「グッ………!」

漆黒の鎧から火花が飛び散り、呻き声が漏れる。
蹌踉めきながら微かに後退するが、すぐに体勢を立て直した。
一方でトーマは、銃口をリュウガに向けて引き金を引く。
銀色の弾丸は、空気を裂く勢いで真っ直ぐに進んだ。
その直後、リュウガはカードデッキから一枚のカードを抜く。
それを手に取ると、ブラックドラグバイザーへ差し込んだ。

『GUARD VENT』

電子音声が、籠手より発せられる。
それと共に、ドラグブラッカーの腹部を模したような二つの装甲が、リュウガの両肩にそれぞれ装着された。
ガードベントのカードによって現れたドラグシールドを、右手に取る。
黒と銀を基調とした盾によって、ECディバイダーより放たれた弾丸を防いだ。
そのままリュウガは前に突き進み、ドラグセイバーを振り上げる。
刃が襲いかかるが、負けじとトーマもECディバイダーを振るった。
異なる二つの剣が激突し、甲高い音を鳴らす。
互いに得物を振るい、互いに一歩引き、互いにまた斬りかかった。

「AAAAAAAAAッ!」

ECディバイダーとドラグセイバーの激突音が、雄叫びによってかき消されていく。
鍔迫り合いの体勢で押し合っていた二人は、そちらに意識が向いた。
先程キュアピーチに襲いかかっていたドラグブラッカーが、今度はトーマに殺意を向けている。
理由は、主人に仇なす敵を捕食するため。
その後に、自身を蹴飛ばした小娘に復讐するつもりだった。
ドラグブラッカーはその大きな口を開き、漆黒の炎を吐き出そうとする。
直後、硬い皮膚に衝撃が走った。
体が微かに揺らいでしまい、反射的に火炎を飲み込んでしまう。
左に振り向くと、ライドブッカーを持ったディケイドが立っていた。
右手に持つ武器は拳銃の形をしていて、口がドラグブラッカーに向けられている。
続くようにディケイドはトリガーを引いて、弾丸を発射。
銃口から五十口径のエネルギー弾丸が次々と放たれ、ドラグブラッカーの巨躯へ殺到していく。
だが、弾かれる音が空しく鳴るだけで、体制は崩さなかった。

「チッ、こうなったら……」

それを見たディケイドは愚痴をこぼしながら、一旦ライドブッカーを左脇腹に戻す。
ケースの蓋を開いて、中から一枚のライダーカードを取り出した。
それは、弾丸の威力を増幅させるカード。

『ATTACK RIDE BLAST』

ディケイドが、手に取ったライダーカードをディケイドライバーに差し込む。
その直後、バックルに紋章が浮き上がり、電子音声が発せられた。
ライドブッカーの先端をドラグブラッカーに向けて、ディケイドは再度引き金を引く。
すると、一つだけだったはずの銃身が、残像の如く五つに増えた。
宙に浮かぶ暗黒竜に向かって、弾丸が次々と発射される。
それはドラグブラッカーの皮膚を易々と貫き、体内に沈み込んでいった。
痛みは瞬時に神経へ伝わり、悲鳴を漏らしてしまう。
一方でトーマは、リュウガの胸板を目がけて、ECディバイダーを縦に振るった。
衝撃により足元がふらついてしまい、鎧から火花が飛び散る。
そのまま彼は、銃口をドラグブラッカーに向けて、魔力弾を放出した。
ディケイドが付けた傷を深めるかのように、皮膚を裂いていく。
ドラグブラッカーの巨体が激痛によって、大きく揺らいだ。
そんな彼の元に、体勢を立て直したリュウガが、ドラグセイバーを掲げながら迫り来る。

「なっ!?」

トーマはそれに気づいたが、遅すぎた。
一切の慈悲が感じられない刃が、トーマの肉体を両断しようと、振り下ろされる。
しかし、それが届くことはない。

「ムッ……!」

金属音が、鳴り響いた。
リュウガの仮面から、驚愕の声が漏れる。
ドラグセイバーの進行が、視界の外から現れた刃によって、止められたからだ。
バイザーの下で輝く紅い瞳は、ディケイドの姿を捉えている。
その両手に握られているライドブッカーと、リュウガの持つドラグセイバーによる鍔迫り合いが始まった。
自分の命が助かった事実に、トーマは安堵を覚える。
そのまま、ディケイドに振り向いた。

「士さん、すみません!」
「謝る暇があるなら、ドラグブラッカーを攻撃しろ!」
「はいっ!」

怒号を浴びたトーマは、言われるままドラグブラッカーの方に顔を向ける。
ディケイドの言葉を合図に、互いに戦う相手を変えた。
トーマは、リュウガから宙を舞うドラグブラッカーを相手に。
ディケイドは、ドラグブラッカーからそれを使役するリュウガを相手に。
それぞれ武器を構えながら、向かっていった。

