「改めてみると……この数はきついわね」
自分達に向かってくるガジェットドローンに向かって
後退しながら誘導弾を放ちつつティアナが呟く。

個人戦闘能力の低いキャロを先行させ、エリオと二人で猛攻を凌いではいるが
正直なところ捌ききれてはいない。
厄介なのはAMFを展開しているタイプである。
今のティアナの誘導弾ではAMFを貫けず
撃墜するには以前行った訓練のように、
多殻魔力弾を形成するヴァリアブルシュートを使用しなければならない。
だが現在は後退中であり、前衛の一人であるスバルを欠いている為
攻撃の為に魔力を集中出来る状態ではない。

その前方ではエリオがストラーダを盾としながらガジェットの動きを引き付けている。
本来であればエリオはその高い機動力で
相手を翻弄して一撃離脱するという戦い方が理想なのだが、
今回は数に任せて攻撃してくる相手に被弾が目立つ。
ディフェンスブーストの恩恵もあり、大したダメージは負っていないが
(受けに回るのがこんなに難しいなんて…!)
今の自分の役目は敵をひきつけ、後方へ抜かせない事である。
あわよくば手近な敵を撃墜しようと思っていたが、
雨あられのような攻撃の回避と後方へ抜けようとする相手への妨害でそれどころではない。

それでも3人はなんとか攻撃を潜り抜け、
スペースの入り組んでいる27ポイントに到達する。
「キャロは障害物の影に入って後方から援護!」
「わかりました!」
フリードリヒと一緒に物陰に飛び込み
ティアナにかけるAMFフィールド貫通効果の魔法詠唱を開始するキャロ。
「後は……スバル次第ね」
もう後ろに後退するスペースはない。
クロスミラージュに魔力を注ぎ込みつつティアナは呟いた。

──「3人とも大丈夫かなぁ……」
ガジェットに見つからぬよう用心深く走りながら呟くスバル。
だが、あまりに時間をかけすぎるとブーストの効果が切れてしまう。

「うぅ…まずいなぁ…」
一機のガジェットが、まるで索敵するようにスバルの進行先にとどまっている。
陰に身を隠しながらスバルは焦りを感じ始める。
ここを通らなければティアナたちとの合流に大幅に遅れてしまう。
幸いにも相手は一機だ。
迅速に撃破すれば他のガジェットに気づかれずに突破できるだろう。
そう判断し、スバルは一気にガジェットに向かって走った。

もう少しスバルが用心深ければその存在に気づいただろう。
自分が物陰に隠れながらの観察では当然視界も狭くなる。
「てぇぇぇぇぇい!!」
リボルバーキャノンでガジェットを撃破した直後──

「あっ!」
スバルの目は視界の右に動く別のガジェットを捉えていた。
「まずい!!」
距離を詰めきれるか微妙な距離だ。
そのガジェットは合流ポイントへ向かって全速で移動しようとしている。
「くっ」
一気にダッシュしようとしたスバルは
そのガジェットが目の前で魔力弾に貫かれるのを見た。

「え!?」
魔力弾を発射した主を探すが彼女の視界には見えない。
「っと……今はそれどころじゃない!」
不可思議な出来事だが、とにかく今は合流が最優先だ。
スバルはマッハキャリバーを全力で走らせた。

「精度、出力共に文句なし…だな」
スコープから目を離し、ジルグは呟く。
今のはあくまで視界外距離への狙撃テストであり、訓練への介入ではない。
バレていたら今度はそう言えば良いか、などと考えつつジルグはライフルのスコープを収納した。

「おまたせっ!!」
完全にエリオに気を取られていたガジェットにウイングロードで近づき
一撃で撃破するスバル。
「遅いわよ!」
口ではそう言うものの、ティアナの顔に僅かに安堵の色が浮かぶ
後方から不意を撃たれたガジェットの反応を見逃さず
クロスミラージュから放たれた魔力弾がガジェットを貫く。

「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を!」
状況の変化を見逃さず、キャロがケイリュオンをエリオに向け、ブーストを上書きする。
「行くぞ!!」
露払いにスピーアアングリフをガジェットの群の中央に放ち、穴を開ける。
不本意な防御的な戦いから本来の機動力を生かした戦闘にシフトしたエリオが
ストラーダを構えなおし、僅かに開いた穴に突撃する。

中央を穿たれ、ガジェットの攻撃陣形が乱れる。
エリオの突撃を回避したガジェットたちも次々とスバルに叩き潰され
またはティアナの誘導弾に貫かれ、みるみるうちに数を減らしてゆく。
狭い空間内では散開もままならず、多い数は密集しすぎるとただの的でしかない。
こうなれば後は一方的な戦闘が続くだけであり
事実、数分を待たずして戦闘は終了した。

「つ……疲れた……」
スバルの合流からは確かに一方的な展開だった。
だが、
「数の暴力って……怖いわ」
「はい……」
「もう動けません……」
ひたすら攻撃するだけであったにも関わらず
4人の魔力と体力は尽き果てていた。
いくら一方的な戦闘とはいえ相手も反撃はしてくる。
当然回避も怠るわけにはいかない。
だがとにかくガジェットの数が多く、4人は消耗しきっていた。

