…今回ミッドチルダに起きた未曽有の災厄、それは二人の天才の手によって齎された事件であった。
…世界は崩壊し全てが次元振に飲み込まれて消え去る、人々は恐怖し絶望していた。
…だが此処に世界を救わんと立ち向かう一人の女性がいた。
―――その女性の名は…高町なのは、管理局が誇るエースオブエースである―――
リリカルプロファイル
最終話 後継
今回の事件、後に人々は二人の首謀者の頭文字をとりJ・L事件、または神々の黄昏ラグナロク大戦と呼び、
ミッドチルダの歴史に深く刻まれ未来永劫、忘れ去られる事の無い事件となった。
また首謀者の一人と対峙し、文字通り命を懸けて戦ったなのはも、英雄として崇められその名を歴史に刻まれる事になった。
…時はラグナロク大戦が終わって間もない頃、本局は避難した住民をミッドチルダに解放、
また同時にミッドチルダの復興を宣言するが人々からはあまり賞賛される事は無かった。
何故ならば大戦中の本局の対応が余りにも保守的であり、また住民への対策・対応も杜撰であった為だ。
其処で本局は失った信用を取り戻す為、更には本局への憂いを払拭する為に今回の事件の功労者を表彰する事を決定、
そして地上本部所属機動六課部隊長八神はやて二佐、本局所属クロノ・ハラオウン提督の両名を呼び出し
はやては二階級特進の少将、クロノは今まで不在であった大将を与え大いに賞賛した、しかし二人の表情からは喜びの色を読みとる事は出来なかった。
更に本局は今回の実績を踏まえ、はやてを本局に戻すという試みを行ってみたのだが、
はやてはミッド復興並びに地上本部の立て直しを優先と考え受け入れを拒否、引き続き地上本部に残る事を選んだ。
一方でクロノは新たに得た地位を利用してある法案を提出する、その名も魔導師及び魔法技術独占禁止法である。
今回の事件で魔導師という存在を改めて考えさせられる事となり、また魔法技術の独占が世界を崩壊する引き金になるきっかけの一つと判断、
魔導師と魔法技術更にロストロギアの集約を防ぐ一つの抑止力として、この法案が考え出されたのだ。
その内容とはAAランク以上の魔導師に対して能力リミッターを義務つけ、更に能力リミッター前つまりは元々のランクを基準とした規定数以上魔導師の保有の禁止、
またアルカンシェルや収束技術などの一部の魔法技術を禁止すると言うものであった。
結果、この法案は受理され管理局並びに聖王教会はこの法により幾つかに分断、管理機構または準ずる会社などが設立する事になった。
だが、そうなると管理局を含め魔導師や魔法技術などの管理状態を調査する組織が必要となり、
クロノは魔導師や魔法技術並びにロストロギアに関する調査機関を設立、
メンバーには聖王教会からアリューゼを管理局からはヴェロッサを抜擢し、二人を中心として
シグナム、シャッハ、ヴァイス、アルト、ルキノなどを組み込み更に民間からの人材も採用した。
一方で今回の法案によって設立した機構や会社または調査機関なども含め、
上層部の殆どが管理局並びに聖王教会で構成されている為に、一部マスコミメディアから天下り先との痛烈批判を受けるが、
調査機関は後の功績や対応などにより批判を払拭、寧ろ周囲から高評価を受ける事となっていった。
一方機動六課はミッドチルダ復興並びに新たな法案などによって解散、それぞれの別の道を歩む事となり
スバルは本人の夢であった特別救助隊に配属、ミッドチルダ復興に一躍を担っていた。
ティアナはフェイトの抜擢を受け執務官補佐として部下になり、自分の夢を叶える為に管理局本局に滞在する事となった。
一方でキャロは元にいた自然保護隊に戻りエリオもまた同じ自然保護隊へと希望配属、キャロと共に竜騎士となって密猟者の摘発や自然保護業務に勤めた。
