第七話「Squall`s lesson」
スコールはアルティミシアと戦ったときのことを思い出していた。
あいつは、グリーヴァを召喚して、ジャンクションした。そして、真っ暗な世界になったと思ったら、もはや怪物と化したアルティミシアがいた。
戦っていくうちに、アルティミシアは悲しげな声で俺たちに語りかけてきたんだ。
「思い出したことがあるかい。子供のころを。」「その感触、そのときの気持ち。」「大人になっていくにつれて何かを残し、何かを捨て去っていくのだろう。」
「そして……」
あの後、アルティミシアは何を言いたかったのだろうか。それは誰にもわからなかった。ただ、スコールは今回の事件は、アルティミシアを倒しただけでは
終わらないのでは、と考えていた。やつは倒したところで、封印でもしない限り、またこのような事件を起こすだろう。
そもそも、アルティミシアに魔女の能力を受け継がせたのは誰だ?そいつが咎を受けるべきではないのか?いや。そいつもその前のやつから力を
受け継いで、苦しみから逃れたかったに違いない。そうやって何代も何代もさかのぼっていく。
たどりいついたのは、世界が出来たころの話。その世界に「ハイン」という絶対の存在がいた頃の話。
ハインは人間を道具として扱った、それに反発してハインと戦った人間はハインの半身を手に入れた。資料では、人間にやらなかった半身こそが、
魔女だと考えられているらしい。…なら、こう考えられないだろうか。アルティミシアは、ハインの意識をジャンクションしてしまった。
だから、時間圧縮を行い自分が絶対の世界を作ろうとした。かつて、ハインのいた世界のように。
そう考えると、アルティミシアがますます悲しい存在だと思うようになって来た。そして、アルティミシアに魔女を受け継がせた人物を少し憎んだ。
こんなめんどくさいやつを魔女にしやがって、とも思ったが、苦しみから逃れたかったのだろう。
だが、自分の痛みを他人に受け継がせる。その痛みがどんなものかは知らないが、スコールはとても気に入らなかった。
そういうやつが、まま先生やリノアのようないい人に受け継がせるのだ。自分の痛みを、苦しみを。
考えただけで嫌気が差す。戦う理由も考えていると、消えそうだ。…待てよ。
(俺の戦う理由?)
自分は何のために戦っているのだろうか。それまで、全く考えなかったことだ。もしかしたら、ティアマトはこのことを言いたかったのでは。
理由を求めようとしない、だからこそ、与えられた理由にしがみつく。
スコールはそんな人を見るのが嫌いだったが、昔の自分もそうであったことは否定が出来ない。俺は、俺の戦う理由は何だ。
そう悩んでいたら、バハムートが助言をした。
(お前は私と戦ったとき、戦う意義がわからないから戦い続ける、といった。確かに、それもいい答えだと思う。
だがな、理由だけはお前が見つけろ。他人に縛られたく何のなら、な。)
それを聞いてスコールは深く悩んだ。このもやもやをどうにかしようとロングアーチで訓練をするためにリボルバーを持って外に出た。
ロングアーチの中を森林に設定して歩き回っていた。悩みが解決するわけでもないのに、こんなことをするのもどうかしている、と自嘲するスコール。
ふと、背後に人の気配を感じる。しかも、どことなく殺気を漂わせているようだ。
そして、背後の人物が動いた。とっさにリボルバーを構え敵の攻撃をはじこうとする。
攻撃を仕掛けたのは、シグナムだった。彼女はレヴァンティンをリボルバーにぶつける。スコールも負けじとはじき返そうとする。
お互いが剣をはじいた後、シグナムが突然構えを解いた。
「何を悩んでいる?」
唐突にそう聞かれる。心臓が大きく跳ねたが、悟られないようにクールな顔を装う。
「俺が何に悩んでいても、関係ない。それに、知ったところでどうと言うこともない。」
「嘘だな。お前は悩みを解決したいと思っているのに、他人には聞きたくないと思っている。違うか?」
その通りだ、とは言わない代わりに黙っておく。
「俺は他人に答えを求めるのを止めた。他人にこれ以上惑わされたくない。だが、「戦う理由」が見つからなくてな。
何のために戦うのか。その意味もわからなくなりつつある。
「それは、戦いながら見つけるといい。」
何のことかと彼女を見たが、彼女はレヴァンティンを構えていた。
「あのときの決着、今つけることができるかどうか知らないが、やってやる。」
その言葉に微笑しながら、二人は戦い始めた。
キィン、バシッ。二人の攻防は続く。
「どうした!その程度で終わりか!」
スコールを挑発するシグナム。スコールもそれに答えて思いっきり渾身の一撃を叩き込む。
生じた激しい衝撃で二人は吹っ飛ばされる。
「シュランゲバイセン!!」
そういった瞬間、レヴァンティンが伸びた。そして、リボルバーごとスコールを捕らえこちらに引き寄せる。
そのまま斬りつけられると思った瞬間、スコールはラフディバイドでカウンターを行った。
シグナムはまともにくらって吹っ飛ぶ。煙で、向こうが見えない、と思っていたとき、
「いくぞ、レヴァンティン。」
本気のシグナムが見えた。気づいたら、彼女の武器が弓矢のようなものにかわっていた。
矢の部分に膨大な魔力がたまっていくのがわかる。
「シュツルムファルケン!!!」
そして、矢が放たれた。―――――
スコールは矢が放たれた瞬間、なぜか子供のころを思い出していた。
雨の中で泣いていた俺。あの時何故ないていたのだろう?
