックの際は暴走を止める手にはなりえないと思ったが、フェイトによって封印されていたことがうまく働いているのか、効力があるように感じたからだ。
光太郎の直感通り、幻術を破ったり洗脳を解くなど様々な効果を持つそれによってジュエルシードの活動は停止した……だがそれと同時に道路や偽ライドロンの一部が消失していることも光太郎は見逃さなかった。
キングストーンが二つに増えたせいで強化されたというような印象ではなかった。
別の力が、RXの体から生み出され制御仕切れずに放たれてしまっていた。
アレはもっと、より純粋に破壊する力だった。
乱れきった感情に呼応したキングストーンの不思議な力が、新たに創世王としての能力を目覚めさせたのかもしれない。
今ならば、その力だけを放つ事も出来るという奇妙な確信が、光太郎にはあった。
もし放つなら、ベルトからよりも頭部の、額にあるセンサーから放つ方が良いということも分かる。
そうすれば、ジュエルシードだけを消し去る事も可能だろう。
つまり今後再びジュエルシードやレリックによる大規模破壊を仕掛けられても防ぐことが出来るようになったのだ。
それでもレジアスに説得されるまでミッドチルダを出る気でいたのは、今回ウーノとセッテが去ってしまったことが大きく関係していた。
争った形跡があったので、連れ去られたのか付いていったのかはわからない。
ただ二人が去った事がゴルゴムとクライシス帝国。二度の戦いで大きな犠牲を払ったことを強く思い出させたのだった。
同居していた二人が消えたこと、偽物とはいえ仲間であるライドロンと同じ姿をした物をこの手で破壊したことが光太郎の心を強く揺さぶり、悪い方向へと傾けていた。
光太郎の心は、新たな能力を身に着けたことを喜ぶよりも、助けられなかった命に対する後悔で沈み込もうとしていた。
最初のレリックの事件を思い出し、
あの時に今ほど直感が働いていれば…
もっと強い感情の動きがあり、この力を身に着けていれば…
空港での被害はもっと小さなものに抑えられていたはずだと考えてしまっていた。
その一方で理性では詮無い事だとはわかっている。
弱気になっているだけでなく、故郷の先輩達に比べて自分は余りにも奇跡頼りになってしまっている…そう考えていた。
ジュエルシードがエネルギーを開放した瞬間に、この力を使いこなす事が出来なかったのも自分の未熟さ故のことだ。
そうした気持ちを零す相手は今傍にはいない。
クロノ達は能力について話し、策を練り、敵を追い詰める同志ではあるかもしれないが、先輩ライダーのように悩みを打ち明けるような相手ではない。
フェイトらとは、特にフェイトとは図らずも付き合うことにはなっていたが、年齢から無意識の内に光太郎の中には保護者を気取る気持ちが生まれ、足かせとなって弱音を吐く事を躊躇わせていた。
あるいははやてとの主従関係さえなければ、シグナムには悩みを零してしまっていたかもしれないが。
数年ぶりに一人、戻る家もなく過ごす夜は光太郎の悩みを深くさせ、光太郎の心を鋭く尖らせようとしていた。
BLACKとして戦った時に持っていた強さとは違う。
RXとなりクライシスと戦っていた時の強さとも違う…先輩ライダー達のような強さが、光太郎の手には今はまだなかった。
一方、その現象を準備万端で観測していたスカリエッティは、今にも不思議な踊りでも踊りだしそうな勢いで喜んでいた。
壁に設置された巨大なモニターでは、ロボライダーが偽ライドロンを消し去る瞬間が何度も繰り返し映され、その隣に得られた値が表示されている。
「ドクター、何か分かったのですか?」
スカリエッティの要請により、再び彼の秘書に戻ったウーノが怪しい動きをしているスカリエッティに尋ねた。
「君達の使っている力とも魔力とも違うということはわかったよ。THEとでも名付けよう」
「?」
「超破壊エネルギー。略してT・H・E」
得意げに言うスカリエッティにウーノはうんざりしたような顔で言う。
「相変わらずセンスがありませんわね」
戻ってきたばかりの娘の言葉を、スカリエッティは聞こえないふりをしてやり過ごす。
「セッテの再改造の準備はどうだね?」
何も言わずにロボライダーの映像は消えて、姉と共に帰還したセッテの姿が映し出された。
一瞥したスカリエッティは満足げに頷く。
「ドクター」
「なんだね?」
「どうして教会が光…ライダーを危険視し始めたのでしょうか?」
「古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。
死者が踊り、なかつ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る方の船も砕け落ちる…」
突然管理局から横流しされている情報の一つである予言を口にしたスカリエッティにウーノは首を傾げた。
予言の内容についてはウーノも目を通していた。
「ライダーが予言成就に関係があると考えているのさ。彼等ならそう考えるのも仕方ないだがね」
「マスクド・ライダーはヒーロー扱いを受けていると思っていましたわ。何を根拠にそう考えたのですか?」
何の証拠もなしに光太郎を警戒する者達を嘲笑するウーノを、スカリエッティは笑みを浮かべたまま生暖かい目で見つめていた。
素性の知れない飛蝗怪人を警戒するのは当然のことで、むしろ今これほど一般に受け入れられていることこそ不思議だとスカリエッティは思っていた。
どうしてウーノが贔屓目で見ているのか想像したスカリエッティが生暖かい目をしたのは仕方がないことだった。
「教会に伝わる逸話に、彼等の奉じる聖王陛下が異世界の魔王に負かされるという話があるのさ」
「逸話…?」
「そう。旧暦462年の大規模次元震後に突然出来たおとぎ話の中に、侵略しようとした魔王を命と引き換えに退けるという話があってね。その魔王は、緋色のマントを羽織った飛蝗の姿で描かれ、稲妻を持って敵を打ち滅ぼす」
旧暦462年は大規模次元震により古代ベルカを含む複数の世界が崩壊した。
一説では聖王の乗る戦船が原因だったとされているが…スカリエッティが語った今の話はウーノも初耳だった。
「他には全ての世界を我が物としようとした聖王陛下が、クク。飛蝗の群れに食われてしまうという話もあったかな?
全てを喰らい尽くす蝗の群れが、『聖王の欲望』を表していて、欲望のままに振舞う者は自らの欲望によって滅びるのだとということを意味しているらしいがね。原型を調べていくと、聖王を喰らったのは飛蝗なのさ」
そう言って、画面上にその逸話が描かれた文献を表示させて大声で笑い始めるスカリエッティ。
文献を背景に笑う創造主を視界に納めながら、ウーノはたかがそんな話だけで光太郎と古代ベルカの間に奇妙な因縁を感じた自分に苛立ちを覚えた。
「馬鹿馬鹿しい…ヴィヴィオ・ハラオウンやシグナムと知り合ったのは偶然よ」
小さな声で呟かれた内容を高笑いしながらもスカリエッティは聞き逃さなかった。
笑うのを止めて、素の表情に戻ったスカリエッティが言う。
「勿論彼等が信じるようになったのはドゥーエのお陰だがね」
最終更新:2009年08月15日 09:37