第三話「ハラオウン家へ(前編)」
光に包まれて、その光がふと消えた。と思ったら住宅街に立っていた。
2度目の転送を経験し、「メダロットもこんな感じなのかな」とか考えるイッキ。
メダロッチで転送されるメタビーの気持ちが少し分かった気がした。
「着いたぞ・・・おい、聞いてるのか?」
気に食わない声が聞こえる。
仕方なくそっちを見ると、『気に食わない』といった顔のクロノ。
彼は正面の一軒の家を視線で示す。どうやらここが目的地のようだ。
「なんだ、普通の家なんだな」
メタビーはほんの少し拍子抜けした。
「ああ。俺もてっきり、もっと近代的っつうかスゴイ家かと思ってた」
「あら、これでも十分近代的なんだけど」
失敬ね、とばかりにリンディは言うが、イッキにはそうは思えないようで、
「でも、やっぱり俺ん家とあんまり変わんないなぁ」
「そりゃあ、きみの世界となのはの世界の生活様式はほとんど相違ないみたいだからな」
クロノの言葉に、イッキは思い出す。
どうやら自分となのはの世界は非常に似たものであるらしいこと。
ならば、家の形や住宅街の造り方も似ていて不思議はないのかもしれない。
「それじゃ、私はこのへんで」
話の切れ間を見計らって、なのはは帰宅の意思を示した。
「そうね。早くご家族を安心させてあげて」
「はーい!それじゃリンディさんクロノくん、イッキくん達もさよなら~」
「ああ、お疲れさま」
パタパタと手を振りながら走っていくなのは。応えるクロノ。
「じゃ~な~」
メタビーも手を振り返して見送った。
夜道を女の子一人で危ないなぁとか心配するイッキをよそに、なのはは
すぐ隣の家に「ただいまー」と入っていった。
「あれ?なんで隣の家に?」
イッキの頭に『?』マークが浮かぶ。
「なんでも何も、我が家は高町家の隣にあるんだ」
「はぁ?」
更にマークが増えることになった。
「数ヶ月前に色々とあってね。ハラオウン家はここに引越してきたの」
「色々と?」
「そ、色々と。管理局の事情ってやつね」
気になるイッキだったが、どうやら話してくれる様子ではないので諦めた。
「それはそうと、早く家に入ろう。その・・・イッキ、きみもだ」
気まずそうに促すクロノ。
先ほどまで敵意をむき出しにしていたイッキもさすがに怒りは引いていたが、
すぐに馴れ合うのも気に食わないのでブスッと無言で玄関をくぐる。
「あ、お帰りなさいリンディさん」
大人しそうな優しい声が帰宅者を出迎えた。
「ただいまフェイトさん、先に帰ってたのね?」
フェイトと呼ばれた少女は軽く微笑んで応えた。
「はい、クロノから今日はもう帰っていいって言われて。あ、クロノもお帰り」
「ああ、ただいま・・・おい、きみ達も早く入るんだ」
後ろの誰かに入るように促すクロノ。すると、
「へいへい」「ったくウルセーな」などと悪態が聞こえてくる。
「クロノ、誰かお客さん?」
「いや、まぁ客というか・・・」
爪先で立ち、言いよどむ義兄の肩越しにフェイトは謎の訪問者の姿を見た。
チョンマゲ。
このご時世にチョンマゲをつけた人がいる。
「お侍さん?」
それがフェイトの第一印象であった。
「ふふっ、そういえば素敵なチョンマゲね」
「え?いやぁ~それほどでも~」
リンディの言葉に表情が崩れるイッキ。チョンマゲも嬉しそうに揺れている。
「人の家の玄関でニヤニヤしないでくれないか? 気味が悪い」
「ああ!?なんだって!」
ジト目のクロノがチクリと言い、
ようやく収まりかけていた怒りが再燃したイッキは食って掛かろうとするが、
「はいはい、ケンカはそこまでにして頂戴ね~」