そうだ、エルオーネが突然いなくなってしまったからだ。あのときを境に、強くなると決めたのだ。
何故?
エルオーネを守りたかった?
違う。
一体、……。
そうだ。俺はあの頃、―――――
「おねえちゃん。どこへいったの?」
幼いスコールが誰もいない空に向かって話しかける。帰ってくるのは、雨のしずくばかり。
「寂しいよ・・・」
幼い少年は孤児院にいて、仲間もいたのだが一番慕っていたのはエルオーネだった。
そんな彼女が突然いなくなったことで、幼い彼は心に深い傷を負った。
「もう、おねえちゃんが戻れないんだったら、僕がおねえちゃんに会いにいく!」
無邪気な子供のただひとつ目指したものだった。
「僕は、強くなるんだ!そして、―――」
「こんな悲しい思いをしないようにどこまでも強くなるんだ!!!」
――――――答えが見えた!!!
気がつくと、シュツルムファルケンはすぐそこまで迫っていた。不思議と、避けきれる感じがした。
そして、体を最大限にひねって避けた。
「!?」
一瞬驚いたシグナムだが、キッと戦闘中の顔に切り替える。
いつものレヴァンティンに戻して、魔力を集中させる。一撃の下に、斬り飛ばそうと言う魂胆だ。
スコールもそれに答えた。リボルバーを転送して、ライオンハートを取り寄せる。そして、ブラスティングゾーンの応用でライオンハートに力を送る。
「「うおおおおおおっ!!!」」
そして、激突する二人。ロングアーチが壊れるのではないかと思うくらい強い衝撃波が生じた。
つばぜり合いをする二人。シグナムはスコールの瞳に決意が浮かんだのを見た。
ズドォォォォォン!!
結局二人とも吹っ飛んだのだが、スコールは至って無事であった。シグナムを探すと、
「私ならここだ。」
と声がした。結構外傷が多い。勝負はスコールの勝ちのようだ。とりあえずシグナムにケアルラをかけて、こういった。
「お前のおかげで答えがわかった。礼をいう。」
スコールは戦う理由を得た。悲しい思いをしないように強くなる。それが答えだ。
だからこそ、戦う。もう、「守りたいものを失わないように」――――――
スコールはそのまま部屋へ帰った。そこにはリボルバーが立てかけてある。
これは、俺の強さに対するこだわりだった、と懐かしく思い出す。
反動が強くて扱いづらいガンブレード。それを使い続けることが強さのこだわりだったのだ。そして、
「お前も、な。」
そういって、首のアクセサリーに手をやる。グリーヴァ。こいつの名前であり、俺の強さの象徴。
スコールが最も強く思うもの。このアクセサリーを見て思い出した。俺はこのライオンのように強くなると決意したときのことを。
その全てが懐かしく思えた。
そのとき、モニタールームでは、またモンスターの襲撃が起こっていた。
トライエッジとコキュートス、ガルガンチュアのお出ましだ。本来なら、スコールに知らせるべきであろう。
だが、今回は新人の四人に行かせた。スコールには今日は休んでもらおう、というはやての心遣いの結果だ。
本当に大丈夫か、と思ったが考えがあったのでとりあえずその四人に行かせたのだ。
とにかく、その場にメモを残してはやてはある場所へ向かった。
「うおおおおおっ!!!」
スバルがトライエッジの突進と張り合っている。そこにティアナの援護射撃がトライエッジに当たる。
そのときだった。
「うわああああっ!?」
「スバル!」
スバルが感電した。トライエッジはカウンターでトラインスパークを放つ習性がある。
スバルはその場に膝を着く。だが、これでトライエッジがカウンターでトラインスパークを放つのはわかったらしい。
「ティア!!もう一度突っ込む。援護して!!」
そういい残し、トライエッジにもう一度突っ込む。ティアナも援護するために魔力をためる。
「ディバィィィィン………」
トライエッジが突進してきた。今だ。
「バスターーーーーーーっ!!」
