*
「わたし……最低だ……」
六課隊舎はそれなりに大きな建物で、敷地の大半を占領している上に四階建てになっているから巨大だ。
その屋上は当然広く、さらに幾つか突き出た室外機や小部屋のようなものによって半ばジャングル化していた。
そんな場所の隅っこにわざわざいるのは、わたしがカズマ君から逃げてきたからに他ならない。
「ごめん、なさい……ごめん……」
ずっと走ってきたわたし。子どもの頃から今までずっと、一直線に。けれどそれは、わたしが守られる立場で、何も考えなくて良かったから。
お兄ちゃんやお姉ちゃんが守ってくれた末っ子のわたし。でも、子どもが出来て初めて、わたしは守る側の難しさ、大変さを思い知った。
お兄ちゃんは家族を守るために小太刀二刀御神流を習った。お姉ちゃんは守られる側が嫌でお兄ちゃんと同じ道を進んだ。
でもそれは、並大抵の気持ちでじゃない。二人とも、全力で家族を守るために必死で指南を受けていた。
わたしはどうだろう。
末っ子のわたしは、やりたいことを好きにやってきたのかもしれない。抱えているものが何もないから、自分の体も顧みず無茶が出来たんだ。
もう、どうすればいいんだろう。全てを投げ出して、ヴィヴィオのためにだけ生きるべきなんだろうか。それとも――――
「フェイトちゃん……はやてちゃん……」
体操座りにした膝に頭を埋める。柔らかな温もりは、しかし何の助けにもなりはしなかった。
そのとき、警報は鳴った。
リリカル×ライダー
第十八話『なのは』
「――はやて!」
あらかたなのはのことについて打ち明けたちょうどその時に鳴り出した警報で、俺もはやても慌てて立ち上がっていた。
「ありがと、カズマ君。そのことは任せて――今はそれどころやないし」
はやてが苦笑する。こちらも重要な案件であるが、彼女は部隊長としての立場もある。放り出すことはできない。
それが分かっているからこそ、俺も何も言わなかった。
「取り敢えず司令室に行かんとな」
はやてと共に今居た隊長室を飛び出す。最近のスカリエッティは活発だ、今回もそうかもしれない。
そして俺は感じていた。アンデッドが活発に活動している、その兆しを。
無機質な廊下を瞬く間に走り抜けて、ロングアーチスタッフが常駐する司令室に駆け込んだ。
「状況は!?」
はやてが表情を引き締める。一瞬で切り替わったその瞳は、確かに部隊長に相応しいものへと変わっていた。
スタッフの一人であり、副隊長を務めるグリフィスが走り寄って説明する。俺も聞き耳を側立てて内容を聞くが、状況は厄介なものだった。
「厄介やな……六課に60機以上の新型ガジェットが進撃、クラナガン郊外では怪人の暴動が発生。どないしよか」
ガジェットの数が多いので六課も心配ではある。だが、俺が取る選択肢は一つだけだ。
はやてもそれは分かっているのだろう。目配せするだけで俺の意図は理解していた。
「カズマ君はフェイトちゃんと怪人の迎撃に! フォワードメンバーとフェイトちゃんを除く隊長、副隊長陣はガジェットの迎撃や!」
「はやて、アン――怪人は俺一人で大丈夫だ! それよりフェイトはなの――」
「カズマ君は気にせんでええから」
ニヤリと笑いながら片目を瞑るはやて。その仕草に苦笑しながら、俺はもう任せることにした。
所詮俺は六課に突如現れた厄介者でしかない。なのはのことを何よりもよく分かっているのは他ならぬ、彼女達なのだから。
だから俺は、行動あるのみだ。
すぐに司令室を出る。ブルースペイダーでは30分ほどかかるかもしれないのだ。時間はない。
こういうとき、空を飛べても速くはない自分が苦々しかった。そう、空飛ぶ乗り物でもあれば――
「カズマ、乗っていけよ。もうバイクは載せてるぜ?」
走り寄る俺の肩を掴む者。
振り向けば俺に陽気な笑顔を向け、空いた右手の親指を立ててくる。
そう、俺に救いの手を差し伸べたのは、かつてフォワードメンバー運搬を担当していた、ヴァイスさんだった。
・・・
フォワードメンバーとは、正確には各分隊に所属する新人四人達を示す言葉だ。
分隊編成時は当然分隊ごとに活動する予定だったが、四人のコンビネーションや教育のこともあり、フォワードメンバー四人で活動することが実質大半だった。