ヴィータは現役を引退、そして元々から持つ戦技教官の資格により、管理局を退社後教官として民間の訓練学校に就職する事となる。
…だが彼女の訓練は熾烈を極め“赤鬼の教官”と呼ばれる事になるが、
同時に彼女に指導された者は例外無く優秀である為、“エースを育てる者”と言う二つの名で呼ばれる事になる。
続いてシャマルであるが大戦後すぐ管理局を退社、聖王教会がかつて保有していた聖王医療院に再就職し
カウンセラーとして大戦中に受けた住民や局員などのトラウマのケアを承る事となり、
ザフィーラは聖王教会に戻りカリムの思いを受け止め、今日も小犬となって膝の上で過ごしていた。
一方でフェイトは大戦後のショックにより仕事に手が付かず暫く籠もる毎日が続いていたが、
…このままではいけない、こんな姿を見せれば怒られてしまうだろう…そう考えを改める事で
踏ん切りが付いたのか現役に復帰、早速ティアナを抜擢して執務官としての仕事を黙々とこなす日々を送っていた。
続いて今回の事件に関わった者達の処分である、今回逮捕されたナンバーズの内、トーレとセッテのみ更正プログラムを拒否、
更に捜査協力による刑期短縮も拒否した。
理由として共に「敗者には敗者なりの矜持がある」と言うものであった。
しかもトーレにおいては戦闘で失った両腕の治療すら頑として拒否しており、
結果的に妹であるセッテに自分の身の回りの世話をして貰う事となった。
だがセッテもまたトーレの身の回りの世話を率先して行っていた、理由として今まで姉であるトーレに目をかけてくれた為、
今度は自分が恩返しと言う意味で世話をするとの事であった。
一方で他のナンバーズは姉であるセインとディエチがまとめ役となって更正プログラムを承諾、
かつての“姉”であったギンガがナンバーズの指導員を買って出た。
その後、ギンガが指導員を請け負った為か更正プログラムを無事に完了、ナンバーズはそれぞれの道を歩む事となる。
セインは一度聖王教会に配属したが、後の妹達の行動を再確認して充分に世間に馴染みまた、自立したと思えるようになり
踏ん切りが付いたのか聖王教会を離脱、今は一人の“人間”として生活を送っている。
…とは言え数年後、彼女に身に途轍もない大きな転機が起きると言うのはまた別の話である…
次にオットーとディードは更正後同じく聖王教会に配属、カリムが保護責任者として名乗りを上げ、聖王教会で幾度かの事件仕事をこなしていく事となる。
続いてウェンディであるが、更正後は一度聖王教会に配属するが保護責任者で父でもあるゲンヤのアドバイスもあって地上本部に移籍、
スバルと同じ特別救助隊に配属が決まり暫く滞在していたが、またもや異動、本局の執務官しかもフェイトの部下として世界を飛び回る事となった。
そしてウェンディは相棒にティアナを希望、二人の相性はよい為かそれからは長年のパートナーとして様々な事件を解決する事となる。
…その事に対して姉であるスバルは複雑な心境を浮かべていたようであるが……
さて…そして残りのナンバーズのノーヴェ、ディエチ……そしてチンクのその後であるが、
彼女チンクは運ばれてすぐに様態を調べられ、結果スバルの振動エネルギーを含んだ攻撃をその身に浴びた為か
リンカーコアとレリックが破壊されていたがそれ以外は異常が無いと、この時点では判断された。
そして治療後眠りについたままのチンクを暫くナンバーズのノーヴェが付き添っていたのだがその後に目を覚まし、
この時丁度よく周囲には見舞いに来たナンバーズがおり、安堵の表情を浮かべるがすぐに豹変する、
