『マクロスなのは』第9話「失踪」



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『真相は駆け落ちだった!? ランカ・リー失踪事件』

超時空シンデレラことランカ・リー(17)の失踪からはや4日。
現在も彼女が失踪した地球・フロンティア間の宙域では、新・統合軍と民間の必死の捜索が続けられているが、未だ痕跡すら発見出来ていない状態だ。
彼女は4日前、地球のマクロスシティで行われた第一次星間戦争終結50周年記念コンサートで歌うため、フロンティアの民間軍事プロバイダ『SMS』の機体で地球へと向かった。
この民間企業が選ばれたのは、かつて彼女がやってのけたガリア4での暴徒鎮圧を演出で再現するためであった。
この民間企業は当時彼女が暴動を止める際に搭乗していた最新鋭の人型可変戦闘機『VF-25/MF25(VF-25/第25次新マクロス級移民船団マクロス・フロンティア版)』を保有しており、これにフォールドブースターを着けた上でフォールドしていた。
また、このフォールドブースターはフロンティア随一の大企業『L.A.I社』の開発した「フォールド断層を飛び越える」という新型のフォールドブースターであったことがわかっている。
しかしこのフォールド機関はまだ運用が始まったばかりで、専門家はそれの故障による事故だろうという結論が大方である。そのためか「生存は絶望的」との声も多い。
だが我が社の取材スタッフはフロンティアでの聞き込みを続けるうちに他の可能性を発見した。
実はランカ・リーの乗ったバルキリーは彼女の恋人がパイロットをしていた可能性が強まったのだ。
気になる彼は1年前の『惑星フロンティア奪取作戦』(バジュラ本星突入作戦)において多大な功績を残した早乙女有人(18)だ。
彼は同船団内に存在するスペシャリスト養成校『美星学園』にて戸籍とは違う早乙女アルトの名で学籍登録しているが、その実同船団の歌舞伎役者、早乙女嵐蔵の息子である。
ランカとは学部違いの同級生で、「度々仲良く町を歩いている所を見た」という情報が多数寄せられている。
また真偽は不明だが「どちらかの家で泊まることがあった」との情報も寄せられており、恋人である可能性は高い。
L.A.I社の公式発表によると、その新型フォールドブースターが正常に稼働し続けた場合、現在探索された銀河のどこへでも7日以内に行けるという。
そのことより我々スタッフは─────


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「シェリルさん?」

「なに?」

彼女の現在のマネージャーであるエルモの呼び掛けに、シェリルは端末機で読んでいた胸糞悪い芸能雑誌を机へと放り投げた。
彼女はアルトが、そしてランカがそんなことをしないと固く信じていた。そしてまた、生存も同様に信じていた。

「いやどうもネ、なんか手がかりがあったみたいなんですヨ」

「本当!?」

「ハイ。ブリッジの方で説明があるそうなので、行ってみましょう」

ここは民間軍事プロバイダ『SMS』の母艦であるマクロスクォーター艦内だ。
シェリル達はコンサートが中止になってからずっと、この艦を根城に2人の捜索を続けていた。
2人を探す手がかりが遂に見つかったのだ。シェリルは小走りしながらブリッジに向かった。

(*)

「高周波のフォールド波?」

ブリッジに着き、興奮するルカから聞いた最初の言葉はこれだった。

「はい!今までは単なるノイズにしか見えなかったんです。でもダメもとでスローにしたらわかったんですよ!」

「えっと・・・・・・なにが?」

わかっているのはどうやらルカだけらしい。他に集まった人々も、同様に彼の話に耳を傾けている。
ルカも「論より証拠」と、コンソールパネルに向かい、操作を始める。

「最初はただのノイズだと思って統合軍も僕たちも見逃していたんです。・・・・・・これは失踪7時間後に惑星『フロンティア』で観測されたフォールド波です」

画面に表示されるその波形。確かに周波は多少変化しているが、とても短く、機械的なノイズにしか見えない。

「でもこれを24分の1の速度にして、フォールドスピーカーに繋ぐと─────」

ルカの指が「ENTER」ボタンを弾く。すると同時に暖かく力強い声がブリッジを包んだ。

『─────進め! 〝きどうろっか〟誇り高き名を抱いて
飛べ! 〝きどうろっか〟眠れる力呼び覚ませ・・・・・・』

聴き入ってしまっていたシェリルが我に帰る。

「これって・・・・・・!」

「そう、ランカさんの歌です。2人はそう遠くにいません。もっと惑星『フロンティア』の近くにいたんです。少なくとも1光年以内に」

そこにランカの義兄であるオズマが口を挟んだ。

「でもよ、この時空差はなんだ? なんでまた向こうが24倍速になってるんだ? それに俺の勘違いかもしれんが、どうして歌詞が〝フロンティア〟でなく〝きどうろっか〟になってやがるんだ?」

