第八話「Sacrifice for victory」

ある日の朝。スコールはリボルバーを手入れしていた。
最近は強敵との連戦で手入れもままならない状態だった。そろそろやっておくべきだろうと判断し、リボルバーの火薬と刀身をチェックする。
そういえば、とスコールはふと思い出す。
俺はいつからこの剣とともに戦ってきたのだろうか。そして、何人もの命をこの手で奪ってきたのだろうか。
モンスターを何体も切り、兵士も幾度となく殺してきた。
SEEDの候補生だったときはモンスターや自分に対する敵は死んで当然、と思っていた。
だが、最近戦ってきてわかったことがある。
彼らは、ただ「生きている」だけなのだ。そのこと自体には何の罪もない。モンスターとして生まれてしまったのがいけなかったのだ。
なら、自分がモンスターだったら?自分が人間たちにとって邪魔な存在だったら?
そんなこと、想像したくもない。
本来、何かを殺す、ということはとても愚かな行為なのだ。その愚かな行為を生業とするスコールにはどうしてもやりきれなかった。
どれだけの命を犠牲にしてきたのか。どれだけの命を奪ってきたのか。
それすらスコールはわからなかった。
かつて、命令されたというだけで、(G.F.のせいで記憶を失っていたのだが)自分を育ててくれたまま先生を殺そうとしたのである。
そんな彼の罪悪感をぬぐえるものはここには存在しなかった。

では、殺そうとした相手、まま先生は俺を恨んでいるだろうか。
俺だったら、なりふり構わず憎む。
もしかしたら、アルティミシアのしもべ達もそんな憎しみを背負って俺に復讐に来たのかもしれない。
そんな相手をもう一度殺していいのか、と考えたがもうそのことを考えるのは止めた。
なぜなら、彼はSEED。SEEDにいる限り、憎しみの呪縛からは逃れられない。だったら、その憎しみは受け止めてやる、とスコールは開き直った。
そこでスコールはふと思い出した。
アルティミシアのしもべ達は全員倒したのではないのか?
だが、すっかり忘れていたやつがいた。しかも、最強、最悪な敵が。
そいつを思い出した瞬間、背筋に言葉にならない寒気が走った。
オメガウェポン。
コイツを倒すのは、今の俺では無理かもしれない。だが、立ち向かう敵は全て倒す。
それがスコールのした決意だった。



ところ変わって、モニタールーム。
「あ~、暇。暇すぎて困るわ~。」
「私、スコールさんにあいた~い。」
「私も~。」
と、ダベる女性のモニター班たち。今日みたいなのんびりしていて、平和な日は何の事件もない。
だから、モニター班たちはただ、モニターを眺めるだけ。ただそれだけなのだから退屈で仕方がない。
そして、何故彼女たちがスコールのことを知っているかというと、きっかけはティアマトが襲撃してきたときだった。
そのとき、モニター班だった人たちがどうやらスイッチを間違えて食堂や事務室、いたるところにモニタリングしてしまったらしい。
だから、機動六課のほぼ全員がスコールのことを知っていた。
しかも、彼はとてもカッコイイ。それでいて、隊長たちと肩を並べるほど強い。そんな男性が女性に目を付けられないはずがない。
スコールはいまや、女性のほぼ全員のアイドル的存在になっていた。
だから、彼女たちはスコールに会いたがっているのだ。
なので、たまにスバルやティアナたちのチームがしばしば妬まれる事もあった。
なぜなら、スコールと会える時間がもっとも長いからだ。
たまに、昼食を共にすることもあって、結構仲がいい。
だから、スコールを独り占めしている、と勘違いしている女性たちが彼女たちを妬んでいるのだった。
まあ、妬んでいるからといって嫌がらせのような類のことはしなかったのだが。

「スコールさんと握手したい~!」
と、めがねを掛けた女性が叫んだときだった。
「皆お仕事がんばってる?」
「あっ!なのはさん!!」
なんと、なのはがモニタールームにやってきた。どうやら、何か異常はないかと確かめに来たらしい。
そして、自分の願望を聞かれためがねの女性は顔を赤らめ、その場に縮こまる。だが、なのはは軽く笑っただけで受け流した。
そして、なのははモニターをチェックする。なのはも見る限り以上はなさそうだ、と判断する。
異常がないことを確認したことを確認したなのはは、じゃ、お仕事がんばって、と一言残し、去ろうとする。

