「こうして会うのは久しぶりやね、カリム。
 ご無沙汰にしててごめんな?」
「気にしないで、そっちも色々大変なんでしょう?」
「それはお互い様や」
はやては機動六課設立の支援者の一人であるカリムに会うために教会本部を訪れていた。 

カリムの顔は少し憂いを帯びていた。
どうしたん? と言いかけてはやては言葉を止める。
カリムが部屋のカーテンを閉め、いくつかの画像を空中に展開させたからだ。
「はやて、これを見てくれる?」
「これは、ガジェット……の新型?」

そこにはこれまでに管理局と交戦した記録のあるガジェットと比べ、
明らかに様相の違うガジェットが映し出されていた。

作成したのは恐らくジェイル・スカリエッティ……
彼は恐らく……いや、確実に歴史に名を刻む天才だろう。
違法医学の研究、数々の次元犯罪、それらに好んで手を染めていることを除けば。

「ええ、発見されたのは先日。
戦闘能力に関してはまだなんとも言えないんだけど……
今までの1型以外に新しく二種類」
新型と言う事はこれまでのデータに無かった機能や武装が追加されている可能性が高い。
はやての顔が少し険しくなる。
「それと、これが 今日の本題なんだけど……」
カリムが映像を操作し、一つの画像が拡大される。
それを見たはやての声に驚きの色が混じる。

「これは……レリックやね?」
「そう、その可能性が高いわ。
新しいガジェットが確認されたのも、これに関連していると想定できる。」
なるほど、この件に関しては恐らく……いや、確実にスカリエッティが絡んでいる。
「今日私を呼んだんはこれについてやね?」
第一級捜索指定ロストロギアに当たるレリックとスカリエッティ
どちらも機動六課を設立する事になった要因の一つである。
「ええ、このレリックを巡る事件、これに関しては判断を間違うわけにはいかないもの……!」
カリムの顔と声に険しさが増す。
一息ついたはやてが、閉じられたカーテンを開いてからカリムに話しかけようとした刹那
はやての携帯電話が緊急コールを告げた。
「どうやら本局も動きを掴んだようやな……」
「はやて……」
「大丈夫や、カリムが頑張ってくれたおかげで六課はもういつでも動き出せる。
即戦力の隊長や副隊長陣もおるし、新人達も実戦に出せるレベルや」

不安がないかといえば嘘になる。
だが、あえてはやてはカリムに笑顔を作ってみせた。

「機動六課の……初陣や!」

六課に戻りながら、はやてはリインフォースに連絡をいれ
出撃準備の命令を下した。
「~~と、言うわけや、隊長陣への連絡を至急行って。
時間をかけるわけにはいかへんからリインは輸送ヘリに同乗して
隊員にブリーフィングと作戦概要を説明。
あと現場の管制もお願いすることになるから頼むな」
「わかりました~そういえば~…」
言い淀むリインフォース。
「どしたん?」
「…ジルグさんも出撃させるんですか~?」
リインフォースは未だにジルグを信用していない。
それは他の隊長陣も多かれ少なかれそうであるが
リインフォースとヴィータあたりは
かなりあからさまに態度に出して嫌っていた。

「あたりまえや」とはやては答えリインフォースに準備を促す。
結局ジルグはスターズ、ライトニングには所属させず
ロングアーチのはやて直属の遊撃要員として任務をこなすことになっていた。

元々はどちらかの分隊に所属させた上で5人で行動させようかとも思ったのだが
「ジルグが素直にあの4人と行動するとは思えません」
というシグナムの意見にぐうの音も出なかったからである。
であれば、最高指揮官である自分が直接指示を下して命令を厳守させる他あるまい。
という事で、現在の状況に繋がっているわけである。
もちろん現場での指揮はなのはやフェイトが取るので
ジルグには「なのはちゃんやフェイトちゃんの命令をちゃんと聞くこと!」
という子供に出す命令くらいしか下せないわけなのだが……

──そして数分後のヘリの機上
緊急招集された隊員たちが緊張の面持ちをリインフォースに向けていた。

「まず、私達はエイリム山岳丘陵地区のリニアレールを追っています。
それに取り付いたガジェットを排除、そして鉄道に積まれたレリックを守るのが今回のミッションです!
具体的に説明するとですね~、スバル達スターズ分隊のフォワードは後方車両から
エリオ達ライトニング分隊のフォワードは前方車両から、
中央車両に保管されているレリックまでガジェットを駆逐しながら進んでもらうですよ~。
ジルグさんは今回ライトニングの支援として行動してもらうことになります~。」