だがJS事件も終わり、機動六課設立時の目的が済んだことから通常通りの部隊運用がなされることとなり、フォワードメンバー四人で行動することは稀になった。。
そのため今回は四人にとっては久し振りの、フォワードメンバー共同の任務だった。
「スバル、エリオ。前衛お願いね。新型だから気を抜かないように」
「うん!」「はい!」
「キャロはフリードで飛行型をお願い」
「はい、わかりました!」
指揮を取るのはティアナだ。指揮官適正が高く、執務官志望の彼女にはぴったりのポジションと言える。
一方、フロントアタッカーのスバルとガードウイングのエリオは前衛担当。特に猪突猛進なスバルには相応し過ぎる立ち位置だ。
そしてキャロは飛竜フリードリヒを駆ることで空中戦が出来る唯一のメンバー。
スバルもウイングロードという技能を使えば部分的には可能だが、飛行を専門とする飛竜には到底敵わない。
そして四人が対峙するのは無数のガジェット群。60機という話だったが、彼らの視界にはそれ以上の敵が写っていた。
『ティアナ、どうやら撹乱されて情報が錯綜してるみてぇだ。数は多めに数えとけよ』
「はい」
ヴィータの忠言に頷くティアナ。久し振りの指揮だからか、ティアナの表情は固くなっていた。
また彼女たちとは別に、ヴィータを含む隊長陣は別個に迎撃を行うことになっている。簡単に言えば、ナンバーズ対策だ。
そしてなのはは――
「おい、なのは。顔色悪いぞ。大丈夫なのかよ?」
「心配ないよヴィータちゃん。わたしは、大丈夫」
心配そうに表情を歪めるヴィータの頭をそっと撫でるなのは。一見すれば、確かに変わりないように見える。
その無理やり能面に仕立てたような、今にも決壊しそうな表情さえ、見なければ。
(……無理すんじゃねーよ。手だって震えてるじゃねーか)
ヴィータは何度もなのはの危機に駆け付けられず、歯痒い思いをしてきた。だから分かる、なのはの変調が。
原因は分からなくとも、相棒の異常くらいは気付けて当然と、ヴィータは思っていた。だからこそ、過剰に心配もする。
「あたしに隠し事すんなよ。言いたくないなら言わなくていいけどよ、今全力出せねぇんなら出せねぇって言ってくれ!」
白くて丸い頬を桜色に紅潮させながらも襟を掴んで問い質す。なのははそんなヴィータを見ても、視線を逸らすことしか出来なかった。
「なのは、いい加減にしろ。無茶はしないんじゃなかったのか」
腕を組んで状況を静観していたシグナムすら厳しい口調でたしなめる。二人のヴォルケンリッターは、二人なりになのはを心配していた。
しかし、なのははそれすら拒絶する。
「ヴィヴィオがいるんだもの。わたしが頑張らなきゃ。――ほら、来たよ」
遥か遠方から煌めくステルスのカーテンからゆらりと姿を現す輸送機の影。その底部から飛び出す三つの人影。
なのはとヴィータ、シグナムの三人に立ちはだかるようにして、三人の『仮面ライダー』が静かに舞い降りた。
・・・
クラナガン西南部シーサイドエリア。
海岸線に沿って走るアスファルトの道は何処か雄大さを感じるほど果てしなく続く。地平線にまで続いているかのように。
俺達が向かうのは海岸に面した場所に作られたリゾートホテルだ。その近くにあるベッドタウンにアンデッドは出現したらしく、どうやらホテルに向かっているらしい。
俺は途中でヘリを降りてブルースペイダーに乗り換え、公道上を走行して目的地に向かっている。フェイトは俺と並走する形で飛行中だ。
「カズマ、私は本当に残らなくて良かったのかな……」
蜂蜜を振り掛けたような眩しい金髪を靡かせながら滑空する少女。ライトニング分隊長にしてなのはの親友。
その美しい容姿からは想像出来ないほどの実力者らしい。尋問されたときなんて何の迫力もなかった気がするが、見た目と事実は違うのだろう。
「はやてを信じるしかないな。少なくとも、俺にはどうしようもない」
フェイトの表情は暗い。不安で一杯なのだろう。彼女が心から親友のことを気にかけていることは、その表情からも伝わってきた。
何せなのはが傷付いたと知った途端、俺のベッドに殴り込んでくるくらいなのだから。
ホテルが眼前まで迫ってきた。並走していたフェイトが減速したのに合わせて俺もアクセルを弱める。