「歌詞についてはわかりません。ですがこの時空差は変動しているらしく、僕の概算によればランカさん達はもう20日以上向こうにいるはずです。それでもランカさんが生きているとなれば何らかの方法で、ある程度の生命維持方法を確保できていると推測します。ワイルダー艦長」

ルカはこの艦を取りしきる責任者に向き直る。

「調査隊を組織する許可をください。発信源を特定したいと思います」

「うむ。許可しよう。人選は任せる。必ず見つけてくれ」

「了解しました」

ルカは敬礼すると、作戦を練るため出ていった。ワイルダーは帽子をかぶり直すと、凛とした号令を発す。

「艦首を惑星『フロンティア』に。フォールド安全圏まで最大船速!」

「アイ、キャプテン!」

クォーターの操舵手であるボビーがその手に握る操縦桿をゆっくりと切る。広い宇宙にあっても威厳をもって旋回する400メートル級戦艦はクラスターエンジンの噴射口から盛大に火を噴くと、現宙域である小惑星帯を後にした。

(*)

今、シェリルは満点の星空の下にいた。そこはクォーターにある展望室だ。
2回の長距離スーパーフォールド(フォールド断層を無視したフォールド航法)を経て惑星フロンティアの衛星軌道上を周回しているため、強化ガラスで作られた床からはその美しい緑の星が臨める。
星空など宇宙(そら)を渡るものならいつも見るものだが、彼女には今、違ってみえた。

(このどこかにランカちゃんとアルトがいるのね)

気づいた時には設置されているベンチから立ち上がり、歌い始めていた。

〝アイモ アイモ ネーデル ルーシエ・・・・・・〟

その歌は彼女の友人であり、相方であり、ライバルである者の歌だった。
そして空では変化が起こっていた。幾筋もの赤や青の光跡が集まってくる。大小のバジュラ達だ。シェリルの放つ希望の想いのこもったフォールド波に引き付けられ、集まって来るのだ。
シェリルにはそれがバジュラ達がお祝いをしてくれているように映った。

〝ルーレイ ルレイア 空を舞うひばりは涙・・・・・・〟

その時シェリルのア・カペラにハーモニカの伴奏が入った。
透き通るようなシェリルの歌声を伴奏が引き立て、バジュラ達の舞いが空を彩る。
狭い展望室には豪華過ぎるコンサートだったが、その歌声は艦内のフォールドスピーカーに共振。電源なしでもそれを中継し、働く者達の心を和ませた。
歌と伴奏が終わり、シェリルは振り返る。そこには体に密着するインナースーツを着て、ハーモニカを持った青年がいた。

「どうしたのかしら、ブレラさん? まだ半年間の星間パトロール任務があるんじゃなかったの?」

彼は真新しいハーモニカを口から離すと応える。

「いや、妹の急を聞いて1ヶ月間の有給休暇をもらって来た」

ブレラは生命維持のためとはいえ、その身のインプラントが災いしてフロンティアの市民権を得られていなかった。
そのため彼はSMSにその身を置き、外敵から星を守る任務に従事していた。

「ごめんなさいね、ランカちゃんの歌じゃなくて・・・・・・そのハーモニカ、確かこの前メールしてきた物よね?」

「ああ」

ぶっきらぼうに応えるブレラ。
両親の形見であったハーモニカは、フロンティア奪取作戦(バジュラ本星突入作戦)の折りに紛失し、ブレラは同じものを作らせていた。
それは彼がパトロールから帰ると丁度ランカの誕生日にあたり、仲間内で催される誕生会では彼女をこれで驚かそうというのが狙いだった。
ブレラは仕込みのためこの事をランカ以外の参加者に通知しており、皆それを楽しみにしていた。

「だが俺も音楽家のはしくれだ。こんな希望の喜びに満ちた声で歌を聞かされたら、いてもたってもいられない。─────そんなことより、お前に伝えなければならないことがあった」

