『マクロスなのは』第11話その2
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所変わって2時間後の機動六課
通常勤務が終わり、連絡役という名目を利用(悪用?)して六課に遊びに来たアルトは、1週間ぶりに会うキャノピー越しではない彼女達と和やかな時を過ごしていた。
「―――――へぇ、フェイトが作詞、作曲をねぇ・・・・・・」
アルトの呟きにフェイトが頬を少し赤らめながら頷く。
なんでもランカの歌を聞く内に『わたしも何か歌で伝えたい!』という情熱に火が着いたフェイトは、その熱い衝動を抑えきれず遂にランカに弟子入りしたのだという。
「まぁ、弟子入りって言っても譜面の作り方とかを教えただけなんだけどね。でもフェイトさん飲み込み早くって」
ランカはそう言うといたずらっぽく舌を出した。どうやらもう免許皆伝の腕並みらしい。
「そんなことないよ。ランカがいなきゃ詩に合う音程とかなかなか出来ないし・・・・・・」
「でもフェイトさんひとりで導入と間奏を作ったじゃないですか!最初聞いた時はフェイトさんの歌声で一気に盛り上がった直後の間奏に身震いしました!」
ランカの絶賛ぶりにアルトも気になってくる。
「ほぅ~面白そうだな。もう曲はできたのか?」
「まぁ、だいたい。私とランカのオフの時間を使って書いてるからなかなか進まないんだけど・・・・・・なのははどう思うかな?」
恥ずかしそうに言うフェイトの問いに、ランカのいない時に聞いてもらっているというなのはは自信満々に応える。
「うん、全然大丈夫!あのまま完成すればランカちゃんとヒットチャート争えるよ!」
「なのは、そこまで持ち上げなくても・・・・・・」
そこにフェイトを〝困らせて遊ぶ〟モードに入ったらしいシグナムとヴィータが介入する。
「ならば私も楽しみにするとしよう」
「ああ、期待してるぜ」
「もぅ、2人とも~!」
そんな感じに困りまくる姿が可愛いフェイトを肴に周囲が遊んでいると、その日、定例会議だったというはやてが戻って来た。
「いよぉ、はやて。会議お疲れ」
持っていたコーヒーの紙コップを掲げて彼女を迎える。
「あぁ、アルトくんいらっしゃい。・・・・・・でもごめんな。アルトくんは六課には立ち入り禁止になってまうんや」
はやてが残念そうに言った。
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「え?はやてちゃん、どういうことですか!?」
寝耳に水と驚いたランカがイスから立ち上がってはやてに問い詰める。
自分はアルトと会うことに問題がないという話だし、ここの人達が好きだから六課に残った。しかしこれでは話が違う。
ランカはイノセントであっても愚かではない。いざいざとなれば管理局の上層部に掛け合って六課を〝再編〟する事だって可能なほどの人脈を形成していた。
彼女が本局の高官に一声掛ければそれこそ部隊長であるはやての首を吹き飛ばすこともできるはずだった。
「それがな、今度アルトくん達とは〝敵対〟関係になることになったんや」
自分を含め絶句する一同に、はやては会議場で起こったことを話した。
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「―――――元々バルキリーなんてものが、魔導士より使えるはずがないではないか」
保守派の1人が滑らせたこの一言に、今まで沈黙を守っていたレジアスが突然立ち上がる。
「・・・・・・じゃあ、やってみるか?」
その一言に無益な議論を続けていた場が静まりかえる。
「来週には地上部隊の総火演(総合火力演習)が予定されている。そこの項目に『バルキリー VS 空戦魔導士部隊』という項目を作れば可能だ」
総合火力演習とは、空戦魔導士部隊のアクロバットや参加部隊の一斉砲撃などに代表される一大デモンストレーションであり、毎年行われる地上部隊の大イベントだ。
予算の影響から年々縮小傾向にあったが、今年のそれは過去最大級のものにすべく準備が着々と進んでいた。
「そこまで魔導士部隊に自信のあるなら、ここではっきりしようではないか」
その提案に保守派は一様に青ざめる。しかし否定すれば自信がない事になるため、保守側は何一つ反論出来なかった。
結局レジアスの提案はすんなり通り、程なく会議は終了した。
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「レジアス中将、本当にいいのですか?」
はやてが彼に問う。
「わたしも知りたくなったのだ。どっちが強いのかをな。・・・・・・そういえば君達六課とは敵同士になるわけか?」
「はい、そうなります」
「なら心配は無用だ。わたしはどちらが勝っても嬉しいと思うだろう」
「!」
直後レジアスは優しいおじさんの顔から厳しい上官のそれへと変わる。
「八神部隊長、全力でかかってきたまえ」
彼の覚悟を感じたはやては、最敬礼した。
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―――――と、いうわけで総合火力演習でバルキリー VS 空戦魔導士部隊の大空戦演習を行うこと。
それはお互いのメンツと、次期地上部隊航空戦力主力の座を掛けた全力全開の真剣勝負になるであろうことなどだ。
「つまり、立ち入り禁止ってのは対バルキリー戦の戦略を練るから・・・・・・ってことか」
アルトの確認にはやては頷く。
「ごめんな」
しかし謝る彼女の顔には罪悪感がない。
(何か企んでる・・・・・・?)