だが、なのはは出て行かなかった。

なぜなら……


突然警報が鳴り響いた。
「!?」
全員驚く。一番冷静だったなのはが何事かとモニターをチェックし始める。
その間に他のモニター班は原因は何かとサーチし始めた。そんな中、一人の女性が原因を突き止めた。
「なのはさん!!原因はとても大きな魔力の集合体が突然発生したことらしいです……えっ?なにこれ!?」
あわてる彼女。そんな彼女をなのははたしなめる。
「落ち着いて。一体何があったの?」
「魔力の大きさが桁違い…。数値で測れません!!!」
そんなバカな…、となのはが胸中でつぶやいたとき、モニターの中で爆発が起きた。

爆発が起きた場所は、帝都クラナガン。

思いっきり市街地である。もはや、緊急事態のレベルを超しているのでは。
なのはは、あくまでも冷静に指示を下した。
「あなたは、はやてちゃんとフェイトちゃん、スコールと連絡を取って。あなたは、管理局本部に連絡して住民の避難を呼びかけるよう申請して。
 みんな、早く!!」
この言葉で呆然としていたほかの人たちもハッ、とわれに帰り仕事を始める。
なのはには嫌な予感がしていた。今までに感じたことのない、とてつもなく大きな不安を。――――


連絡を受けてスコールはモニタールームへと到着した。
「状況を説明してくれ。」
「帝都クラナガンで謎の大爆発。おそらく、モンスターの攻撃だと予想できるわ。しかも、尋常ではない強さのね。
 敵は恐らく……あれよ。」
そういってなのははモニターのある一点を指差す。
そこにはスコールの予想通り、オメガウェポンがいた。恐らく、アルティミシアが召喚したのだろう。
コイツ相手に手は抜けない。気を引き締めて帝都クラナガンへと向かった。

そのとき、誰もが予想していた。
スコールなら、勝てると。だからこそ、誰も予想もしなかった。
スコールが負ける、または相打ちの状態になる、ということを。


スコールはもはや廃墟と化したクラナガンのある道路に立っていた。
そこには、四足歩行の上半身は人間のような形のモンスターがいた。
オメガウェポンである。コイツはある意味アルティミシアよりも強かった。だから、気を抜けない。
ゆっくりとオメガウェポンがこちらを向く。

一瞬、オメガウェポンとスコールの視線が交錯する。

そして、オメガウェポンはスコールに向かって驚くべき速さでデスを放っていた。
こんなものは簡単に避けれるスコールなので、相手を見据えながら避ける。
とりあえず、リボルバーで立ち向かうのは危険だと察知し、転送装置でライオンハートを転送してもらう。
武器を持ち替えたスコールはオメガウェポンに向かって切りかかる。
しっかりした手ごたえがあるにもかかわらず、オメガウェポンは何事もなかったかのようにスコールを腕で弾き飛ばす。
コイツの恐ろしさは、攻撃力と体力の多さだ。
攻撃は避ければいいにしても、体力がおおくては持久戦に持ち込むしかない。
一気に片を付けるしかない。
そう判断したスコールは連続剣をオメガウェポンに当てていく。
めまぐるしく移動しながらオメガウェポンを斬りつけていった。が、やはりこれといってオメガウェポンに変化はない。
そんな時、オメガウェポンがメテオを放ってきた。
スコールは避ける技術がないので、全弾受け止める。メテオの一発一発の威力は低いが、一気に十個くらい降ってくるのでこれはきつい。
スコールは自分に回復魔法「リジェネ」を使う。これで、戦闘中も少しづつ体力が回復していく。

スコールはあることを危惧していた。そろそろ来そうなあの攻撃。来る、と直感的に感じた瞬間、
「スコール!!」
フェイトが来た。確か、彼女は接近戦を主に使うはず。ヤバイ。
「フェイト!今はこっちに来るな!!」
その言葉を聴いてフェイトはそれ以上オメガウェポンに近づこうとはしなかった。

