第1章「雇われた英雄」

 新しい朝が来た。希望の朝…では決してない。その理由は…
「おはようセネリオ…ってどうした?目の下に隈が出来てるぞ。」
「ええ。そうですね。…」
 セネリオは良く眠れなかったのである。
 理由はアイクにあった。アイクのいびきがうるさすぎるのだ。彼の隣の部屋だろうが上だろうが下だろうが、アイクの隣の部屋になる人は必ず
アイクのいびきの洗礼を受ける。
 まったく、あんなに大きないびきをかいてよく自分が起きないものだ、とセネリオも感心してしまうくらいの大きさである。
 それを直接指摘しないのもセネリオのよさでもあり、悪さでもある。


「俺はこれから昨日会った人の執務室に行くつもりだが、どうする?」
「それなら、僕も行きます。」
 そうして二人ははやての執務室へ歩き出すのだが……




「こんなところは通った記憶がありません。」
 着いたのは何と………食堂。
 どういう記憶をたどったらここに行き着くのだろうか。
 そういえば、この世界に着てから何も食べていないな、とアイクが独り言をもらす。
 だが、二人にはここで食事をする余裕も金もないのだ。金はあるといえばあるのだが、この世界の通貨ではない。
 つまり、現状ではこの二人は文無しなのだ。
 「蒼炎の勇者」が一介の建物で食い逃げをした、というレッテルを貼られたくもない。
 それに、こんなところで時間をつぶしている余裕もない。
「行きましょう、アイク。」
 ああ、と答える前に二人の背後から声がした。
「あの…アイクさんにセネリオさんですよね?」
 誰だろうと思いアイクが振り向くとそこには茶髪をサイドポニーにまとめた、きれいな女性が立っていた。
「私の名前は、高町なのはです。はやてちゃんが二人を呼んでましたよ。…あ、はやてちゃんって言うのは、お二人が昨日会った人です。」
「すみませんが、はやてさんの執務室への行き方がわからないんですが…」
「あ、じゃあ、私が案内します。」
と、なのはが案内してくれることになった。
 はやての執務室へ行く途中でいろんなことを聞いた。
 彼女は起動六課の魔道士であること。その力はオーバーSランクであること。
 いろんなことを聞いているうちに彼女の執務室へとついた。




  起動六課内:執務室

 おもむろにアイクがドアを開けようとした瞬間だった。
「いけませんよ、アイク。ノックをしなければ。これは、最低限のマナーです。」
 たしか、そんなことをミストも言っていたような、と昔を思い出す。
「・・・わかった。」
 ちゃんとノックをして返事を待つ。
「どうぞ」
と声が掛けられたのでドアノブをひねり、中へ入る。
 アイクとセネリオははやてのデスクの前へ、なのははドアの近くで立っている。
 一番最初に口を開いたのは以外にも、アイクだった。
「単刀直入に聞く。何故俺たちの名前を知っている?俺たちはあんたたちに名乗った覚えはないが。」
「それはな、これのおかげや。」
 そういってはやては魔道書を差し出す。セネリオはその表紙に『空間転移魔法』と書いてあるのを見逃さなかった。
「それをよく見てみ。」
 何ページか開いていくと、アイクとセネリオの顔写真があった。しかもそこに書かれていたのは、

   蒼炎の勇者「アイク」          大陸一の風使い「セネリオ」


「一体どういうことだ…」
 混乱するのも無理はない。異世界にはじめてきたというのに、自分について書かれている本が存在するとは思えないからだ。
 ページをめくっていくと、グレイル用兵団全員のメンバーの顔写真があった。
 何故こんなものが…?と考えていたがわからない。
 めくっていくと、クリミア軍の王宮騎士団のメンバーの一部とデイン軍の主要戦力のメンバーの顔写真があった。

