*




「あと一枚、か」
 初老の男は、そう呟いた。
 彼を照らすのは広大な部屋全体を浮かび上がらせるほどの大きな半球状の電灯。オレンジがかった光の中で、老人は一枚の画面を注視していた。
 映し出された画面からは一陣の光とそれを見送る若い青年の姿が見える。彼はそれを、じっと見つめていた。
 彼が動く。コンソールに置かれた手を流れるように滑らせ、画面を切り替える。表示されたのは、六課が戦う光景。スバルが、ティアナが、エリオが、キャロが、シグナムが、ヴィータが……そして、なのはが。
「……ジェイル」
 莫大な数のガジェットと強力な戦闘機人に攻め込まれた六課の魔導師は、しかし的確に迎撃を行っていく。端から見ても分かるほど並みの実力ではない。奇襲にも関わらず、一糸の乱れすらなかった。
 特に、魔力を無力化するAMFという防壁を持つガジェットの相手に手慣れているかのような手際の良さだった。
 その遠方に、全てを睥睨する一人の男がいた。紫の髪と白衣を棚引かせ、不吉な笑みを張り付けた災厄の科学者にして、無限の欲望を持つ男。
 緑色のベルトを腰に付けた男は、魔法陣を展開して何処かへと去っていく。
「今回は確かに私の負けだ。だが、アンデッドを暴走させた程度で剣崎君を止められると思うなよ」
 初老の男が画面の向こうに映る彼を眺めながら白髪混じりの髪を撫でる。その紫の髪を、引き裂くように、忌々しげに。
 彼は射殺すような視線を、ずっとジェイル・スカリエッティに送り続けた。



   リリカル×ライダー

   第十九話『天馬』



「サンダーレイジ!」
 小柄な体のエリオが自身の身の丈を越える槍――ストラーダを地面に突き立てる。
 一発のカートリッジが射出されるのと同時に魔力が電撃に変換され、それが雷の洪水となって刺さった地面を伝播し、ガジェットを一掃する。
「おりゃあああぁぁぁぁぁ!」
 それに続く形で、エリオの頭上すれすれを通過して伸びる青色の魔力で編まれた道――ウイングロードに乗ったスバルが殴り込みをかける。
 マッハキャリバーによって加速されたスバルが、巨大な球状のガジェットⅢ型に拳を構える。ハイスピードで迫るスバルの体が一瞬でガジェットの目の前に滑り込んだ。
「振動拳ッ!」
 スバルの目が金色に光り、腕のリボルバーナックルに付いているナックルスピナーが高速回転を開始する。
 その回転による運動エネルギーが魔力的に増幅され、拳に集約する……!
「はあああァァァァァ!」
『Protection AMF』
 それに対抗するように、ガジェットも上部から排莢を行い、強大な魔力でバリアを張り巡らす。
 そして両者が衝突した。
「おああぁぁぁぁぁ! 一撃、必倒!」
 魔力を無力化し、更に強固なバリアとしても機能するガジェットの障壁により振動拳の威力は削がれていく。だが、スバルはそれで決して止まりはしない。
 強引に伸ばした腕から更に排莢が行われたなことで破壊力が増し、ついにバリアを打ち砕く。
 そして球場のボディに突き刺さった拳の振動が一瞬で構造材を脆くさせ、ガジェットⅢ型は呆気なく崩れ落ちていった。
「スバル、次行くわよ!」
「オッケェ!」
 そこにスバルを攻撃しようとするガジェットを迎撃していたティアナが合流する。敵の数は、半数程度にまで減らされていた。それでもまだ相当な数が蠢いているのだが。
 だからこそ、ティアナはここで手を休めるつもりはなかった。
「エリオはキャロと合流して空をお願い!」
「はい!」
「私達は海上から上陸してくるガジェットをやるわよ」
「よーし。ティア、行くよ!」
 その上空を空舞う飛竜フリードリヒが横切る。
 無数に群がるガジェットは、しかしその優美な白竜の炎に次々と落とされ、ガジェットの攻撃は逆にフリードを操るキャロの魔法によって全て塞がれる。
 三人の少女と一人の少年で編成されたフォワードチームは、確かにストライカーズと呼ぶに相応しい活躍をしていた。