何故ならばチンクは自分の名前以外は一切記憶を持ち合わせていなかったからだ、恐らくはスバルの攻撃による後遺症であろう。
一方でこの結果を耳にしたゲンヤは、自分の娘によって起こされた悲劇を償うかのようにチンクの保護責任者を買って出るがノーヴェが拒否、
寧ろノーヴェがチンクを自分の“妹”として面倒見ると宣言した、今までチンクから受けた恩を返す為のようである。
だが記憶を無くしてもチンクの罪は当然消えることは無い、するとノーヴェはチンクの分まで任務を全うとすると宣言しディエチもまた賛同、
二人でチンクの分まで刑期短縮を行い、数年後三人は“姉妹”として一緒に暮らす事となったのだった。
一方ルーテシアであるが、年齢・経歴を考慮して死罪は免れたが大量に人々を殺害した事実は揺るが無い為、当然の如く禁固数百年の刑を処される事となった。
だがクロノ大将が管理局に協力すれば刑を減らす事が出来る制度を持ち掛け暫く考えた後に了承、
それ以降管理局に身を捧げる事となった、だが本局には母であるメガーヌ、無限書庫では義理の姉メルティーナも会える為余り苦では無さそうであった。
…今回の法案の成立によって管理局、特に本局の体制も変わり特に変わったところと言えば無限書庫が独立の機関となった事である。
無限書庫の司書長を勤めるユーノはこの法案をきっかけに、以前から暖めていた独立機関案を成立させたのだ。
その為、民間企業となった無限書庫の情報を提供してもらう際にはそれ相応の金額が必要となり、また危険な情報や魔法技術を封印するという役職も担っていた。
…数年後、無限書庫の存在は世に知れ渡りその後超法規的処置を受け、唯一魔法技術の集約を許された機関となる。
だが無論、世論は目を光らせており、調査機構にもまた目を付けられている為複雑な心境のようであるが…
……大戦から十三年後の春、此処は第97管理外世界に存在する海鳴町、中心部はビルが建ち並ぶが周辺は海や山に囲まれ自然が多く残されていた町である。
そんな町の高台には霊園があり、周囲は桜が咲き乱れ目の前には海を覗かせており、大小様々な墓石が連なるその場所で一つの墓石に目が向けられる。
墓石には高町家と名が刻まれており、側面には葬られた人の名と日が刻まれてあり、桜を模した花と線香が手向けられていた。
その墓石の前に一人の女性が祈りを捧げていた、服装は桜色のシャツに白を基調としたパーカーを羽織り
首元には赤く丸い水晶が付いたネックレス、下は黒いジーパンで髪の両端を紺のリボンで結われていた。
女性はゆっくりと瞳を開くと翡翠と紅玉のオッドアイが特徴的で、見る者を惹き付ける印象が見受けられた。
彼女の名は高町ヴィヴィオ一等空尉、此処に眠る高町なのはの娘で管理局が誇るエースオブエースである。
「今年も来たよ…母さん」
墓を見つめながらそう呟くヴィヴィオ、毎年この時期になると必ず休暇を取り墓参りをしている、何故なら今日はなのはの命日、奇しくも地球では桜が満開に咲く時期である。
今ヴィヴィオの年齢は母と同じ十九歳、管理局の地位も同じ位置まで上り詰めている、母と少し違うとするならば教官資格を持っていない程度であろう。
何故教官資格を手にしていないというと、母が護ったミッドチルダを自分の手で護りたいという強い意志があるからだ。
今から十三年前…母なのはは眠るようにして息を引き取った、現場にいた誰しもがミッドチルダを救った偉大な英雄の死を悔やんでいた。
その後、葬儀は身内のみで行い告別式会場はかつての機動六課隊舎にて執り行われミッドチルダ全土は悲しみに包まれた。
葬儀の翌日…外は雨で空も悲しみに暮れていた、葬儀の場にはユーノそしてヴィヴィオが参列しており、家族はなのはの早すぎる死に涙を流していた。
