ブレイクブレイド StrikeS
第15話「新器琢磨」
「いや~、昨日はすごかったね!
それにカッコいい人でよかった~」
朝食時のテーブルでスバルが明るい声をあげる。
ジルグに撃墜されたうちの一人であるにもかかわらず
まったく恨み節を言う様子でもない。
あの一件を知らないスバルからすれば
ジルグは単純にすごい人、という認識なのだろう。
また、ティアナはあの後部隊長室に呼び出され、
はやてからあの戦闘は
「あらかじめ決められていた物だったということにしてくれ」と言われていた。
大方若手のフォワード陣とジルグの間に余計な摩擦を起こすことを恐れたのだろう
とティアナは推察している。
最終的にあれがイレギュラーな戦闘だった事を知っているのは
フォワード陣の中では最後に残っていたティアナだけである。
ティアナ本人としても別に自分から面倒を撒き散らすような事はごめんなので
特に異議も無く承諾した。
「なんか、魔力がすごいっていうんじゃないんですよね。
ものすごく戦い慣れているというか……」
そういうエリオもまた撃墜された一人ではあるが
こちらもジルグの技量を思い出し、感心しているようだ。
ただ、何も出来ずに撃墜されたキャロはいまいち顔色が優れない。
それを見たティアナはキャロに声をかける。
「キャロ、あんまり気にすること無いわよ。
あれは相手の反撃を予測した指揮が出来なかった私の責任でもあるんだから」
それを聞いたスバルが目を丸くする。
ティアナが自分から誰かに慰めの言葉を掛けるのは珍しい、とでも言わんばかりの目だ。
てっきり「何ボサっと突っ立ってたのよチビっ子!!」
とでも言うのかと思っていたのだが……
「何よその目は?」
「いや……ティアがやられた味方を慰めるなんて雨でも…イタタタタ!」
スバルの耳を捻るティアナ。
「やられた本人に指摘されちゃったからね。
確かに私のミスでもあるわ」
「そういえばティアはあの後ジルグさんに六課を案内したんでしょ?
何話したの?」
俄然興味津々とした瞳でティアナを見るスバル。
「別にそんなに話はしてないわよ。
自己紹介と案内、あとはあの戦闘の感想を聞いてみただけ」
「え~?つまんないなー。趣味とか好きなタイプとか聞かなかったの?」
「初対面の相手にいきなりそんなこと聞くわけ無いでしょ」
そっけなく答えるティアナにガックリと肩を落とすスバル。
「ま、まあまあスバルさん。また改めて自己紹介もしなきゃいけないでしょうし
その時に聞けばいいじゃないですか」
慌ててフォローするエリオ。
「そうだね、そういえばジルグさん見かけないけどもう朝食食べたのかな?」
「だいぶ前に出て行くのを見たわよ」
「え~!?声かければよかったのにー!」
「仕方ないじゃない、結構離れた席にいたみたいだし」
どこかであったようなやり取りをした後
食事を終えた4人は午前の訓練の準備に向かうのだった。
一方朝食を食べ終わったジルグはシャーリーの下に赴いていた。
昨日受け取った後すぐに試した自身のデバイスユニット、
『エルテーミス』の受け取りと昨日の稼動データを見せてもらう為である。
室内に入るとコーヒーを口にしながら打ち出されたデータに目を通すシャーリーがいた。
「早かったか?」
「あー別に気にしないで、
ちょうどエルテーミスの稼動データに目を通してたところだから」
そう言ってジルグに書類を見せるシャーリー。
パラパラと紙をめくり目を通すジルグ。
あまりに専門的な部分はわからないが
術者の思考に対するデバイスの反応速度、出力の変化、並行稼動状況等
必要なデータを頭に入れていく。
「まぁ初日でいきなり戦闘に使用してこれならまずは合格じゃないかしら?」
「そうだな、まだまだ調整する余地はあるようだが」
それにしても、とシャーリーが話し始める。
「初期設定だから最大出力を相当抑えて