「いよいよ初任務かぁ……」
ブルッと武者震いするスバル。
対して表情を隠そうとはしているものの、やはり緊張を隠せないティアナら3人。
「大丈夫だよ、今までやってきた訓練を信じて。
みんなの力なら絶対に出来るから!」
と4人を笑顔で元気付けるなのは。
4人の中でも特に不安そうなキャロに
「もう少しすればフェイトちゃんも来るし、上空援護は私達に任せて」
と声をかける。
「…ハ、ハイ!」
とぎこちなくも笑みを浮かべるキャロ。
どうやらフォワード陣の緊張はだいぶ解けて来たようだ。

「っと、今司令部から連絡が入りました。
敵さんのお出ましですよ、なのはさん!」
「わかったよ、ヴァイス君。」
遠めに列車が確認できる。
そろそろ降下準備に入らなければいけない。
なのはは上空援護をする為、一足先にヘリから出撃する。
そしてヘリから身を乗り出しながら、フォワード陣にもう一度声をかけた。
「じゃあみんなもそろそろ降下の準備を…」

そこまで言ったところで、
なのはは今までイヤに静かだったジルグが小刻みに震えているのを見た。
「………ク……」
「ジルグさん?」
「……だめだ……」
「え?」
「…あ…足が…足が竦んで動かない……
…こ…こ……こわい……空中から飛び降りるのは………は……初めてなんだ」

「こ、怖いって今更何言ってるんですか~!!」
一瞬静まり返ったヘリの中にリインフォースの怒声が響く。

「ちょ…ちょっと今更それはないんじゃ!?」
「あ、あなたそういうタイプじゃないでしょう!?」
スバルとティアナからも困惑の混じった声があがる。
「そ…そうですよ!僕たちを倒した時の力を見せてください!」
「というか……見せてくれないと困るんですけど……」
「あ…あれはっ…訓練だったから…位置とかも完璧に把握できてたから……
第一……! 空中じゃないッ!!」
両手で赤い髪の毛を掻き毟り、怯えた声で叫ぶジルグ。

ヘリの中の空気が非常に気まずくなる。
よりによって最も戦力として期待が出来、
怖いものなど無しに見えたジルグが高所恐怖症とは……

「そろそろ戦闘領域に着きますよ」
ヘリの運転をしているヴァイス・グランセニックが見かねて声をかける。
「ど、どうしましょう~?」
混乱しているリインフォースを見て、
仕方がないとばかりになのははフォワード陣に声をかける。
「ブリーフィングの予定通り私が上空制圧
4人は列車内を制圧してレリックを確保しつつ列車を停止させる。
何がいるかわからないから連絡を密にして」
頷く4人。
「皆気をつけて、じゃあ先に行くよ!」
そう言って上空に身を躍らせながらレイジングハートを起動させ
バリアジャケットを展開してガジェットの群れに向かって行くなのは。

そして輸送ヘリもガジェットを避けながら列車に向かう。
「おーい、新人共!そろそろ降下地点に到着だぜ!
なのはさん達が頑張ってくれてるおかげで問題なくいけるからな、安心しろよ!」
ヴァイスの声の後にリインフォースがフォワード陣に声をかける
「じゃあ、最後にもう一度確認するですよ~。
任務は二つ、ガジェットの全機殲滅と7両目にあるレリックの確保です。
スターズ分隊は1両目から、ライトニング分隊は14両目から、
それぞれ途中のガジェットを倒しつつ、7両目を目指してくださいです」
「「了解!!」」

そして4人は「うぅ……」と怯えたままのジルグに
(わたしの見込み違いだったのね)
(かっこ悪い…)
(こんな情けない人に負けたなんて…)
(私達よりずっと大人なのに…)
と、それぞれ侮蔑の眼差しを向けながらヘリから列車に降り立った。



──後方車両に降りたエリオとキャロの目の前には
見たことの無いタイプのガジェットが立ちふさがっていた。
「こいつ……!AMFの強化タイプ!?」
AMFは魔法効果を打ち消す効果を持つ。
エリオやキャロも訓練でそれは知っていた、だが……
「……魔法が……使えない?」
戸惑った声をあげるキャロ。
その新型ガジェットが展開する高出力のAMFは
至近距離にいる二人の魔力を押さえつけ、支援魔法の実行すら妨害していた。
「クッ、魔法が使えなくたって!!」
ガジェットに勢い良く突っ込んでゆくエリオだが……