いがみ合う二人の頭を掴んで引き離すリンディ。
「そうだぞイッキ。ご近所様の迷惑だ」
メタビーも腕組みをしながら彼女に同意する。「それに・・・」と付け加えて、
「固まってんじゃねぇか、ほら」
何が?とメタビーの視線を追うと、口を半開きにして呆けるフェイトがいた。
まぁ知らない人が人ん家の玄関で口論を始めればポカーンともなるだろう。
「あの、リンディさん・・・この人は?」
訝しがりながら質問するフェイト。
「あらごめんなさいね。ほらイッキくん、自己紹介して?」
その間にもクロノに対してアッカンベーなどと子ども染みたことをしていたイッキは、
「へ?」
と間抜けな返事をしてしまった。
「こちらは私の娘のフェイトさん。初対面でしょ?ちゃんと自己紹介しないと、ね」
リンディにポンッと背中を押され、向き合う形になる二人。
「あ、え、えーと・・・俺は天領イッキ。よ、よろしく」
やけに歯切れの悪い自己紹介である。
「うん、初めましてだね。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。よろしくね」
打って変わってフェイトは落ち着いた様子で名前を名乗った。
そして軽くはにかんだ顔で微笑む。
「フェ、フェイトちゃん・・かぁ」
急に顔が赤らみ、鼻のしたが伸びるイッキ。
「ん? おい、どーした?」
つっ立ったまま動かなくなったイッキを不思議に思ったメタビーが声をかけるが、
「・・・・」
聞いていない。というか聞こえていないようだ。
(おいイッキ、何ニヤケてんだ。ホントに気持ち悪いぞお前?)
小声で言いながら相棒の肩を掴んで玄関の隅に引っ張りこむメタビー。すると、
(・・・か、可愛い・・・・!)
明後日の方向を向いたままのイッキが、呆けたように呟いた。
そんな彼の様子を見て、
(あ~~?またかよ・・・まったくカリンちゃんといいアイドルといい・・・)
「可愛い子に弱ぇんだから・・・はぁ」
カクッと頭を落とすメタビー。
「あの、それでキミは?」
隅っこでヒソヒソしている二人、特にメタビーが気になったフェイト。
リンディさんが「おまけもついてきた」と言っていたが、この子のことだろうか?
その声に気付いたメタビーは、
「ん?何だ?」
聞き返した。えと、だから・・・と苦笑いを浮かべてフェイトは
「キミは誰?」
もう一度聞きなおした。
「ああ、オレのことか。オレはメタビーだ。よろしくなっ」
よう!といった感じで右手を挙げるメタビー。
「え・・・あ、メタビーっていうんだね。よろしく」
なのはと同様、ロボットがフレンドリーに話したことに少々驚いたが、
自分もインテリジェントデバイスを相棒にしているのでそれほど抵抗はなかった。
まぁそれは置いといて。
「あの、リンディさん。この人たちをどうして私達の家に?」
頭に包帯を巻いているあたり怪我人なのだろうということは分かるが、
見覚えのある顔ではないし、第一、我が家に連れてくる理由が分からない。
一体この子たちは誰なのだろう?
「ええ、それがね・・・滅多にないことなんだけど・・・」
と、リンディはそこまで言い、クロノに目線を投げる。と、クロノがその後を継ぎ、
「時空難民だ」
実に簡潔に告げる。
「難民・・・それじゃあ、つまり」
「ああ、何かの拍子に次元を越えてしまったらしい」
それを聞いたフェイトは、難民と称された二人に視線を向ける。
あいかわらず情けない顔をしたイッキと、それを人差し指で突っついている
メタビーの姿があった。
(あれが、難民・・・?)
