ブレイクブレイド StrikeS
第12話「設立前夜」

その日もティアナ・ランスターとスバル・ナカジマは
なのは特製のハードな訓練プログラムを消化していた。
「は~、疲れた~。
ほらティア! 早くご飯食べに行こうよ!」
訓練が終わった直後の疲労した顔はどこへやら
今にも走り出しそうなスバルにティアナはやれやれという顔で応える。
「わかってるからちょっと待ちなさいよ。
別に急がなくてもなくなったりはしないわよ」

六課内の食堂は非常に充実している。
食事と言う物は人間にとって非常に重要なものである。
それは栄養補給の面のみならず、
士気に与える影響と言うのも結構馬鹿には出来ないものだ。
そういうわけで機動六課内にある食堂は
質、量、種類共にそこらのレストラン街にも負けない程の規模を擁している。

「あ、エリオとキャロも今来たとこ?」
食堂に到着した二人はライトニング分隊のエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエを発見した。
「あっ、ティアナさんとスバルさんもこれから夕食ですか?」
二人に気づいたエリオがキャロと近づいてくる。
「うん、ちょうどあそこのテーブルが空いてるし一緒に食べようよ」
「はい、じゃあ私水を持ってきますね」とキャロが離れていく。
「さーて、今日どれを食べようかな~」
一緒に食べるのはかまわないのだが、
あの見ているだけで胸焼けしそうになる量だけは何とかならないだろうか。
と、ティアナとエリオは二人とも同じことを考えていた。



────一方
「飯は食い終わったのか?」
「ああ」
トレイに乗せられた夕食を片付けながらジルグは応えた。
「なぁ……何回も聞くようだが、なんであんな事したんだ?」
涼しい気な顔を貼り付けたままチラリとゲンヤを見るジルグ。
そして答えは沈黙。
「はぁ……まぁもう慣れたけどな」
やれやれと首を振るゲンヤ。

事件に関しての事には全て黙秘を貫くジルグだったが
あとは本当に普段どおり飄々としたままだった。
今回の事件は部隊内部で預かっていた部外者が起こしたものである為
ゲンヤとしては穏便に事を収めようと思っていたのだが
直接被害にあった当人達を目の前に「せめて謝罪くらいは」
というゲンヤの言葉にも表情を崩さず、
逆上した隊員の一人がジルグの胸倉をつかもうとして揉み合いになった事もあり
ゲンヤは初日の時点で部隊内で事を収めるのを諦め
はやてへ連絡を取ったのだった。

「そんなことを訪ねに来たのか?」
珍しくジルグからゲンヤに言葉が投げかけられる。
「そんなわきゃねぇだろ、お前さんに辞令だ。
明日から機動六課に正式配属が決まった。
それと俺としちゃどうでも……よくはねぇんだが
今回の件に関しては不問に処す。代わりに他言無用、だそうだ」
「了解だ」
正直ここでゴネられても困るのだが、あっさりと承諾したジルグに
ゲンヤは疑問を抱いた。
「おまえさん、もしかしてこうなることは予測済みだったのか?」
「………」
沈黙を保ったまま涼しい表情を崩さないジルグ。
それを肯定と受け取ったゲンヤは
(こりゃはやての奴も手を焼くだろうな)
と明日からの彼の上司に同情の念を禁じえなかった。

「決定がギリギリまで遅れたんでここを発つのは昼前になる。
設立式典には間に合わんが……まぁおまえさんにとっちゃどうでもいい事だろうな」
「それは残念だ」
可笑しそうに言うジルグ。
どうでもいいことは喋りやがる、と苦虫を潰したような顔になるゲンヤ。

最初、聴取はギンガが行っていたのだが
埒が明かないということでゲンヤが請け負うことになった。
だが結局事態は進展しないままジルグは陸士第108部隊を去ることになる。
「私物は……ほとんどなかったな。特に持っていくものはないか?」
「持っていくものはないが本を返していなかったな。
机の右側にまとめているのがギンガから借りたもので
左側にあるのが書庫から借りたものだ。
他の物は街でもらったフリーペーパーなどだから捨ててくれて構わない」