「うん、わかってる。私達が何とかしなきゃいけないことだから」
フェイトが顔を上げる。すでに不安げな表情はない。無理矢理引っ込めただけかもしれないが、その凛々しい相貌からは"強さ"を感じさせた。
ホテルに面した広大な駐車場にエネルギー反応がある。魔力じゃない。十中八九、アンデッドだ。アンデッドの気配を感じるのだから、間違いない。
ブルースペイダーを駐車場の隅に停め、俺は飛び降りながらカテゴリーエースのカードを引き抜く。
「フェイトは援護してくれ――変身!」
俺は魔導師モードを解除して今度はカテゴリーエースを用いて変身する。これでアンデッドと戦える。
俺はブレイラウザーを抜き、フェイトはバルディッシュを鎌の形に変形させて、駐車場に飛び込む。
「……キング!」
そこにいたのは、数体のアンデッド相手に攻撃を加える、一振りの剣を持った少年の姿だった。
フェイトはキングをアンデッドと認識していないのだろう。奴に向かって「危ないから下がって!」と声掛けていた。
アンデッドの数はキングを含めれば四体。今までにない厄介な状態だった。たった二人で相手出来る人数じゃ、ない。
「遅いじゃないか!」
「お前がやっていたのか……!」
人間として生きていくと言っていた矢先にこれだ。俺は、本当は信じていたかったのに――!
だが、返答は意外なものだった。
「違うよ。コイツらはスカリエッティにおかしくさせられたのさぁ!」
「どういうことだ!?」
キングの口から漏れ出た名前。奴の口から出るはずのない人名。こんなところでスカリエッティと繋がるなんて、そんな都合の良いことがあるのか。
いや、そもそもアンデッドとスカリエッティに繋がりがあるとしたら、かえって厄介だ。どちらにしろ、問いただす必要がある。
「詳しい話は後だ、さっさと封印してくれ!」
キングが目の前のアンデッドを切り裂く。
フェイトもあれから何も口出ししていないのは、俺達の話の内容と、そしてこの実力を目の当たりにしたからだろう。
キングは人間に擬態したまま、易々とアンデッドを一体倒したのだから。
俺もまずは目の前で暴れているアンデッドが先だと判断した。すぐにラウズアブゾーバーを構える。
「私が左のを相手する!」
そう言ってフェイトが刃を向けるのはバッファローの意匠を持つアンデッド。
相手もフェイトを敵と認識したのだろう。バチバチと静電気を纏う双頭の角を向けてくる。
「フルドライブ!」
『Zamber form』
そしてその鎌形デバイスが巨大な雷の刃が生えた大剣へと変形していく。
小柄なフェイトに似合わない大剣だが、それを軽々と持ち上げてアンデッドに斬りかかる。
「そら! さっさと封印するんだ!」
今度はキングが蹴飛ばしたアンデッドに視線を向ける。すでにバックルは開き、封印可能な状態になっていた。
すぐにカードを投げて三葉虫に似たアンデッドを封印する。カテゴリー7、『METAL』のラウズカード。
残るアンデッドは二体。コガネムシの如く金色の装甲を持つアンデッドとライオンのように逞しいアンデッド。
「こっちはボクがやる」
キングが動く。その分厚い刃を、金色のアンデッドに向けて。
いつものように人を小馬鹿にしたような薄ら笑いはそのままに、口調だけは真面目だった。
俺も自らが戦うアンデッドに視線を向ける。相手も駐車してある車の破壊を止め、こちらに向き直った。
『――ABSORB QUEEN』
ラウズアブゾーバーにカードをセットする。
「あああぁぁぁぁぁ!」
そして鷲のイメージが描かれたカードをスラッシュした。
『――FUSION JACK』
黄金の翼と金色の刃。
上級アンデッドの桁外れのパワーが容赦無く稲妻のように体を駆け巡る。だが、その痛みは無視出来るものだ。
そう、目の前の敵を倒すためならば。
ジャックフォームを纏った俺は、アンデッドに向け猛進していった。
・・・
「ディバィィィン、バスター!」
「インパルスセイバー!」
わたしの砲撃と相手の斬撃がぶつかり合う。
『Inpalse』というカードを使って発動した何かで強化されたらしい斬撃は、ディバインバスターですら切り裂いてしまった。
