レジアスの提案を受け入れ、新設された時空管理局本局古代遺物管理部機動六課に配属されることになった光太郎は、話が決まった数日後には機動六課の宿舎に引越しを終えていた。
光太郎の住んでいたアパートは、完全に破壊されておりとても人が住めるような状態ではなかったので、引越しを余儀なくされたのだった。

最初は、はやてが同じミッドチルダに居を構える八神家が機動六課が本格的に活動を開始する翌年四月まで自分たちの家に住まわせることをニヤリと言う擬音が付きそうな邪悪な笑みを浮かべながら提案したが、
それを聞いたフェイトが慌てて止めに入り、まだ破壊された箇所の修復も終わっていない宿舎へ入居する…そういうことになった。

わざわざ休みを取って引越しを手伝ってくれるフェイトに礼を言いながら、光太郎は思いのほか自分の荷物が使用可能な状態で残っていた事に疑問を感じていた。

フルオーダーで作られたスーツ、彼女からプレゼントされた懐炉やセッテに誕生日にプレゼントされたバイクの手入れ道具まで残っている……光太郎は一つ一つ確認するのを止めて、無事な物を集めて適当に並べてくれるよう頼んだ。
だがそれらが残っていたのが嬉しいような切ないような気持ちにさせられる反面、外に停めてあったベスパまでが無事となると、光太郎だけでなく引越しを手伝うフェイトも首を傾げざるを得ない。

偶然にしては出来すぎている。
だがこれらを残しておいて、スカリエッティにどんなメリットがあるのか皆目見当が付かなかった。

「フェイトちゃん。残りは後でやっておくよ」
「くすっ、遠慮しないでください。あ、抱き枕はここでいいですか?」
「抱き枕?」

光太郎が振り向くと、フェイトがベッドの傍でコスプレをした彼女らの姿がプリントされた長い棒を両手に抱えて立っていた。

「はやてからのプレゼントです」
「……ありがたく受け取っておくよ。普通に枕として使えばいいのか?」

迷った末、好意を無碍にすることも出来ず光太郎は受け取る事にした。

「いえ、こうです」

尋ねる光太郎にフェイトはベッドの上にごろんっと横になり、両手と両足で枕を挟み込んだ。
金色の川がセットしたばかりのシーツの上に流れ、枕に頭を載せたフェイトの無邪気な目が光太郎を見上げていた。
無防備な少女を可愛らしく思う反面、少しはしたないとも感じる自分に年齢を感じた光太郎だった。

(抱き枕は使わないでおこう)

寝転がるフェイトを見ながら光太郎は心に決めた。

(また事件のことでも考えてるのかな? 私に相談してくれたらいいのに)

余りに深刻な顔をする光太郎にその考えはフェイトにばれる事はなかった。

一方、レジアスには六課に入れと言われたが、それはRXとしての活動に変化を及ぼさなかった。

レジアスが声をあげるまでもなく、RXの今後について懸念する声が以前陸に配属されていたことのあるはやて達の元へ届き、
配属は機動六課だが活動は今までと同じくミッドチルダを守ることになったのだった。
人づてに光太郎が聞いた話に拠れば、はやてが「師匠」と呼ぶ研修先の部隊長ゲンヤ・ナカジマからも「市民のヒーローを独り占めったあ穏やかじゃねぇな…」に始まる苦言が届いて涙目になったらしい。
どこまで本当かは当人しかしらないが、所属していることも表向きは秘密となるらしく機動六課には本当に一応いるという程度になるようだった。

そうした事情から、部隊長であるはやてには宿舎の破壊で凹んだ件に続き、事件が発生すると全力で現場に行ってしまう上おおっぴらに所属している事も明かせないRXにどの仕事を振るかという難題が課せられることになった。

話を聞いた直後の、はやての当初の考えでは、部隊に組み込むことを考えていた。

部隊には幾つかのポジションがある。
単身で敵陣に切り込んだり、最前線で防衛ラインを守るフロントアタッカー。
どの位置からでも攻撃やサポートをするガードウイング。
仲間の支援をするフルバック。
チームの中央で誰よりも早く中・長距離戦を制する役目を負うセンターガード。

