「高町……聞いていたのか」
「なのはさん……」
ロビーの入り口に立つなのはを見てシグナムとティアナが呟く。

なのはは困ったような笑顔を浮かべてシャーリーに声を掛けた。
「話しちゃったんだ……」
「ごめんなさい……見てられなくて……」
謝るシャーリーに首を振るなのは。
直前まで喋っていたジルグは無言で成り行きを見守っている。

「そうだね……わたしは無茶ばっかりやってたら
昔のわたしみたいにいつか必ずその代償を払う日がくるって伝えたかった。
でも、だめだね。
普段みんなとお話してわかったつもりになってたけど
わたしはティアナ達の事を聞くばかりで
わたしが伝えたいと思ってた事はぜんぜん話してなかった」
「なのはさん……」
ティアナが俯く。
彼女は捻くれているジルグとは違い
なのはの真意を知って自分達の無茶な行為に罪悪感を抱いているのだろう。

「『わたしはこんなに一生懸命教えてるんだからきっと言わなくてもわかってくれているはず』
そんな風に勝手に思い込んでたんだね。
一言でも言ってればきっと違っていたのに……」
「なのはさん……あの……あたし……」
「ティア、ちょっとお散歩しよう?」
「……え?」
何を言えば良いのかわからずに口ごもるティアナになのはが唐突に提案をする。
「話し合おう? ティアナの言いたいことも、わたしの言いたいことも。
ちゃんと言葉にしなきゃわからないってティアナやジルグさんに教えられたから」
「は……はい!」
返事をしてなのはの方に歩いていくティアナ。
そして二人はロビーを出て行った。

「とりあえず一件落着、かしら?」
二人の去ったロビーでシャマルがホッとした様な声で呟く。
「あの二人に関しては、な」
そう応じるシグナムはつまらなそうな顔をしているジルグをまだ睨んでいる。
「ところでジルグ、あの戦法はお前の差し金か?」
「違う」
即答するジルグ。
「そうか? あの無謀にも見える戦い方はお前の影響を受けたとしか思えないんだがな」
「さてな」
シグナムの問いをはぐらかすジルグの両肩を後ろに回ったスバルがバン!と摑む。

「とにかく良かったじゃないですか! なのはさんとティアが仲直りできて!」
「そうですね」
「喧嘩にならなくて良かったです」
安堵の声を上げるフォワード3人を見るジルグの目が妖しく輝く。
それを見たシャーリーは逃げだす準備を始める。
あの目は明らかにイタズラ小僧の目だ。

「ところで……」
ジルグの声に全員が注目する。
「シグナム副隊長殿、訓練場での勝負の件は一体どうなった?」
固まる3人。
なぜこのタイミングでその話題を出したし……

固まった3人を見てシグナムは苦笑しつつ答える。
「気が変わった、また今度にしておこう」
「それは残念だ」
しれっと答えるジルグを一瞥すると、シグナムもロビーを出て行った。


その頃なのはとティアナは六課の外を二人で歩いていた。
「すみません……オーバーワークだったのに自分で気づけませんでした」
気分の高揚は時として体の疲労を忘れさせる。
それはなのはも良くわかっていた。
「うん、そういう時ってね、自分じゃ良くわからないんだ。
『自分はぜんぜん平気なのに』って思うと他人から言われても実感できないからね。
でもだから、その為にわたし達はティアナ達を見て、休ませる時は休ませなきゃいけないんだよ」
「はい……」
実際なのはの言うとおりだった。
もしあの体調でスクランブルでも起こって出撃していたら
それこそ過去のなのはの映像のようになっていた可能性は高い。
そう考えるとゾッとする。

「だけど、どうしてあんな危険な作戦を実行したの?」
「あたしもできればスバルに危険な役割をさせたくはないし
できるだけ効率よく、自分に負担のかからない戦い方をしたいです。
でも、ホテルの時もそうでした。
リスクを承知で踏み込まなきゃいけない時はあるって。
シグナム副隊長は『あの場面は仲間の安全をかけてでもどうしても撃たねばならない状況だったか?』
と言いました。
だけど、任務でそんな状況を逃げてばかりいたら、
きっと本当に『どうしても撃たなければいけない状況』になっても撃てないと思うんです」
そう言うと、ティアナは一息ついてそれに、と言葉を続ける。