青い光を帯びた剣が砲撃に触れた瞬間、爆発するように発光して砲撃を切り飛ばす姿。なんとなく、カズマ君の一撃に似ているような気がした。
「あのカズマ君のに似たカードって、もしかして魔法を発動させるデバイスなのかな……?」
「正確には魔法ではない。が、流石は歴戦のエース・オブ・エース。容易に見抜きおったか」
時代がかった口調の、確かトーレという戦闘機人。今は菱形の赤いモノアイと金色の鎧によって、分からなくなっているけど。
手足から生えた紫の羽根で颯爽と飛翔する彼女が改めて剣を構える。その剣も、どことなくカズマ君の剣に似ている。
それを見るのが少しだけ、辛い。
「なのは、下がれよ。あたしがアイツを仕留める」
攻めあぐねているわたしの前に出たのはヴィータちゃんだ。その小さな体にお人形に着せるような可愛らしい紅いドレスを身に付けている。
そんなヴィータちゃんの荒々しい口調と武骨なハンマーという得物は、未だにちぐはぐで違和感を持ってしまう。
けれど彼女は近接戦のエキスパートだ、任せても心配ない実力を持っている。
「分かっているよ、ヴィータちゃん。わたしは――」
「白い悪魔さぁん? あの時の借りを返させて頂けませぇん?」
――――ドクン。
その声、忘れもしない。あのJS事件の主戦場となった聖王のゆりかごの中で聞いた、この声。
ヴィヴィオを傷付けた女、ヴィヴィオに酷いことをした女。ヴィヴィオを、あんな目に合わせた女――!
許さない。絶対に、この女だけは何があってもどんなことになっても絶対に許さない!
「アアアアァァァァァ!」
「おい、なのは!?」
わたしの白い靴に桜色の羽根が生える。ふわりとわたしの体が浮いたのも束の間、一瞬にして加速したわたしがあの女――クアットロに迫る。
そして空間に出現させた十二発の魔力スフィアを腕に纏わせ、集束させて叩き付ける!
「クロスファイアァァァァァッ!」
「あらあら、焦っては上手くいきませんわよ?」
疑似砲撃型のクロスファイアシュートが炸裂する……けれど、あの女には傷一つない。
新たにカズマ君のものに似た赤い鎧を纏ったクアットロは、手に持つ弓銃で容易く撃ち落としたんだ。
「うるさいッ! レイジングハート、エクセリオンバスターA.C.S、ドライブ!」
『M,master!?』
レイジングハートに魔力を流し込んで無理やり変形させ、巨大な槍状になった先に桜色の光刃、ストライクフレームを展開する。
手動でコッキングレバーを動かし、三発のカートリッジをロード。
そしてレイジングハート・エクシードモードとなった杖に展開される四枚の光の翼。
それらはわたしに超絶な加速力を与え、あの女の元へ爆進させる……!
「ああああぁぁぁぁぁ!」
そしてわたしは桜色の弾丸となって、激突していった。
・・・
「ジェットザンバー!」
フェイトの戦うバッファローアンデッドは磁力を操る能力を持つ。
その力は相手に無理やり極性を持たせ、強引に引き付けたら弾き飛ばしたり出来るもので、その外見通り強力な力だ。。
しかしフェイトは電気を操るのに長けた魔導師。そんな攻撃を意にも介さず、その稲妻から生成した大剣を高速で叩き付けた。
加速した斬撃とも打突とも付かない一撃は、アンデッドを一瞬で沈黙させた。
「カズマ!」
「分かってる!」
戦闘中だろうとフェイトの声に素早く反応したカズマは、瞬間的にカードを投げて封印を行う。
アンデッドが力をカードに吸い取られて体が消えていく。そしてラウズカードに、新たな雄牛の色彩が描かれていった。
手元に戻ったカードを素早くカズマは直し、改めて強化ブレイラウザーの刃を構え直す。
これで残るアンデッドは二体。
『フェイトちゃん!』
「はやて!?」
そんなときに、はやては唐突に通信をかけてきた。
『そろそろ出番や、戻ってこれる?』
フェイトの表情が変わる。彼女には何も知らされてはいないが、はやてに何か考えがあることは分かっているフェイトは、しかし逡巡する。
そう、戦いはまだ終わっていないのだから。
「でも、カズマが……」
彼女が見る先には黄金色のアンデッドと戦う少年がいる。
分厚い刃を持つ重斬剣オーバーオールを持つ謎の少年。キング。華奢な外見からは想像も付かない動きで剣を叩き付け、的確にアンデッドを傷つける少年。