「ん? なに?」

「ルカ・アンジェローニによれば、今回の作戦にはお前の歌が必要だと言っていた」

ブレラによると、バジュラのネットワークを介してこの付近数光年に強力な歌エネルギーによってフォールド波の探信波を流すという。
するとVF-25Fの装備していた新型フォールドブースターのフォールドクォーツがそれに反応して、同じ波を反射するらしい。
確かにこの方法ならフォールド空間内だろうが通常空間だろうが一瞬で検索することができる。

「つまり、でっかいアクティブ・ソナーってことね」

「そういうことだ。作戦決行はカナリア大尉のVB(バリアブル・ボマー)-6『ケーニッヒ・モンスター』の準備が完了次第始まる。それまでにバジュラ達に展開を終えてもらってくれ」

ブレラは空を見上げて言う。すでに全天をバジュラの光跡が覆っていた。

「わかったわ。伝える」

シェリルは答えると、バジュラ達に歌いかけた。

(*)


6時間後

バジュラ達は予定通りの位置に展開し、VB-6のサウンド仕様も準備が完了した。
シェリルはケーニッヒ・モンスターの機内から外を窺う。
周囲にはもしもの事態に対処するために、オズマ少佐率いる2機になってしまったスカル小隊やクラン大尉率いるピクシー小隊などのSMSの機体。ブレラのVF-27。そして直掩のバジュラ達が展開を終えていた。

(ランカちゃんも初陣はこの機内だったっけ・・・・・・)

シェリルは不思議な懐かしさを覚えていた。
その頃の自分はバジュラ達を鎮める力はなく、自分の見い出したランカという友人に嫉妬していた。

(でも、あたしはあたし。自分の信念を貫いて見せるわ!)

決意を新たにした丁度その時、ルカからのGOサインが出た。

「行くわよみんな!あたしの歌を、聞けぇ!!」

宇宙に向けて放たれた常套句と同時に始まる伴奏。シェリルは精一杯に歌う。
それはかつて歌で山を動かさんとしていた熱い、熱い男のように宇宙を満たした。

〝─────私は 今 I realize that I live. ここにいるわ
FEEL!I'm a shinin'STAR!・・・・・・〟

(*)


RVF-25 ルカ機

彼はVB-6に搭載された特殊なバッテリーに蓄積していく歌エネルギーの数値を冷静な目で追っていた。
この作戦はどこまで強力な探信波を放てるかにかかっている。弱すぎると探知範囲や精度が低下し、役に立たないからだ。

(さすがシェリルさん。目標の1000万チバソングまであと少し・・・・・・)

しかし逆にこれを越えると危険だった。なぜなら探信波を放つことになっているRVF-25のレーダードーム『アルゲス』がもたないからだ。
失敗した場合、サウンドウェーブによる過度な量子反応によって機体が急激な縮退反応を起こし、反応弾頭(物質・反物質対消滅弾頭)規模の大爆発を起こす。しかしそれでもまだいい方で、最悪の場合周囲に展開する護衛部隊を余裕で飲み込む程度のマイクロブラックホールとなってしまうだろう。
とどのつまり、ミスは許されないという事だ。

(ナナセさん・・・・・・)

彼はディスプレイのピンに挟んだ写真を撫でる。そこで微笑んでいる愛しい人が、彼の全てだった。
彼女にプロポーズしてはや半年。OKの返事からずっと夢のような日々を彼は味わっていた。
別に何か特別なことをしたりしたわけではない。彼女との他愛ない会話や一緒にいられるだけで彼には幸せだった。
例えば彼女の部屋で、趣味の話が弾んだ時だ。
その時ナナセは

「ルカくんのために描いたの」

といって1枚の大きな画板を彼に渡した。それにはルカが描かれており、その絵には繊細な愛情がこもっていた。
ルカはその時、あらためて自分の幸せを実感したという。
しかしそんな日々も、失踪事件によって暗転した。ランカの失踪を知ったナナセはショックで寝込んでしまったのだ。
それ以来彼女は心を閉ざし、ルカが会いに行っても

『ごめんなさい。あなたの私への気持ちに嘘はないと思うの。でも、今あなたに会ったら平静でいられないかもしれない』

云々といって門前払いを食らっていた。
彼女の過去の事件(彼女が12、3歳の時に遭ったペドフィリアによる誘拐事件)による男性不信については、L.A.Iの御曹司としてのネットワークと、彼女から直接聞いたというアルトから聞いていた。
そのため彼はこの半年間、その傷が癒えるよう努力したが、結局彼女を救えるのはランカの無邪気な笑顔だけらしかった。
頼りになる二人の先輩もいない今、想い人の笑顔を取り戻せるのは自分だけ、と奮い立たせることで彼はこの重圧に耐えていた。

(ナナセさん。きっと僕がランカさんを連れ戻して、あなたの笑顔を取り戻して見せます!)