 無論サザとミカヤのもあった。

 セネリオはふと思いついた。もしかしてこのメンバーは…
 全員の顔写真を見て確信したようだ。
「アイク、この本に乗っている人たちには共通点があります。それは、………女神に立ち向かった人たち、女神に石に変えられなかった人たちです。」
 言われてみればそうだ。確かにここに乗っている全員は女神アスタルテに石にされなかったものたちである。 
「僕とアイクのところ意外はまだ何も読めていませんが、それはまた別の話です。そしてアイク、最後のページを見てください。」
 そういってセネリオは魔道書の最後のページを開く。
「いいですか、この最後のページ。ここにはこんなことが書いてあります。
  『私は女神とともに戦うことにした。理由は師の息子との決着を付けるため。彼と戦い、私は敗れた。私に止めを刺したのも彼だ。
   彼は後に「蒼炎の勇者」と呼ばれ名をはせることになる。その英雄は見事女神を倒し、人類を救った。 
   私に止めを刺した英雄がこの本を読んでいたら伝えてほしい。「お前はこの私を、父をも越えることが出来たのだと。」』」
 思いっきりアイクのことについて書かれている。
 父を越える・・・?
 ある予感がふと脳裏をよぎる。
「もしかしてこれを書いたのは…」



 これを書いたのは、自分が止めを刺した相手。
 エタルドを俺に託し、奪った記憶を死に際に返した男。
 俺の超える目標であり、あこがれていた存在。
 アンタなのか。これを書いて俺にメッセージを伝えようとした人は、本当にアンタなのか。
 アイクはその人の名前を口に出そうとした。
 そのときだった。
「あー…コホン。そろそろええか?」

 はやてのことをすっかり忘れていた。



「私が二人を呼んだのは他でもない、起動六課に入隊してほしいんや。」
 彼女いわく、戦力が足りない、とのこと。だが、アイクは彼女の心理を即座に読み取った。
 恐らく、起動六課には実力と実績のあるものが必要なのだ。そうすれば上層部からの待遇もよくなるし、いろいろな事件の依頼が回ってくるだろう。
 つまり、アイクとセネリオを利用しようとしているのだ。
「拒否したらどうするつもりだ?」
「別に何もかわらへんよ。ただし、一切の戦闘行為を禁ずるがな。」
 どうやら入隊を拒否した時点で修行ができなくなるらしい。
 セネリオと目を合わせ、セネリオがうなずく。
 どうやらOKと判断したらしい。
「わかった。入隊しよう」
 そういった瞬間、はやての顔が少しほころんだ気がした。
「じゃあ、手続きはやっておくから二人はなのはちゃんの小隊に入ってもらおか。」
 と、後ろのなのはを見る。なのはは微笑みながら、
「じゃあ、今日の訓練をするから2時間後に武器を持って玄関に集合!じゃ、解散。」
 なのはが退室しようとする。だが、アイクにはその前に聞いておくべきことがあった。
「なのは、食堂の食事はタダなのか?」
 一瞬虚をつかれたような顔をしたが、
「そうだよ」
 といって去っていった。




  それから30分足らずで食堂の全肉類がアイクの腹へと消え去ったのは言うまでもない。




 2時間後、アイクはラグネルを担ぎ玄関にやってきた。セネリオは2、3冊の魔道書を持ってきていた。
「来たね。じゃ、ついてきて。」
 なのはを先頭に二人は歩き出す。
 しばらく歩くと川の近くだろうか、階段の近くに人が4人いた。4人のうちの一人、紫の髪をした少女が
「なのはさん!おはようございます!」
 と至極元気な挨拶が聞こえた。それに続いて残りの3人も挨拶をする。
「みんな、おはよう。今日は新しいメンバーを紹介するよ。こっちがアイク、この子はセネリオっていうんだ。」
「…よろしく。」
「……よろしくお願いします。」
 なんとも無愛想な挨拶である。そして、各々が自己紹介をする。


 自己紹介が終わった後、なのはが訓練のメニューを言い渡した。
「今日は模擬戦をやります。アイクとセネリオもね。とりあえずこの二人の実力を知りたいから、エリオ、キャロ、スバル、ティアナは4人でアイクとセネリオに
 戦ってもらいます。シチュエーションは、市街地。決着がついたと認めたら戦闘終了とします。」
 そういいながらなのはが何かをいじくる。すると、何もないところから市街地が出てきた。
 二人は目の前で市街地が出来るところをはじめてみるのだろう。
「さ、皆行くよ!」
 となのはが先陣を切る。
 アイクにすれ違う瞬間、
「あなたの力見せてもらうよ、蒼炎の勇者さん。」
 と囁いた。
 アイクは何も言わず市街地へと足を運ぶ。


