「シグナム、ヴィータちゃん聞こえる?」
「シャマルか?どうした」
輸送ヘリ内のシャマルから分隊長陣に通信が入る。
「クラールヴィントのセンサーに多数の反応を確認、おそらくガジェットよ。
デバイスロック解除。レヴァンテイン、グラーフアイゼンのレベル2起動を承認します」

「ようやくお出ましってわけか」
ヴィータが舌なめずりをする。
昨日の鬱憤を晴らすいい機会だと思っているのだろう。
「ヴィータ、気持ちはわかるがあまり突出しすぎるな
フォワードのフォローも考えて戦闘しろ」
「わかってるよ」
ヴィータはめんどくさそうに答えると騎士甲冑を展開させ、そのまま一気にガジェットの方へ向かって行った。
「やれやれ、主はやてにはああ言ったものの…世話が焼ける」
そう呟くとシグナムもまた騎士甲冑を身にまとい戦闘領域へ移動していった。

「スターズ、ライトニング両分隊はホテルの上に移動。
敵の数はかなり多いわ、スターズ2、ライトニング2の撃ち漏らしを確実に片付けて」
「「「「了解!」」」」
シャマルの指示に返答した4人はビルの屋上に移動して防衛ラインを形成する。

「新人どもの防衛ラインまでは1機たりとも通さねぇ。速攻でぶっつぶす!」
「お前も案外過保護だな」
「うるさい」

そう言いあいながらもシグナムとヴィータは
目の前を覆いつくさんばかりのガジェットの大群を文字通り薙ぎ払ってゆく。
ガジェットの中には先日確認された大型がジェットも展開している、が。
「紫電一閃!」
「ぶっ飛べ! ラケーテンハンマー!!」
さすがにヴォルケンリッターの戦闘能力はフォワード陣の比ではない。
大型ガジェットも二人の前では赤子も同然に撃破された。
そして足止めされたガジェットたちが鋼の軛により次々と穴だらけにされ撃墜される。
ヴォルケンリッターの盾の守護獣ザフィーラだ。
本来拘束魔法である鋼の軛も使いようによっては凄まじい攻撃手段となりうる。
リミッターをかけられているとはいえ、3人の戦闘能力を間近で見たフォワード陣は嘆息の息を漏らす。

「すごい…」
「あれでリミッターつきなのよね…」
それにしても、と改めてティアナは眼前の光景を目にして考える。
今目の前で暴れている3人にしろ、部隊長であるはやて、そして隊長のなのはとフェイト。
いくらリミッターをかけられているとはいえ、この六課の戦力は無敵を通り越して異常だ。

自分達新人の戦力など本当に必要なのだろうか?
ふと思い浮かんだ疑問を頭を振って消す。
そんなことを今考えても仕方がない、とにかくここは確実に敵を迎撃することだ。
ティアナは意識を切り替え、クロスミラージュを握りなおした。


「ごきげんよう。騎士ゼスト、ルーテシア」
「ごきげんよう」
「なんの用だ?」
目の前のモニターに映っているのは大柄で無骨な男と薄紫色の髪の少女。
「相変わらず冷たいねぇ。近くで状況を見ているんだろう?
どうもあのホテルにレリックはなさそうなんだがね。
実験材料として興味深いものが1つある。少し協力してくれないかな?
君達なら実に造作もないことだと思うが・・・・・・」

「断る。レリックが絡まぬ限り互いに不可侵と決めたはずだ」
男の短く、だがきっぱりとした拒否の返事。
それはかまわない。彼が断ることなど初めからわかっているのだから。
だから彼女にこうやって声をかけるのだ。
「ルーテシアはどうだい?頼まれてはくれないかな?」

「いいよ。」
何の淀みもない肯定の声。
「優しいなぁ。ありがとう。今度是非お茶とお菓子でもおごらせてくれ。
君のデバイス『アスクレピオス』に私が欲しいもののデータを送ったよ」
「うん。じゃぁ、ごきげんよう、ドクター」
「ああ、ごきげんよう。吉報を待っているよ」
通信を切断して思わずくぐもった笑い声を漏らす。
我ながらなんと芝居じみた滑稽なやり取りだろう。
結果がわかっているのにいちいちこんな演技をするなど、なんて非効率的な行いなのか。
だが、それが楽しくて仕方がない。やめられない。
その男、狂気の科学者ジェイル・スカリエッティは今度は声を抑えずに心の底から笑った。


「あっ!!」
「キャロ、どうしたの?」
キャロが唐突に上げた声にティアナが反応する
「近くで誰かが召喚を使っている」
「クラールヴィントのセンサーにも反応。だけどこの魔力反応って……」
「お、大きい……」
シャマルとキャロの声に驚きの色が混じる。

「なんだ?急にガジェットの動きが良くなった?」
「これは自動機械の動きじゃない」
「まさか有人操作に切り替わったのか?」
状況の変化を分析するヴォルケンリッターの3人。
「なんだこれは……?ガジェットに混じって……虫!?」
「まずいな……ヴィータ、新人の援護に回れ。
向こうにも増援が来ている可能性がある」
「わかった!!」