いぶかしむアルトに、はやては口を開く。
「・・・・・・でな、教えて欲しいんや。バルキリーとの戦い方」
彼女は不敵に微笑み、アルトに詰め寄る。
周囲のなのはやフェイト達も知らないうちに念話で買収されていたらしい。『気がすすまないが仕方ないか』という顔をしつつ、後(あと)ず退(さ)る自分の退路を塞いできた。
一方ランカはこれが一時的なものとわかったことで安心し、こちらの〝状況〟に気づいていないようだった。
四面楚歌の早乙女アルトは両手を軽く上げ、盛大にため息をついた。
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1週間後 フロンティア航空基地
すでに総合火力演習はスタートし、2期生の駆るVF-1A部隊がすでに会場でのアクロバットを終えて帰還。武装の装備をしている。彼ら2期生は、演習中の防空任務に編入され、演習には参加しない。
参加するのは1期生達全員、そしてアルトとミシェルの合計25機。
内訳はVF-11のS型(指揮官機仕様)が6機。
G型(狙撃特化型仕様)1機(工藤さくら機)。
SG型(狙撃型指揮官機仕様)1機(ミハエル・ブラン機)。
VF-1B(性能向上型)、16機。
VF-25F、1機(早乙女アルト機)。
合計8小隊。これがバルキリー隊の全戦力だ。
ちなみにVF-11は試作が大幅に遅れて納入段階に入って間がないため、まだ各小隊に1機ずつという位置づけになっている。そのためアルトのサジタリウス小隊以外は小隊長機を務めていた。
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フロンティア基地航空隊パイロットの全員がブリーフィングルームに集まっており、最終確認が行われていた。
1期生達の顔には緊張のスパイスが効いている。自分達の勝敗で後ろに座る後輩の進退が決まるのだ。緊張は一入(ひとしお)ではないだろう。
「諸君、ついに我々が連中(空戦魔導士部隊)に一泡吹かせてやる機会がきた。諸君は高い志を持ちながら、リンカーコアの出力不足によって元隊から戦力外通告された者がほとんどだと思う。しかし我々はバルキリーという新たな翼の元に転生した不死鳥だ!諸君の日頃の努力が実を結べば、連中など手玉にとれると私は信じて疑わない。各員の健闘を期待する」
いまやフロンティア航空基地の副司令となったミラード・ウィラン二等空佐の激励が基地のブリーフィングルームに木霊した。
そして今度は彼の後ろに控えていた航空参謀が演習のルールを再確認する。
- 演習空域は旧市街(廃棄都市)上空を中心とする50キロメートル×50キロメートル。
- 武装は模擬弾、または非殺傷(破壊)設定による攻撃魔法。撃墜判定後は、即座に演習空域を離脱すること。
- 撃墜判定は中立のAWACS『ホークアイ』が行い、決定には必ず従うこと。
- 速度制限はなく、リミッターによる魔力限定もなし。ただし高度は通常魔導士の限界高度である15000メートル以下。
- 時間制限は1時間。
参謀の説明が終わり、最後に基地司令を兼任するレジアス中将にバトンが渡った。彼は皆を前に直立して一言。
「行って連中の鼻っ柱をへし折ってこい!以上、解散!」
その単純明快な激励に一同拍手を送り、各々のペースで自らの愛機に向かっていく。
「勝ったらみんなで盛大に宴会しようぜ」
「おっ、それいいな!」
「俺カニ!」
「オイラは焼き肉がいいな~」
「僕も僕も!」
「よし、俺が奢ってやる!」
「「やったー!」」
1期生達がはしゃいでいる。こうやって無駄にでも騒がねば落ち着けないのだろう。
アルトは果たして六課か基地か、どちらの戦勝パーティーに出られるだろうか?と思案した。
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演習空域
そこはクラナガンから50キロ以上離れた都市跡上空にあり、下界にはミッドチルダで起こった100年近く前の戦争で無人となった都市が存在する。
その頃は質量兵器が縦横無尽に使われ、凄惨を極めたという。
皮肉な事に、今その上空には質量兵器の申し子たるバルキリーが編隊を組み飛行していた。
『こちら『ホークアイ』。フロンティア基地航空隊は演習開始までその場で待機せよ』
『フロンティアリーダー了解』
通信機からホークアイと、この航空隊の最高位になったミシェルの声が聞こえる。
アルトはそのやりとりを尻目に、下界の光景に目を奪われていた。
バルキリーのモニターを通して映し出されるのは現在の首都と同じ・・・・・・いや、それに数倍するであろう規模を持つ街並みだ。
かつてクラナガンより膨大な人口を抱えていたであろう街は今、ゴーストタウンと化していた。
人の手が入らなくなって100年もの年月を経た街は、ミッドチルダの四季という(人間にとって)すばらしい、それでいて建物にとっては過酷な環境にさらされボロボロになっていた。
