「……専用デバイスの開発?」
まだ完全に完成してはいないが
急ピッチで建設が進められている機動六課の庁舎。
その隊長室にジルグは呼び出されていた。
「そ、ジルグさんもうすうす気づいとったろうけど
今まで使ってたデバイスだと
ジルグさんの魔力を全然生かしきれんのよ」
なるほど……実際に使用しているところは
初対面時の高町なのはのレイジングハートしか見ていないが
高位の魔術師はその魔力と自分の戦闘スタイルに合わせて
専用のデバイスを持つ事は知っていた。
デバイスの分類などは専門書を読み漁った事もあり
ある程度の把握は出来ている。
「んでジルグさんの専用デバイスなんやけど
六課に配属予定のデバイス開発の専門家がおるから
彼女と話し合いながら進めて欲しいんよ」
「なるほど、話はわかった。
で、その専門家とやらはこれから訪ねるのか?」
「もうすぐ来ると思うからお茶でも飲みながら待っとってや」
そういうことならおとなしく待つしかない。
そう判断したジルグがソファーに向かった瞬間
部屋の扉が蹴り破られ、一人の女性が登場した!
「天呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! デバイス作れと私を呼ぶ!!
(自称)デバイスマスターにして
天才科学者シャーリオ・フィニーノ事シャーリー!ここに 参 上 !!!」
………誰だあんた?
「………シャーリー?」
ポーズを決めたまま固まっているシャーリーにはやてが声をかける。
「あ……あら? もしかして滑った?
初対面のイメージは後々にまで影響するから
昨日そのための本を読んで勉強したんだけど」
一体何の本を読んだんや……と頭を抱えるはやて。
「ジルグだ」
全く動じずにシャーリーに名乗るジルグ。
……やっぱり大物や、というはやての心の声が聞こえそうである。
「あら、あなたが六課に配属予定の漂流者さんね。話は聞いてるわ」
とりあえず話の進行には支障なさそうだ。
「で、このシャーリー殿が俺のデバイスを開発してくれる、と」
「あら、殿付けなんてしなくても…シャーリーでいいわよ。ジルグさん」
「自分は呼び捨てでこちらにはさんづけか、変わっているな」
「だって私はこっちの方が呼ばれ慣れてるし
男の人をいきなり呼び捨てなんてしたら誤解されちゃいそうだし」
「誤解云々はどうでもいいが、デバイスの話は?」
「とりあえず一息つけさせてもらえん?
なんやえらい疲れがどっと出たわ……」
さて、初対面こそドタバタしたが
実際に開発コンセプトの話などに入ると
まるで上から下に水が流れるように話が進んでいった。
はやてですら所々ついていけない程である。
「なるほど……つまり……」
「そうだ……だからここを……」
「あ~……集中してるところ悪いんやけど」
バツの悪そうな顔をしてはやてが言う。
「この場ではお互いの紹介と言うことで、
具体的な話はシャーリーの研究室でやってもらえんかな。
一応ここ執務するとこでこれから何人かお客さんもくるし」
「あらごめんなさい、ジルグさんが結構デバイスに詳しいから
話に夢中になっちゃってたみたいね」
「わかった、案内してくれ」
「ええ、こっちよ。じゃあ後でね。はやてちゃん」
「うん、よろしく頼むな」
そう言ってジルグとシャーリーは隊長室を後にした。
「でも面白いコンセプトね、それ」
「そうか? 俺にはこういう方が使いやすい」
「デバイスって言うのは基本的に魔力を出力して攻撃するって用途に使われることが多いからね。
私からすれば結構斬新なアイデアよ、それ」
「デバイスの専門家にそう言ってもらえるとは光栄だな」
「あなたって絶対相手から皮肉と受け取られるのをわかっててそういう言い方してるでしょ?」
「なんの話かわからないな?」
「素直じゃないんだから」
ジルグがシャーリーに提案したデバイスのコンセプトは
いわばゴゥレムを人間大で運用するもの、である。
まずジルグとシャーリーが決めたのは
インテリジェントデバイスではなくストレージデバイスとして設計することであった。
インテリジェントデバイスは魔法を扱うための処理の補助、
戦闘における状況判断などを独自の人工知能で行い術者をサポートするものである。
それ故術者の能力に応じて性能も大きく上下し、
術者とデバイスの相性などによっては、
カタログスペックを大きく超える能力を発揮させたりすることもある。
が、その逆もありけりで使いこなせなければただの産廃にもなりうる。
現在、機動六課の参加メンバーの主力メンバーは