「役割的にはどうしてもあたしよりスバルに危険な場面を任せることになってしまう。
なら、スバルが危険な役割を引き受けてくれるかわりに
確実にそれに応えられるように色々な作戦を訓練で試しておきたかったんです。
今更言ってもしょうがないことですけど……ホテルのミスショットは作戦だったんです。
スバルが死角になる事で確実にガジェットを仕留めるっていう……
でも、あれは今考えればその場の思いつきで行った作戦で
もしかしたらスバルがあたしのシュートバレットを避けそこなって怪我をしていたかもしれない。
だから、これからまたリスクのある作戦を実戦で行うことがあったとしても
ちゃんとに成功させる確率を上げたいから……
だから訓練の中でいろいろな作戦を繰り返して練習して自分達の力を高めておきたかったんです……」

「そっか……」

ティアナの独白を聞いたなのはが呟く。
本当だったら自分達隊長陣が、そう言う状況にならないようにサポートをするべきなのだろう。
だが、先ほどジルグに言われてしまったとおり
ホテルでは結果としてフォワード陣は孤立、自分達の判断で戦闘をしなければならない状況に陥ってしまった。
力不足を感じたフォワード陣が、再び同じような状況になった場合を想定して訓練を行おうとするのはある意味当然といえた。
隊長陣が自分達六課の戦力を過信しすぎた結果だ。

「それにあたしには特別な才能があるわけじゃない。
スバルやエリオ、キャロみたいに『自分にしかできないもの』を持ってるわけじゃありません。
だからみんなより努力しなくちゃいけないし、他のところでみんなの役に立ちたかった……」
「違うよ」
「……え?」
ティアナの自虐めいた言葉をなのはは否定する。
「ティアナは自分のこと才能がないって言うけど、そんなことはないんだよ?
ティアナのクロスファイアは色々なバリエーションを生み出せる強力な魔法。
幻術だってわたしは今日の模擬戦でぜんぜん見分けられなかった。
そんなティアナが才能が無いなんて事は絶対にない。
ティアナはもっと自分に自信を持って良いんだよ?」
「なのはさん……」

「ごめんね、最初からちゃんと話し合ってればこんなことにならなかったかもしれないのにね」
なのはの謝罪をティアナは慌てて否定する。
「い、いえ!あたし達の方こそ何も相談しないで危険な作戦の訓練やオーバーワークをしてたんですから同じです!!」
しどろもどろになるティアナを見てなのはが微笑む。
「うん、じゃあこれまでの事はお互い様。
これからはちゃんとコミュニケーションをとってがんばろう?」
「はい!!」
ティアナもつられて微笑む。

「そういえば……」
「?」
思い出したようになのはがティアナに尋ねる。
「もしかしてあの作戦、ジルグさんの戦い方を参考にしたの?」
リスクの高い行動と見せかけて相手の虚をつく、という戦い方は良く考えればジルグに似ている。
それによくよく考えればジルグが模擬戦の見物に来るのは珍しい。
ばつのわるい表情をしてティアナが応える。
「いえ、違います。でも……実は早朝訓練をたまに手伝ってもらってたので
無意識のうちに参考にはしていたかもしれません……」
ティアナの言葉にびっくりしたような顔をするなのは。
「えええぇぇぇ!? ジルグさんを訓練に引っ張り出したの!?」
「は……はい、すみません。その……合同訓練の許可はまだ出てないですけど自主錬ならいいかなって……」

だが、ティアナの心配事はなのはにとってはまったく関係なかったようだ。
「ど、どうやって!? ジルグさんだよ!? お話しようとするとすぐ逃げちゃうし
訓練とご飯の時以外はどこにいるのかわからないジルグさんだよ!?」
「い、いえ……その……」
「わたしなんかマトモにお話してもらえたことなんてないのになんでーー!?」

たぶんそう言うところが原因だろう。
子供のように騒ぐなのはを見ているティアナの顔は自然と笑っていた。
「あ~~なんで笑うの!? ねぇティアナ、ジルグさんを捕まえる方法を教えてよー!」
「う~ん、教えてもいいですけどなのはさんにできるかな~?」
「あ~何それひど~い!」
二人は顔を見合わせて笑いあう。


機動六課の当面の火種はこうして消え去った。
雨降って地固まる、とでも言うべきか。

そしてジルグがなのはから逃げる為の難易度がさらにアップしたのはまた別の話である。

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最終更新:2010年08月29日 14:39