「でえぇぇぇぇいっ!」

烈火大斬刀を両手で掲げるシンケンレッドは、咆吼を発しながら駆け抜ける。
同じように、彼の目の前からはスコルプが迫ってきていた。
空いていた数メートルの距離を、疾走することで詰めていく。
そのまま、互いに武器を振るった。
烈火大斬刀とスコルプの拳が激突し、大量の火花が散る。
そこから、彼らの力比べが始まった。
しかし、シンケンレッドはすぐに弾き飛ばされた。

「フンッ!」

スコルプは息を吐きながら、腕を払う。
シンケンレッドの足下が蹌踉めいてしまい、ふらふらと後退っていった。
その隙を逃すことはせず、再度スコルプは拳を放つ。
だが、それを黙って受けるわけではない。
不安定な体勢になりながらも、烈火大斬刀を横に振るう。
二人の武器が再び激突。
しかし、先程と違って今度は互いに数歩だけ後退する。
手応えを感じながら、体勢を整えた。

「フッフッフ、その程度か? 『スーパー戦隊』とやらは……」

スコルプは、余裕の笑みを浮かべている。
対するシンケンレッドは、僅かに呼吸が乱れていた。
だが、すぐに整える。
目の前に立つスコルプの表情を見て、シンケンレッドは歯を食いしばった。

「…………どうだろうな」

しかし、その音をマスクから漏れないように、呟く。
そこから瞬く間に、烈火大斬刀を頭上へ掲げた。
スコルプを一刀両断するため、シンケンレッドは斬りかかる。
空気を引き裂きながら、刃は一直線に進んだ。
だが、スコルプはそれを左腕の装甲であっけなく防ぐ。
しかし、この結果はシンケンレッドからしても、想定の範囲内。
闇の中で火花が飛び散る中、彼はすぐさま下がった。
そして烈火大斬刀の柄を握り締め、両腕を引く。
刃先をスコルプに向けて、勢いよく真っ直ぐに伸ばした。

「ハアァァァッ!」

力を込めた一撃は、スコルプの体へ向かっていく。
反射的に、敵は両腕を交錯させた。
刃は中心部へ叩き込まれ、二つの装甲から火花を散らす。

「ヌッ!?」

腕から伝わる衝撃によって、スコルプは数歩だけ後退った。
呻き声が漏れてしまい、足下がふらつく。
だが、一瞬で体勢を立て直した。
プリキュア達と戦ったスコルプからすれば、この程度は掠り傷でしかない。
その反応を見て、今の一撃がまるで効いていないことを、シンケンレッドは察する。
それでも彼は、もう一度烈火大斬刀を振り上げて、素早く斬りかかった。
しかし、それが逆に仇となる。
突如、鈍い衝突音が鳴り響いた。
その原因は、スコルプの腕を守る装甲と烈火大斬刀が激突したこと。

「くっ!」
「残念だったな」

シンケンレッドは距離を取ろうとするが、間に合わない。
密接した距離から、スコルプはストレートの要領で拳を放つ。
その一撃を回避することは出来ず、シンケンレッドの身体に叩き込まれた。
衝撃に耐えることは出来ず、後ろに吹き飛んでしまう。

「ガアッ!」

悲鳴を漏らしながらも、シンケンレッドは受け身を取った。
地面に激突するが、それを行った御陰で衝撃を和らげることに成功する。
すぐさま、烈火大斬刀を支えとするように立ち上がった。
しかしその僅かの間に、スコルプは追撃を加えようと迫っている。
だが、反応する暇がない。
シンケンレッドは二発目を喰らってしまうと、覚悟を決めたその時だった。

「グウッ!?」

突如、複数の銃声が鳴り響き、スコルプの右肩から火花が飛び散る。
その衝撃によって体勢が揺れてしまい、地面に倒れた。
突然の出来事に軽い驚愕を抱きながらも、シンケンレッドは立ち上がる。
そして、横に振り向いた。
その先には、シアンと黒に彩られた拳銃を握る、ディエンドが立っている。
彼は挨拶をするように右手を掲げながら、シンケンレッドの元に歩み始めた。

「やあ、殿様。手こずってるみたいだね」
「お前は……」

ディエンドは飄々とした態度で、口を開く。
戦いの場でこのような態度を取る男を見て、シンケンレッドは顔を顰めた。
雰囲気から、マスクの下で浮かべている表情を察すると、ディエンドは言葉を続ける。