ほぼ全員がインテリジェンドデバイスを使用している。
今度配属される新人用に開発しているのデバイスもインテリジェンドデバイスだ
だがジルグの考えでは、あくまでデバイスは道具であり消耗品だ。
デバイスが損傷した場合……
特にインテリジェントデバイスの場合などは基本的にワンオフ品であるため
修復に時間が掛かる。
その間術者は戦闘手段をなくしてしまう。
武器などなくなったり壊れたりしたら相手から奪って戦えばいい。
そんな戦い方を当たり前のようにしていたジルグからすれば
武器はなるべく既存品から流用したい。
それにジルグからしてみれば、道具が勝手に状況判断して性能を変化されても困る。
道具はあくまで道具であり、判断して実行するのは自分なのだ。
ならば武装はシンプルにまとめ、その分強度や出力の強化で補うほうが望ましい。
というのが二人が出した結論であった。
「狙撃も可能なカートリッジ式のロングライフル型とベルカ式のダガー。
要は銃剣ね、元々それを使ってたの?」
「それもある、が大は小を兼ねるとも言うしな」
実際の銃であればともかく、魔力を消費して扱う銃であれば
自分のコントロール次第で距離を問わずに運用できる方がいい。
もう一つは携帯用として小型のアームドデバイスの搭載。
これは試験でも使っていた魔力障壁展開用のシールドと
近接戦闘用のある意味「最後の切り札」でもあるショートソード型デバイス
これがジルグから出された武装の要望であった。
そしてもう一つがシャーリー曰く「面白いコンセプト」
身体の各所に跳躍補正と姿勢制御を行うためのデバイスを
複数装備するというものである。
ジルグの場合、身体能力的にはあくまでただの人間である。
高い魔力を有し、射手としての技量に優れるのであれば
防御力の高いバリアジャケットを選択するのも手ではないか、とシャーリーは提案したのだが
その場合、単独での行動には向かず、味方のサポートが前提になる。
ならば逆転の発想で防御力ではなく機動力に回してしまえばいい
というのがジルグの提案であった。
身体の各所に魔力を出力することで姿勢を制御するデバイスを装着し
そこから瞬間的に魔力を出力することで
人間であるジルグには不可能な機動を可能とさせる。
数箇所に装備されたデバイスの操作は難しいが、ジルグには扱える自信があった。
なぜなら彼は元の世界で、似たような機構を持つゴゥレムに搭乗して戦った経験があるからだ。
このデバイスは武器と違いワンオフ品にならざるを得ないが
装備するのは自分の身体であり、デバイスがやられる時は自分がやられた時だ。
デバイスが壊れるような攻撃を受ければ自身も戦闘不能に陥るだろう。
そう語ったジルグにシャーリーは興味深そうに頷く。
「なるほど……でも今までの案を聞く限りだと、基本的に地上で戦うことが前提になってるみたいだけど
確かBランクの陸士試験には合格したのよね。
そういえば貴方、飛行魔法は使えないのかしら?」
確かに飛行できれば飛行できない相手の頭上を押さえる事が可能になり
戦況を有利に進める事が出来るだろう。
だが……
「どうだろうな?」とはぐらかすジルグ。
「まぁいいわ。で、展開箇所はメイン出力デバイスを背中に
姿勢制御デバイスを両肩と膝下、の計5ヶ所でいいのかしら?」
問い詰めてもどうせはぐらかされるだろうし、
ジルグが『基本的に』地上戦をメインとして考えているのなら
その要望にあったデバイスを作ることが自分の仕事である。
ジルグと多少話して大体の人間性を掴んだシャーリーはそう結論付けていた。
「ああ、それで十分だろう、後は姿勢制御デバイス本体の強度と障壁出力も
可能な限り高いほうがいい。
バリアジャケットの強度は大して無くともかまわない」
時には自らの手足が武器にもなる、出せる要望は早めに出しておくべきだろう。
「わかったわ、姿勢制御デバイスなんて前例がないから
試作した後、使いながら調整を進めるって方向になると思うけど
手持ちの武装デバイスに関しては量産品を流用した上で
これ以上ないってくらい高出力高精度のものを作って見せるわ」
自信満々に言い切り、ふと思い出したようにジルグに問うシャーリー
「そういえば……このデバイス…いえ、統合デバイスユニットとでも言った方がいいかしら?
名前、どうする?」
そう聞かれ、一瞬天井を見上げ思案するジルグ。
やがてシャーリーに目線を移し、不適に笑うと一言
「エルテーミス」
それは、彼が元の世界において
他に類を見ない戦いぶりを敵味方双方に見せ付けた機体の名称だった。
最終更新:2010年08月02日 20:10