『マクロスなのは』第13話その2
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ガーッ、ガーッ、ガーッ
突然のミサイルアラートにも天城は慌てず、機体を90度ロールしながらガウォークに可変。出力に任せて無理やり右に跳んだ。
その機動について行けなかったランサーは虚空を貫き、衝突コースのものはガンポッドで撃ち落とした。
「こんなんじゃ俺は落とせないぜ、先輩!」
天城は再びファイターに可変するとフェイトを追う。
すると彼女はデバイスから慣性抑制システムの1形態であるOT『キメリコラ特殊イナーシャ・ベクトルコントロールシステム』のフィンを展開する。
このシステムは第25未確認世界ではクァドランシリーズの慣性制御装置として使われる。一方この世界では安価でISCに劣らぬ性能を誇り、空戦魔導士部隊の希望者には早くも導入が開始されている。しかしミッドでは技術的な問題から最大出力での稼働時間が極端に短い。そのためここぞというときに使う装備だ。
フェイトは最高速からキメリコラ特殊イナーシャ・ベクトルコントロールシステムのキャパシタの限界まで使って急減速。後方を取って加速したこちらを逆に前方に放り出すオーバーシュート戦法に出た。
「だったら!」
天城はファイター形態から足を振って、その質量移動によって得た慣性で高度を下げながら後転。
そのバク転する速度とフェイトとすれ違う速度とはマッチしており、ちょうど両手に保持するガンポッドの射軸に彼女が常に入る形になった。
「もらったぁ!」
天城はためらわずトリガーを引いた。
指先から流れた弱い魔力は本人識別を経て機載のMMリアクターに届く。そして最初の量の200倍という適切な量を出力し、その魔力をガンポッドに流れ込ませて非殺傷設定の魔力弾を生成、発射する。
ここまでのタイムラグはほぼゼロであり操縦者はまったく差異を感じない。
発射された超音速の青白い魔力弾が連続してフェイトに向かい、伸びていく。
手応えはあった。またこれなら必ず命中・撃墜できるという確信もあった。しかしフェイトの挙動は彼の予測パラメーターを越えていた。
あやまたず放たれたはずのガンポッドの火線をほとんど真横にずれたのではないか!?という機動で回避してのけたのである。
どうやら罠にはまったらしい。この機動は明らかにISCのものだ。考えてみれば潤沢な予算のある六課の、しかも高機動を売りにするフェイトがISCを装備していないはずがない。
なのに外見から分かる慣性制御システムを使ってあたかもオーバーシュート戦法をするように思わせ、魔導士には捉えにくい音速レベルの運動エネルギーを奪ったのだ。
「なんと・・・・・・!」
天城はガンポッドの射角を調整しながら追い撃ちし、それでも足りないと後先考えず両翼に残ったMHMMの全弾斉射の大盤振る舞いさえを行う。
しかし、それらはまったく相手を捉えれらなかった。
そうこうしているうちにフェイトは高速移動魔法で急接近。天城の機体をバルディシュの大鎌が一閃した。
『サジタリウス3、撃墜』
AWACSの無慈悲な撃墜判定に、すぐさまVFー1Bは転送送還された。
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「よし」
フェイトは消え行くVF-1Bを見送る。
(確かに強かった。さすがアルト君の選んだ子だ)
フェイトは『2段構えをしていなかったら、撃墜されていたのは自分だった』と、戦闘を軽く振り返える。
そして索敵を再開すると、もう1機はすぐに見つかった。
さっきの僚機を援護しようとしたのだろう。それはスナイパーとは思えぬほど〝極めて至近〟だった。
しめた!と思ったフェイトは一直線に向かう。
そちらの方向から飛んできたハイマニューバ誘導弾の雨を高速移動魔法で掻い潜り、目標に斬りかかった。しかし―――――
「手応えが、ない!?」
振り返ったフェイトが見たのはブロック状になってバラバラになる〝光子(もの)〟の存在であった。
(げ、幻影!?いや、ホログラム・・・・・・?)
フェイトはそれと同時に体が急激に重くなるのを感じた。
足下を見るとそこにはなのはより白に近い桜色を輝かす巨大なミッドチルダ式魔法陣。効果から考えて重力増加による束縛魔法だろう。
(やられた!本命は・・・・・・いったいどこなんだ!)