にわかには信じられない光景である。別世界に来たというのになんともお気楽だ。
「で、とりあえずだが今日はうちで預かることになったから」
「え、本当に?」
「本当だ。まったく、母さんにも困ったもんだよ・・・」
他にも方法があっただろうに、などとコボしながら義兄がリビングへ行くのを
見送ったフェイトは、もう一度イッキたちの方を見た。
完全にフヌケになった少年はしばらく動きそうにない。
食卓には白米を主食とした様々な料理が並べられている。
「それじゃ、頂きましょうか」
リンディの合図で4人は『いただきまーす』と手を合わせた。
「イッキくんもお腹すいたでしょ?遠慮せずにたくさん食べてね」
「はーい!喜んでっ」
「本当は多少なり遠慮してほしいところなんだがな」
「何か言ったか?」
「別に・・・」
「ちょっとクロノ、大人げないよ?」
「やれやれだな・・・」
玄関での自己紹介が終わったあと、一同はリビングへと向かった。
夕食のためフェイトとリンディはキッチンへ入り、男性陣はソファへ。
分かりきったことであるが、料理が出来上がるまでクロノとイッキは(以下略
そんな2人をよそにメタビーはテレビの正面に座り、
「お、面白い・・・」
見たことのない番組に目を輝かせていた。
「そっか、それじゃ夕方の緊急の連絡はイッキたちのことだったんですね」
「ええ、そうよ。大型の生物が現れて大変だったけど、なのはさんが上手く処理して
くれたわ」
「そうですか。すいません、駆けつけられなくて・・・」
箸を進めながら今日の出来事について話をしているリンディとフェイト。
ちなみに、長方形のテーブルには家長であるリンディの横にクロノ。
そして彼と向かい合ってイッキ、その隣にフェイトが座るという形になっている。
「気にしないで。あなたもクロノも、それぞれ仕事があったんだし」
「ありがとう、ございます」
申し訳なさそうにするフェイトにリンディはフォローを入れる。
そういえばメタビーは? というと、
「ふーん、ほぉ・・・なんだこりゃ?」
「なんだよメタビー、さっきからブツブツ言って」
「うるせぇな~。今新聞読んでんだよ、静かにしろ!
イッキの隣で夕刊を広げ、政治面に目を通していた。
それに対して、「あっそ」と大して気にすることなく再びご飯を頬張るイッキ。
元いた世界でも一緒に暮らしていた彼にとって、メタビーの新聞チェックは
言ってみれば見慣れた光景である。
がしかし、ここはハラオウン家。となれば、
「メタビーも新聞読むの?」
ロボットが朝のお父さんよろしく新聞を広げるところなど見たことのないフェイトは
当然気になった。
「なんだ、オレが新聞読んだらおかしいか?」
バサッと次の面をめくったところで、メタビーが言う。
「えっと、別におかしいとかじゃなくて・・・それ、こっちの世界の新聞だよ?」
「ああ、そうだが」
だからなんだよ、とメタビーは新聞に視線を戻す。今度はスポーツ面を読み始めた。
「内容、分かるのか?」
世界観がほとんど似通っているとはいえ、ここは彼らの世界とは別物。
新聞に書かれる記事も当然違ってくる。政治の動きから4コマ漫画まで。
そんなものをロボットが見て面白いのだろうか?
クロノが疑問に思うのも自然といえば自然なわけで。
「ん~~、そうだな・・・」
腕を組み、改めて記事を見るメタビー。フェイトも興味津々で返答を待つ。
「分 か ら ん」
ドガシャッ! ドテッ
盛大な音を立ててクロノは椅子から転げ落ちた。
「あら、どうしたのクロノ?」
いきなり椅子ごと真後ろに倒れた息子を見て、リンディは首を傾げる。
それには応えず無言で椅子を立て直し、元の位置に座るクロノ。
「・・・内容も分からないのに新聞なんか読んでたのか?キミは」
「悪いか? せっかくこっちの世界に来たんだから色々知ってもいいだろ」
お茶を一服してから問う彼に、メタビーは相変わらず夕刊を広げながら応える。
まぁ確かに一理ある。
しばらくはここで暮らすのだ。それなら世界の情勢や時事的なことを知っておくことも
重要になる。郷に入っては郷に従えというべきか。
「いいことじゃない、ちゃんと新聞を読めるなんて偉いわ、メタビーちゃん」
「あ、う・・うん」
リンディに褒められ、メタビーは急に大人しくなる。
「なんか嬉しそうだな、お前」
「うん、私もそう思う」
「う、うるせぇ!」
ひったくるように新聞を手に取り、顔を隠すようにバサッと広げる。
そんなメタビーを見たフェイトとイッキは、お互いに顔を見合わせてから
どちらともなくクスクスと笑いだした。
「おいコラ!笑うなー!!」
最終更新:2007年08月14日 16:57