「それじゃ、いくよ…」
 ピィーーーっと戦闘開始のホイッスルが鳴り響く。
 アイクはラグネルを担ぎ、不適に笑った。
「いいだろう………来い!!」
「格の違いを見せてあげましょう。」


 二人はお互いに背中を預け、ファイティングポーズをとった。



 少しの間、静寂が身を包む。すると、突然―――――
 バシュッという音と共にオレンジの弾丸がアイクの目の前に現れた。
「ふんっ!」
 ラグネルを一振りして弾丸を切り裂く。だが、攻撃はまだ終わりではない。
「せやぁぁぁぁっ!!」
 スバルがフルスピードでアイクに突っ込んできた。かわせば、セネリオに当たる。
 アイクは渾身の力をラグネルにこめてスバルのリボルバーナックルに対抗した。
 大きな衝撃波が生じる。
「うぅぅぅぅっ!!!」
 スバルが押されつつある。生身の人間がここまで強いとは誰も思わないだろう。
(畳み掛けるか…) 
 そう考えるアイクはひどく冷静だった。アイクは全力でラグネルを振りぬき、青い衝撃波を放った。
 吹っ飛ばされたスバルは受身を取ることも出来ないまま衝撃波をもろに食らう。遠くまでスバルは吹っ飛んだ。
「ぐはっ!」
 スバルが立ち上がろうとした瞬間、
「終わりだ。」
 目の前にアイクがいた。アイクはスバルの首筋を叩き、気絶させる。
 スバル、KOだ。スバルの気絶を確認したアイクはセネリオの支援に向かった。



 セネリオはティアナの弾丸を避けながら的確に魔法を撃っていた。
「これなら……どうかな!?」
 ティアナが同時に複数の弾丸を放ってきた。これを全部避けきるのは難しい。
「避けれないなら、叩き落すまで!」
 エルファイアーを上手く使い、一発で全ての弾丸を叩き落した。そして、今の攻撃で敵の居場所がわかってしまった。
「そこですね。」
 セネリオはそこへ向かって走っていった。だが、それは罠だった。


「うおおぉぉぉぉぉ!!!」
 エリオがストラーダを持って高速突進を仕掛けてきた。だが、
「がっ!?」
 エリオは雷に撃たれた。セネリオのサンダーがエリオに直撃したのだった。
 自分の魔法の届く範囲内で即座に魔法を放つことなど大賢者の彼にとっては造作もないことだった。
 そんな彼を静かに見つめるティアナ。セネリオとの距離は15Mといったところか。
 突然、セネリオがこちらを向き、手を横になぎ払った。次の瞬間―――――
「!?」
 風がティアナを襲った。しかも、
「終わりです。」
 ティアナの上に雷が落ちた。ティアナはうっ、とうめき声をもらし、その場に倒れこんだ。


 その一部始終を見ていたキャロは遠距離攻撃を仕掛けようとフリードを召喚し、飛び立とうとする。だが、
「そこまでだ。」
 そうきこえて振り向くと、ラグネルを構えているアイクがいた。
「ぬうん!!」
 ラグネルを振りぬき、衝撃波をフリードとキャロに当てる。
 フリードと共に吹っ飛ばされたキャロは気を失っていた。

「そこまで!」
 なのはの声がかかる。
「やるね、アイク。それに、セネリオも。」
 と声を掛けられた。


 こうして、アイクとセネリオの初の模擬戦はアイクたちの圧勝という形で幕を閉じた。











おまけ

~没ネタ~
※このネタは氏の実体験に基づくネタです。

アイク「正直言うと威力の面で見ればヴァーグ・カティのほうが強くね?」

セネリオ「だめですよ、アイク。自分の武器に文句を言っては。そもそも、ラグネルで十分じゃないですか。」

アイク「だって、神剣とか言われてるくせにどこからか突然やってきたやつの持ってる剣の方が強いっておかしいじゃないか!」

セネリオ「ゴチャゴチャ言わない!回数制限無いだけいいと思え!!レクスカリバーは15回までなんだぞ!!」

アイク「・・・・・・すみません」







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最終更新:2010年08月20日 16:09