うさだとジョンとポールの三人と別れた後、ヴィータとでじこはまだ
まねきねこ商店街を徘徊し続けていた。と、その時だった。
「でじこお姉ちゃん待つぴょ!」
突然医者の格好をした犬耳の男三人を従えて、パンダ耳の帽子を被った金髪の少女が現れた。
「今日こそこのブラックゲマゲマ団がお姉ちゃんを誘拐するぴょー!!」
「また変なのが出やがった…。こいつ等何だよ…。」
「ブゲ団のぴよことリクカイクウにょ~。」
「ブゲ団じゃなくてブラックゲマゲマ団ぴょー!!」
自分達の組織名を思い切り略されてしまい、ぴよこも手足をバタバタさせながら
怒っていたが、そこでヴィータの存在に気付いた。
「あれ? そう言えばお姉ちゃんと一緒にいるのは誰ぴょ? 見ない顔ぴょ。」
「コイツはヴィー太って言う迷子にょ。道に迷ってまねきねこ商店街に迷い込んだ所を
でじこが保護したんだにょ~。」
「だからヴィータだって! って言うか迷子じゃねぇ!」
うさだの時と同じ事を言うでじこにヴィータも怒ってしまっていたが、
これまたぴよこ達はでじこの嘘を思い切り真に受けてしまっていた。
「うっうっ…可哀想ぴょ~。迷子になってお家の場所が分からないなんて可哀想だぴょ~。」
「世の中には可哀想な人は沢山いるんですね…。」
「そうです…。だからこそ負けてはならないんです! 己の不幸に!」
「お前…頑張れよ~。」
「う…うん…。」
何かすっかり真剣に同情してしまっているブラックゲマゲマ団の面々にヴィータも
思わず頷く事しか出来なかったが、再び彼等はでじこと向かい合った。
「だからぴよこ達も負けないぴょ! お姉ちゃん勝負だぴょ!」
「面倒臭いにょ~。」
「って何でそういう話になるんだ!?」
話の強引な切り替えにヴィータは戸惑いながらもでじことぴよこの間に
割って入っていたのだが…それがいけなかった。
「口からバズーカ!!」
「目からビーム!!」
「ギャァァァァァァ!!」
何とぴよこの口からも弾丸の様な物が飛び出し、それに対してでじこの発射した
目からビームと合わせて二人の間に割って入ったヴィータに直撃!!
ヴィータは忽ち真っ黒焦げになりながらどっか飛んで行ってしまった。
「(やっぱりここは魔界だ…もういっそ殺してくれ…。)」
百メートル以上離れた場所に落下したヴィータはその場に倒れこんだまま
身動きが取れなかった。が、そんな時にまた誰か近寄って来たのである。
「お前…そんな所で何してるにゅ?」
それは虎猫の耳の帽子を被り、水色のワンピースを着た五歳位の小さな女の子。
その子がその場に倒れこんでいるヴィータを指で軽くツンツンと突いていた。
「お前…行き倒れかにゅ?」
「…。」
ヴィータは返事がしたかった。しかし、声が出せない。と言うか息もまともに
出来ない。とにかく苦しい。何とかしてくれ。と、ヴィータがそう考えているのも束の間…
「コイツ…もう死んじゃってるのかにゅ…。人の命は儚いにゅ…。」
何かいつの間にか死んだ事にされてしまっている。そして小さな女の子は
数珠を取り出してお経を唱え始めたでは無いか。
「南無阿弥陀仏にゅ…。」
年齢不相応に見事なお経の唱えぶりであったが、ヴィータはまだ死んで無い。
とにかくヴィータは力を振り絞って起き上がろうとしていたが、
ここででじこがやって来た。
「あ! ここにいたかにょ~!」
「でじこにゅ。今ぷちこ行き倒れの人にお経唱えてるにゅ。南無阿弥陀仏にゅ…。」
「ぷちこー! その人は行き倒れじゃないにょー! こらお前! しっかりするにょ!
