クウガは二人を守るため、跳躍した。
今の彼は、跳躍力に長けたドラゴンフォームの形態を取っているため、その距離は徐々に伸びていく。
だがモエルンバと風のエルの攻撃も速度が凄まじく、完全に回避するまでには至らない。
故に、青いクウガの背中に命中し、薄くなった装甲を容赦なく焼いていった。

「ぐあっ!」

仮面の下から、悲鳴が漏れる。
衝撃によって体勢が崩れ、背中に激痛が走った。
クウガの両手から、キュアピーチとトーマが離されていく。
そのまま三人は、勢いよく地面を転がっていった。
キュアピーチとトーマはすぐに起きあがるも、クウガは呻き声を漏らしている。
そんな彼の元に、他の二人は駆け寄った。

「大丈夫ですか、クウガ!?」
「ユウスケさん!」

不安と焦燥が混ざったキュアピーチとトーマの顔を見て、クウガもまた立ち上がる。
まるで、二人を守るかのように。

「トーマにラブちゃん、大丈夫だよ」

ドラゴンロッドを構えたまま、クウガは呟いた。
焼かれた背中の痛みなど、意に介さず。
そして、彼は空いている左手の親指を立てた。

「だって俺、クウガだし!」

クウガは、サムズアップのポーズをキュアピーチとトーマに送る。
それは、古代ローマにて『満足できる、納得できる行動をした者だけに与えられる仕草』という意味を持っていた。
自分と共に、みんなが戦ってくれている。
故に、クウガがサムズアップを二人に送る理由だった。
そしてその対象は、ディケイド達も含まれている。
仮面で隠されているため、その表情は見えない。
けれどもキュアピーチとトーマは、ユウスケが力強い笑みを浮かべていることだけは、察することが出来た。
そんなクウガの横に、二人は笑みを浮かべながら立つ。
彼らと、目の前に立つモエルンバと風のエルの視線が混ざり合った。

「ダアアアアアアッ!」

複数の目線が睨み合っている一方で、シンケンレッドは気合いを入れて地面を駆け抜けている。
彼は、その手に持つ烈火大斬刀を高く掲げて、勢いよく振り下ろした。
軌道の先にいるバベルは、ハンマーで防ごうとする。
しかし、それは適わなかった。
烈火大斬刀と激突した瞬間、金属が壊れるような高い音が鳴り響く。
同時に、バベルが構えたハンマーが砕け散っていった。
理由はただ一つ。度重なる撃ち合いによる衝撃で、耐久力が落ちていったのだ。
無論、その事実に気付いた者は一人たりともいない。
シンケンレッドすらも、バベルすらも。

「ガアアアアッ……!?」

驚愕する暇もなく、悲鳴を漏らす。
粉々となったハンマーの破片が散らばる中、烈火大斬刀はバベルの身体を切り裂いていった。
いくらグロンギの頑丈な肉体とて、巨大な刀を浴びてしまえば一溜まりもない。
刃の中に込められているモヂカラが、体内で暴れ出した。
それによって火花が迸る中、バベルは背中から倒れる。
やがて大きな音を鳴らしながら、その巨体が爆発していった。

「ハカアァァァァァァァァイッ!」

次の瞬間、冷たい空気が大きく震える。
咆吼が響き渡る中、この戦場に新たな異形が姿を現した。
突然の出来事に狼狽えることはせず、シンケンレッドはそちらに振り向く。
すると、マスクの下で彼の瞳が見開かれた。

「あれはまさか……蛮機獣か!?」

それは以前、外道衆と手を組んだ蛮機族ガイアークと呼ばれる怪人の一種だった。
玄翁の形を持つ頭部、右腕に装着された巨大な金槌、幾つもの棘が突き出た左腕の鉄球、無機質な光を放つ胸部の電光板。
かつてガイアークを束ねた三大臣の一人、害地大臣ヨゴシュタインがヒューマンワールド破壊のためだけに生み出した蛮機獣、ハンマーバンキ。
だが、援軍は一体だけで終わらない。
ハンマーバンキが現れた瞬間、闇の中で空間に歪みが生じる。
そこから、二つの影が飛び出してきた。
六人は乱入者の存在に気づき、意識をそちらに向ける。

