序章「混乱の幕開け」

 テリウス大陸の安定を見届けてから2ヶ月。
 アイクはまだ見ぬ別天地を、更なる強者を求めてセネリオとともに旅をした。
 道なき道を通り、平和に馴れぬものたちを倒し、己自信を磨いた。
 そんなある日の出来事だった。
「セネリオ。この魔道書は一体なんだ?」
 その声に気づき食事の手を休めるセネリオ。
 アイクの手には茶色魔道書が握られていた。
「ええ。2ヶ月くらい前にララベルさんが僕にくれたんです。あ、あと伝言も頼まれてました。」
「何て?」
「・・・・・・その、その魔道書を私だと思って大切にしてね、と。」
 しばらく沈黙が訪れる。


「・・・ま、まあ見た感じ古臭いのは同じですので。そういう意味ではないかと・・・」
 そんなはずはない。
 むしろ、これをララベルに聞かれたら武器を二度と売ってくれないんじゃないか。
と、アイクが嫌な予感を感じる。
 これを遠まわしの告白と気づかないアイクもたいしたものである。
「さて、話を逸らしてすまんな。この魔道書は一体なんだ?」
 アイクがさっきと同じ話題を持ちかける。
「この魔道書はララベルさんから、僕たちが旅立つときにもらったものです。彼女いわく、いろんな意味で、掘り出し物、だとか。」
「その魔道書はどんな能力を持っているんだ?」
「それが・・・その・・・」
 セネリオが言いづらそうにしている。
 誰の目からも彼の瞳から同様が見て取れた。
「全くわからないんです。この色からして理系の魔法ではない。そして、光魔法でも闇魔法でもない。分類されるカテゴリーがないんです。」
 セネリオの理解できない魔法とは一体どんなものなのだろうか。
 興味がわいたが、自分で調べようとはしなかった。

本来、魔法を扱うものは「精霊の護符」か先天的な才能が必要になってくる。
アイクにはそのどちらにも恵まれることはなかったのである。
それに、「精霊の護符」は寿命を縮めるという。
こんなもので寿命が縮むなんてたまったもんじゃない、とアイクは思っているからだ。
そのかわり、アイクは「蒼炎の勇者」神将(ヴァンガード)などと呼ばれるにふさわしいほどの剣の達人である。
以前持っていた愛剣「ラグネル」を使って倒した敵は数え切れない。
なのでアイクにとって魔法は「興味の対象」ではあるが「極める対象」ではない。
だから、自分から調べようとはしなかったのだ。

「セネリオ、それは解読できない、という意味か?」
「ええ。少なくとも、読めるページは表紙の「空間転移魔法」としか。」
 アイクがいぶかしげな顔をする。
 彼の記憶によれば、転移魔法が使えるのはリワープではなかったか?
しかも、「杖」の。
 セネリオ以上に詳しいやつを探すしかなさそうだ。
 ただ、そいつは一体どこにいるか、である。
 いろいろ考えるうちにある考えにいたった。
 あいつに聞こう。
「セネリオ。べグニオンにいくぞ。」
「え?ちょっと、アイク!?」
 あわてて用意をするセネリオに対し、アイクはほんの少しだけ楽しそうだった。


べグニオン帝国 帝都「シエネ」

 ある大きな建物にそいつはいる。
 神使であり、ミカヤの妹。
 神使、サナキ。
 サナキに会おうと建物の門をくぐろうとしたときだった。
「誰だきさま!!」
 門番に止められた。ひるんでも仕方ないのではっきりと用件を伝える。
「・・・サナキに会いに来た。」
「神使さまを呼び捨てするなっ!この無礼者め!!!」
 ………更に怒られてしまった。
 と、そこに
「よい。その者を通せ!!」
と大きな、しかし幼さの残る声で門番に命令する。
「サナキ様!しかし・・・」
「わしが良い、といっているのじゃ。通せ!!」
「ハ・・・ハッ!!」
 門番はしぶしぶといった感じで道を開ける。
 これで通れそうだ。
「ついて来い。」
サナキにそういわれ、2人はサナキについていった。