「おや、せっかく助けてあげたのに嬉しそうじゃないね」
「結構だ。俺のことよりも、自分の身を守れ」
「僕は最初から、そうしてるけど?」

相変わらずの軽い口調を聞いて、シンケンレッドは溜息を吐いた。
士達の旅に同行しているようだが、やはりまだ信用できない。
かつて、この男は梅盛源太の烏賊折神を盗んだ。
それに加えて、あの拳銃はアヤカシのチノナマコに奪われたことが原因で、とんでもない被害を受けた過去がある。
後者は外道衆の仕業だが、これらの前科があるのであまり良い感情を持つことが、出来なかった。
だが、今はそれを気にしている場合ではない。
シンケンレッドはディエンドと共に、起きあがるスコルプに目を向けている。
敵のバイザーから放たれる殺意は、より一段と強くなっていた。

「貴様……やってくれたな」
「へぇ、意外と頑丈だな」
「無駄口を叩くな、来るぞ」

スコルプの怒りを無視するように、シンケンレッドとディエンドは互いに声をかける。
それぞれ武器を構えて、向かい来る怪人に立ち向かった。
三人から少し離れた位置では、ディエンドが呼び出した仮面ライダーたちが戦っている。
彼らの相手は、風のエルを初めとしたアルハザードに潜む怪物達。
全員、それぞれの武器を生かして敵に攻撃を加えていた。
アギトとキバは、鍛え抜かれた四肢を用いた格闘を。
龍騎とファイズとブレイドは、それぞれの武器を使った剣術を。
そして響鬼は、清めの音を駆使して戦っている。
空中に漂う風のエルは、そんな仮面ライダー達を見下ろしながら、憐憫のカマサを構えた。
弦をゆっくりと引き、矢を生成する。
風のエルがそれを放つと、高速の勢いで突き進んだ。
しかし、仮面ライダー達はそれを難なく避ける。

「ムゥ……」

不機嫌な声で、風のエルは呟いた。
先程から、何度も弓を放ったが、全て避けられてしまっている。
風を自由に操り、吹き飛ばすことは出来るが、決定打にはならない。
凍てついた空気が辺りに吹き荒れる中、仮面ライダー達は怪人達を次々と、倒していった。

「ハカアァァァァイッ!」
「くっ!」

ハンマーバンキは、その手に付けられた巨大な鉄槌を、力強く振り上げる。
クウガはドラゴンフォーム特有の瞬発力を活用し、高く跳躍。
ハンマーバンキの頭上を飛び越えて、ドラゴンロッドを下に突き出した。
穏やかな音色を鳴らしながら、棍が右肩に叩きつけられる。
しかし、ハンマーバンキは揺らぎもしなかった。
地面に着地したクウガは、今の形態では勝てないと察する。
彼は腰に力を込めた。
その瞬間、アマダムから赤い輝きが放たれて、超変身が起こる。
光は全身を包み込むと、薄い鎧は厚みを増していき、群青から真紅に染まった。
マイティフォームの形態へと、クウガは変化する。
そのまま彼は、両腕と腰を落とした。

「はぁぁぁぁっ……!」

二度目のマイティキックを放つために、全身に力を込める。
アマダムから封印エネルギーが、右足へ流れ始めた。
力は電撃の形を作り出すのと同時に、クウガは走り出す。
地面を踏むたびに、炎が激しく燃え上がった。
離れていたハンマーバンキとの距離を、確実に縮めていく。
数歩目の助走を果たした彼は、両足をバネにして跳躍。
空で回転を行い、右足を敵に向ける。
その狙いは、先程ドラゴンロッドを打ちつけた堅牢な肩。

「だあぁぁぁぁぁっっ!」

上空からハンマーバンキを見下ろしながら、クウガは叫ぶ。
そして、急降下と共にマイティキックを放った。
彼の狙っていた部分に、必殺の一撃が叩きつけられる。
その衝撃によって、ハンマーバンキの身体が宙に飛ばされた。
同時に、大量の封印エネルギーが流れ込んでいく。
紋章が刻まれる一方で、クウガは地面に降りた。
マイティキックを受けたハンマーバンキもまた、重力に引かれて大地へ叩きつけられる。
しかし、重厚な身体が吹き飛ぶ気配は見られない。
それを見たクウガは、追撃を加えようとした。

「はっ……!?」

だが、彼の足は止まってしまう。
先程ショッカーライダーを倒した直後に感じた寒気が、再びクウガの全身に駆け巡ったのだ。
このアルハザードの風が冷たいからではない。
まるで、目の前で得体の知れない怪物が自分を狙っているような、生命の危機。
それに伴ったのか、彼の呼吸が荒くなり、両膝を地面につけてしまう。
金縛りにあったかのように身体が動かない中で、ユウスケの脳裏に再びある光景が流れ込んだ。



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最終更新:2010年11月27日 12:23