フェイトは魔法による体の重量増加に耐えながら見回す。すると微かに視認できる場所にバトロイド形態のVF-11Gがいた。
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VF-11Gのホログラム投影機と自身の束縛魔法が決まるのを確認すると、さくらは動けない大先輩をレティクルに収める。
フェイトの顔がこちらを向いた。
(あの中で動けるなんて・・・・・・)
さくらは大先輩の根性に感服した。しかし戦場では迷いは禁物だ。彼女はすぐにトリガーに掛けた指先に力を込めた。
「当たってぇ!」
願いを乗せて『SSL-9B〝M〟ドラグノフ・アンチ・マテリアル・ライフル』(ミシェルの乗っていたVF-25Gのライフルと形状がほとんど同じライフル。ミッドチルダ製のため〝M〟)からまず青白く輝く魔力砲撃が放たれ、間髪入れずに超高初速ペイント弾が砲口から放たれた。
極音速で放たれた弾体はその後砲口に追加展開されていたリニアバインドによって光速の0.0025%(秒速75キロメートル。音速の約225倍)にまで更に加速する。
そして空気を押しのける事のみにその存在意義を持つ魔力砲撃の真空のガイドレールに沿ってそれは動けないフェイトへ飛翔していった。
着弾、確認。
その場はフェイトの最後の足掻きか白煙に満たされている。しかしそんなもので防げるほどやわな砲撃ではない。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
束縛魔法と超高加速砲撃とで息の上がったさくらは戦果を確認しようとモニターの倍率をあげる。
果たして白煙が晴れると、そこには魔力障壁と一点集中型PPBを展開したフェイトの姿があった。
「受けきった?あの砲撃を!?」
さくらは驚愕の色を隠せなかった。
そしてよく見るとそのシールドは斜めに展開されていた。
(跳弾させられた!?)
ペイント弾は先が尖っていない。そしてシールドに当たっても簡単には破裂せず、それなりの装甲貫通力がある。(バリアジャケットへの直撃の場合は相手側のデバイスがペイント弾に干渉して即座に破裂させる)しかしそれは垂直に命中したときだ。実体の徹甲弾なら傾斜など関係なく釘のように取り付き、その質量と速度によって破壊できたはずだが、ペイント弾は軽くて弾頭が丸いため跳弾しやすい。
つまりこれは演習弾だからこそ通用する戦術。そして今回は演習だった。
その後さくらは善戦したが、技量で勝るフェイトに撃墜されるのには時間はかからなかった。
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所変わってミシェルとなのはは雲を遮蔽物に狙撃戦を展開していた。
そこにお互いの戦いが終わったアルトとフェイトが集う。2人は会敵と同時に戦闘に入った。どちらも高機動型のため、目にも止まらぬ戦いが繰り広げられる。
ハイマニューバ誘導弾とランサーの応酬。そして互いに相手の背後とろうとシザースと呼ばれる複雑な螺旋機動を描く。
なのはは援護砲撃しようと思ってもあと1歩を踏み出せずにいた。
もしいま発砲すれば必ずや自らの場所が露呈する。そうするとミシェルは1発で自分を仕留めるだろう。しかしそれはミシェルにも言えた。
開戦10秒で互いの精密砲撃の正確さを見極めた2人は以後遮蔽物に隠れ、相手探しに没頭していた。
今なのはは幾多もある雲から2つの雲に目標を絞っていた。
1つは層が厚く、内部が見にくい雲。もう1つは層は薄いが濃度の濃い雲。
それぞれに有利な点があり、潜在する確率は高かった。
「さて、どっちなのかな・・・・・・」
電磁気、赤外線、魔力反応・・・・・・それらすべてを調べてもどれもおなじように見える。
魔力反応が散らばっているのはデコイとして双方が魔力球を大量に散布しているためだ。
それにしても相手の電子妨害装備が優秀だ。あんなに大きいのだから、排熱が莫大なはず。しかし巧妙に隠され発見出来なかった。
こちらもなんとか隠しているが、フェイト達が近づけば柄でないためあまり練習しなかった魔法の光学迷彩が歪んでバレてしまうだろう。
こうなるともはや相手の癖を読むしかない。
なのはは
(確かミシェル君は・・・・・・)
と思案する。
- 勝ち気に見えて臆病。
- 遊び人に見えるが、心の弱さを隠しているだけ。
これらはアルトから聞いたものだ。そのため『あのアルトくんの事だ。きっと的を射ているに違いない』と判断したなのはは、その条件でミシェルになったつもりで考える。
(やはり一番狙いにくい厚い雲だろうか・・・・・・でもあの濃度の濃い雲も・・・・・・)
そこに戦い続けるフェイトとアルトが視界の端を横切った。
どうやらアルトは本気らしい。デットウエイトになるFASTパックの追加装甲すらパージして神速を誇るフェイトと互角に渡り合っている。
対するフェイトもソニック・ムーブで応じているが、先の戦いのせいかいつもより動きが鈍っている。それはいつも一緒に戦ってきたなのはだからこそわかるレベルだったが、こうなった時の彼女の耐久時間も大体わかる。おそらく自分が支援しなければ1分持たずに落される。
アルトもFASTパックをどれだけ使用しているのかわからないが、1分以上持てばフェイトを撃墜できるだろう。
それはなのはを急がせた。
「・・・・・・うん!たぶんそう、ミシェル君ならそこに行く!」
決断したなのはは即座に砲撃準備に入った。
