ミッドチルダに突如として正体不明の青い球状物体が飛来していた。たまたま付近を飛行訓練中だったなのはが
それの追跡を行っていたのだが、その時彼女の背後から赤い球状物体が飛来、そのまま飲み込まれてしまったのである。

 赤い球状物体に飲み込まれてしまったなのはは、そこで不思議な体験をしていた。

「ねえ、誰なの? そこにいるのは…。」

 なのはがそう訪ねると、銀色の肌に赤い模様、そして胸部にクリスタル状の物を持った不思議な何者かが現れた。
その姿と佇まいは余りにも異様であり、とても人間とは思えなかった。

「貴方は一体何者なの?」
『君達がM78次元世界と呼ぶ世界の次元人だ。』
「M78次元世界の次元人?」
『そうだ。遠い次元の彼方からベムラーを次元の墓場へ運ぶ途中、ベムラーに逃げ出されて、それを追ってミッドチルダに来た。』
「ベムラー?」
『様々な次元の平和を乱す、悪魔の様な怪獣だ。』

 なのはの目の前に現れた何者かは、M78次元世界と呼ばれる世界からやって来た次元人だと言う事が分かった。
M78次元世界と言えば、現在時空管理局が持ち得る最速次元船を持ってしても辿り着くのに約300万年以上の
時間が必要と言うとてつもない遠くに存在する次元である。無論そこに何があるのか、どんな種族が住んでいるのかに
関しては分かり様も無い。しかし、そんな未知の世界から来た次元人と言うのならば、その異様な姿と
佇まいもむしろ違和感は無かった。そして次元人はベムラーなる怪獣を追って、このミッドチルダに
やって来てしまったと言うのである。すると、そこで次元人はなのはに対し頭を下げていた。

『申し訳ない事をした高町一等空尉。ベムラーを追ってミッドチルダにやって来た際に誤って
君を巻き込み死なせてしまった。その代わり、私の命を君にあげよう。』
「貴方の命を? 貴方はどうなってしまうの?」
『君と一心同体になるのだ。そしてミッドチルダの平和の為に働きたい。』

 やはり赤い球状物体に飲み込まれてしまった時点でなのはは死んでしまっていたのだ。
しかしそれに次元人は責任を感じ、自分自身の命を持ってなのはを蘇生させると言う。
管理世界においてどんな魔法を使っても死者を蘇らせるのは不可能とされるが、
彼…次元人にはその常識を超越した力があると言うのだろうか?
すると、そこで彼はなのはに対し小型懐中電灯の様な物を渡していた。

「これは何なの?」
『ベーターカプセル。』
「ベーターカプセル?」
『困った時にこれを使うのだ。そうすると…。』
「そうすると一体どうなってしまうの?」
『ハッハッハッハッハッハッ! 心配する事は無い…。』

 こうしてM78次元世界の次元人の力によって死んだと思われたなのはは蘇った。
次元人がなのはと一心同体になる事によってなのはを蘇生させたと言うのは分かるが、
じゃあ次元人がなのはの身体の何処にいるのかに関してはなのはもさっぱりだった。
とは言え、この状況においては次元人に代わってミッドチルダに飛来した青い球状物体=ベムラーを
対処せねばならない。管理世界における生物の常識を超越した怪物…ベムラーは強敵だ。
自身のディバインバスターを連続で当ててもなお決定打に至らない耐久力と、ヴォルテールのそれすら
上回りかねないベムラーの火力は凄まじい。もうダメだと思われたその時、なのはは次元人から
言われた言葉を思い出し、次元人に貰ったベーターカプセルを天に翳し、そのスイッチを押した。

 その瞬間であった。ベーターカプセルから放たれた眩い光がなのはの全身を包み込み、
その姿を身長40メートル、体重3万5千トンの次元人のそれへと変えていたのである。

 M78次元世界の次元人からその命を託された高町一等空尉はベーターカプセルで次元人に変身した。
マッハ5のスピードで空を飛び、強力なエネルギーであらゆる敵を粉砕する不死身の身体を手に入れたのである。

 次元人の力ならばベムラーと互角に戦える。ベムラーも強力であったが、次元人もまたそのベムラーを
掴み投げ飛ばす程の怪力を見せ、最後は腕を十字に組んだ状態から放たれる光線によってトドメを刺した。
この光線はスペシウムなる物質を含んだ強力な光線であり、50万馬力・50万度の出力を誇る。
しかしそれさえミッドチルダそのものにダメージを与えない様にパワーを抑えた状態であり、
その気になれば惑星を破壊してしまう事も容易らしい。

 そんな凄まじい力を持った次元人であるが、弱点もあった。何故かミッドチルダと言う環境条件下においては
エネルギーの消耗が激しく、本来のそれよりも大きく力が制限されてしまう上に活動時間も数分が限度。
次元人が胸部に持つクリスタル状の物体はカラータイマーと言う名称であり、エネルギーや活動時間に
限界が来ると青から赤に変わって点滅を始める。そしてもしカラータイマーから光が消えた時、
次元人は立ち上がる力を失ってしまうのである。ミッドチルダにおいて致命的なリスクを抱える次元人だが、
それを差し引いても凄まじい力を持ち得る次元人の力は脅威的とも言えるのかもしれない。

