『マクロスなのは』第11話「地上部隊は誰がために・・・・・・」



周囲は至って静か。バルキリーから出るエンジン音しかしない。
現在VF-25はミッドチルダ領空の海上を飛行しているが、パイロットであるアルトはくまなく周囲を警戒し、レーダーに気を配っている。そう、ここは〝敵陣〟のまっただ中だからだ。
刹那、曇り空の1点が小さく光る。アルトは即座に操縦桿を倒してロール。続いてバルキリーを急旋回させる。
すると同時に青白い光の束が襲い、VF-25のベントラルフィン(垂直尾翼の一種で機体下方に斜めに突き出した小さな整流板)に当たって、転換装甲のキャパシティを削った。
魔力砲撃は2発、3発と続くが、位置の割れた砲撃など避けるのは容易い。
不意討ちに失敗した敵が降下してくる。どうやら敵機はVF-1『バルキリー』のようだ。
バルキリーは第25未確認世界では初の量産仕様の人型可変戦闘機として有名である。しかし、目の前の機体は細部が異なる。随所にVF-25の技術転用が認められ、エンジンも熱核タービンから最新の熱核バーストエンジン(ステージⅡ熱核タービン)になっている。
また、第3世代型エネルギー転換装甲への全換装により純正の機体重量より40%軽くなり、その軽い機体に熱核バーストエンジンという強力な心臓を持たせたため、VF-25から3世代ほど離れたロートルにもかかわらず、その動きは俊敏だった。
VF-1は高度の優位のためか悠々とこちらを牽制しながら近づいてくる。
しかしアルトはそうはいかない。敵機はVFー1だけでなく、他にもどこにいるかわからない。
アルトは可変を駆使して加速と減速を繰り返し、ロックをかわし続けた。そして頃合いを見計らうと機体周囲にハイマニューバ誘導弾を生成する。

「メサイア、誘導を頼む」

『Yes sir.』

対する敵もパイロンに懸架された箱型ミサイルランチャーから魔力推進型のマイクロハイマニューバミサイルを一斉に放ってきた。
アルトはスラストレバーを一杯まで上げて一目散に海面に向かう。
ミサイル達にはアフターバーナーを焚いたVF-25がよほどおいしい獲物に見えるようだ。一目散に向かってくる。
VF-25は海面ギリギリまでミサイルを引き付けると、ガウォークに緊急可変。足を振り出し機体がへし折れるのではないかという機動で海面への激突を回避した。
しかしハイマニューバミサイルもノズル基部に追加展開された偏向・集束バインド(環状魔法陣)を駆使して推力偏向。海面スレスレで急旋回する。だが彼らの目の前にあったのはVF-25ではなく水の壁だった。
実はアルトはミサイルの追尾性能を看破、ガンポッドで海面を掃射していたのだ。
しかし通常水に当たったぐらいで起爆するハイマニューバミサイルではない。
だがミサイル達は重力の加速によりただの水を鉄板と間違えるほどの速度に達していた。
水の雫が信管に当たり、搭載AIは衝撃からそれを鉄板と誤認。内包する力を解放していった。

(*)

アルトは次々誘爆するミサイルを横目に、VF-1を流し見る。
どうやら敵機はこちらのハイマニューバ誘導弾に、バトロイドに可変して全火器で迎撃する積極的迎撃を選んだようだ。
頭部対空レーザー砲とガンポッドから魔力砲撃の筋が伸び、誘導弾が墜ちていく。
しかしバトロイドでは出力の関係で高度を維持できないため、徐々に降下してくる。
アルトはこの機を逃すまいとファイターに可変。一気に距離を詰める。
だが突然、背中に悪寒が襲った。アルトは今までの経験からこれは本物だと感じ、反射に近い速さでバルキリーの足だけを展開、エンジンを吹かして横に跳ぶ。
すると案の定今までいた位置にこれまた青白い光に包まれた大口径の〝砲弾〟がすり抜けていった。しかし上からではない。下、つまり海中からの砲撃らしかった。
だが目の前の敵機に背を向けるわけにはいかない。アルトは魔力推進へと全換装された高機動スラスターで機体を上下左右ランダムに振る。
現在VF-25のOT『ISC(イナーシャ・ストア・コンバータ。慣性エネルギーを時空エネルギーに還元蓄積、これによりパイロットにかかる重力加速度を最大27.5Gまでを一定時間無力化する)』とEXギアシステム、そしてミッドチルダ由来の重力制御装置(デバイスに内蔵。この場ではパイロットにかかる重力加速度の相殺に使用する)によってVF-25は一定時間ならば、無人機レベルの機動が可能となっていた。
そんなゴーストもびっくりな機動で続く第2、第3射を回避しながらVF-1に肉薄する。
そのうち友軍への誤射を恐れたのか狙撃が止んだ。
目の前のVF-1も覚悟を決めたようだ。そのままバトロイドでこちらに突撃してくる。

