「さて、じゃあ個人スキルの訓練も一段落したし。2on1で模擬戦をはじめようか
ティアナとスバル。バリアジャケット準備して!!」
「「はい!!」」
いよいよだ。
胸の鼓動が高鳴るのがわかる。
これは不安?それとも高揚?おそらくは両方だ。
隣を見るとスバルがこっちを見て親指を立てている。
そうだ、ここまで来たらやるしかない。
あたしの力を証明するためにも、そして……こんなあたしに付き合ってくれたスバルのためにも。
「エリオとキャロはあたしと見学だ。」
「「はい!!」」
ヴィータはエリオ達を連れて離れていく。
「あれ、もう模擬戦始まっちゃってる?」
3人のそばにフェイトとシグナムが現れる。
「あ、フェイトさん」
「私も手伝おうと思ってたんだけど……最近なのはも疲れ気味でしょ?
本当はスターズの訓練も今日は私が引き受けようと思ったんだけどね」
「ああ、ここんところ訓練密度が濃いからな。少し休ませてーんだけど」
話題の主であるなのはは空中に浮いてアクセルシューターを展開している。
「なのは、部屋に戻ってからもずっとモニターに向かいっぱなしなんだよ」
訓練メニュー作ったり、ビデオでみんなの陣形チェックしたり……」
「うん、それだけあいつらの事気にかけているんだろ」
なのはを心配するようなフェイトの言葉に同意するヴィータ。
「お前が来るとは珍しいな」
シグナムの言葉に他の面々が振り向くと、そこにはエルテーミスを装着したジルグがいた。
「なにやら面白そうだからな」
「……まぁいい、邪魔だけはすんじゃねーぞ」
「了解、ヴィータ副隊長殿」
不機嫌さを隠そうともせず釘を刺してくるヴィータにすました顔で返答するジルグ。
そして模擬戦が始まった。
「やるわよ!!スバル!!」
「うん!!」
スバルはウイングロード複雑に展開させ、その足元には11個の魔力スフィアを形成したティアナ。
これはクロスシフトだ。
おそらくクロスファイアシュートでなのはを牽制、
その攻撃を陽動としてスバルが接近戦を仕掛けてくるのだろう。
だが、それはティアナの幻影魔法である可能性が高い。
実際は後ろか上から本体のスバルが来る。
その本命の攻撃をティアナがシュートバレットで援護してくる、というところだろうか。
そうなのはは予想していた
「クロスファイアシュート!!」
ティアナがクロスファイアシュートをなのはに向かって放つ。
だが魔力弾の速度がいつもより遅い。
これでは避けてくれといっているようなものだ。
上昇して魔力弾を回避するなのはだが、ティアナの意思を図りかねている。
そのなのはの視界の先にウイングロードが展開され
スバルがマッハキャリバーで突進してくる。
なのははそれを迎撃するためにアクセルシューターを4つ展開するが
その顔が驚愕に歪む。
予想と違い、突っ込んできたスバルは幻影ではなくスバル本人だった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アクセルシューターを正面からプロテクションで受け止め、さらに加速するスバル、
なんでそんな危険な事を!?
なのはの表情がそう語っている。
プロテクションを張っていても、この相対速度ではかなりの痛みを伴うだろう。
「うりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
なのはがシールドを張り、スバルのリボルバーキャノンを受け止める。
だが、このまま真正面から受け続けていてはシールドが持たない。
シールドを回転させるとスバルの体が平衡を失い地面に向かって落ちてゆく
しまった!! という顔をするなのはだが、
スバルはまるでそれを読んでいたかのように、あらかじめ形成してあったウイングロードに着地する。
「ほらスバル!!だめだよ。そんな危ない軌道」
「すいません。でも、ちゃんと防ぎますから!!」
スバルの声に安堵しながら何か違和感を覚えるなのは。
ティアナはどこ?
ティアナを探すなのは、そしてビルの上にいる人影を発見する。
(砲撃魔法!?)
こちらにレーザーポインタが向けられている。
自分を狙っているティアナが放とうとしているのは
彼女の体にはまだ大きな負担がかかるであろう砲撃魔法。
どうしてそんな危険なことを!?