 一方で――――
「キャハハハハ!」
 菱形のモノアイに赤いアーマーを纏う女――クアットロが哄笑する。ボウガンという装備から見ても非常に軽装なのに対し、その力は想像を遙かに越えていた。
 あのなのはが、血を流す左腕を庇いながら追い詰められる羽目になっていたのだから。
「くっ……」
「自慢の砲撃も、当たらなきゃダメよねぇ?」
 なのはが不意打ち気味にアクセルシューターを放つ。桜色の光弾は速射性と追尾能力に定評のある命中率の高い魔法だ。
 だが、当たらない。
 魔法弾がクアットロの鎧を捉えたときには既にその姿は消えており、いつの間にかなのはの後ろに回り込んでいた。
「シルバー……カーテン、かな」
 瞬間的に後ろに張ったプロテクションが、クアットロの魔弾を弾く。
「あらぁ、エースオブエース様に私のISを覚えて頂けるなんて、光栄だわぁ」
 クスクスと嗤うクアットロを、なのはが忌々しげに睨み付ける。
 ISシルバーカーテン。
 クアットロが持つ戦闘機人としての固有技能で、高い幻惑能力を持つ。姿を消す、架空の物体を投影するといった撹乱に最適の技能だ。
 本来は後方支援系の技能であり、故にクアットロは前線で戦うタイプではない。しかし新たに手にした力、新世代ライダーシステムがそれを可能にしていた。
『Master,please withdraw!』
「あら、逃げ出しますの? なら"あの子"を血祭りに上げちゃいましょうかねぇ」
 安い挑発を嫌らしく甲高い声で発するクアットロ。その血塗られたような装甲が不気味に黒光りする。
 普段のなのはなら挑発に乗るなんて考えられない。しかし、今のなのはにとってそれは禁句だった。
「エクセリオォォォン、バスタァァァァァッ!」
 突撃槍のような形状のエクシードモードに変形したレイジングハートを振りかざすなのは。愛杖からの制止を聞きもせず強引にコッキングレバーを引いてカートリッジをロードする。
 そしてその鋭い切っ先から鋭い砲撃が迸る。
 ディバインバスターより鋭い射線は微妙に曲げることができ、クアットロの動きに対応して放つことができる。故に命中率が高く、またカートリッジの使用により威力も高い。
「――あはははっ! 当たりませんわよぉ?」
 ……にも関わらず、彼女を捉えられない。
 いつの間にか隣に現れたクアットロにレイジングハートを向けようとするが、その前にボウガンを向けられる。そこに、カードがスラッシュされた。
『Excellion Baster』
『Master! ――Protection EX』
 ボウガンから紅い鏃のような鋭い砲撃、なのはが今撃った砲撃と同じ魔法が放たれる。そう、なのはの目の前で。
「く――あっ……」
 だが寸前でレイジングハートのフォローによって発動した防御魔法がなのはを守った。しかし、衝撃までは殺せない。バリアと共に、なのはが吹き飛ばされる。
 落ちていく。エース・オブ・エースの撃墜。コンクリートの床とのキスまで後、数秒。
『Master!』
「なのはぁぁぁぁぁ!」
 だが、その寸前で彼女は救われた。一筋の稲妻が、彼女に駆け抜けたことによって。
 その光から輝くような金髪と、温かな笑みが浮かび上がる。それは、フェイトの笑顔だった。