そしてユーノは父士郎の前に赴き一つの許しを乞う、それはヴィヴィオに高町の姓を名乗らせるというものだ。
…なのはの死後、ヴィヴィオの引き取り手の話になりフェイトが名乗り出ようとしたが、先にユーノが名乗りを上げた。
「自分が愛した女性が大切にしている存在〈ひと〉を守りたいんだ…」
その言葉は同情でも傲慢でも無い、ユーノ自身の本心でありヴィヴィオに目を向けるとヴィヴィオはじっとユーノの瞳を見つめる。
すると何故だかなのはの優しい微笑みがヴィヴィオの脳裏に映り、ユーノもまたなのはの強い意志をヴィヴィオの瞳から感じ取っていた。
「いいかな?ヴィヴィオ」
「うん……ユーノパパ」
自然に発したヴィヴィオの何気ない一言にユーノは大粒の涙を流しながらヴィヴィオを抱き抱え、ヴィヴィオもまたユーノに抱き抱えられながら大粒の涙をこぼしていた。
そしてヴィヴィオの影になのはの姿を見たユーノは、高町の姓を名乗らせる事を心に決め今に至るのである。
…ユーノの話に父士郎はヴィヴィオの瞳を見つめる、確かに其処には父が知るなのはの凛とした強い意志が滲んでいた。
「なのはの意志を引き継ぐ子か……」
士郎は微笑みを浮かべ優しくヴィヴィオの頭を撫でてやるとユーノの願いを了承、ヴィヴィオは高町の姓を引き継ぐ事となった。
それから暫くは無限書庫にてユーノと勉強をしていたのだが、ある時ヴィヴィオ自身が学校へ行く事を望み
ヴィヴィオの望みを聞き届けたユーノは手続きを済ませ聖王系列の学校ザンクト・ヒルデ魔法学校に進学、
中等部まで進み首席で卒業すると父であるユーノに相談を持ち掛ける。
それは母と同じ道を歩むと言うもので、最初はユーノは反対していた、何故なら母と同じ道と歩くと言う事は
結末も同じなのではないかという憂いがあったからだ。
だがヴィヴィオは母と同じく強い意志の塊、一度決めた事は頑として動かない為、結果的にユーノが折れる形で認め
そのままヴィータが所属する民間の訓練学校に入学、僅か三ヶ月で卒業を果たし管理局に入局、陸戦魔導師となった。
この時周囲はヴィヴィオの事を“英雄の遺児”と持ち上げていたが、当の本人はそんな言葉に耳を貸す事は一切なかった。
それからは空戦魔導師となって航空武装隊に異動、1039航空隊またの名をミッドチルダ首都航空隊に所属してからは
目まぐるしい戦果を挙げ一等空尉にまで上り詰め現在に至る。
「母さん、今日もミッドチルダは平和だよ」
母が護ったミッドチルダを今度は自分が護る、幼い頃そう心に決めた時には既に自分の道は開かれていた。
だが此処からは自分の足で歩まなければならない、だが覚悟はある…自分には母と同じ“不屈の心”があるのだから…
ヴィヴィオはなのはの墓の前で決意を改めていると、二つの気配に気が付く。
「あれ?ヴィヴィオちゃんやないか」
「あっ八神少将…それにフェイト執務官も」
其処に現れたのはひしゃくが入った手桶を携えた八神はやて少将と花束を携えたフェイト・T・ハラオウン執務官である。
彼女達もこの時期になると必ずお参りをしていた、かつての仲間として友人として……
ヴィヴィオは二人に向かって敬礼をすると、はやては休ませ二人は墓に近づき両手を合わせた。
「そう言えば…ユーノはいないの?」
「父は一仕事を終えたらすぐさま向かうと連絡がありました、それよりも二人はいいんですか?」
ヴィヴィオの心配をよそに二人は目を合わせると縦に首を振る。
あれからミッドチルダははやての監修の下、目まぐるしく復興が進み重要な箇所は既に完了したと、だがそれでも傷跡は深く残っているようではあるが…
