フォワード陣とヴォルケンリッターはホテルアグスタに向けて輸送ヘリで先発した。
そして六課からははやて、なのは、フェイトの3人が車で出発するところであった。

「お~、結構似合っとるやん」
一応名目としては出席者のガードマンという事であるが
参加者は社交界で顔を利かせている人物が多いため
ジルグもはやて達と同様六課の制服ではなく、黒いタキシードのような警備服を着用することになった。
元々長身でスタイルもよく、顔は美形といっていい。
何の違和感もなく服を着こなしているジルグを素直に賞賛するはやて。

「お褒めに預かり光栄の極み、とでも返すべきかな?」
皮肉めいた口調で返すジルグ。
「そういう時は相手の事も褒めるもんやで」
「御三方ともとてもお似合いです」
と、ジルグははやての言葉にニッコリ笑って返す。
褒められているはずなのに素直に喜べないのは相手がジルグだからだろう。

「ま、ともかく出発や。
エスコート役は任せたで」
と、車に乗り込む3人。
そしてジルグも運転席に乗り込み、車を発進させる。

さすがにジルグの武装を直接持ってゆくわけにはいかないので
トランクにまとめて入れて、会場ではそれを持ち運んで警備に当たることになる。

「でもやっぱりこういう服って慣れないなぁ」
「ま、たまにはいいんじゃないの?」
「あ、どうせならこれをバリアジャケットにすればいいんじゃないかな?」
「それは……ないわ」
ジルグを除いた3人は道中お喋りに花を咲かせている。
女三人寄ればなんとかとはよく言ったものだ。
ジルグは全く意に介さず運転を続けていた。
そして車はようやくホテルアグスタに到着した。

「八神はやて様、高町なのは様、フェイト・T・ハラオウン様ですね
照会をいたしますので少々お待ちください」
ホテルの入り口でチェックを受ける3人+1名

「確認終了いたしました。どうぞお入りください。
それとそちらのガードの方、これがセキュリティドア用のIDカードです。
それではお楽しみください」
チェックが終了し中に入る4人。
「じゃあジルグさんは作戦通りホテル内部の把握と
もし事が起こった場合は外の状況変化に応じて行動してな」
「了解だ」
そう言ってジルグは廊下の奥へ消える。
「じゃあ、うちらも会場のほうに移動しよか」
そしてはやて達もオークション会場へ向かうのだった。

会場内ですれ違う人々に作り笑顔を振りまいて挨拶して回る3人。
さすがに有名人だけあって、周りから好奇の視線に晒される。
「うぅ…やっぱり慣れないなぁ」
「……ホラ、なのはちゃん笑顔笑顔!」
このようなことに慣れていないなのはやフェイトを仕切りつつ会場内を回るはやて。
そこで3人は懐かしい人物の姿を見つけた。

「あ、ユーノ君!!」
「なのは!それにフェイトやはやても久しぶりだね」
そこには現在管理局内で無限図書の司書を勤めているユーノ・スクライアの姿があった。
「どうしてこんなところに?」
とフェイトがたずねる。
「君達にも情報が行っていると思うけど、今回のオークションにはレリックが出品される可能性が高い。
つまりそのために僕がよこされた、というわけさ」
ユーノは無限図書を取り仕切っているだけあってレリックに関する知識も局内では指折りだ。
しかし普段は仕事で手一杯の状態であり、このように外に出てくること自体が稀である。
裏を返せばユーノをわざわざ確認に向かわせる価値がこのオークションにあるということだろう。
「つまりあの情報はほぼ確定情報っちゅう事でええんやな」
という事は確実にスカリエッティからの介入があるだろう。
表の警備には万全を期したつもりだ、だが事は起こってみないとわからない。
「シグナムとヴィータがおるから大丈夫やと思うけどな……」
どことなく不安を感じながらはやては呟くのだった。

そういえば、と若干声を低めたユーノがはやてに尋ねる。
「六課に配属された漂流者の事だけど……」
「ああ、ジルグさんのこと?」
「大丈夫なのかい? その……ずいぶんなトラブルメーカーのようだけど」
う~ん…と首を捻る3人。