     ・・・



「――こんな策しか用意出来んのが悔しいなぁ」
 爆炎と騒音から離れてたった一人で佇むはやてが、小さくため息を付いた。
 ここは最終防衛ラインと言うべき六課隊舎前。皆がランニングなどを行う前庭にて、はやてはバリアジャケットを纏って宙に浮いていた。
 ちなみに、ここにいるのは彼女だけで、他には誰もいない。ただし、独り言を呟いているわけでもなかった。
『本当は、はやてちゃんも行きたかったんですよね~』
「仕方ないやろー、ここを離れる訳にはいかんし」
 はやてとユニゾンしているリィンの言葉に苦笑する。そう、はやてだって十年来の友人の元に馳せ参じたかったのだ。
 しかし彼女にはそれが出来ない。後方支援タイプであることと部隊長であることが、その理由。そう、彼女の背負ってる責任が、重すぎるからだ。
 それでも、彼女なりに出来ることはやったのだ。責めることは出来ないだろう。
「そろそろカズマ君が帰ってくる頃合いやないかなぁ――」
「――くくくっ、そうかぁ。彼はまだ帰ってきていないのか」
 そう、それは唐突な出来事だった。
「! スカリエッティ!?」
「残念だな、今から彼と遊べると思ったのだがね」
 そう、はやての目の前に立つ男、その名はジェイル・スカリエッティ。
 まさに唐突としか思えないタイミングで、一瞬前まで無人だった前庭に白衣と歪なバックルをしたベルトを巻いたスカリエッティは存在していた。
「……どうやって現れたかは知らへんけど、ここは通さへんで」
『ですですーっ!』
 はやての足元に白い三角形の魔法陣が出現する。陣が回転を開始すると同時に白い光にはやての体が包まれていき、魔力が高まっていく。
 それを見たスカリエッティは、薄く笑みを浮かべたまま、バックルのカバーに手をかけた。
「くっく……変身」
『Open Up』
 カバーをスライドさせた瞬間に魔力が彼の体を包み込み、一瞬で全く別の姿へと変化する。
 黄金の縁取りが成された緑色の装甲と無機質な複眼。王冠を模したようなマスク。右手に握られる短いスピア。
 それが伸長して瞬時に錫杖へと変化する。
「八神はやて、君は私を楽しませられるかな?」
「私かて何時までも対人戦が苦手なわけやないで……!」
『はやてちゃんと私なら貴方くらいケチョンケチョンにしてやるんですからね!』
 はやてが凛々しく、リィンが可愛らしく台詞を決める。その様に仮面の下で笑みを深めるスカリエッティを尻目に、二人の内心は焦りがにじみ出ていた。
 理由は簡単。忙しすぎるはやてに訓練をする暇など、あるはずがなかったからだ。
「(ど、どないしよう……これで退けんくなったやないか!)」
『(ででででも、これ以上下がるなんて最初から無理です~!)』
 そう、ここは最終防衛ラインなのだから。
 はやては十字形を模した形状の杖型デバイス、シュベルトクロイツの切っ先を真っ直ぐスカリエッティに向ける。その切っ先は、小刻みに揺らしながら。
 スカリエッティが動く。その手にカードを握り、錫杖の石突きにあるスラッシュリーダーへと運びながら。
「仄白き雪の王、銀の翼を以て眼下の者を白銀で穿て。来よ、氷結の一撃――クーゲル・デス・アイゼス!」
『――Blizzard』
 詠唱を終えたはやて。シュベルトクロイツの周囲に三つの青白いキューブが浮かび上がる。程無くして魔力を湛えたキューブが回転を始める。
 そしてはやてが十字杖を振り下ろす。
 キューブは回転を最高潮に高めたまま、まるで巨大な氷の弾丸のように撃ち出される。はやての強大な魔力によるそれはリィンの制御によって、正確にスカリエッティを狙い撃つ。
 対するスカリエッティはカードをスラッシュして解放された吹雪のエネルギーを、錫杖をはやてに向けることで放出する。
 二つの凍てつく刃が今、激突する――!
 はやての氷弾は鋭さと質量を持ってスカリエッティのブリザードに立ち向かう。スカリエッティ自身の魔力によって具現化した吹雪だが、一気にはやてのそれに押されていく。
「私と撃ち合いやなんて、良い度胸やっ!」
 氷と氷がぶつかり合う甲高い音。
 一瞬にして、はやての一撃がスカリエッティの吹雪を吹き飛ばした! ……スカリエッティを見失う代償を払って。
『Absorb Queen』
「――ッ!?」
 真後ろから聞こえた電子音に慌てて振り向くはやて。そこには左手に装着したラウズアブゾーバーにカードを持っていく、スカリエッティの姿があった。
 スカリエッティが仮面の下でニヤリと笑う。
『Fusion Jack』
 そして彼は変身した。
「フォームチェンジ……」
 猪の頭に似た巨大な牙を持つ肩の装甲と、黄金の刃を先端に装着した錫杖。そして胸部には黄金の猪のレリーフが刻まれる。レンゲル・ジャックフォーム。
 はやては唖然としながらも高度を取る。単純に距離を取るだけではダメだと、そう考えたかのように。
 リィンも内心で、固唾を飲んでいた。
 そしてスカリエッティが二枚のカードを引き抜いたのを合図に、はやてもまた再び動き出した。
「ブラッディダガー!」
『Screw,Rush――Revolver Rush』
 はやての周囲にミッド式魔法陣が展開され、血塗られたような紅い短剣が無数に出現する。それらが杖の一振りで射出され、スカリエッティに狙いを定める。
 しかしスカリエッティの発動したカードの魔法により回転力と刺突力を与えられた錫杖が、それらを叩き落とすだけでなく、更にはやてのバリアジャケットにも直撃する。
「――あぐっ!?」
 吹き飛ばされたはやての口から血が一滴流れる。直撃した部分のバリアジャケットは捻れるように千切れており、内出血の痣が付いた腹が露出している。
 スカリエッティはつまらなそうに錫杖を振り回し、その腹に切っ先を向ける。
「アアアアアァァァァァ!」
 それを遮るタイミングで。
 空から飛来したカズマが天馬を駆ってスカリエッティに突撃していった。