一方多忙のフェイトであるが、かつての優秀な執務官補佐だった彼女が見事に自分の夢を実現させ、
今は彼女とその相棒と一緒に共同捜査を行っている為、暫くの間は彼女達に任せてあると答える。
「あれ?二人とも、久し振りだね」
「父さん?」
ヴィヴィオは振り返ると其処にはスーツ姿のユーノの姿があった、一仕事を終え息つく暇もなく此処に来た様子が垣間見えていた。
二人も軽く挨拶を交わすと親しげにユーノとの会話を楽しむ、毎年此処には来てはいるが三人が一挙に集うのは稀である為だ。
「それじゃ父さん、私先に行くね」
「ん?もういいのかい?」
「うん、私はもう済んだから…後は“四人”で楽しんでね」
そう言うと一礼して後にするヴィヴィオ、するとその場に優しい風が吹き桜の花びらが舞い散る、
まるでそれはヴィヴィオに「また逢おうね」っと手を振って送っているような――そんな印象を三人は受けていた。
場所は変わり此処はミッドチルダに存在する各世界と繋ぐ橋ターミナルの一角、地球から戻ってきたヴィヴィオは道なりを歩き進んでいた。
街並みはすっかり立ち直りむしろ復興前より賑やかとすら感じるほどである。
それもこれもミッドチルダの住人が復興に意欲を注ぎ込んだ結果なのかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると一枚の映画のポスターが目に入る、その映画は今から十年前に始まり今年で十周年になる作品である。
映画の名は006と言うスパイ映画で、主人公である006はある特殊能力で建物に侵入、情報活動を行い時にはターゲットを始末するといった内容である。
主演はあのセイン、彼女は今から約十年前に街でスカウトされエキストラで出演したのがきっかけで映画業界に入り
第三作品目にこの006の主役を勤め上げ数々の賞を受賞、現在はコメディからシリアスまで何でもこなせる実力派女優として名を馳せていた。
「まさかあのセインが…ね……」
今では誰もが知っていると言っても過言では無い程の女優に成長したセイン、人生何がきっかけ二なるか分からない…
そんな事を考えながらヴィヴィオは歩いているといつの間にやら、かつて存在していた地上本部に辿り着く。
今此処は平和公園として立て直され、公園中心には天に向かってレイジングハートを向けて構える巨大ななのはの像が佇んでおり、
待ち合わせなどに有効活用されていた。
今像の前には献花台が設けられており、台は一面花に覆われ英雄の人気を伺えた。
そんな光景を横目にやりつつ先に進み、噴水広場に辿り着くと設けられているベンチに座り天を仰ぐ。
今日は晴天、日差しも暖かく木々の葉が眩しく光を反射させヴィヴィオの目に突き刺さる。
ヴィヴィオは右手で光を遮り改めて平和である事を実感する、あれから小さな事件が幾つか起きてはいるが、
世界が滅亡する程の大きな事件は起きてはいなかった、皆あの大戦に生き残り二度と起こさないようそれぞれが努力した結果なのかもしれない。
「次は何処に行こうかな?」
特に予定は無かった、休暇の目的は既に済んでいる、取り敢えずヴィヴィオはその場から移動しようと立ち上がり一歩前に歩き出した瞬間、
左から小さな衝撃を受け目を向けると、其処には白を基調とした胸元にある赤いリボンが特徴的な服に白いスカート、
そして栗色の髪を左右の白いリボンで結っている十歳程の少女がしりもちを付いていた。
「大丈夫?」
「これくらい平気なの」
少女は差し伸べられたヴィヴィオの手には触れずに一人で立ち上がりスカートに付いた土を払いのける。
そんな少女の姿にヴィヴィオは目線を逢わせるようにしてしゃがみ込み頭を撫でた。
「強いのね…」