彼女にとって、彼を信用していいのか、分からなかった。
「――俺は大丈夫だ」
そんなフェイトの隣に、いつの間にかカズマは立っていた。
迫るライオンアンデッドの拳撃にラウンドシールドによる防御で対応するカズマ。更に先程封印したカテゴリー7のラウズカード『METAL』の力で防御を固める。
「フェイト……なのはを、頼む」
そしてカズマは強化ブレイラウザーで、ライオンアンデッドを押し戻していった。
『じゃ、行こうか。フェイトちゃん』
「――うん。指示をお願い、はやて」
通信画面の向こう側で、はやてがにやりと笑みを深めた。
『任せといてな!』
フェイトが金色の閃光を発しながら急速に離れていく。
それを見て、キングがニヤリと笑った。
「へぇ、美人さんと仲が良いんだ。隅に置けないね」
「はぁ!? 何言ってんだ! 戦いに集中しろ!」
カズマはいつだって真面目に剣を奮う。戯れ言に付き合う余裕はないかのように口調は荒い。
対してキングは鼻歌を鳴らしながら戦っていた。
「僕も人間として結構長く生きてるからね。美人かどうかぐらいは分かるよ。ま、キミよりはマシなくらいかな」
「だから集中しろ!」
『――THUNDER』
ライオンアンデッドの豪腕をプロテクションで弾き、がら空きの胴に一太刀を浴びせて隙を作るカズマ。一枚のカードがスラッシュされる。
対してキングは、黄金色のアンデッド――スカラベアンデッドを真一文字に切り裂き、更に頭を横からオーバーオールの腹でブッ飛ばす。
「キミはホントに興味がないんだ。せっかくあんな美人に囲まれてるのにさ」
「キング、真面目にやれ!」
「やってるさ。それっ!」
『SLASH――LIGHTNING SLASH』
二人が同時にアンデッドを蹴飛ばす。その一撃で、二体は揃って地面に叩き付けられる。
カズマはカードをスラッシュし、キングはオーバーオールを腰だめに構える。
カズマの背中に生えたオリハルコンウィングが大きく開かれ、キングにはヘラクレスオオカブトの戦士の幻像が重なる。
「おりゃあああああぁぁぁぁぁ!」
「ハアアアァァァァッ!」
そして加速したカズマの斬撃が、キングの逆袈裟の一撃が、二体のアンデッドに激突する!
爆発が、周囲を包み込んだ。
…………
二体のアンデッドがカードとなってカズマの手に渡り、それが強化ブレイラウザーのカードホルダーに収まった。
手札のように開かれたカードホルダーに並んだラウズカード達。その最後に、一枚だけ無地のものがあった。
「後、一枚かぁ」
「――カテゴリー、キング」
カテゴリーエースとジャック、クイーンを除く九枚のカードがズラリと並ぶ中、一枚だけ鎖の絵柄しかないカードがある。
そこに収まるべき者は、目の前にいるのだから。
「どうする、やるかい?」
キングはどこまでも楽しげに、かつ嫌味たらしく笑う。カズマはその笑みを見て表情をしかめながらも、ブレイラウザーを腰に納めていた。
二人が対峙する。例え武器を納めてはいても、そこには並々ならない空気があった。
「俺は、お前を信じたい」
「僕はアンデッドだ、それでもかい?」
「だからこそ、信じたいんだ」
カズマは視線を反らすことなく真っ直ぐにキングを見つめる。その瞳は、どこまでも真剣だった。
キングはそれに対しシルバーリングを付けた左手で髪を掻きながら、視線を反らしていた。
「――早く行きなよ」
「今度、またエリオとキャロを連れて遊びに行く」
そう言って、カズマはブルースペイダーの元に去っていった。
キングの顔から嫌味が抜け落ちていくように、彼の笑みが純真な子どものようになっていく。カズマの背中を見つめながら。
「……仕方ない。女の子向けのゲームも探してみよっと」
キングの独り言は空気に溶けて消えていく。
煌めく光星が、彼の後ろを飛び立っていった。
・・・
スカリエッティの軍勢が攻め寄る機動六課。その電撃侵攻に対し、徐々に追い詰められるなのは達。
その救援に向かうフェイト、そしてカズマ。二人は六課を、そしてなのはを、救うことが出来るのか。そしてスカリエッティは――――
次回『天馬』
Revive Brave Heart
最終更新:2010年05月16日 20:59