「仮面ライダー……リュウガ」

振り向いたディケイドは、呟いた。
目の前には、龍騎に酷似した姿の仮面ライダーが姿を現している。
しかし、その鎧はまるで闇から切り離したかのように、黒く染まっていた。
龍騎の世界に存在する、ミラーワールドで戦う十二人の仮面ライダーの一人、仮面ライダーリュウガ。
もう一方の乱入者は、かつて世界の財宝を数え切れないほど奪った組織、エターナルの一員だった。
顔面を守るバイザー、サソリの殻を思わせるような赤い装甲、それらに守られた屈強な肉体。

「困るねぇ、こんな所にまで来られちゃ……」

時空の歪みから現れた異形の戦士、スコルプは邪悪な笑みを浮かべていた。
微かな光を放つ瞳からは、殺気が感じられる。
その一方で、リュウガはカードデッキから一枚のカードを取り出した。
表面には、契約したミラーモンスターの絵柄が描かれている。
彼は手に取ったアドベントカードを、左手に装備された龍の頭部を象った籠手、ブラックドラグバイザーに差し込んだ。

『ADVENT』

くぐもったような低い音が、発せられる。
すると、リュウガの背後に位置する闇がより強く歪んだ。
その中から、一匹の巨大な黒い龍が姿を現す。
赤く光る瞳、長い胴に付けられた四本の足、刃のように鋭く尖った尻尾。
リュウガの使役する暗黒龍、ドラグブラッカー。
黒龍は現れるのと同時に、獲物を威嚇するように咆吼を発した。
空気は大きく震え、標的となった六人の肌は震える。
だが、誰一人として狼狽えなかった。
ドラグブラッカーの叫びが合図とするように、この場にいる全員が行動を再会する。

「モ・エ・ル・ン・バァァァァァァァ!」

モエルンバは、高く跳び上がりながら快活な態度で叫んだ。
そのまま、両手で指を鳴らす。
直後、空中に複数の炎の塊が生じた。
それに合わせるように、モエルンバも自らの身体を火炎で包み込む。
彼は眼下にいる敵に対し、嘲笑うような目線を向けた。

「チャ、チャアッ!」

空に浮かぶ炎が、モエルンバと共に地上に向かって落ちていく。
まるで、荒れ狂う嵐のように。
それを見たキュアピーチも、すぐに跳び上がる。
彼女は両手で構えを取った瞬間、光が周囲を照らし出した。

「プリキュア! ラブ・サンシャイン!」

ハートの形を取った手から、光線を放射される。
それは一直線に、空中に向かって突き進んでいった。
キュアピーチの放ったプリキュア・ラブサンシャインと、モエルンバの放った炎が激突する。
光と火炎が衝突し、互いの力が拮抗を始めた。
だが、戦いはすぐに終わりを告げる。
数秒の時間が経過した後、何度目になるかは分からない爆音と、衝撃波が周囲に襲い掛かった。
その標的は、空中に浮かぶモエルンバも例外ではない。
膨大なエネルギー同士が破裂したことによる爆風が、視界を覆った。
反射的に自らの姿を人型に戻し、両腕で顔を守る。
その瞬間、粉塵の中からモエルンバの目前に、キュアピーチが姿を現した。
彼女は鋭い目線を向けながら、男の赤い腕を掴む。

「なっ!?」
「はあっ!」

驚愕するモエルンバを尻目に、キュアピーチは力強く両腕を振るった。
そこから全身を一回転させた後に、手を離す。
するとモエルンバの視界と体は、空中で錐揉みを始めた。
そのまま弾丸のような速度で、飛行するドラグブラッカーと激突する。
あまりの勢いで、モエルンバには受け身を取る暇が無い。
衝撃によって、龍の黒い体が曲がる。