だが、誤算があった。
それは、オメガウェポンが人の言葉を多少理解できるということをスコールでさえ知らなかった。
だから、オメガウェポンはフェイトに向き直り、あの技を使おうとした。

それを察知したスコールだが、どう考えたってアレを喰らったらひとたまりもない。
だが、彼はなりふり構わずフェイトに駆け寄る。
そして、オメガウェポンがある技を使った。


メギド・フレイム。

フェイトが確認したのは、オメガウェポンから放たれる何本もの光線。それが地面に当たったまでは覚えている。
それ以降はスコールがフェイトを抱きかかえていたため、よく見えなかったのだ。
気がついたら、そこは地獄だった。

当たり一帯は焼かれ、何もなくなっていた。メギド・フレイムはクラナガンの一部を炎で完全に消し飛ばしていたのだ。
(こんな相手にかなうはずがない…)
戦慄するフェイト。彼女は必死に周りを見渡す。煙でよく見えないが、それでも彼を探し続ける。
(スコール……!)
そこに彼は立っていた。フェイトは駆け寄ろうとして止めた。煙が晴れて、彼の姿がよく見えたからだ。

彼は全身血だらけで、カッコイイ顔も血で台無しになっている。フェイトの目からも見て、重傷だと判断できた。
だが、スコールは気力を振り絞ってライオンハートを構える。もういちど、連続剣を叩き込むつもりだ。
こげた足を無理やり動かしながら連続剣を繰り出す。彼は仕方なく、エンドオブハートを使うことにした。
ライオンハートにエネルギーを溜め、オメガウェポンを切り上げる。
そのまま、空中で何度も斬りつけ、最後に威力が高い一撃を食らわせる。

一瞬の静寂と大きな爆音が鳴り響く。

オメガウェポンはそのまま地面へと落下していく。
さすがにオメガウェポンもこの攻撃にはこたえたようだ。オメガウェポンはつらそうな感じをしている。
そして、もっとも恐れていた技が来た。

オメガウェポンが飛び上がり、光線を一発地面に当てる。そして、スコールとフェイトの周りが真っ暗になった。
次の瞬間、オメガウェポンは光線を何発もフェイトとスコールめがけて飛ばしてきた。



テラ・ブレイクと呼ばれる技だった。



フェイトなら避け切れそうなのだが、スコールは重傷を負っている上に実質上フェイトを守りながら戦っている。
だからこそ、スコールは避けなかった。
全てを、フェイトの分までも受け止めたのだ。
ライオンハートで防御したスコールは戦いを終わらせようとオメガウェポンに切りかかる。


そして、攻撃が重なった。


スコールもオメガウェポンも動かない。
突然、オメガウェポンが苦しみ始め、消滅していった。
それをモニターで見ていた全ての人間は歓喜した。

だが、次の瞬間、その歓喜は凍りついた。

スコールがゆっくりと倒れ始める。スローモーションか何かのように。
ドサリ、を倒れる音がした。
「スコール!!!」
フェイトが駆け寄りスコールを抱きかかえる。フェイトは言葉を失った。
スコールの全身は傷だらけ、という状態よりもひどかった。
頭からは血が流れ、全身火傷、腹部には大きな傷跡がある。
しかも、血はとめどなくあふれ出してくる。
フェイトはスコールを抱きかかえ、クラナガンの先端技術医療センターに運ばれた。奇跡的に、ここにはメギド・フレイムが来なかったらしい。
スコールは緊急集中治療室に運ばれた。

そのまま彼は眠り続けた。
今までの心と体の傷を癒すかのように。



医師の診断では、「意識不明の重体だが、命に別状はない」らしい。
スコールを心配して彼に寄り添うフェイト。その瞳には涙が浮かんでいた。
その涙の理由は誰にもわからない。
ただ、スコールはしばらくは意識が戻らず、包帯でぐるぐる巻きにされている、という悲しい現実こそが、
彼女に理解できた唯一の事実であった。



そのまま、スコールは3日間ほど目を覚ますことはなかった。



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最終更新:2010年07月07日 23:48