「でぇぇりゃぁぁぁぁ!!!!!!」
ティアナに気を取られたなのはに向かって
リボルバーナックルに魔力カートリッジを装填したスバルが
再びウイングロードの上をマッハキャリバーを加速させて向かってくる。
アクセルシューターで迎撃するなのは。
しかしスバルは極力プロテクションに魔力を割かず、
リボルバーナックルに魔力を集中して向かってくる。
体を掠めるアクセルシューターの痛みに顔を歪めながらも突進するスバル。
なのははそれをなんとかシールドで防御しつつ、ちらっとビルのティアナを見る。
「!?」
誰もいない……
つまりあれは幻影魔法で作られた偽者。
「まさか……!」
誰かがウイングロードを駆け上ってくる。
そして……
スバルの背後から飛び上がったティアナがなのはの頭上に現れる。
「!!」
貰った!という顔をしたティアナがなのはに魔力刃を振り下ろす。
「レイジングハート、モードリリース」
『Allright』
なのはの様子が変わったのを察したのか
ティアナが魔力刃をなのはの寸前で止める。
「おかしいな……2人とも……どうしちゃったのかな」
なのはの様子がおかしい。
声は静かだが
その中に込められた感情は凍てつく氷の様でもあり、燃え盛る炎の様でもある。
「がんばってるのは分かるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ?
練習の時だけ言うこと聞いてる振りで、
本番でこんな危険な無茶するなら練習の意味ないじゃない。
ちゃんとさ。練習どおりやろうよ」
淡々と言葉を続けるなのは。
「わたしの言ってること、わたしの訓練、そんなに間違ってる?」
ティアナはその様子に異変を感じたのか、ウイングロードに向かって飛び退く。
「………」
怯える様子もなく、なのはに向かって相対し。
砲撃魔法の魔方陣を展開させるティアナ。
「少し……頭冷やそうか」
ゾッとするほど冷たい声。
「ティア!!」
叫ぶスバルにバインドをかけるなのは。
「じっとしてよく見てなさい」
「なのはさん!!」
そしてなのはは何の躊躇いもなく瞬時に展開したクロスファイアシュートをティアナに放った。
「ティアーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
スバルの悲鳴の入り混じった絶叫。
そしてティアナにクロスファイアシュートが直撃した。
「え?」
ティアナの姿が掻き消える。
これは……まさか?
直後、無防備な背中に軽い衝撃。
「わたし達の……勝ちです……」
なのはの背中に突きつけられたクロスミラージュ。
あれも幻影だったって言うの!?
これがティアナが打った『もう一手』
普段の模擬戦であればリスクを抑え、
幻影を囮にしてスバルを死角から攻撃させ、自分が援護する。
だがこれは何度も行った事のある作戦であり、確実に読まれるだろう。
そこであえてスバルを突撃させ、遠距離からなのはを狙う型を見せ撹乱する。
そして再びスバルの攻撃でなのはの足が止まったところで
自分も死角から接近戦をしかける。
元々はここまでがティアナの立てた作戦であり、スバルにも伝えていた。
だがそれさえも読まれていたとしたら?