RXはこの内フロントアタッカーかガードウイングに置き、チャチな魔法を受け付けないRXを盾にセンターガードに入れたなのはの桃色破壊光線で鎮圧ということを考えていたのだが…
任務中にいなくなる事はなくとも、目の前のことに向ける集中力が違ってくるかもしれない。

RXを信用しないわけではない。
ミッドチルダに居を構えているのでニュースを通して戦果は聞いていたし、RXの能力が分からなければ困るのでスキルを書いた履歴書を書かせ、
それに目を通したはやてはRXの能力を最もよく知り、信頼する一人になっている。

だが以前、同じように信頼していたなのはは重傷を負い、友人であるクロノの父親は任務中命を落とした。

ロストロギアを扱う任務はいつ何が起こるかはわからないのだ。
はやては暫く迷った末、本人の希望通りにして結論を先延ばしにする事にした。

光太郎は自らを鍛え直すことを希望しており、機動六課も最初は新人の教導を行う予定となっている。
RXと隊長陣の連携を強化したりということは出来そうにないが、いきなりRXと組ませても彼等ならそれ程作戦行動に支障はないだろう。

はやてがそれを決めたのは夜遅く、六課の正式な活動開始までもう一週間を切り、リミット間近になってからだった。
他の仕事で手一杯で先延ばしになっていたRXの当面の処遇を決めたはやては、自室で休んでいるはずの彼女の家族シグナムを自室に呼び出した。

もう休んでいてもおかしくない時間だったが、シグナムはすぐに駆けつけた。机を挟み、直立するシグナムにはやては笑顔で告げる。

「遅うにごめんな、シグナム。RXはアンタのところに入れることにしたわ。特訓希望らしいから新人4人の横ででも特訓に付き合ったげてな」
「はっ…しかし、主はやて」
「なんや?」

てっきり喜ぶと思っていたはやては首を傾げた。

「新人達の横でそんなことをすれば、彼等が集中できなくなるのではないでしょうか?」

はやては一瞬耳を疑ったが、シグナムの真剣な表情を見る限り本気で言っているらしい。
はやては失望したようにため息を漏らした。
主の反応に困惑するシグナムを見据えながら、はやては唇を左右に持ち上げ、邪悪な笑顔を作った。
悪気など一片もないようだが、邪悪だった。

「シグナム。ここはせめてテスタロッサが集中できなくなりますが…くらいのことは言ってくれんと困るで」
「な、何をおっしゃるんです!! テスタロッサがそのようなことで仕事に手を抜くはずがありません!! ましてや私が…光太郎は今テスタロッサと付き合っているのですよ?」

はやてはまたため息をついた。
が、シグナムの今の言葉から光太郎に気がありそうなのでよしとする事にした。
はやての笑顔は、更に邪悪になっていた。

「うちはな、スカリエッティはまだ同居してた二人を使って何かしてくる…そう思ってる」
「はい。でなければ奴が二人を浚った件に説明がつきません」
「ちゃうちゃう」

はやては手を横に振ってシグナムの考えを否定した。

「争ったにしてはRXの荷物が多すぎるんよ。あんなん口裏合わせて出て行ったに決まってるやん」
「なっ…ですが主はやて。それならばどちらかはRXと共にいた方が都合がいいのではないでしょうか?」
「そうやな。うちもそこまではよう分からん…けどな」

はやてはそこで言葉を切り、ズイィッと体を前に乗り出した。

「シグナムもわかってるはずや。フェイトちゃんに隙がある…断言してもええ!! スカリエッティはまだなんか企んでる!!
 隙だらけのフェイトちゃんやと光太郎さんを取られるのがオチや!! それでもえんか!?」
「そ……そうならないように支えてやればよいことではありません」

シグナムが一拍程言葉に詰まったのを見て、はやては机を叩いた。
はやてがそんなことをするのはとても珍しい事で、主の剣幕にシグナムは動きを止めた。

「シグナム。あんた程の女が何を迷う事がある!!奪い取れ!! 恋愛っちゅうもんはな、悪魔が微笑む時代なんよ!!」

そう言い切るはやてに一瞬シグナムは呑まれた。
十年来の親友に対しての容赦ない命令は、正に外道…だが一瞬後には、机の上に書類と一緒に置かれている漫画が目に入って気を取り直す。