 客間に案内され、座る二人。
「ちょうど良かった。おぬしに渡すものがあったのじゃ。」
 そう言ってサナキがアイクに渡したのは、「ラグネル」と「エタルド」だった。
いくらなんでもこれは受け取ることは出来ない。
「何故俺に?」
「おぬししかこれを扱えるものは折らんじゃろ。いつまでも飾られているより、戦いを求めるものの手に渡ったほうが剣としての勤めも果たせるというもの。
 とにかく、おぬしにしかと渡したぞ。」
…こんなものを渡されても困る。
「とりあえず受け取っておく。」
 ……そういってアイクはラグネルとエタルドを受け取った。
後で門番にでも渡しておくか。
そう思ったアイクだった。
「ところでおぬしら、ワシに何か用か?」
「はい、サナキ様。折り入って頼みがあるのです。」
………



「なるほど。そういうことか。」
事の顛末から今に至るまでを簡潔かつわかりやすく説明する。
この魔道書のことも、ただひとつ読める文字のことも。
「どれどれ・・・」
サナキが魔道書を覗き込む。
それに続いてアイクも覗き込む。
 ふと、アイクは気がついた。一行だけ、色の違う文がある。
「この色の違う文は何だ?」
 そう尋ねると、二人は驚いたようにアイクを見た。
「アイク・・・あなた読めるんですか?」
「そなた、何かわかったのか?」
とアイクに詰め寄る。
 どうやら色の違うところだけ、アイクだけが読めるらしい。
 その文字を凝視すると、頭の中にその意味が浮かび上がってくる。
  これが、読める、という感覚らしい。
 アイクはその文を声に出して呼んでみた。
「デバイス・・・起動・・・?」
 アイクがそういった瞬間だった。 


       ゴウッ!!!!


 突然風が舞い上がり魔道書が光り始める。
 風圧に耐えれなかったのかサナキが吹き飛ばされたがアイクは気にしている余裕はなかった。
 ラグネルとエタルドをつかみ、何があってもいいように構える。そのそばでセネリオが一生懸命風圧に耐えている。

   そして、魔道書が一瞬だけとても大きな光を放ち、アイクとセネリオを飲み込んでいった。







 起動六課内:無限書庫

「ユーノさん!ちょっとこれを見てください!」
 そういって女性がユーノに本を差し出した。
「これは・・・!?」
 驚くのも無理はない。本が光っているのだ。
 ユーノが恐る恐る本に触れる。
 何が起こってもいいようにバリアジャケットだけは着ていた。
 そして一気に本を開いた。すると、
「うおっ!?」
「うわっ!」
 ……人が出てきた。
 一人は黒髪で赤い瞳をした無愛想な顔をした少年だ。
 そしてもう一人は…上手く言い表せないが覇気というか歴戦の戦士だけが身にまとうようなオーラがあった。
「あの・・・お二方は?」
 恐る恐るユーノがたずねる。
「俺の名はアイクだ。こっちはセネリオ。」
「それじゃ、アイクさんにセネリオさん。僕についてきてください。」
 アイクは一瞬セネリオと目を合わせる。
 セネリオは静かにうなずくだけだった。
 セネリオが言いというなら、危険は恐らくはないだろう、と信じてユーノについていく。




  起動六課内:執務室

「要するに、アンタら二人は迷子っちゅーことや。それも、空間規模のな。」
 言ってることの半分くらい理解できなかったアイクだが、この一言で全てが理解できた。
 つまりはもといた世界からこちらの世界へと飛ばされたのである。
「一応、次元漂流者用の宿があるから、そこで寝泊りしてや。」
 と、アイクとセネリオは宿に案内された。
 アイクは、同じ部屋でもいいといったのだが、セネリオが遠慮したので別の部屋にしてもらった。
 幸い、他に次元漂流者はいなかった。
 ベッドに座り、持ってきてしまったラグネルとエタルドを眺める。

 この剣が、親父を殺し、ミカヤたちを救った剣だと改めて見直す。
 そして、アイクが長いこと使ってきた剣。
 これが、漆黒の騎士を殺し、女神アスタルテに止めを刺した剣。
「……フッ、神を崇めていない俺が髪と戦うことになったとはな。」
 独り言をつぶやく。
 今にして思えば、アイクはとても大きな事を成し遂げたのだ。

 ラグズとベオクの隔たりをなくし、人類を救った。
 だからこそ、英雄という言葉がしっくり来るのだ。
 アイクは思い出した。
 自分は何故旅をしたのか。何故ほとんど誰にも何も言わずに去っていったのか。
 何故だかわからない。が、いつかは見つけねばならぬ答え。
 この世界を去るまでには見つけるだろう、と頭の中で思いつつ。


 「Zzzz・・・」

 彼は眠りに落ちた。



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最終更新:2010年08月19日 22:21