「そうなの!だってこんなことで泣いたら笑われちゃうの!!」
「お母さんに?」
「ううん、えいゆうになの!」
少女はそう言うとなのはの像を指差す、英雄なのはは転んだ程度では泣かない…どんなに辛くてもそれを見せないのが英雄なのはであると、
そして自分も英雄の名を貰った以上、転んでも泣かないと胸を張って少女は答えた。
「じゃあアナタの名前って…」
「なのはなの!」
そう自慢げに答えるなのは、その姿にヴィヴィオは微笑みを浮かべ、再度頭を撫でてやると照れ臭かったのかなのはは頬を染めながら走り出し、
ヴィヴィオと距離をあけると振り向いて手を振り、ヴィヴィオもまた手を振って答えるとなのはは笑みをこぼして走り去っていった。
あの大戦から先、自分の子になのはの名をつける事は珍しくは無い、管理局にも何人かなのははいる。
恐らくあの子も英雄なのはのような“不屈の心”を持って生きて欲しいという両親の願いが込められているのだろう。
ヴィヴィオは含み笑いを浮かべ公園を後に先に進む、次に向かった場所は元機動六課が存在していた土地、今は臨海公園として立て直されていた。
そしてそのまま海岸線まで足を運び海と分かつ柵に手を伸ばす、潮風が心地良く髪を揺らし風景を演出していると、ふと海に浮かぶ建物に目を向ける。
はやてが考案した新たな地上本部、管理局ミッドチルダ臨海本部である、大戦前地上本部が崩壊した際周辺住民や街中も被害を被った、
威厳を保つ…それだけの為に区画の中心に建設するのであれば周辺の安全を考慮した方がよいと臨海に建設する事となった。
だがその代わりに交通機関が今までと異なる為に迅速な対応が難しくなったが、暫くして交通機関においても新たな滑走や線路などを設け迅速な対応が可能となった。
しかし一番こだわり、また力を注いだのは臨海本部に設けられた食堂のメニューである。
和洋折衷は勿論の事ミッド・ベルカ、更には他の次元世界の料理すら取り込み、まるでバイキングを思わせる程の品揃えとなった。
そんなはやて自慢の臨海本部を背にして海岸線を歩くヴィヴィオ、設けられたベンチでは若い二人組が愛を語っている姿を横目にしながら臨海公園を後にする。
続いて向かった先は快速レールウェイで北に一時間ほどで辿り着く郊外、様々な家が建て並ぶこの地にはかつてヴィヴィオが通っていた学校
ザンクト・ヒルデ魔法学校があり、卒業して久しく、せっかくの休暇なので母校でも見に来たのである。
今現在学校は春休み中のようで、人気は無く静かな雰囲気を醸し出していた。
ヴィヴィオは学校の校門前にある許可申請所に赴き、見学の許可を貰いにいくと快く承諾、学校内を見学する事が出来るようになった。
「懐かしい…」
一通り校内を歩き巡り図書室に入ると昔より本が増えた印象を受けるヴィヴィオ。
昔はよく図書室で暇を潰していた、今でも本を読む事は日課となっており、彼女の部屋は本が溢れていた。
ヴィヴィオは一つの本に手を取り暫く本を読みふけっていた、暫くして読み終えると本を戻す。
すると―――
「失礼ですが…高町ヴィヴィオさんでいらっしゃいますか?」
「ハイ?」
振り返ると其処にはザンクト・ヒルデの制服を羽織り制服の胸元から白のシャツを覗かせ、青を基調としたズボンを履いたメガネの少年がいた。
ヴィヴィオは少年の問い掛けに頷いて答えると、少年は左手に持つ本の中表紙を見せる。
「管理局のエースオブエースに会えるとは光栄です、サイン貰ってもよろしいでしょうか?」
少年は年相応とは言えない程大人びた口調で話し懐からペンを取り出して頼み込むと、
ヴィヴィオは快く応じて本に自分のサインを書き、その本を渡すと小脇に抱えメガネに手を当て笑みを浮かべて感謝する少年。