「…ジャギ? …また何か新しい漫画ですか?」
「そ、それは今は関係あらへん……!! 冗談は言ってないんよ」

語気を弱める主にシグナムは微笑んだ。

「…分かりました。主はやてのご意向に沿うよう全力を尽くしましょう」
「! ありがとうな、シグナム。うちはあんたみたいな守護騎士がおって幸せやわ~」

椅子に座りなおし、うんうんと頷くはやてにシグナムは一枚の書類を差し出した。

「ではまずこれを…」
「ン? …えーっと、ザフィーラに免許を取らせる?」
「はい。特訓に使います」

それだけでは要領を得ず、はやては書類を読み進め…進めるうちに顔には苦笑いが広がっていった。

「偽ライドロンを使うって…本気なん?」
「はい。破壊は修理可能なレベルに留まっていたようです」
「これをザフィーラに運転させるんか…」
「はい、RXを轢きます」

真顔で言うシグナムにちょっと引きはしたものの、はやてはGOサインを出した。
何が効果的か分からない以上、『まぁやってみれば?』というのがはやての結論だった。
彼女の知る一号ライダーも鉄球に弾かれたような気がするしと、一号の技辞典をついでに渡しておく事も忘れなかった。

「あ、それと…RXが入るって事は一応秘密やから」

シグナムははやてに礼をして部屋を出て行った。
それからは、機動六課が動き出すための準備に追われ、矢のように日々は過ぎ去っていった。

 *

『ギン姉へ
 機動六課へ配属されて始めての訓練がありました。
 何故か隣ではRXが特訓をしていました。
 何を言っているか分からないと思いますが、私にも何が起こってるのかわかりませんでした。』

……ぐしゃッ

「はいあうとー」
「はいですー」

機動六課が活動を開始した初日の夜、はやては新入り隊員が家族に送ったメールをプリントアウトした紙を握りつぶした。
RXが配属された事は、謎のヒーローであったはずのマスクド・ライダーが管理局入りしたというのは悪い意味でショックを与えると上が判断したため、一応秘密ということになっている。
と言っても陸士の隊長なら知ってる公然の秘密となりそうではあるし、このメールの送り主スバルのように親類に教えようとするのが後を絶たない。
それを手伝うリインは気の抜けるような間延びした口調で相槌を打ちながらメールを送った者達へ注意勧告を行う。
リインは掌サイズの小さな体で、実に愉しそうに作業を進めていく。

「だめですよーっと」
「あんまりキツく言わんでもええよ」

リインには他の仕事を手伝ってもらう予定だったのだが、なんだか予定よりドンドン手間ばかり増えているような気がするはやてだった。
そのことで相談に来ていたRXは表情にでないまでもなんとなく申し訳なさそうだった。
RXが六課にとっては扱い辛い存在になるだろうと光太郎も予想していたが、かなり難儀させてしまっているように光太郎の目には見えたのだろう。

「スマン」
「ええんよ。それより特訓の方はどうなん?」
「今日は軽く流しただけだ。まだどうすればいいか検討もついていないからね」

はやては眉をひそめた。
今日は特訓初日と言う事で軽く偽ライドロンに追突され、転がされるだけだった。
そういう話をシグナムとまだ免許を取って間もないのに人間を轢けと言われて早くもうんざりしているザフィーラから聞かされていた。

ザフィーラははやての演説が終わり、なのはが早速新人4人の教導を開始するのに合わせて彼等が訓練しているフィールドの隅っこに呼び出されたという。
そこには去年の事件で回収された偽ライドロンと、打ち合わせをするシグナム。そしてRXがいた。
置かれていた偽ライドロンは本部でも完全に元に戻す事はできなかったらしく、痛々しい姿だった。
装甲の材料が不明だった為質感の違う装甲が溶接され、エンジンは目的を報告するなり送られてきたらしい。タイヤなどのパーツ込みでだ。
はやてはそれにスカリエッティの影を見たような気がしたが、兎も角ザフィーラは人間の姿になり、ライドロンを走らせる事になった。
目の前に立つRXへと一直線にだ。RXは、事件と同じようにライドロンを受け止め…事件の時よりパワーアップしている偽ライドロンにあえなく力負けして、運悪く倒れてしまった。

