『マクロスなのは』第13話「空の守護神」


開戦と同時に鉄球を生成したヴィータは、それを自身のハンマー型アームドデバイス『グラーフアイゼン』で加速する。それらの弾幕でアルトの退路を塞ぐためだ。

『技量が拮抗している場合、バルキリーと魔導士の空戦では遠距離ならばまずバルキリー側の有利は揺らがぬ。しかし近接戦闘ならば互角だろう』

これはアルトのリークした情報だがヴィータにはすでに近いノウハウがあった。
元々彼女には幾年もの戦いの中で『戦闘機』というヴィークル(乗り物)との対戦経験があった。
ヴィータの操る古代ベルカ式は近接戦闘では無類の威力を発揮する。対して戦闘機は接近戦、つまりドッグファイトの性能は全方位を随時射角に収められる魔導士とは比べ物にならない。
だから彼女が生み出した対処ノウハウ、それはアルトの示した物に近かった。
しかしこれまでの対戦成績は2戦1敗1引き分けと決してよくない。
なぜだろうか?
それはアルト達の世界で開発から50年間も脈々と改良されつづけたヴァリアブル・ファイターという機体が従来の戦闘機とは一線を画すからだ。
優れたエンジンに陸戦兵器並の耐久性、そして変形機構。オーバーテクノロジーという超科学を注ぎ込んだVFシリーズ。
ヴィータはそれまで戦闘機とは、ミサイルと機関砲しか持たぬ能無し。殴り合えない腰抜けと考えていた。
しかし目前の、何者も犯すことができないような荘厳さを備えた純白の機体は違った。
VF-25は可変による質量・推進モーメント変化やスラスターによって何波にもわたる誘導弾を回避し、レーザーで撃墜してゆく。
ヴィータはシグナムのように戦いを無上の喜びと感じる属性はない。しかし今は武者震いが止まらなかった。
彼女はカートリッジを1発ロードするとアイゼンのロケットブースターを展開させて接近していった。

(*)

アルトはヴィータの鉄球を全て叩き落とす。
しかしさすがに対決は3回目。彼女はそれを撃墜する時間が稼ぎたいだけだったらしく、その隙に十分接近して来ていた。
OTM『クラスターエンジン機構』を採用した結果、推進力が従来の4倍強になり、巡航速度が3倍になったヴィータには容易い事だった。
余談だがマスコミがこの事から彼女の二つ名を『赤い彗星』としたとか。
振り下ろされるヴィータのアイゼンに、アルトはバトロイドに可変して迎え撃つ。
可変したVF-25はアルトの絶妙な動きもよくトレースし、それを正面から受け止めた。
それから両者は突いたり離れたりを繰り返しながら徐々に高度を落としていく。
ついには旧市街にまで降下し、超低空を縫っていく。どうやら音速を突破しているようで通過と同時に付近のビルのガラスや看板を破砕していった。
かと思えばVF-25が突然ガウォークに可変し、制動をかけてヴィータの後ろにつくとガンポッドを掃射する。
ヴィータはそれをその小ささから生まれる小回りのよさで建物の裏へと回避すると、1発ロードして爆発機能を付与した魔力球を数発打ち返して応戦する。
VF-25は制動も兼ねてバトロイドへと可変すると、体操選手も真っ青な見事なバク転で回避。そのまま建物の反対側へと消えていく。
その様子にヴィータは『VF-25は建物を盾に攻撃してくるに違いない』と思ったのか隙に乗じてカートリッジをリロード。同時に鉄球を生成すると魔力を集束して再びその建物の影から攻撃する構えを見せる。
魔導士達にとって建物とは壁であり、ヴィータの戦術はその考えに沿ったものだ。しかし今回の相手であるバルキリーにとって建物とはボール紙にも勝るとも劣らないほど弱いものだった。


ドガァァァン!!


突然の爆音。
建物の倒壊で吹き上がった莫大なほこりの中から躍り出てきたのはガンポッドをこちらへぴたりと照準したVF-25だった。一切の容赦なく雨のように放たれる58ミリペイント弾。

「この・・・・・・!」

ヴィータはデバイスを2発ロードし、PPBと魔力障壁を併用展開してそれをなんとか受けきった。そしてVF-25が体勢を立て直すために一時銃撃をやめると、接近してその手に握るハンマーで殴りかかる。
しかしそれは滑るような絶妙な機動をもってかわされ、代わりにカウンターのPPBP(ピン・ポイント・バリア・パンチ)が迫る。しかしヴィータのフェイントを使った巧みな戦闘機動によってその拳に捉えること叶わなかった。そしてヴィータはやってきたVF-25の頭に足を掛けて踏み切り、上空に転進した。

「畜生!逃がすか!」

ファイターに可変して追うアルト。だがヴィータの転進はこちらを引き付けるためのフェイクだったようだ。彼女は急停止して振り返ると、いつの間にか巨大化していたハンマーが横になぎ払うようにVF-25に降りかかった。