「よし、来い!」

アルトは叫ぶと自身もバトロイドに可変。左腕に装備された防弾シールドからアサルトナイフの柄を抜き放ち突撃する。
勝負は一瞬で決した。
VF-1はVF-11の『GU-15 30mm多目的ガンポッド』を元にしたガンポッドから魔力刃の銃剣を生成し突撃してくる。しかしアルトは突き出された敵のガンポッドを紙一重で左腕の防弾シールドによって上に受け流す。
そして無防備となったコックピットのある胴体を斬りつけた。魔力刃となっているアサルトナイフは確実に相手の戦闘力を奪い、無力化した。
友軍機が撃墜されたため海中からの狙撃が再開された。しかしアルトはそれらを難なくかわす。
当たらない事に業を煮やしたのだろう。敵機が海中から出て来た。
今度の機体はカナード翼が特徴的なVF-11『サンダーボルト』だ。しかし装備されたそのライフルは極めて長大であり、形状はVF-25Gのライフルと寸分の違いもない。
本来重力圏内でそのような重量物を装備すればエンジン出力の大半を持っていかれるはずだが、その動きは俊敏だった。その理由としてはVF-1と同様の熱核バーストエンジンへの換装や、ミッドチルダの魔法技術によってはるかに用途の拡大したOT改『アクティブ空力制御システム』などの新技術の導入などが挙げられる。
それらの機体の改良がこのような重装備を可能たらしめていた。
両機とも低空、それも至近にいたためミサイルは使えない。勝負はガンポッドか近接格闘で着くはずだ。
両者はファイターでヘッドオン(正面から相対)、互いにガンポッドまたはライフルで牽制し合いながら接近する。そして定石通りVF-11は激突寸前にバトロイドに可変し、ピンポイントバリアパンチを放ってくる。
速度の乗ったそれはほぼ必中のはずだったが、アルトの方が1枚上手だった。
当たる寸前にガウォークに可変したVF-25は翼のフラップ(主翼後縁にある小翼。高揚力装置)、スポイラー(主翼上面の稼動板。揚力を減少し抗力を増加させる)を全開。その結果翼の空気抵抗が増大して失速し、VF-11の懐に労せず回り込んで、それの腹にガンポッドの一斉射を叩き込んだ。

(*)

『サジタリウス2の撃墜を確認。サジタリウス小隊、演習を終了する』

撃墜と同時に通信機から渋いが聞き取りやすいいい声。
成層圏で〝演習〟を管理していたAWACS(エアボーン・ワーニング・アンド・コントロール・システム。空中警戒管制システム)、M級レーダー護衛艦改『ホークアイ』だ。
これは元々本局で運用されていた艦である。しかし以前の教導隊の襲撃事件を察知できなかった教訓からミッドチルダ本土のレーダーシステムと航空部隊の指揮管制能力向上のために地上部隊が老朽化から廃艦寸前だったこの艦を本局から払い下げてもらい、反応炉、OTM『時空変動レーダー』、スーパー量子コンピューターと6室にも渡る大型管制所を増設。加えて100人以上の管制員を乗せ、地上部隊の全ての航空部隊の監視と随時の管制を行っている。
艦船のため補給次第で後続能力は無限大であり、転送魔法によって人員の行き来は簡単。
ミッドチルダ全土を24時間見渡すまさしく鷹の目であった。

「サンキュー、ホークアイ」

アルトが応える。
終了の合図とともに、先ほど撃墜した2機がやってきてVF-25と並進を始める。2機ともペイントでぐしゃぐしゃだ。

『隊長、強すぎっすよぅ~』

右側を並走する、管理局の国籍表示マークを着けたVF-1B(性能向上型)『ワルキューレ』から泣きつくような声がする。
彼はアルトの指揮するサジタリウス小隊の3番機、天城義雄三等空尉だ。