「チャアッ!?」
「GAッ!?」

悲鳴を漏らしながら、モエルンバとぶつかったドラグブラッカーは落下していった。
地面に衝突した瞬間に、その巨体が大きく転がっていく。
ドラグブラッカーの皮膚が削られていく一方で、モエルンバは空中で身体を一回転させた。
体勢を立て直すと同時に、両脚に力を込める。
そのまま、空中より迫るキュアピーチを目掛けて再び跳躍した。
対する少女は、右の拳に力を込めて、敵を目掛けて放つ。
同じようにモエルンバも、ストレートを打ち出した。
刹那、二つの拳が激突する。
互いの神経に痛みが情報となって、脳内へ流れ込んだ。
それに眉を顰めることすらせず、キュアピーチは二発目のパンチを突き出す。
胴体に命中させると、モエルンバは呻き声を漏らしながら微かに後退した。
続くように、キュアピーチは三発目を放つために一歩前に踏み出す。
負けじとモエルンバも、両手を向けた。
キュアピーチはその意味を瞬時に察して、跳び上がる。
次の瞬間、モエルンバの手から轟音と共に炎が飛び出した。
それは、先程まで彼女のいた空間を通り過ぎ、容赦なく燃やしていく。
攻撃を避けたキュアピーチは空中で全身を捻り、前方宙返りを行った。
そのまま地面に立つモエルンバに、右足を向ける。

「たああぁぁぁっ!」

重力に任せたまま、眼下の敵に突き進んだ。
キュアピーチを見上げたモエルンバは蹴りを防ぐため、咄嗟に両腕を交差させる。
激突による鈍い音が鳴って、二人の鼓膜を刺激した。
その直後、モエルンバの防御が崩れてしまい、大きく後ろに吹き飛んでいく。
跳び蹴りの威力に耐えることが、出来なかった。
対するキュアピーチは、蹴りの反動で跳躍しながら着地する。
そして、両腕に痛みを受けたことで歯軋りをしているモエルンバと、目線を合わせた。

「あんまり調子に乗るなよ? 『プリキュア』……俺達はこれから泉の里を滅ぼしに行くんだからよ」
「そんなことは、絶対にさせない!」

身体を覆う炎が強くなり、熱気がより広がっていく。
キュアピーチの肌に刺さるが、何ら気に止めない。
この男は、みんなの住む世界を滅茶苦茶にしようとしている。
キュアピーチには、それを許すことが出来なかった。
微塵にも怯む様子を見せない彼女を見て、モエルンバは苛立ちを覚える。
そして、激しい怒りを瞳に込めながら、笑みを浮かべた。

「おいおい、へらず口を叩くのもその辺にしようぜ? セニョリータッ!」

言葉を紡ぎながら、モエルンバは両手の指を鳴らす。
それを合図とするように、キュアピーチの周囲を囲むように、巨大な炎が出現した。
一つだけでなく、二つ、三つと、徐々に数を増していく。
瞬く間に、二桁にまで達していった。
四方八方で浮かんでいる灼熱の塊は、轟音を鳴らしながら燃え上がっている。
まるで、今にも全てを燃やし尽くしてやろうと、自己主張しているかのように。
だが、キュアピーチは相変わらず動じずに、構えを取った。

「チャ、チャ、チャッ!」

モエルンバは、両手を前に突き出す。
宙を漂う十を超える数の炎が、キュアピーチの元に殺到した。
その瞬間、標的となった彼女は勢いよく地面を蹴る。
暴風雨のように迫り来る球体の間を縫うように、キュアピーチは疾走を開始した。
迫り来る火炎を前に身体を捻り、紙一重の差で回避する。
それはキュアピーチの背後を通り過ぎ、勢いを止められずに地面と激突した。
爆風の音が鼓膜を刺激し、空気が震える。
遠くに吹き飛ばされてしまいそう衝撃が、背中から伝わってくるが、彼女の勢いは衰えない。
むしろそれを追い風にして、走る速度を上げていた。
襲いかかる炎を避けながら、モエルンバとの距離を徐々に詰めていく。
その最中だった。

「GOAAAAAAAAッ!」

猛獣をも怯ませるような叫び声が、キュアピーチの聴覚を刺激する。
それによって大気が、何度目になるか分からない振動を始めた。
駆け抜ける彼女は、声の方向へ反射的に振り向く。
その先には、ドラグブラッカーが口を大きく開きながら、こちらに迫っていた。
赤い瞳からは、憎悪と殺意がキュアピーチを目がけて放たれている。
理由は極めて単純、獲物の捕食を邪魔されたため。
たかが人間。それもこのような小娘ごときに。
負の感情を抱えるドラグブラッカーの口から、黒い炎が吹き出す。
それは球状の形を取った瞬間、勢いよく放たれた。