寝たら死ぬにょー!」
「でじこここは雪山じゃないにゅ…。」
まあとにかく、でじこはヴィータを起こして揺さぶっていたが、そんな時に
ヴィータの目にある物が映ったのである。
「あ…庵衣堂…。」
「気が付いたかにょー!?」
「チッ…まだ生きてやがったにゅ…。」
ヴィータの目に映ったのは目的地である和菓子屋、庵衣堂の看板だった。
「ここだ! 私はこれを探していたんだ!」
「にょ?」
「にゅ?」
ヴィータはまるで生き返ったかのごとく起き上がり、でじこもぷちこも首を傾げていた。
「お前、庵衣堂を探してたのかにょ?」
「そうだよ! ここでぷちこ焼きを買う為に来たんだよ!」
ヴィータは速攻で庵衣堂店内へと突撃し、庵衣堂を経営している老夫婦に注文した。
「じーちゃんばーちゃん! ぷちこ焼きをくれ!」
「すまんの~。ぷちこ焼きは売り切れてしまったんじゃ~。」
「え…。」
庵衣堂のじっちゃの一言にヴィータは硬直してしまった。
そしてでじことぷちこが後からやって来る。
「残念でしたにょ~。ぷちこ焼きは商店街でも人気があってすぐに売り切れるにょ~。」
「この子はでじこちゃんのお友達かい?」
「そんな…そんな…売り切れなんて…そんな…。」
せっかくここまで来たと言うのに目的のぷちこ焼きは売り切れ…
これでははやての頼みを叶える事が出来ない。そのショックにヴィータの目は涙で潤み始めていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! これじゃあはやてとの約束が守れないよぉぉぉ!!」
「わぁ! 泣き出したにょぉ!」
ヴィータはついに泣き出してしまった。これには周囲の皆も困ってしまう。
だが、ただぷちこ焼きが売り切れていたから泣き始めたのでは無い。
ぷちこ焼きを買って帰る事が出来ずに落胆するはやてを見たくない…
しかしそれでももう売切れてしまったぷちこ焼きはどうにもならない。
このジレンマがヴィータを泣かせる結果となっていたのである。
「一体どうしたのか知らんけど…とにかく元気出すんじゃ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
庵衣堂のじっちゃとばっちゃも何とか慰めようとするが、ヴィータは中々泣き止まない。が…
「お前にこれやるにゅ…。」
「え…。」
ぷちこはヴィータにある物を差し出した。それはぷちこ焼きだった。
「これは…。」
「今日じっちゃとばっちゃからおやつに貰ったぷちこ焼きにゅ。
でももう良いにゅ。これ、お前にやるにゅ。」
「い…良いのか? 本当に…。」
「良いにゅ。これ持って帰るが良いにゅ。」
「お~、ぷちこは優しい子だのう。」
「あ…ありがとう…。」
「何はともあれこれで一件落着にょ~。」
あんまり人に礼を言う事が出来る程素直では無い方のヴィータでもこの時ばかりは別。
ヴィータは素直に礼を言っていた。これではやても喜ぶだろうから…
「でも…お金は貰うにゅ~。」
「そこはしっかり取るのか…。」
「当然にゅ~。」
「…。」
ぷちこに貰ったぷちこ焼きのおかげで泣き止む事が出来たヴィータは
まねきねこ商店街の面々と別れを告げ、八神邸に帰って来た。
「ごめんはやて…もう殆ど売り切れてて…これ一個しか買って来る事が出来なかった。」
「別に謝る事はあらへん。ヴィータだって一人であんな遠くまで行って頑張って来たんや。
だから一個でも嬉しいよ。ありがとな。」
「はやて…。」
ヴィータは嬉しさのあまりはやてに抱き付いていた。
「でも…次はもっと沢山買って来てな?」
「う…。」
おわり
最終更新:2007年08月14日 17:25