『ウォォォォオオオッ!!』

路面を走るのとは全く違う、明らかに何か踏みましたよね?という異物感にハンドルを握っていたザフィーラの掌にじっとりとした汗が滲んだ。
無論ザフィーラにも良心はあるし、先日免許を取得する際に受けた教育ではっきりとコレが良くない事だと理解していた。
ザフィーラは…自分の目で確かめず傍で命令を下すだけのシグナムに尋ねた。

『…シ、シグナム。あ、RXは、どうなった? 今思いっきり轢いてしまったが』
『大丈夫だ。彼ならもう立ち上がっている』

微塵も心配していないシグナムの口調に励まされ、バックを確認して見ると確かにRXは立ち上がっていた。
膝が震えているように見えるという点を除けば、五体満足だし問題はない。

『…も、もう止めないか? 足にきてるように見えるんだが?』
『今度は連続で行くぞ。彼が振り向く前にもう一回やるんだ』
『それはちょっと『行け』

ザフィーラは言われるままにRXの背後から追突した。
やはりパワーだけで止めるのは不可能なようで、RXはどのように力を流すか、どうやって反撃を行うかを真剣に考えているところらしい。
新人はおろか、新人のモニターしていたなのはもドン引きだったという特訓風景と報告をしにきた二人の様子を思い出したはやての顔には自然と苦笑いが浮かんでいた。

「……ザフィーラが落ち込むさかい、やりすぎて体を壊さんといてや」
「ああ!」

はっきりとした返事から、RXの気合が伝わってくる。
それは戦いの場にあっては安心させられるのだろうが、今この場においてははやての頭にシュールな未来予想図を描かせるスイッチのようだった。
RXとシグナムの生真面目さが混ざり合い、それをスカリエッティの悪戯心が隠し味となってはやての前に苦いものを作って持ってくるのだ。

背後で苦い顔をしているはやてには気付かず光太郎は部屋を後にした。
RXが光太郎である事は隠すことにしているためRXの姿のまま光太郎は部屋を目指した。

人の足音を聞き分け、人気のない場所を通って光太郎は自分の部屋にたどり着く。
丁度隣の部屋が開き、新人のエリオと言う名の少年がRXを見て目を見開いていた。

「こんばんわ」
「こ、こんばんわ」

素直な目をしているが、少年らしからぬ影も微かに見えた。
フェイトが保護者をしており、人造魔導師ということは光太郎も聞かされていた。

「あの、本当にマスクド・ライダーですか?」
「ああ。これから風呂かい?」

光太郎は少し屈んで言う。エリオの腕には着替えの用意やタオルが抱えられていた。
RXの時は直立したままでも把握できるが、それではぶっきらぼうすぎる。

「は、はい。部屋にはシャワーしかないので…」

はじめてみる怪人の姿に怯えを表情に出さないこと、それに目を逸らさないのは好感が持てた。
遠目に見る分には特徴的な外見を気に入ってくれる者は多いが、近づくとその生々しい生物っぽさに怯える子供も多い。
六課の宿舎は隊長クラスがどうなっているかは光太郎は知らなかったが、隊員の部屋にはシャワーしかない。

「少し待ってくれないか?」
「え?」
「俺も、今行こうと思っていたんだ」
「は、はい…!」

タオルやらを抱えた飛蝗怪人をエリオは好奇心たっぷりの目でちらちら見上げてくる。
複眼の視野はエリオも十分範囲内にいるので多少気にはなったが、目くじらを立てるほどのことではないとRXはエリオのしたいようにさせておくことにした。

今度は通路を選ぶ、というわけにはいかず最短のルートを選んでいく。
そうなると…いつのまにか他の新人三人ティアナ、スバル、キャロの三名も合流して四人で何かしら含みのある視線を向けてくる。
彼等には、RXが光太郎であるということがばれたとしても、光太郎自身には特に害はない。
もしばれてしまった時は、素直に教えようと光太郎は考えていた。逆に言うとそれまではレジアスやはやて達の顔を立ててRXとしてしか彼等の前には姿を出さないつもりだということだったが。

三人とも年端の行かぬ少女でキャロはエリオと同じ年頃、スバルとティアナはそれよりは何歳か年上で地球で言えば高校生位に見える。
この世界では既に働き危険な任務に付くのも当然のことなのだろうが…スカリエッティのところを飛び出す事になる直前、風呂の中でスカリエッティと話したことを思い出す。