目標の潜んでいると思われる厚い雲に照準。そのうちばらまかれている魔力反応からまったく動かない5つを。更にそのうち周囲に熱によると思われる気流の乱れを持った1つを選んだ。しかし一瞬もう片方の雲に存在する魔力反応の内ひとつが変動した気がしたが、彼女はよく考えもせず『時間がない!』と無視。宣言する。
「ショート・・・・・・バスター!」
貫く桜色の光跡。しかし射軸上に反応はない。外したらしかった。
「それじゃあ!」
レイジングハートを再照準したときには遅かった。
そこには視界一杯に広がる青白い光があった。
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ミシェルは着弾を確認すると一息入れる。
(惜しかったね、なのはちゃん。確かにあれは第1候補だった。だが君なら目を着けそうだったから、それらしいデコイを残して、第2候補にしておいたんだ。時間があれば俺がそれぐらいの罠を張ることも予想がついただろうに・・・・・・それに2発目もあると思ってたのかな?まったく残念だ。君とはいいライバルになれそうだったんだが・・・・・・)
ミシェルは心の内で呟き、なのはの第2候補―――――濃度の濃い雲のなかで頭を抱えた。
ちなみにさくらもミシェルも狙撃時はバトロイドで運用している。普通なら出力の関係で滞空できないが、両名とも足がかりとなる巨大なミッドチルダ式魔法陣を敷いてその上から狙撃しているため問題なかった。
閑話休題。
その時声がした。なのはの声だ。
『咎人達に、滅びの光を。星よ集え、すべてを撃ち抜く光となれ!』
ロックオン警報ががなりたてている。
そういえばAWACS『ホークアイ』からの撃墜報告が来ていない。そしてレーダーに表示された数字はオーバーSクラスレベルの集束砲を示唆していた。
「ヤバい・・・・・・!」
ミシェルはすぐさまファイターに可変、退避を開始する。
『貫け閃光!スターライト・・・・・・ブレイカァァー!』
放たれる桜色をした極太の魔力砲撃。しかしなのはの渾身の一撃はすんでのところで避けられた。
「なんてバカ魔力だ!」
ミシェルは回避に専念しながら驚愕の声を上げた。
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交戦していた2人もなのはの砲撃に見とれていた。特にアルトは砲撃の数値に。
非殺傷設定のそれはマクロスクォーターの主砲『重量子反応砲』と比べても見劣りしない数値を叩き出していた。
あんなものが殺傷設定で直撃したら確実に蒸発ものだ。
アルトは額に冷や汗をかきながら発砲地点を確認する。
『やるじゃんか、なのはちゃん』
標準装備されている外部フォールドスピーカーでなおも煽るミシェルになのはも
『やっぱりわたし、機動砲撃戦の方がいいな』
と闘志をあらわにする。その腕にはエクシードモードに変形したレイジングハートが握られていた。
そんなこんなで機動砲撃戦に突入した2人に、停戦していたアルトとフェイトも参戦していった。
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その頃戦況俯瞰図を見ながらはやては頭を抱えていた。
「まったく好き勝手に暴れてくれちゃって・・・・・・」
俯瞰図によると六課メンバーは前述の通りだが、他のフロンティア基地航空隊と魔導士部隊の戦況が芳しくなかった。
イエロー航空大隊(フロンティア基地航空隊方式でいうA群)はすでに壊滅。現在レッド(B群)、グリーン(D群)両航空大隊と戦闘している。しかし先ほど大規模反攻作戦時にジャミングによって指揮・通信系統を分断され、2部隊は散りじりに。両大隊は早くも壊滅寸前になってしまっていた。
ブルー(C群)航空大隊はジャミングの影響を受けない場所にて待機してもらっているが、このままでは2部隊を見殺しにするようなものだった。
そしてさらに憂慮すべきはこれだけの被害を出しておきながら、自らの爆撃以降まだ数機しか落せていないことだった。
(やっぱり見通しが甘かったんかなぁ・・・・・・)
はやては俯瞰図とにらめっこするが妙案は浮かばない。そんな彼女の右から声がかかる。
「主、はやて。やはりわたしが支援に行きましょうか?」
自分の護衛をしているシグナムだ。彼女は現有戦力の最後の切り札だった。
時計を見るとまだタイムリミットまで25分程ある。
「わかった。苦戦しているレッド、グリーン大隊の支援に当たってもらおう。ミッションコードは『人を隠すには森の中』や」
「・・・・・・あれですか?」
事前に話し合っていたそのミッションコード(作戦内容)にシグナムが難色を示すが、はやての頷きに
「了解しました」
と応じた。そして彼女は敬礼すると、最高速でブルー航空大隊の元に飛び去った。
「さて、どうなるかな・・・・・・」
はやては悪役のようににやりと微笑むと自身の魔力を収束、強力なECCM(対電子妨害手段)の展開準備に入った。
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次回予告
順調に進撃するバルキリー隊
しかし突如としてその被害はうなぎ登りとなった
果たしてこの事態をどう打開するのか!?
そして残るエース同士の決戦はいかに!
次回「マクロスなのは」第14話『決戦の果てに・・・・・・』
『こちらカプリコンリーダー!敵六課戦力見ゆ!』
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最終更新:2010年12月27日 21:41