まるで既に自分が出て行くことがわかっていたかのように
整理状況を伝えるジルグ。
ゲンヤの顔がますます渋くなる。
「わかった、それは処理しておく
後、俺は明日は本部に出張だ。
見送りは出来んから何か今のうちに言っておくことはあるか?」
そう聞いて少し考え込むジルグ。
「ない………と言おうと思ったが一応言っておこう。
面倒を掛けたな、礼を言う」
「だったら素直に聴取に応じてくれ……、
まぁあっちに行ったら危険な任務も多いだろう、気をつけろよ」
そう言ってゲンヤは独房を出て行った。

再び一人独房にたたずむジルグ
ふと窓の方を見やると煌々と輝く月があった。
この世にはいくつもの異なる次元が存在していると言う。
だが
「月はどこにいても同じように見えるのか、な」
自分が『処刑された』時と同じように空に佇む月を眺め
自分も感傷的な気分になるのだな、と思った。
そして……
「どうやら”ガキ”なのは死んでも直らないようだぞ、ライガット」
可笑しそうに「能無し」の名を呟いた。




----同時刻
「確か、もう一人新しい仲間が配属されるんですよね?」
「うん、でも式には間に合わないから顔合わせはその後って
なのはさんは言ってましたよね」
「あぁ、ジルグって人?」
食堂では食事を終えたフォワード陣が
明日から配属されると言う新しい隊員の話題でテーブルの上を賑やかしていた。

「それなんだけどさ……」
らしくなくスバルが小声で言う。
「どうしたの?」
いつもと様子の違うスバルに疑問の声を投げるティアナ。
「あのね、その人ギン姉のところで訓練してたって言うのはさっき話したよね?」
「ええ、それがどうかした?」
「ギン姉からメールが来てね。『絶対に気を許すな』って」
「どういう意味ですか?」
「わかんない、何で?って返信したけど返ってこないし」
両手を上げてお手上げのポーズをとるスバル。
「でもお互い信頼しあわなくちゃチームとして戦えませんよ?」
「だよね~、どうしてこんなメール送ってきたんだろ?」
「スバルさんも……その、女性ですからという意味とか?」
ワイワイと勝手な憶測を始めるフォワード陣。

気を許すな、と言うことはつまり危険人物ということなのだろうか?
しかしどういう意味で『気をつけ』ればいいのか?
ティアナは考える。
世紀末救世主な世界観的な意味で危険なのか?

ジルグ(モヒカン)「ヒャッハー!!汚物は消毒だー!!」

……なのはさん辺りに消し飛ばされて終わりな気がする
強さ云々以前に雰囲気的に。

または性的な意味で危険とか……
スバルはまだ15才だ、
つまりそれだと一つ年上の自分もその対象に入る可能性があるわけで、
下手したらキャロやエリオも……

ジルグ(AKB系)「ティアタンハァハァ、スバルタンハァハァ、
キャロタンペロペロしたいよー、エリオきゅんみたいに可愛い子が女のな筈がない!
あ、19歳とかもうおばさんですから い り ま せ ん。
サーセンwwwwwwwwwwwww」

やっぱりなのはさん辺りに消し飛ばされる気がする。
あ、なんか今首筋に悪寒が……

それとも見た目が人間止めてて
触手系モンスターだったり首から上がグニャリと曲がったり
身体が腐ってて粘液をたらしながらジリジリと……

「イヤアアアアアァァァァァァァァ!!!」
突然絶叫を上げたティアナに跳び上がって驚く3人。
「ど、どうしたの? ティア」
「い、いやゴメン、なんか妄想がフルバーストと言うかなんというかね。
気にしないで……
そういえばスバルはジルグさんの見た目とか聞いてないの?」
よくよく考えればそういうレベルのことなら
スバルはギンガから情報をもらっていてもおかしくはない。
「あ、そういえば見た目は聞いてなかったなー。
どうなんだろ? カッコいい人だといいね!」
能天気なスバルとあまりにあまりな自分の妄想に頭を抱えるティアナ。
そして置いてけぼりでキョトンとしているエリオとキャロ。
そんなこんなで六課設立前夜は過ぎてゆくのだった。

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最終更新:2010年08月06日 01:04