『私は彼女らの力を借りなければならない現状や、頻繁にこんな状況に陥る現場を嘆くスポンサーからの依頼を受けて戦闘機人計画に協力しているのさ。
ウーノ達の力は、慢性的な人員不足に陥っている管理局には必要な力というわけだ』

そのスポンサーがレジアスだったというのは意外だったが、今は…どこかで納得もしていた。
そうする必要があったからだが、何よりもそれは光太郎が出会ったクロノ達の人柄のお陰だった。
RX以外が靴音を響かせ、廊下を歩いていくなかスバルが口を開いた。

「あの、マスクド・ライダー!」
「RXでいいさ」
「はい! ありがとうございました!」
「え?」

突然礼を言われて足を止めたRXにスバルは落胆した様子で説明する。

「お、憶えてないですか? 空港で災害があった時に」
「憶えてる…だが、あれは」

説明を遮ったRXの目には一転して顔を輝かせるスバルの隣で、ティアナが非難がましい目を向けてくる。
光太郎にとってあの事件は、ウーノ達の攻撃に周りを巻き込んでしまった最悪の事件であり、ウーノとの暮らしを経てもそれは光太郎の中にしこりとして残り続けていた。
助けられた者達から礼を言われるのは…正直な所心苦しい。
以前、それでも変らないと言って礼を言ってくれたのはスバルの父ゲンヤであり、光太郎にとってはスバル達にこそ礼を言いたい心境にだったが、それは許されないようだった。

「もう君のお父さんから礼を言ってもらっている…君が気にする必要はない」
「そ、そうですけど、こうしてお会いできたんですからちゃんと言っておこうって、ギン姉も今でもとっても感謝してるんですよ!」
「そうか…!」

そこからスバルは家族の話やこれまでどうしてきたか…特に、彼女の姉であるギンガが父親と同じ部隊に配属され、何度かRXが現れた現場にいて共に事件を解決した話を誇らしげに語っていた。
だがもう少しで浴場に着くというところで、RXの耳に一報が入った。
ウーノの協力がなくなり、情報を迅速に得られなくなったRXの為にレジアスが手を打って、人の耳には聞こえない音を何度か送って合図を送ってくれることになっている。

また足を止めたRXに4人が注目している。

「すまない。風呂はまた今度のようだ」
「まさか、どこかで犯罪が起こったんですか?」
「ああ」

逸早く気付いたティアナに返事を返し、光太郎はタオルなどを浴場に置いてくれるようエリオにお願いする。
快く返事を返したエリオの髪をくしゃっと撫ぜてRXは廊下を破壊しない程度の速度で走りだした。

「あ、光太郎さん。今ちょっと…」
「後にしてくれ。犯罪が発生した」

廊下から出てきたフェイトに短く返し、RXはベルトから赤い光を放つ。
光が収束し、バイオライダーに変身した光太郎は壁を通過して外へと飛び出していった。
声をかけた状態からしょんぼりするフェイトと、フェイトの声を聞き眉を顰めるティアナを残して。

光太郎と自然にフェイトが口にしたのを聞いたティアナは、RXの正体をなぜフェイトが知っているかを考えて黙っている事にした。
幸い他の3人は然程気にしていない様子で、相棒であるスバルの恩人が秘密にしている事をわざわざ嗅ぎ回るほどティアナの趣味は悪くない。

外へ飛び出したバイオライダーには今手元に移動手段はない。
アクロバッターはライドロンを盗まれた一件以来、まだ地球でヴィヴィオの玩具になったままだ。
だがバイオライダーはゲル化し、バイクに乗っている時よりも早く、一瞬で現場に移動することができる。
ゲル化したまま人質に取られた人達の中へ突入し、人質全員を同化させて救出する現れてから安全圏に人質を連れ出すまでがその一瞬の内に行われた。
人数が少ないからこそ出来た芸当だが、そんなことを知る由のない犯罪者は開いた口の塞がらない。
バイオライダーは猛る気持ちのままに腕を振るい、ポーズを決めた。

「俺は怒りの王子、仮面ライダーBLACK、RX!! バイオライダッ!!」

時折組まれているTVの特番では、処刑用BGMと呼ばれる曲がかかる合図となる名乗りを挙げ、バイオライダーは人質を取った犯罪者の群れを制圧しにかかった。

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最終更新:2009年10月22日 00:46