 次元人に変身している間、なのはは不思議な感覚を感じていた。今の自分が高町なのはであるのか、
この次元人であるのかが自分でも不明瞭で分からない。次元人がなのはと一心同体になっており、
彼の記憶や人格が反映されているのかもしれないが、少なくとも次元人に変身している間においてだけは
自分が高町なのはと言う人間であったと言う事を忘れ、あたかも最初から次元人であった様に感じてしまう。
それがなのはにとって自分でも不思議な事だった。

 何はともあれ次元人に変身したなのははベムラーを倒し、そのまま天高く飛び去った様に見せかけて
元の姿に戻り、現場に駆けつけて来ていたフェイト達と何食わぬ顔で合流していた。

「なのは…本当になのはなんだね?」
「当たり前じゃない。私は私だよ。それはそうとフェイトちゃん、あの怪獣はどうなったの?」
「それが私も良く分からなくて、突然銀色の巨人が現れて怪獣を倒してそのまま飛び去ってしまったよ。
それにしてもあの巨人は一体何者だったのだろう。」

 フェイトや他の局員も次元人とベムラーの戦いを目の当たりにしていた様だが、余りにも
突拍子も無い事に状況が掴めず誰もが首を傾げていた。しかし、そこでなのははニッコリと微笑んでいた。

「やっぱりあの人が出て来てくれたんだね。」
「あの人? なのは知ってるの?」
「うん。私もあの人に危ない所を助けられたんだよ。」

 流石に次元人がなのはと一心同体になったと言う話は出来ない為、とりあえず皆に対しては
次元人に助けられたと言う方向で説明と報告を行っていた。しかし、ここで新たな疑問が浮かぶ。

「じゃあなのはを助けてくれた人の名前は何て言うの?」
「名前なんて無いよ。」
「え? 名無しのゴンベエなんて困るよ。」
「それならリリカルマンって呼ぶのはどうかな?」
「リリカルマン?」

 ただ単に『魔法少女リリカルなのは』から『リリカル』を持って来て『マン』を付けて『リリカルマン』とする
その場で何となく浮かんだ安直なネーミングであったが、暗黙の内に誰もが大して突っ込みを入れず、
誰もが次元人を『リリカルマン』と呼ぶ様になった。

「でもそのリリカルマンって言うのは何処かに行ってしまったんじゃないかな?」
「何処にも行かないよ。あの赤い玉は彼の次元船だったんだけど、それも爆発しちゃって故郷に
帰れなくなっちゃったんだって。でもその代わりこの世界に留まって平和の為に戦ってくれるって
言ってたんだよ。」
「何にせよなのはが無事で良かったよ。」

 こうして何食わぬ顔で今まで通りに普通の人間としての生活に戻って行くなのはであったが、
これが彼女とM78次元世界の次元人=リリカルマンの戦いの日々の始まりでもあった。

 ベムラーのミッド襲来を皮切りとして、ミッドやその他管理世界の彼方此方で発生する
『怪獣』と呼ばれる特殊生物群。ヴォルテールや白天王の立場が無くなってしまう程の
凄まじい能力を持った怪獣達は各地で猛威を振るった。ベムラーの襲来が引き金となって
眠っていた彼等を目覚めさせたのか、はたまたミッドや各管理世界において潜み眠っていた
怪獣達に惹かれてベムラーがミッドに襲来したのかは分からない。いずれにしても
怪獣を好き勝手に暴れさせていては、世界そのものの存亡に関わると言う事である。

 怪獣の力は凄まじく、現場の局員ではどうにもならず、本来前線に出るべきでは無い
教導隊のなのはですらも前線に出て怪獣と戦わなければならないと言う状況が当たり前になる程にまで
管理局は怪獣の猛威に苦戦を強いられていた。なのは自身もディバインバスターを連続で撃ち当てても
怪獣には効果が薄いケースが多かった。

 もうこれ以上はダメだとなのはが判断した時、こっそり物陰に隠れ、隠し持っていたベーターカプセルを点火する。
そうする事によって普段なのはの中で彼女の生命維持を行っている次元人=リリカルマンが姿を現し、
リリカルマンとなったなのはと怪獣の対決に移行すると言うのもまた恒例となっていた。

 ちなみになのはは女性であるのだから、リリカルマンでは無くリリカルウーマンと呼称すべきなのかもしれないが、
次元人の姿の方はどう見ても男性である為、結局リリカルマンになってしまう。M78次元世界の次元人に
男女の概念があるのかどうかは不明であるが、彼が本当に男性もしくはそれに準じた存在であったと考えると
なのはもちょっと恥ずかしくなってしまっていた。

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最終更新:2010年09月15日 13:07