「エリオ君!!」
キャロの悲鳴が車両内に響く。
ガジェットはその巨体から想像もできない速さ腕を振り、エリオの身体を横に跳ね飛ばした。
壁に叩きつけられるエリオ。
「グ……ハッ……!」
跳ね飛ばされた衝撃で頭を打ち、一瞬意識の飛んだエリオの視界に写ったのは
震えて怯えるキャロに向かって歩みを進めんとするガジェットの姿だった。
「……キャ……ロ……!ク……ソォォォォ!!」

まだ意識は完全に戻ってはいない、だが──
”自分が守らなければいけない!”その思いがエリオの身体を突き動かす。
エリオは突進し、ストラーダを直接ガジェットに叩きつけた。

ガキン!!

だが無常にも魔力の込められていないストラーダは、いとも簡単にガジェットに跳ね返された。
戦闘本能を失っていないエリオを仕留めるべく、
ガジェットがエリオに向き直り、身体の中央部から幾つもの光条を走らせる。
本能的に横っ飛びでかわすエリオだが、
回避先を読んでいたかのようにガジェットからベルト状の腕が伸び、エリオへ向かう。
「がはっ! こ、この……!」
「ああっ!」
再び壁に叩きつけられたエリオを見たキャロの悲鳴が響く。

(僕は……なんて弱いんだ……ガジェット一機すらまともに倒せない)
そして先程の怯えたジルグが脳裏に浮かぶ
(他人の事……言えないじゃないか……こんなんじゃ……)


(私は……何も出来ない)
キャロは壁に叩きつけられてグッタリとして床に倒れているエリオを見るが
その場から全く動けずにいた。
(大人とか子供とか関係ない……私はただの何も出来ない……)

力なら、ある。
だがそれは自分を孤独にした力だ。

力を持つことで孤独になるなら、持たない振りをしてみんなと接すればいい。
六課に入って少しだけだけど自分は変われたと思った。
『仲間』と呼ぶことの出来る人たちがそばに現れた。
ならこのままでいい、と思っていた。
だが──その仲間が今まさに目の前で失われるとしたら?

動けないエリオを掴みあげたガジェットが列車の外にエリオを投げ捨てる。
それを見た瞬間─────
「エリオくーーーーーーーーーーん!!!」
キャロもまた、列車外に身を躍らせていた。

「私は、この力を……私自身の力をもう恐れないっ!」
キャロの手がエリオの手を掴む。
『Drive Ignition』
そしてキャロのデバイス、ケリュケイオンから光が溢れ、
二人の落下スピードが徐々に緩やかになってゆく。

キャロはエリオの手をしっかり握りながら、
自分の横に浮かんでいるフリードに謝った。
「ごめんねフリード、今まで不自由な思いさせて……
もう大丈夫。
ちゃんと、ちゃんと制御するから……!」
キャロの意識が極限まで集中されてゆく。
「行くよ!」
キャロの叫びと共に光が一気に溢れ出し、巨大な魔法陣が現れる。
「蒼穹を奔る白き閃光、我が翼となり天を翔けよ。
来よ、我が竜フリードリヒ……!竜魂召還!!」
キャロの足元の魔法陣から、巨大な影が現れる。

それは白銀に輝く飛竜、フリードリヒの真の姿。
フリードリヒはキャロとエリオを背に乗せ、
今の姿で顕現した事を喜ぶように咆哮をあげた。

「あ、あの……」
エリオが意識を取り戻した時、目の前には目を閉じ魔力を高めるキャロがいた。
そして次の瞬間に視界が光に包まれ、巨大な竜となったフリードに乗っている自分がいた。

「ありがとうキャロ……」
エリオが恥じ入ったようにキャロに礼を言う。
「ううん、どういたしまして。
それより早くあのガジェットを倒して中央車両に!」
「そ、そうだね。ん? ……あれ、は……?」


フリードリヒの背中に乗った二人が見たのは
高度こそ保っているものの
なぜか戦闘領域から離脱せず中央車両に向かう輸送ヘリだった。

輸送ヘリから中央車両の上に群がるガジェットにいくつもの魔力弾が放たれ
ガジェットが次々と落とされてゆく。
「あれは……?」
「え……!?」

───直後、二人はヘリから一人の人影が身を躍らせるのを見た。

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最終更新:2010年08月13日 21:47