「4人とも頑張ったね、あの数のガジェットを撃破しきれるとは思わなかったよ」
と空中からの声。
教導官である高町なのはが4人の前に降り立つ。

まさか追加訓練発動とか、そういうオチは勘弁して欲しい。
無言でそう語る4人の表情に、なのはは苦笑する。
「午前の訓練はこれでおしまい、午後は自分のデバイスの稼働状況を報告書にまとめて
シャーリーにデータを送付しておいてね」
「……よかった~~」
と崩れ落ちるスバル。
ここでおかわりでも来ようものなら無条件降伏するしかない身体状況だった。
「報告書書くときに居眠りしても起こさないからね」
とスバルに悪態をつくティアナも明らかにホッとした表情を浮かべている。

「と、とにかくもうすぐお昼でしょ? ご飯食べに行こうよ!」
誤魔化す様に言うスバルにエリオが提案する。
「あ、じゃあジルグさんも誘いませんか?」
「それいいね! なのはさん、ジルグさんってまだ訓練してるんですか?」
となのはに尋ねるスバル。
「さっき訓練所を出て行ったから、早く捕まえないと見つけられないと思うよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるなのは。
「えー!? よし、ティア! 早くジルグさんを捕まえに行こ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいスバル! 引っ張らないでよ!」
スバルにズルズルと引きづられるティアナと、それについてゆくエリオとキャロを横目に
「見つけられるのかなぁ……」
と一人呟くなのはだった。

4人が食堂に到着した頃、ちょうど昼時ということもあって
中は昼食を食べに来た職員達で騒然としていた。
「ジルグさんどこだろ?」
「えーと…あ、あそこにいますよ」
エリオがジルグを発見する。
ちょうどパスタの盛られた皿を手にテーブルにつくところだ。
ティアナは少し複雑な表情をしている。

昨日少し話して思ったが、ジルグは性格的に自分と似ている所がある気がする。
積極的に心を開いて他人と接するスバルなどと違い。
一歩離れた位置から物事を観察するタイプだとティアナは思っている。
そういうタイプ相手に大勢で押しかけてコミュニケーションを強要するのは
正直あまり気が進まない。
「ティアナさん、どうしたんですか?」
考えが顔に出ていることをキャロに指摘されたティアナは内心焦りつつも
「なんでもないわよ」とキャロに答える。

なんだかんだで共に任務に望むにあたって、コミュニケーションは必要だ。
ジルグも大人なわけだし、その辺はわかっているだろう。
そう考え、ティアナもスバルたちの後を追った。
「ジルグさーん!」
スバルの声に顔を向けるジルグ。
「ここ開いてますよね? 一緒に食べようと思うんですけどいいですか?」
エリオの言葉に一瞬間を置き
「断る」
「え”?」
固まる二人。
ティアナはあたし知ーらない、という顔をして明後日の方向を向いている。
キャロはティアナの横でオロオロしている。
それぞれの反応を見てジルグは可笑しそうに笑うと
「冗談だ、構わない」と答えた。

「そ、そうですか。じゃあお皿とって来ますね!」
食事を取りにゆく4人を見てジルグは自身の過去にふと思いを寄せる。
ジルグはエリオやキャロがあの年で、危険な任務を行うこともありうる
機動六課にいることにさして疑問を抱いてはいない。
なぜならジルグ自身も初めて人を撃ったのはエリオ位の年だったのだから。

オーランドの脱獄兵がクリシュナ辺境の未登録集落を襲撃しているのを
旅行中の自分と父親は発見した。
相手を撃つことに特に抵抗は無かった。
相手はまごうことなく賊であり、自分の父親は国防を生業とする将軍。
そして自分はその後継者となるべく、幼少から期待を受け
それに応える為に実戦訓練も行ってきた。

そう、あの頃からだ
自分に向けられる期待に違和感を感じ始めていたのは……

そこまで回想した頃、4人がそれぞれの手に食事の乗った皿を持ち戻ってきた。

食事が始まったが、喋っているのはほとんどスバルだ。
ジルグのいた世界の事についてなど、矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる。
それに対してジルグは一つ一つ答え、エリオやキャロも興味津々な目をしてそれを聞いている。
だが、ティアナはジルグが『自分のいた世界の話』はしても『自分自身の話』に関しては
巧みに話題を逸らしている事に気づいていた。
恐らく他人にホイホイ喋りたくなる話でもないのだろう。
それ以外の話題に関しては微笑んだような表情を崩さず完璧に対処しているあたりは
やはり年の差からくる余裕なのか。
とはいえジルグもせいぜい20台半ばなので、そこまで年が行っているわけでもないのだが…

ティアナは気づいてはいたが、それを指摘しようとは思わなかった。
誰にでも話したくない事の一つや二つはあるだろう。
それを無理やりに聞くのは野暮なことだ。

スバルの強引なコミュニケーションは結果として自分を良い方向に変えられた
とティアナ自身は認めている。
だが、それを自分がやるかと言われれば……
(やっぱり私はスバルみたいにはなれないわね)
スバルの質問を巧みに受け流すジルグを眺めつつ、
ティアナは自身の食事を片付ける事に集中するのだった。

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最終更新:2010年08月13日 21:46