「なんていうか、頭は絶対いいと思うんだけどなぁ。
わかってるうえでトラブル起こすのが大好きというか…」
なのはの言葉にいまいち腑に落ちない様子のユーノ。
「理由もなしにトラブルを起こすって言うのは理解できないな。
そこのところもわからないのかい?」
「それがわかったら苦労せえへんよ」
ユーノの顔が若干翳る。
「だいぶ厄介な人物みたいだね。ところでその彼はどこに?」
「ガードマンとしてそこらをウロウロしてもらっとるよ。
素直に言うこと聞くタイプやないから、何か起こったら連絡して自分の判断で動いてもらう」
「それはまた……ずいぶんアバウトな指示だね」
「仕方ないよ、私も現状ではこれが最善だと思うし」
と嘆息するフェイト。
「と、そろそろオークションが始まるみたいだよ」
その声に3人は会場内をよく見下ろせる位置に移動を開始した。

その頃ジルグはトランクを片手にホテル内をブラブラしていた。
ホテル内の図面に目を通してはいたが、建物の図面と実物が違うというの良くある事だ。
敵がここを襲撃するというのなら、実際の建物の情報を入手している可能性は高い。
抜け道になりそうな場所も把握しておく必要がある。

そして地下に辿りついたジルグは、自分が降りてきた階段の方に向かって声をかけた。
「尾行するなら隊長達にするんだな。
俺を尾行しても何の意味も無いと思うが?」
「どうせならもっと早く声をかけてくれれば余計な時間をすごさずに済んだんだけどね」
階段から緑色の長髪を持つ男が姿を現した。

「誰だ?」
さして興味もなさそうな顔でジルグが尋ねる。
「ヴェロッサ・アコース。本局の査察官だ」
「その査察官殿がどうして俺に尾行を?」
「君は局の内部ではちょっとした有名人だからね」
それに、とヴェロッサは言葉を続ける。
「はやては僕にとっては妹のようなものでね、妹の部隊内に問題児がいると聞けば
その様子を探りに来るのは当然だろう?」
「なるほど、ご苦労なことだ」
ヴェロッサの答えにつまらなそうに返すジルグ。
「それに君の行動原理を把握できている人間は僕を含めて局内にもいなくてね。
そこのところも聞こうと思ってついてきたのさ」
「別に、必要なことは聴取時に全て話したとおりだ」
ジルグの言葉にもヴェロッサは引き下がらない。
「味方撃ちの件について、君は完全黙秘を貫いたそうだね」
「………」
またか、とでも言いたそうな顔を向けるジルグ。
「その件に関しては不問の代わりに他言無用ということで話がついたはずだが?」
「結果としてはね、だが君が今後六課で任務につくに当たってそれでは不十分だと僕は考えている」

「イライラしたから」
「……何?」
ヴェロッサ声に困惑が混じる。
「イライラしてたから味方を撃った」
「ふざけるな」
「別にふざけてはいない」
怒気の混じった口調でジルグに詰め寄るヴェロッサに対し
ジルグは鼻を鳴らしながら嘲笑の混じった声を向ける。

「理由を知ったところでなんになる?
それに今は任務中だ、そろそろ失礼させてもらおうか」
そう言ってジルグはヴェロッサの横を通り過ぎて地上への階段に向かう。
「待て…!」
面倒くさそうな顔で振り返ったジルグにヴェロッサが告げる。
「僕の能力である”無限の猟犬”は僕がどこにいようとも僕の目となり耳となる。
こちらは何時いかなる時でも君の行動を監視している。
それを忘れないことだ」
刺すような視線を向けてくるヴェロッサに、ジルグは皮肉気な笑いを浮かべて答える。
「そういう事は口にしたら意味がないな。ま、覚えておく」
そう言ってジルグは去っていった。

「なるほど、確かに一筋縄ではいかなそうな男だ。
はやて……気を許すなよ」
今度顔を合わせた時には自身が所有するもう一つのレアスキルである
『思考捜査』を使う必要があるかもしれない。
そしてヴェロッサもまたその場を後にするのだった。


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最終更新:2010年08月22日 20:59