反応速度もかなりマイルドに調整したつもりだけど
作った私が言うのもなんだけど…どうかしてるわね、この設計思想」
本来デバイスは単体で運用するものである。
ワンオフ品として作られたクロノのストレージデバイス『SU2』や
なのは達の持つインテリジェンドデバイスなどももちろん
魔法を使用する為の機能をそのデバイスにまとめている。
その上で彼らの場合は飛行魔法や攻撃魔法など
複数の魔法を並行して使用している。
だがこの統合デバイスユニット『エルテーミス』は
魔力の放出に特化された5つのデバイスを
全て独立した状態で稼動させる事が前提となっている。
パソコンで例えれば、オペレーターが一人で
「汎用性の高い高性能のパソコンで複数の処理を行う」
のに対して
「それぞれの機能に特化したパソコンを一人で複数操り処理を行う」
違いとでも言えばいいのだろうか
前者は複数の作業処理を同一デバイス内で行うことで
使用者に対しての負担を減らし、一つの媒体内で円滑な処理を実行する。
それに対して後者は複数の処理を全て使用者自身で行わなければならなくなり
それぞれの性能を最大限に発揮させる為のはかなりの負担と能力を使用者に求めることになる。
その代わりそれぞれの処理を完全にこなせるならば
前者に対してより少ないリソースで、高いパフォーマンスを発揮することが出来る。
使用者に多大な負担を強いることになる『エルテーミス』は
使いこなすことが出来れば使用者単体の戦闘能力を爆発的に上昇させるだろう。
だがこの場合、エルテーミスのみを扱えれば良いという話ではないのだ。
エルテーミス自体には固定武装は存在せず、ジルグの要請により
銃剣型ロングライフル、魔力障壁展開用シールド、近接戦闘用のショートソード
ジルグはバリアジャケット展開機能を省いて出力に特化した3つのアームド型デバイスを
エルテーミスを稼動させながら使用する事になっている。
それがさらにエルテーミスの使用難度を上げることに繋がっていた。
本来は一つのデバイスを使用しながら複数の魔法を使用する。
並の魔術師ではそれ自体難しいとされているのを
単独機能に特化したデバイスとはいえ、複数を同時に使用するのだ。
シャーリーが「設計思想がどうかしてる」というのはある意味当然といえた。
「で、八神隊長はなんて言ってたの?」
調整を進めるにしても訓練場は使用せねばなるまい。
だが、昨日の一件もあり、フォワード陣との合同訓練は当分禁止されている。
そのあたりはどうするのか?
「訓練、というよりこのデバイスの慣らしと調整を行うブロックを提供してもらう
しばらくはそこで独自訓練という事になった」
ここいらは妥当な決定だろう。
隊長陣のジルグに対する不信感もあるが
ジルグとしてもまだまだこの『新しいエルテーミス』を使いこなせているとはいえない状態だ。
相手のいる実戦訓練を行う前に、本来は動作の調整から入るべきである。
動作に慣れたら徐々に最大出力等をを引き出した上で
ジルグ自身が使いやすい反応速度にカスタムしなければいけない。
となると、必然的にフォワード陣とは別メニューにならざるを得ない。
「そういえばティアナ以外のフォワードの子達とはもう話したの?」
「いや?」
まぁ予想通りの答えだ、どちらにしろ今日の訓練開始前に顔を合わせるだろうし
特にシャーリーがどうこう言う話でもない。
「今日は設定は昨日の状態のままで、現状の最大稼動データが欲しいから
その辺りをお願いできるかしら?」
「了解だ」
デバイスを受け取り部屋を後にするジルグ。
さて、と仕事に戻るシャーリー。
彼女にとってエルテーミスの存在は魅力的だが
他のデバイスの調整などの仕事の手も抜くわけには行かない。
頭を切り替えてコンソロールパネルの操作を開始した。
最終更新:2010年08月09日 23:20