そこにはかつてアルトが〝愛玩犬〟と揶揄した彼は鳴りを潜め、1人の〝漢(おとこ)〟がいた。
そうして遂にその時を迎えた。

「ピンガー、打ちます!」


コーンッ・・・・・・


絶妙なタイミングで放たれた歌エネルギーのピンガー(探信音)は彼の予定通りの出力で宇宙に放たれる。そしてバジュラネットワークのフォールド波と一緒に大きなうねりとなって全時空、全次元を振動させた。
この場所から3光年以内の惑星、宇宙船問わず全ての場所でこのピンガーが観測されたという。

(*)


同時刻 第1管理世界 聖王教会

リニアレール攻防戦と呼ばれる事件が発生していたこの時、カリム・グラシアは地上部隊に提出する預言の解釈についての報告書を書いていた。

「─────ふぅ、こんなものかしら?」

カリムは書き上げた報告書をためすすがめつしながら読み直す。
先代や自らの預言を無視する姿勢を貫いていた地上部隊であるだけに伝統的におざなりになっていたこの作業だが、はやての出現によって2、3年前ぐらいから変わった。
地上部隊のある人物がはやての意見に耳を貸し、しっかり目を通してくれているというのだ。
人間無駄とわかっている作業をするのは嫌だが、ちゃんと読んでくれる。これは物書きにとって大喜びするほど切実な願いである。
カリムも〝彼〟が読み、実際に動いてくれていることに大きな責任と同時に大きなやりがいを感じ、熱意をもって作業に臨んでいた。
そうしてOKを出そうとした時だった。


コーン・・・・・・


どこからか聞こえる金属をハンマーで叩いたような音。
それはとても小さく、ややもすると部屋に自ら1人しかいないカリムですら全く気づかなかったかもしれない。

「耳鳴り・・・・・・?」

カリムそう考えて気のせいと片付けようとしたが、机に視線を落とした彼女は驚愕する事になった。
資料として開いていた自らの預言書が光を発している。

(うそ・・・・・・まだ前回の預言から半年も経ってないのに・・・・・・)

しかしこれは紛う事なき預言の受信の知らせであった。
カリムは受信手続きとして自らのレアスキル『プロフィーテン・シュリフテン』を起動。不可視の情報を人に解る言語、古代ベルカ語に変換し、預言書に転写した。

「これは・・・・・・!?」

儀式魔法が終わり、新たに加わった預言の一文。そこには─────
カリムは即座に六課のはやてに連絡を入れるよう、シャッハに要請した。

(*)

ルカの方は遂にレーダードーム『アルゲス』が微かな反射波を捉えていた。
即座に逆算。

(返ってくるのが予想より早い。でも通常空間にしては減衰率がひどいな・・・・・・)

どうやらブースターはフォールド空間に浮いているらしい。
結果、場所は─────

「ここ!?」

正確には通常空間の座標に直すと、アルト達がフォールドした場所から1AU(天文単位。地球から太陽までの距離)も離れていない場所だった。
どこかの星に不時着して救援を待っているとばかり思っていたルカは、驚きと嬉しさのあまり操作パネルから手を離してガッツポーズを取っていた。

(2人はこんなに近くにいたんだ!)

彼ははやる気持ちを抑えながらクォーターへの通信回線を開いた。

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次回予告

カリムの要請を受けて聖王教会へ赴くことになったはやて達4人。
そこで聞かされる驚愕の未来予知とは!?
そしてアルトに突きつけられる1枚の紙切れ。そこに書かれていた内容とは!?
次回マクロスなのは、第10話『預言』
「おい、はやて!俺は〝クビ〟ってことか!?」
はやては不敵な笑みを見せて首を縦に振った。

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最終更新:2010年10月31日 23:49