     ・・・



「良かった……間に合って」
「フェイト、ちゃん……」
 目元に涙を浮かべながらフェイトはなのはを抱き締める。それは温もりを分け与えようとする母親のように。
 なのはは瞼を僅かに開いて、温もりの在りかを見つめる。その瞳から、一滴の涙が流れた。
「ごめん、ね……。わたし、足――引っ張っちゃった」
「そんなことない!」
 顔を背けようとするなのはを強く抱き締めるフェイト。
 一方のクアットロは邪魔が入ったことに苛立ちを隠そうともせず、ボウガンの銃口を振り上げる。
 それにフェイトも即座に反応した。
「私の楽しみを邪魔しないでくださるぅ!?」
「させない!」
『Defencer』
 クアットロが引き金を引くと同時に数十の弾丸が発射される。それらは何の捻りもない魔力弾だが、威力と弾速、そして数があれば意味合いも異なる。
 フェイトはなのはを左手で抱え、右手に持ったバルディッシュでディフェンサーによる防御を行う。だが彼女は高速型、防御は決して得意ではない。
 ディフェンサーが砕ける一瞬前に、フェイトはソニックムーブを起動して瞬間的にその場を離脱した。
「わたしは、皆の足を引っ張りたくない」
「なのは……」
 なのはがフェイトから身を離す。
 フェイトが隠れるように降り立った空間シミュレーターの廃ビルの壁を背に、なのはは震えを止めるかのように自らを抱き締めた。
「皆だって守る人を抱えているんだから、わたしの我が儘には付き合わせられない」
「それは違うよ」
 辺りに無数の赤い影が現れる。シルバーカーテンは透明になることも、逆に分身を作ることも出来るのだ。
 さらに乱立する廃ビル全てを破壊するかのような爆撃が遠雷のように轟き、フェイトとなのはの足下にまで振動を伝達する。クアットロの苛立ちを象徴するように。
「私は、私が守りたいと思うから守るだけだよ。私がなのはとなのはにとって大切な人達を守りたいと思うから守るだけ」
「フェイト、ちゃん……」
 射撃音が徐々にフェイトとなのはに迫る。無差別な破壊に見える攻撃だが、実際は的確に二人を追い詰めるように攻撃を繰り返していた。
 だが二人は微動だにしない。そもそも、今だけはどちらもそんなことは気にも止めていなかった。
「見損なっちゃ嫌だよ。私となのはは、友達だもの」
 フェイトがバリアジャケットの下から何かを取り出す。身を縮こまらせたなのはの元に歩み寄り、その手を開いた。
 それは、ピンク色のリボンだった。
「あ……ッ!」
「これをもらって、初めて友達が出来て――嬉しかった。だから私は、頼まれなくても友達を守ろうと誓った。そうしたかったから」
 十年も前、二人が敵から友達に変わった日からフェイトが大切にしてきたなのはのリボンは、痛みこそあるものの綺麗な色をしていた。
 そしてなのはもまた懐から取り出す。それは、かつてフェイトが付けていた黒いリボン。
「……そうだよね。わたしは、知らず知らずの内に、友達すら信じられなくなってたのかもしれない。ばかだ。わたし、ばかだよ……」
 なのはの涙ごとフェイトは抱き止める。間違えることはある、勘違いもある。すれ違うこともある。人間なら、仕方ない。
 それでも何度でも、間違えればまたやり直せる。それが、友達なのだから。
「あらぁ、そこにいましたのぉ? 二人纏めて地獄に送ってやりますわッ!」
 二人を覆っていたコンクリートが砕け散り、そこから赤色の鎧を纏う悪鬼が姿を表す。
 だが、もう怖くはない。
 圧倒的な強さを持ったクアットロだが、しかしもはや敵ではなかった。
『Master. Are you ready?』
「ばっちりだよ。さぁ、いこうか、レイジングハート」
『All ready. Drive Ignition.』
 なのはとレイジングハートにとって最高のパートナーが、側にいるのだから。
「いくよ、バルディッシュ」
『Yes,Sir.』
 管理局のエースオブエースと六課最速の魔導師、二人による演舞が今――始まる。