「しかしお前らも2週間前、その機体に初めて乗った時よりは上手くなってるぞ。海中からの狙撃は危なかったな・・・・・・考えたのはおまえか?さくら?」

左側を並進する2番機、VF-11G(狙撃特化型仕様)『サンダーホーク』に呼びかける。

『はい。でも水中で弾道が乱れて、なかなか大変だったです』

そう応えるのはこの世界初の女性バルキリー乗りになった工藤さくら三等空尉だ。

「砲弾に魔力を纏わせて弾道と威力を保つとはよく考えてある。あとは少し連射速度を遅くしてよく狙った方がいい。少し急ぎ過ぎてる。・・・・・・いや、そもそも次があると思うな。狙撃は最初の1発目が肝心だからな」

『はい!了解しました!』

彼女はバトロイドに可変、それを使って器用に敬礼した。

(*)

その後3機は基地へと向かった。
彼らの基地はクラナガンから200キロ離れた場所に位置している。しかしアルトはある理由のため、コースを大幅にずらした。
海岸線を目視するとモニターで拡大する。
果たして拡大されたカメラ映像には六課の訓練場が写っていた。どうやら今は市街地戦の訓練らしい。
スバルのウィングロードが綺麗な螺旋模様を描いて上昇していき、ホログラムのガジェットを撃破していく。
また、比較的高いビルに陣取り支援射撃するティアナや覚醒したフリードリヒに乗ったキャロ、エリオの姿も確認できる。
なのはも忙しく指示を発していて元気そうだ。

「今日も六課は平常運転だ」

アルトは安心して基地への帰途についた。

(*)

試作航空中隊の基地はまだ作りかけで、着工から1週間しか経っていない。そのため予定されている格納庫は15棟だが、まだ3棟しか完成していなかった。
だがアルトはそれがいいと思っていた。
今11棟目と12棟目で骨組みが組まれているが、組み立てているのはクレーンに代表される重機ではなく、2期生操るVFー1A(初期量産型)だ。
これは2期生達がバトロイドの操作に慣れる目的で行われていて、訓練としては最適だ。また、精巧なバルキリーのマニピュレーターは作業効率を格段に上げていた。
戦闘用のVF-1は第2次生産のB型までで、A型,B型合わせても50数機のみしか生産されていない。しかし製作委任企業である『三菱ボーイング社』とその傘下の中小企業の生産ラインは現在もフル稼働を続けている。それはこのシリーズを民間用デチューン機『VF-1C』としてこの第1管理世界内だけで販売が行われているからだ。
C型の主な変更点としては4つ。

  • 製作コストの安い第1世代型低出力熱核タービンエンジンへの換装。
  • MMリアクター(小型魔力炉)を積まない。
  • 第3世代型エネルギー転換装甲を通常合金に。(無論各形態で工作機械としてまともに使えるレベルには強力な合金である)
  • 各種オーバーテクノロジーをできうる限り現代レベルの既存の機材に換装。

また、各種武装が取り除かれていることは言うまでもない。
これは利潤を目的とする企業には巨額になった生産設備を最大利用、無駄にしないためには必要なことであり、どうしても避けられない事だった。
そして管理局としても生産コストの低下、予備パーツの供給問題。さらにはバルキリーが活躍する報道(特に重機の入れない場所での災害救助や海難救助、工事現場など)によって世論の支持も強かったため、やむを得ぬとして黙認していた。
すでに50数機が消防・レスキュー部隊、建設業者などに買い取られ、全国で使われていた。