(*)


旧市街 観戦スタジアム

かつてサッカーかなにかのスポーツの会場であったのだろうその場所は今回の総合火力演習の会場として様変わりしていた。
ツタが占拠していた客席はきれいに整理され、演習を見に来た20万人の一般人を収容している。
そしてその20万の視線は演習空域に無数に展開する無人観測機からの映像を映す目前の巨大ホロディスプレイと、今まさに上空で行われている空戦に注がれていた。
方や『鉄槌の騎士』と呼ばれ、管理局でもトップクラスの空戦能力持つことで知られるヴィータ。
方や数ヶ月前、歌姫とともに天より舞い降りてこの世界に、そして時空管理局に革命をもたらしたVF-25とそのパイロットである早乙女アルト。
まさに魔導士とバルキリーという制度を代表する両雄の激突にいやおうなく観客のモチベーションが上がり

「行け!質量兵器なんかに負けんな!!」

とか、

「頑張れバルキリー!今度こそ調子に乗った魔導士どもに引導を渡してやれ!!」

とか応援の声が放たれる。また、不謹慎だが賭けてる連中もいるようだった。
するとそれに呼応するかのように2人がスタジアムへと降下してきた。
 ・・・・・いや、実際には降下などと言うほど生易しいものではない。
スタジアムのすぐ上空でヴィータがその巨大で強力な鉄槌で打(ぶ)ったたき、PPBPとバトロイドの盾で防いだVF-25がキリモミ落下してきたと言う方が正しい。
もちろんアルトもバカではない。落下前にガウォークに緊急可変し、スタジアムの中央で爆発とも紛う強力なエンジン噴射を行い急制動をかけた。その猛烈なダウンバーストによってスタジアムを這うような強烈な上昇気流が発生。さまざまなものが飛んでいく。
帽子から巡回して飲み物を売る売り子のスカートまで。なかには大切な馬券・・・・・・もとい、お金に化けるかもしれない〝お札〟を飛ばされた者もいるようで紙ふぶきが舞う。

「畜生!外(ほか)でやれ!!」

お札のバイヤーが叫び、売り子のお姉ちゃんも飲み物をぶっかけてしまったお客にぺこぺこ謝っている。
そしてVF-25もさすがにここで戦闘するのは危ないとファイターに可変し、さきほどの場所で待機するヴィータの元に向かった。

(*)

翼の下に装備されたランチャーポッドからMHMMが連射され、ヴィータ目掛けて乱舞する。

『この至近距離で飛行魔法を解除したらガンポッドの好餌になる』

と判断したヴィータは通常の魔力球を生成し、鉄球と同様加速させる。
鉄球と違って大きな誘導の効くそれはミサイルの大半を叩き落とした。
そしてギリギリまで回避運動すると着弾寸前に魔法を全て解除。ミサイルをそらした。

 ・・・・・・かと思われたが、突然それは自爆する。どうやらリモート、もしくは時限起爆にしていたらしかった。

「うっ!」

ヴィータはすんでのところで魔力障壁を展開したがその衝撃の中ではヘタに動けない。
それは一瞬だが、彼女の低空を遷移するアルトが接近するには十分な時間だった。足のエンジンを吹かした渾身のPPBP(ピン・ポイント・バリア・パンチ)が迫る。

「アイゼン!」

「Ja(ヤー)!」

ヴィータは指示を発しつつ2発ロード。デバイスを振りかぶる。
その動作中にアイゼンはその大きさを20メートル程に巨大化させる。また、アイゼンは巨大なドリルとクラスターエンジンの機構を露出させて盛大に火を吹かす。

「ツェアシュテールングス、ハンマー!!」


激突!


ヴィータのハンマーとVF-25の拳がぶつかり合い、スパークする。しかし上から振り下ろすことで重力を味方に付け、さらに質量、推進力において優越するアイゼンが徐々に押していた。
ヴィータは勝ちを確信して更に力を込めた。

(*)


(重い・・・・・・)

アルトはEXギアにフィードバックされるハンマーの重みに喘いでいた。
きっとこのままではPPBをぶち抜かれ、撃墜は免れないだろう。

「負けてたまるかぁ!」

アルトはスラストレバーを急激に下げ、増えた余剰エネルギーでPPBSをフルドライブ。
そしてヴィータのハンマーに逆らわぬよう受けきった。そしてその力を利用して距離を取るとファイターに可変。間髪入れずにデバイス『メサイア』に命令を発する。

「メサイア、〝FASTパック〟装備!」

『Yes sir.』

VF-25の本体が青白い光に包まれる。それが収まったときには懐かしい4つのメインブースターと各種スラスター、そして追加の装甲を着けたVF-25の姿があった。
FASTパック(スーパーパック)は宇宙戦用で、バルキリーに高推力と追加装甲を提供する(純正では武装も提供する)。しかし重力下では基本、デッドウエイトだ。
管理局でも標準装備にするには重力のある地上では推進剤(MMリアクターの魔力や自身の魔力)を食べまくるので採算が合わないとして採用していない。
そこでアルトはFASTパックをデバイス機能で生成、途中で装備するという方法を思いついた。
しかし連続使用の限界が10分程なので、本当に「ここぞ!」という時にしか使えない。
この機構は六課で模擬戦をしていた時にはすでに完成していたが、まだヴィータはこの機構の存在を知らないはずだ。
VF-25はブースターから大量の青白い光の粒子を噴射をすると離脱した。