スバルがディバインバスターを放つ。それにあわせてトライエッジの背後に魔力弾を当てる。
トライエッジの正面にひびが入る。
「うおおおおっ!!!」
トライエッジは前方と後方から力を受け、耐えられなくなったのかバキバキと割れていく。
そして、粉々になった。スバルとティアナの勝利である。
「くっ、コイツ、硬い…」
一方、エリオとキャロはガルガンチュアと戦っていた。キャロのサポートを使ってフルドライブで突進してこのざまである。
ガルガンチュアはエリオをはじき飛ばす。
「ぐわあっ!!」
「エリオ君!」
キャロがエリオのもとに駆け寄る。
「許さない。大切な仲間を、友達を傷つける相手は!絶対に許さない!!!」
キャロが叫び、ヴォルテールを召喚する。ヴォルテールはガルガンチュアを踏み潰そうと、足を上げたが、ガルガンチュアのイービルアイを喰らい、
動けなくなる。そして、ヴォルテールを殴り飛ばした。そのとき、エリオがまた突進攻撃を仕掛けた。それを右手で受け止める。
「言っただろ!!仲間を傷つけるやつは許さないって!!!」
エリオはぶつかった状態でさらに加速する。すると、ガルガンチュアの右手が砕けた。ついで、体や左手も砕ける。
恐らく、ヴォルテールを殴り飛ばしたときに体にひびが入っていたのだろう。
そのまま、ガルガンチュアは崩壊した。
四人は忘れていた。ここに来たのは、二体だけではないことを。
コキュートスが四人の背後から忍び寄り、爪で刺し殺そうと思ったとき、何かが、コキュートスに当たった。
「ナンダ!!」
「悪いが、うちの子たちに手出しせえへんでくれるか?」
この一言で四人が一斉に振り返った。コキュートスの存在を忘れていたことに気づき、はやてがここにいることに驚いた。
「ナメルナ!!」
片言でそういったとき、コキュートスははやてに爪を突き出していた。その速さに驚いたが、難なくガードされる。
「悪いが、こちとら遊んでる暇はあらへん。一瞬で終わらせてもらうで。」
はやては、杖を構え、一気にこう叫んだ。
「響け、終焉の笛!ラグナロク!!!」
はやてはコキュートスを粉々に消し飛ばした。が、コキュートスは最後の悪あがきを行った。
「アルテマ!!!!」
なんと、究極魔法を放ってきたのだ。はやては咄嗟に後退するが、四人が間に合わない。やられる!と思った瞬間、何かが四人をはやてのところまで
連れ去っていった。それがとても大きな竜だと気づくには少し時間がかかった。そして、向こうのほうですさまじい音がする。アルテマが発動したのだ。
「どうやら、間に合ったようだな。」
そこには、スコールがいた。何故いたかというと、モニタールームにこんなメモが残されていたのだ。
―――なのはちゃんとフェイトちゃんへ あの四人の様子見てきます。それまで、指揮をお願い!! はやて――――
これをなのはやフェイトが見る前に見つけてしまったので、急いでスコールはここに駆けつけたのだ。
もう、ほとんど戦闘は終了しており、やることは四人の脱出だけだったが、四人が動かないのでバハムートを召喚して四人をここへ連れてきたのだ。
「強くなったな。お前たち。」
スコールが四人にそう伝える。四人が始めてみるであろう微笑を浮かべながら。
四人はその表情に驚き、自分が成し遂げた功績に気づき、歓喜した。
「さ、みんな帰るで。」
「「「「ハイ!!!!」」」」
「ああ。」
そうして、四人は機動六課へ帰った。
アルティミシアは考えていた。これで私のしもべはほぼやられてしまったわけだが、こいつがいる。
私でさえ手なずけるのにてこずったこの無敵のモンスター。
こいつを使えば、少なくともあの部隊の三人以上は殺せるだろう。
「さあ。行きなさい…………」
それは、殺戮兵器に近かった。古代の知識と力を持つ絶対のモンスター。
そいつの名は――――
オメガウェポン。
最終更新:2010年07月03日 13:31