閑話休題。

アルトは基地へのアプローチに入る前に回線を合わせて呼びかける。

「こちらサジタリウスリーダー、フロンティア航空基地管制塔どうぞ」

『こちらフロンティア航空基地管制塔』

「着陸許可を願う」

『現在、スカル小隊の出撃が遅れているため、上空待機願います』

「サジタリウスリーダー了解」

アルトは応えると、回線を閉じる。
どうやら機体の整備がまだ終わってないようだ。
周りは郊外と言えど平原ではなく田園だ。そのため降りる所は基地しかないが、アプローチを断念して横切った下界の基地は、ラッシュアワー時のハイウェイのような様相を呈していた。
基地の試作航空中隊―――――『フロンティア基地航空隊』には1期生達全員が移籍しており、それぞれに機体が配備されている。
構成は、最初にアルトとミシェルに2カ月間徹底的にしごかれた6人の生徒と実戦教官である2人を中心に小隊が組まれ、現在航空隊には予備機を含め56機(VF-1が47機、VF-11を8機、そしてVF-25が1機)、実戦部隊8小隊(3~4機編隊)と第2線を張る2期生部隊(25人、25機。機種は全てVF-1A)を擁している。
この可動機の多さに比して完成した格納庫が少ないことからこの大所帯の整備は難航を極めていた。
しかしレジアスの打ち出した衝撃的な記者会見から3ヶ月、設立から2カ月半。管理局初のバルキリー部隊であるフロンティア基地航空隊の働きぶりは好調だった。
敵出現の報を聞くやすぐさまスクランブルし、音速の数倍という速度を生かして全国レベルでそれを迎撃する(といっても出現率はクラナガンが最も高い)。ゴーストはあれ以来出現していないため、ガジェットⅡ型が主な敵だ。
初期の頃はクラナガンに基地があり、スクランブル慣れした六課に先を越されることが多かった。
しかし8小隊制の確立によってCAP(空中警戒待機。武装して拠点上空で待機し、有事の際は即座に敵を迎撃するという仕組み)が導入されると、六課とかち合うことが多くなった。
現在六課とは撃墜数で競う好敵手になっているためあまり仲が良くない。
しかしケンカにならないのは、ひとえにアルトとミシェルのフォローと今まで地上を守ってくれていた六課への尊敬。そして最も大きくランカ・リーの存在があった。
事実、彼女の超AMFで助かった者も少なくない。
そしてフロンティア基地航空隊設立以来空で管理局に殉職者は出ていない。(航空隊はこの3ヶ月で3機が撃墜されたが、パイロットはいずれも無事脱出)
何だかんだ言っても『ミッドチルダを守りたい』というところで一致する2部隊は、意識的にしろ無意識的にしろ、お互いの存在を心強く思っていた。
アルトが基地に再び目をやると、青に塗装されたVF-11SG(狙撃型指揮官機仕様)を先頭に3機ほどが飛び立つところだった。
スカル小隊はミシェルの部隊であった。
4機はCAPだった自分達と入れ違いに首都へと翼を翻して行く。
アルトは『そろそろ管制塔から通信が入るだろう』と思い、再び回線を開いた。

(*)

アルトが基地に帰還しようとしている頃、時空管理局本部ビルの1室では激論を戦わせていた。
クラナガン西部方面首都防空隊の長が額に筋を浮かべて怒鳴る。

「バルキリーなどというものに〝戦力〟として頼るなど、容認できるか!」

それにクラナガンの海岸線を守備範囲にもつ空戦魔導士連隊の連隊長が怒鳴り返す。

「そっちの部隊は半分近くがAランク魔導士だから言えるんだ!うちの部隊など六課と、フロンティア基地航空隊がなけれは既に全滅している!」

今度は広報担当者が

「そんなのだから『時空管理局が質量兵器を採用した』などと、次元世界から批判が出るんだ!」

と、各次元世界の世論調査の結果を記載した紙を叩いて怒鳴る。
これには地上部隊・技術開発研究所所長、田所が言い返した。

「バルキリーは魔導兵器だ!断じて質量兵器ではない!」

「詭弁だな」

「君たちは・・・・・・全てを魔導士に押しつける事が不可能になっている事がわからないのか!?」

ドン!

机が容赦なしにぶっ叩かれ、机に置かれている水に波紋を作らせれた。
そんな田所の激昂ぶりに、陸士西部方面隊(守備範囲は九州全体)を指揮する陸将が言い返す。

「現に我々は今までそうして来た。質が保てないのは君達の怠慢に過ぎない。責任をとりたまえ!」

時代は推移していくというのに、過去を持ち出し責任転嫁。
最早これは理性的な論戦ではなく、ヤジの飛ばし合いだった。
今日ここには地上部隊の各方面、各部門の長が集まっていて総勢80人を超えるが、今そこは2つの勢力に分断されていた。
1つはレジアス中将率いるバルキリー推進を主軸とする革新派。
もう1つは表向きには『管理局の理念を守る』という大義名分を掲げているが、実際には過去と既得権益に縛られている保守派だ。
この会議には特例として本局所属の機動六課部隊長、八神はやて二等陸佐も参加しており、推進を表明している。しかし悪いことは、保守派がほとんどの陸士部隊と一部の空戦魔導士部隊で形成され、推進派より圧倒的に多いことだ。
それは時勢を無視し、自らの利権のみを追求する蛮勇と言えよう。
はやては地上部隊という組織自体が腐敗を始めている事を改めて実感した。
そして議論とはお世辞にも呼べないヤジの飛ばし合いが90分を超えたとき、やっと会議が進む事件が起こる事となる。



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最終更新:2010年11月05日 20:36