(*)

ヴィータは離れていくVF-25に追い撃ちの魔力弾を放つ。しかし彼女は目を疑った。その直角の回避運動に、その速度に。
それは通常左右ブースターに合わせて10トン以上積まれるはずの推進剤を一切積んでいないので、重力圏であってもノーマルVF-25Fの1.5倍近い高機動を実現していたのだ。
そんなゴーストもひっくり返るような機動に攻撃が伴う。それらの弾幕は止まるところを知らない。
しかしヴィータもやられっぱなしではすまなかった。

「クラスターエンジン、ISC(イナーシャ・ストア・コンバータ)、リミット、リリース!」

ヴィータの指令に4発のカートリッジがロード。過剰な魔力が空中でスパークする。
次の瞬間にはヴィータは加速していた。尋常でない加速度で。

(*)


「数秒でマッハ1!?」

バルキリーのセンサーはヴィータのゼロからの加速をしっかりと記録していた。そしてその最終的な速度はFASTパックを装備したバルキリーをも超えていた。
バリアジャケット、PPBSを使って空気の壁を切り裂き、OT『ISC(慣性エネルギーを時空エネルギーに還元、一時的に蓄積することにより、最大27.5Gまで一定時間相殺する)』を使って加速度を軽減しているらしい。
ちなみにこのISCはVF-25の切り札とも言える最高機密の装備だった(そのため装置のあるノーズコーンを不用意に分解しようとすると自爆する)。
そしてこの機関はフォールドクォーツを使うのだが、なぜか組成が同じだった普通のデバイスでクォーツの代用ができた。しかし装備するコストは尋常ではなく、予算の潤沢な六課ならではだろう。
さて、アルトの眼前でハンマーを振りかぶり、迫る少女。それはまさに鬼神のごとき威圧感を放っていた。
ヴィータの意地と力量を全て注ぎ込んだ攻撃・・・・・・

(この勝負、受けねば男が廃る!)

アルトはバトロイドに可変。左腕に装備した防弾シールドから魔力刃のアサルトナイフを抜き放った。

「いざ!」

「ぶち抜けぇ!」

両者は空中で再度激突した。
その衝撃波は下界の地面を揺らしたと言われている。

(*)


『AWACS『ホークアイ』より正式発表。ヴィータ三等空尉を撃墜判定。早乙女アルト一等空尉を続行とする』

その全体放送はスタジアムの所々で悲鳴のような叫びと紙ふぶきを、そして戦い続ける両軍に歓喜と落胆の2種類の波紋をなげかけた。

(*)

同じ頃、フェイトと対戦することになったサジタリウス小隊の2機は苦戦を強いられていた。どんなに撃っても当たらないのだ。
フェイトはその自慢の神速でさくらの狙撃を、天城のハイマニューバ誘導弾をことごとく回避してみせる。
対するフェイトも焦っていた。2人の連携が絶妙なのだ。
片方を捉えたと思えばある時は狙撃が、またある時はミサイルやガンポッドの弾幕が行く手を塞ぐのだ。

「このままじゃ埒があかない・・・・・・」

決心したフェイトは自ら近距離に飛び込んでくるVF-1Bに標的を絞った。
もう1機の狙撃も痛いが位置も割れているし、この軽戦闘機に束縛されなければ当たるまい。
フェイトは一気に距離をとると雲に隠れた。

(*)


「待ちやがれぇ!」

雲に隠れたフェイトを追って天城のVF-1Bが飛翔する。
しかし位置が割れているためかフェイトは牽制しつつ雲から脱すると、一目散に退避を始めた。
こちらは出力を上げればなんとか追いつきそうだが、さくらとの間に雲があって支援狙撃は期待できそうになかった。
当のさくらはファイターに可変して射撃位置の変更を急いで行ってくれているが、フェイトは待ってはくれないだろう。

(後ろを取っている今がチャンスだ!)

天城は迷わず彼女を追った。

(*)


「来た来た・・・・・・」

フェイトは後ろにVF-1Bが追尾してくることを確認すると、頃合いを見計らう。
実はさきほど自分が隠れたように見せかけた雲、つまりVF-1Bの通過するであろう雲には自らが仕掛けたプラズマ・ランサーのスフィアがあるのだ。
VF-1Bがこちらを追うため雲に最接近する。―――――今だ!

「ファイア!」

宣言と共にプラズマ・ランサーの軛(くびき)が解き放たれ、数十発の金色の矢がVFー1Bに殺到した。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年12月27日 22:10