「ありがとうございます、これは励みになる…」
「励み?」
「えぇ、そうです」
少年はメガネに手を当てたまま言葉を口にし始める、彼の夢は無限書庫の司書長になる事、
その為に知識を高め、またその為ならば努力を怠らない、しかも目標である司書長の娘でエースオブエースのサインを手に入れた。
これ以上の励みなど存在しない、そう少年は答え本を大事そうに左手で抱えていた。
「じゃあその為に学校へ休みなのに?」
「えぇ、近くに図書館や静かに勉強出来る場所が無いので…」
少年は肩を竦め両の手の平を返し首を傾げて答え、蛍光灯の光がメガネのレンズに反射し胡散臭さを演出していた。
一方でヴィヴィオは少年の話を聞き…自分もこれくらいの時に自分の道を決めたな…っと感傷に浸っていた。
そんなヴィヴィオの呆けた表情を目の当たりにした少年は、首を傾げ不思議そうに見上げていると、その目線に気が付き我を取り戻したヴィヴィオは少年に言葉をかける。
「そうなの…それじゃあ君が無限書庫の司書長になるのを応援しているよ」
「ありがとうございます、無限書庫に就職出来たらその時はよろしくお願いします」
少年は礼儀正しく挨拶を交わすと意気揚々にその場を立ち去る、一方で少年の後ろ姿を見たヴィヴィオもまた図書室を抜け学校を後にした。
…暫く道なりを進みレールウェイ近くの人通りの少ない路地を歩いていると背後に二つの気配を感じたヴィヴィオ。
しかしヴィヴィオはその場で振り返る事無く、は背後に感じる二つの気配に声をかけた。
「オットーとディードね…」
「休暇中に申し訳ありません…陛下」
其処には部下であるオットーとディードがいた、二人は聖王教会に配属しているのだが、
ヴィヴィオが管理局に入る事が決定すると、二人は管理局に出向という形でヴィヴィオの下につき今も働いている。
二人はヴィヴィオの事を陛下と呼び最初の頃は嫌がっていたが、その内に慣れ始め今では自然に反応するまでに至った。
「…任務ね」
「ハイ」
ディードは返事すると内容の説明を始める、今から数十分前、此処から更に北に位置するベルカ領との中継地点を担う街、
其処にあるビルで火災が発生、すぐさまスバル率いる特別救助隊が対応し周囲の人々の避難を済ませたのだが、未だ火の勢いは止まらず燃え続けており、
現在懸命に消火作業に当たっているが人手が足りないのだという、其処で比較的現場に近いヴィヴィオに白羽の矢が立ったのだ。
「分かった、それじゃあ行こうか」
『了解です』
オットーとディードの合わさった返事を期にヴィヴィオは左ポケットから小さい水晶型のデバイスを取り出す。
セイクリッド・ハート通称クリスと呼ばれるシャーリーの手によって作られたデバイスである。
このデバイスはなのはの愛用のデバイスであるレイジングハートを模しており、
レイジングハート自体は機能不全により役を終えたが、情報のみが辛うじて残っていた為、
セイクリッド・ハートに情報を継がせる事により遠距離に対してはミッド式、接近戦に対してはベルカ式を使用するハイブリッドなデバイスとなったのだ。
因みにヴィヴィオの魔法適正はベルカ式で接近戦タイプではなく純粋魔力射出・放出タイプである。
それはさておきヴィヴィオはセイクリッド・ハートを起動させて上に羽織るコートは白く他は黒いバリアジャケットを纏い、
そして臨海本部に飛行の許可を貰うと、部下を引き連れ現場へと急行した。
―――今日もヴィヴィオは空を駆る、母が護ったミッドチルダの空を―――
―――母から受け継がれた意志“不屈の心”と共に……―――
リリカルプロファイル ―完―
最終更新:2010年02月26日 19:05