     ・・・



 空に桜色の光痕と金色の稲妻が交差する。蒼い空を錯綜する光の舞は美しく、そして魅力的だ。そこに混じる紅という不純物だけが鬱陶しいと感じるほどに。
 それを発する二人の少女もまた、戦いの中にあって尚、美しい。それは同性が見てもそう思うほどに。
 その輝きを見つめるはやての目には、少なくともそう写っていた。
「……やっぱ、あの二人は特別なんやなぁ」
「ぐ――が、はっ……」
『はやてちゃーん、遠くを見てる場合じゃないですよ~!』
 そんなはやてを背景に、二人の仮面を付けた戦士が対峙していた。ただし片方は錫杖にすがりついて腹を庇いながら、もう一人は悠々とバイクに跨がりながら。
 そのバイクには、鋼の翼が生えていた。
「スカリエッティ――ここで決着を付ける!」
「バ、カな……。カズマ、君に、こ……んな、隠し玉、が……」
 カズマが跨がるのは愛車のブルースペイダー。
 しかしジャックフォームのカズマが乗ったと同時に、カズマの背中で雄々しく羽ばたくオリハルコンウィングに似た魔力で編まれた鋼翼が形成されていた。
 ブルースペイダーそのものは特に変化していないが、シートカウルから生えた両翼によって姿形は全くの別物となっている。その姿は神話に登場する――
「――ペガサス、みたいやな」
 ぽつりと、はやての口からそんな言葉が漏れ出る。確かに、今のブルースペイダーを指すのにこれ以上相応しい言葉はない。はやての視線は、釘付けになっていた。
 そんなはやてと同じく、ユニゾン中のリィンもまた夢中になっていた。
『確かカズマさんのバイクはブルースペイダーって言うんですよね?』
「ブルースペイダーペガサス。カッコええやん!」
 救援の登場で一気に外野と化したはやてとリィンが好き勝手語る一方で、カズマは追撃のために二枚のカードを用意していた。
 何とか立ち上がるスカリエッティ――レンゲルを叩き潰すべく。
 一方のスカリエッティは、レンゲル・ジャックフォームの固い装甲をも引き裂く刃のような翼にやられた傷を庇い、動けずにいた。
『――THUNDER,MACH』
 二枚のカードをバイクのカードリーダーにスラッシュするカズマ。
 ガォンとアクセルを捻ることでアトミックブラストエンジンが咆哮を上げる。エンジンの回転数はメーターを振り切るほどに回り、その熱は周りに蜃気楼を起こさせるほど。
 覚醒した荒々しき天馬が、無限の欲望を喰い尽くす――!
『――LIGHTNING STORM』
「おあああああァァァァァ!」
 二つのカードによるコンボ技。それによるアンデッドの力がブルースペイダーペガサスに宿る。
 稲妻をカウルに帯びさせ、ブルースペイダーペガサスが舞い上がる。そして疾風の如き加速を持って、天馬は悪を叩かんと突撃していった。



     ・・・



 新たな力を得たカズマと六課の活躍によってスカリエッティの攻撃は失敗に終わった。
 はやてはガジェットの航跡からスカリエッティの隠れ家を探し出し、反攻作戦を画策する。その一方で、王は自らの役割を自覚し始めていた――。

   次回『反撃』

   Revive Brave Heart



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最終更新:2010年07月31日 19:20