なのはの魔力は大きい。
自分かスバルのどちらかの動きを完全に封じ込めた上でもう片方を撃墜するぐらいはやってのけるだろう。
しかし、ジルグの「足りない」という発言にヒントを得たティアナは
魔力の消費は激しくなるが、もう一体の幻影に接近戦を仕掛けさせる事で
完全になのはの気を逸らす事に成功する。
そしてこれをあえてスバルに伝える事をしなかった。
スバルに伝えていた場合、彼女は嘘をつくのが下手である。
行動から見破られる可能性が大きい。
本当であればなのはが攻撃を行う前に背後を取り
無防備な背中に魔力弾を打ち込んで撃墜するはずだったのだが
普段と様子の違うなのはに戸惑い、数秒間攻撃を躊躇ってしまった。
だが、これでこの模擬戦は自分達の勝利だ。
スバルを見るとポカンとした顔でティアナを見ている。
「相手を欺くにはまずは味方からって、ね。ごめんねスバル」
「ティア!!」
喜びの声を上げるスバル、だが……
「なんでそういう事をするのかな?」
振り向きもせず、冷たい声のままなのはがティアナに問う。
「………」
完全になのはの裏をかき、完全勝利の体勢を作ったティアナだったが……
(やっぱり……一矢報いるのが精一杯だったみたいね……)
すでに彼女の魔力は尽きていた。
ただでさえ多くの魔力を使用する幻影魔法を立て続けに使い
おまけに手の込んだ芝居さえさせて見せたのだ。
なのはにクロスミラージュを突きつけて蝿も殺せないような魔力弾を放ったところで、
ティアナは魔力体力共に限界を超えていた。
ゆっくりとなのはが振り向く。
その目はティアナを見ているが、その瞳は何も写していないかのようだ。
「スバルにあんな危険な事させて、騙して、そんなにわたしに勝ちたかったんだ?」
もうティアナに抵抗する力は残っていない。
「なのはさん! 模擬戦はもう終わったはずです!!」
スバルが必死に叫んでいるが、なのはの耳には入らない。
既にティアナは観念している。
なのはの変貌振りと自分の魔力が尽きた時点でこうなる結末は見えたのだ。
「はい、『この模擬戦は”わたし達”の勝ち』です。今はそれで十分です」
「そう……」
そしてなのはの周囲に再び魔力弾が形成されてゆく。
なのはのクロスファイアシュートが再び、そして今度は本物のティアナを狙おうとした刹那……
バシュッ!!
なのはの顔のすぐ横を凄まじい速度の魔力弾が通り過ぎた。
なのはが、そしてティアナとスバルが、その訓練場にいた全員がその魔力弾を発射した男を見る。
「模擬戦で負けた上に、抵抗もしない相手にきっちりトドメを刺そうとするとは、
さすがに『白い悪魔』と呼ばれるだけのことはあるな? なのは教官殿」
「ジルグさん……」
なのはの殺気が一瞬更に高まるが、急速に萎んでゆく。
今ジルグはなんと言った?
『抵抗もしない相手にトドメを刺す?』
「ってめぇ、いったい何のつもりだ!」
ヴィータがジルグに突っかかるが
「今言ったとおりだ。
教官の仕事というのは模擬戦で自分に勝った相手を
自分の思い通りに動かなかったからといって完膚なきまでに叩きのめすことか?
なら俺でもやれるな」
「てめぇ!なのはの気持ちも知らないで!!」
ヴィータはなのはがオーバーワークや無茶が祟った結果
本来の力を出せずに任務中に重傷を負った事件のことを良く知っている。
だからこそ「新人達を同じ目にあわせたくない」という
なのはの気持ちを踏みにじった二人に対して憤りを感じていた。
ヴィータからすればなのはの行動はむしろ当然といえる行為だったのだ。
そしてそれを邪魔したジルグに私怨も含めた怒りをぶつけようとしたのだが……
「俺は教官殿の気持ちとやらは知らんが、あの二人は知っているのか?
普段からお話、お話というのなら当然知っているのだろうし
その上であの二人が理不尽な行動を取ったというのなら邪魔したことは謝ろう。
だが、とてもじゃないがそういう風には見えないな?」
ジルグの言葉に詰まるヴィータ。
「とにかく模擬戦は終了だ。フォワードは解散。
あと高町、お前も休め」
静寂が支配する訓練場にシグナムの声が響く。
なのはは力なく頷くと真っ先に訓練場を出て行った。
「ティア、大丈夫!?」
スバルがティアナに駆け寄ると、
張り詰めた糸が切れたようにティアナはスバルにもたれかかるようにして倒れる。
「さすがにしばらくは動けないわ……ごめんね」
「え?」
「最後の作戦……スバルに話さなかった」
「ううん、気にしてないよ。あたしが本気で驚いたから成功したんでしょ?」
「うん、そうだけど。やっぱりごめんね……なのはさん、なんだか傷つけちゃったみたいだし」
「後で怒られるようならあたしも一緒に怒られるよ、あたし達コンビでしょ?」
「そう、だね……ありがとう、スバル……」
そう言うと、ティアナは自分の意識を手放した。
最終更新:2010年08月27日 20:15