鉄筋コンクリート製の家やビルは内部の鉄筋が酸化し(さび)てすべて倒壊。もはや原型もとどめてはおらず、土への帰還を果たしている。
しかし現代では模倣すらできないロストテクノロジーで作られた建物は未だ100年前の繁栄を今に伝えている。
現在の時空管理局本部ビルに勝るとも劣らない数百階クラスのビル群が建ち並ぶ市街中央。
しかしそこはガラスの摩天楼では決してない。
ビルの壁面をつる草が垂直に伸び、ビル全体を緑に〝塗装〟している。
市街全体も緑という名の勇敢な開拓者に蹂躙され、ドット絵であれば緑9、灰色1といった割合でも十分だろう。
ミッドチルダの歴史書によれば、ここは現在の首都『クラナガン』を副都心とする首都だったそうだ。
そのためここは当時の戦争相手『ベルカ』の攻撃を受けたのだ。
この災厄はミッドチルダの緻密な防空網を抜けたたった1機の爆撃機によって成し遂げられた。投下された爆弾は空中で炸裂して、ラッシュアワー時のここを襲った。
その爆弾は反応弾(物質・反物質対消滅弾頭)のような無差別大量破壊兵器でなく、建物を壊さず生物のみを効果的に殺せる放射線兵器だったようだ。
先の書によると炸裂の瞬間半径3キロにいた人々は致死量のガンマ線等の放射線を浴びて即死。それより遠くにいた人々にも、放射線病が蔓延し、1週間以内にその98%が血反吐を吐いて死に絶えたという。
しかし幸運があった。その爆弾が町にあった核分裂発電所の近くで炸裂しなかったことだ。
当時はエネルギー問題から臨界量(核反応が連鎖可能な量)まで核燃料を詰めていたため、もし近くで炸裂していたら中性子の急激な増大によって反応が加速され、減速材(水。H2O)が間に合わぬ程に核分裂が促進。クラナガンをも巻き込むほどの核爆発が発生していた所だった。
しかし、それでもこの町の人々(歴史書によれば3400万人と言われている)が死んだことには変わりない。
アルトは目を閉じて死者達を黙祷し、帰ったら母のと一緒にもう1本線香を焚こうと決意する。そして急速に減ってきた友軍の無駄話に、時計を見てみる。
1355時
ブリーフィングによれば演習開始は5分後だ。
レーダーには前方40キロ先に約50の光点を捉えている。
このレーダーはオーバーテクノロジー系列のフォールド式でも、通常の電波式でもない。
魔導士達はほとんど金属製品を装備していないため、どちらの方式も速度が違うだけで、反射を利用したレーダーは彼らを探知できないのだ。
今装備されているレーダーは、魔力感応式で放出魔力量によって色が緑から赤になったりする優れ物だ。
元々AWACS用に開発されたパッシブレーダーだが、演習が決まってすぐバルキリー隊全てに搭載されている。
光点の色から言っておそらくシングルA~AAAクラスの魔導士部隊のようだ。リミッターは解除してあるはずなので、六課の隊長、副隊長陣の5人はいないらしい。
『フロンティア基地航空隊のみなさん』
突然通信機からはやての声。通信機の周波数は航空隊専用から変えていない。どうやらホークアイとミシェルを経由して送られているらしい。
(だが、こんな時になにを?)
考えている間もその凛とした声は続ける。
『わたしは本演習中、全空戦魔導士部隊を預かり、指揮する八神はやて二佐です。私たちのトップはあなた方の力を過小評価しているかもしれません。しかし、共に戦ってきた私たちはあなた方の強さを知っています。だから侮りも油断もしません。我々は、全力を持ってあなた方に〝挑戦〟します!』
これは魔導士部隊からバルキリー隊への挑戦状だった。
その粋にミシェルも心揺さぶられたのか、回線が開かれる。
『こちらはフロンティア基地航空隊中隊長ミハエル・ブラン三等空佐だ。我々は今まで地上の空を守ってきてくれた貴官らに対し、最大限の敬意を持って、全力で挑戦を受けて立つ!』
『誠意ある返答に感謝します。そちらにシオリ空佐の加護があらんことを。終わり』
『そちらにも加護があることを祈る。アウト』
殉職した宮島栞二等空佐(3階級特進した)は彼女の願い通り、天から皆を見守ってくれる天使として管理局内で神格化されていた。
再び時計を見る。開始30秒前だ。
「副隊長から全機、開始と同時に敵に中距離ハイマニューバミサイルを撃ち込む。重複は1人3つまでだ」
全機から了解の応答。
時計がカウントダウンを続ける。
・・・・・・3、2、1、0!
「ファイア!!」
掛け声と共に全機・・・・・・25機から4発ずつ中距離ハイマニューバミサイルが放たれる。
かくして栞空佐に続く、地上の空の守護神を決める戦いは幕を開けた。
次回予告
遂に始まった魔導士とバルキリーの直接対決。
スペック上、絶望的に不利な魔導士が採った作戦とは─────
次回マクロスなのは第12話『演習空域』
「もう嫌だぁ!こんな鉄の棺桶の中で死ぬなんてぇーーー!」
最終更新:2010年11月12日 22:51