「遠隔召喚来ます!!」
キャロが叫ぶ。
ティアナたちのすぐそばに魔方陣が展開され、多数のガジェットが姿を現した。
「これは召喚魔方陣!?」
「はい。優れた召喚師は転送魔法のエキスパートでもあるんです!」
「ちょ、ちょっと洒落にならない数じゃない?」
スバルの弱気な声を聞いてティアナがそれを打ち消すように叫ぶ。
「そんなこといってもやるしかないでしょ!?
キャロ、スバルにガードブースト! なんとしてもここで食い止めるわ!」
ここを抜けられれば後はない、4人は一斉にガジェットへ向かって攻撃を開始した。


「やはり素晴らしいな……彼女の能力は……」
「極小の召喚獣による無機物操作シュテーレ・ゲネゲン」
「それも彼女の能力の一端に過ぎないがね。
まぁこれで片がつくだろう。ウーノ、コーヒーを入れてくれないか?
この劇場はもうしばらくの間楽しめそうだ」
「はい、少々お待ちください」
自身の秘書として作成したウーノにお茶の準備を頼みつつ
スカリエッティは改めてこの笑劇の見物に集中することにした。


膨大な数のガジェットを相手にティアナたちは苦戦していた。
クロスミラージュに魔力カートリッジを装填しつつ、矢継ぎ早に3人に指示を出すティアナ。
返事は返ってくるが皆押され気味で思ったように連携が組めない。
このままではまずい
新たに現れたガジェットにシュートバレットを連射。
着弾するがAMFにかき消されてしまう。
その後ろに控えていたガジェットからミサイルが発射される。
「そんなもの!」
『Ballet, F』
クロスミラージュから発射された魔力弾がミサイルの迎撃に成功する。
「ティアナさん!!」
キャロの叫び声に反応し、背後からのガジェットの攻撃を跳んで回避する。
牽制の魔力弾はAMFにかき消され、効果を持たない。
キャロも自身の防御に手一杯でAMF貫通付与魔法をこちらにかける余裕はないだろう。
このままでは突破されるのは時間の問題だ。

「防衛ライン、もう少し持ちこたえていてね。ヴィータ副隊長がすぐに戻ってくるから」
シャマルから通信が入るが、防御に徹しているだけではおそらく間に合わない。
「守ってばっかじゃ行き詰ります。できるだけ撃墜します!」

そうだ、あたしはやらなくてはならない。
その為に起動六課に入隊したのだ。
確かにまだあたしの力は小さいものかもしれない。
でもいつまでもお荷物扱いされるわけにはいかない。
あたし達だけでもやらなくちゃいけないんだ。

「ティアナ、大丈夫?無茶しないで」
「大丈夫です。こういう時の為に毎日朝晩練習してきてるんです!」
そうだ、まずは敵の行動を予測しろ。
そしていかに効率よく敵を落とすにはどうするかを考えろ。
敵の攻撃を回避しつつ思考に集中する。

「エリオ、センターに下がって。あたしとスバルのツートップで行く!」
「は、はい!」
「スバル!!クロスシフトA、いくわよ!!」
「おう!!」

スバルがウイングロードで先行してガジェットの群れに飛び込み注意を引く。
そしてティアナはクロスミラージュに魔力を集中させる。
リスキーだがこれが一番手っ取り早い作戦だ。

証明してみせる。
特別な才能やすごい魔力が無くとも……
「あたしは……ランスターの弾丸は敵を撃ちぬけるんだって……!」

極限まで魔力を集中し、周囲に魔力弾を形成してゆく。
16個、これが今のティアナが作り出せる限界の数だ。

「ティアナ、4発ロードなんて無茶だよ!!それじゃティアナもクロスミラージュも!!」
「撃てます!!」
「Yes」

シャマルから制止の声が飛ぶがあえて無視する。
(行くわよスバル!!)
(OK、ティア!!)
「クロスファイアシューーーート!!!」

16発の誘導弾が一斉にガジェットに唸りを上げて向かってゆく。
完全にスバルに気を取られていたガジェットが気づく間もなく魔力弾に撃ち抜かれる。
そして追撃、スバルの前にいる大型ガジェットに貫通力を強化したシュートバレットを連射。

スバルが死角となり魔力弾は完全に直撃コース。
後はスバルが避ければ完璧……。

「ヴィータ副隊長!!」

だがスバルに向かっていた魔力弾は駆けつけたヴィータによって地面に叩き落された。
スバルが驚きの声をヴィータに向けて放つ。
ヴィータは息を切らせながらティアナを睨みつける。

「ティアナ!!この馬鹿!!無茶やった上に味方撃ってどうすんだ!!」
「あの……ヴィータ副隊長、今のは……コンビネーションなんですが……」
「ふざけろタコ!!直撃コースだよ、今のは!!」
「違うんです!!今のはあたしが避けるはずだったんです!」
「うるせぇ馬鹿ども!!ジルグの真似でもしたかったってか!?
もういい。後はあたしがやる。2人まとめてすっこんでろ!!」

どうしてこうなった……。
この調子ではもう何を言っても無駄だろう。
ティアナはスバルに目配せすると悄然とホテルの方に後退して行った。

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最終更新:2010年08月23日 20:25