「くっ!」

迫る炎に気付いたキュアピーチは、走行を一時中断する。
その際に、両足の裏が地面と音を立てて擦れ合った。
ドラグブラッカーが吐いた火炎が当たろうとした瞬間、素早く横に跳躍する。
それによって、ドラグブレスと呼ばれる熱の塊は、掠ることもなく回避に成功した。
だが、それで終わりではない。
空を飛ぶドラグブラッカーは尚も、大きく口を開けてドラグブレスを放ち続ける。
標的にされたキュアピーチは左右に飛ぶことで、黒い炎を避けた。
ドラグブレスの威力によって地面が爆発し、所々で直径三メートル近くの穴が出来る。
その一方で、モエルンバの作り出した火球も迫っていた。
それに気づいて、キュアピーチはすぐに横へ跳躍する。
避けられた複数の炎は、彼女のいた地点を通り過ぎていった。
だがその直後、まるで自らの意思を持つかのように旋回を始める。
そのまま、キュアピーチの背中に向かって突き進んでいった。
背後から熱が迫るのを感じて、彼女は振り向く。
見ると、モエルンバの炎がメラメラと音を立てながら、高速の勢いで迫っていた。

「ッ!?」

走り続けるキュアピーチの表情に、若干の焦りが浮かぶ。
近づいてくる火炎はまるで、自らの意志でも持っているかのようだった。
しかし、そちらにばかり気を止めていられない。
彼女の前方では、ドラグブラッカーがその大きな顎を開けていたのだ。
その直後、口の中から勢いよく漆黒の炎が放たれていく。
横に飛ぼうと視界を移すが、そちらではモエルンバの炎が浮かんでいた。
これが意味することはただ一つ。
キュアピーチの逃げ場を全て、奪うこと。
前からはドラグブレス、後ろと左右からはモエルンバの生み出した火球。
前後左右の方向より、火炎が空気を燃やしながら迫っている。
このままでは、熱の塊が彼女を中心に激突することが、誰の目から見ても明らかだった。
今の状況に陥ったのが只の人間ならば、生きることを諦めて全てを投げ出すかもしれない。
だが、プリキュアである彼女は決してそれをしなかった。

「…………ッ!」

キュアピーチは、足の動きを止める。
そのままほんの少しだけ、全身を曲げた。
直後、ドラグブレスとモエルンバの炎が彼女のいた場所で、激突する。
黒と赤という、異なる二色の灼熱がぶつかり合ったことにより、盛大な爆発が起こった。
轟音が響き渡るのと同時に、辺りが火炎で包まれていき、大地が焼かれる。
炎の海が広がるのを、モエルンバは満足げな表情で見つめていた。

「あ~あ、だから言ったんだぜ? セニョリータ」

やれやれ、と言うかのように両腕と首を振る。
一方で、ドラグブラッカーは僅かな遺憾の念を抱いた。
いくら気に食わない相手とはいえ、少し燃やしすぎたようだ。
ここまでやってしまっては、遺体が跡形も残ってないだろう。
追い詰めるならば、体当たりでもよかったかもしれない。
けれど、あの小娘の変わりになる獲物は他にもいる。
そちらを喰えばいいだけだ。
そう思い、ドラグブラッカーは違う敵の方に振り向いた。

「――――たあっ!」

その瞬間、背後より声が響く。
それはたった今、炎の餌食となったはずのキュアピーチの物だった。
ここに、モエルンバとドラグブラッカーにとって、想定外の事実が存在する。
膨大な火炎に飲み込まれそうになった直前、キュアピーチは空に向かって高く跳躍していたのだ。
五十メートルほどの高さに到達した彼女は、そこから左足を使った跳び蹴りを放つ。
そのままドラグブラッカーの固い背中に、命中した。

「GUッ!?」

大きな口から、悲鳴が発せられる。
同時にドラグブラッカーの全身が大きく曲がり、弾丸の勢いで落下していった。
彼女の一撃は、ミラーモンスターを吹き飛ばすには充分な威力を持っている。
落ちていくドラグブラッカーの先に存在するのは、モエルンバただ一人。

「チャアァァァッ!?」

あまりにも唐突すぎる自体の前に、驚くことしか出来なかった。
だが、このまま案山子のように棒立ちでいるわけではない。
ドラグブラッカーに潰されそうになった瞬間、モエルンバは跳躍して回避する。
そんな彼の元に、キュアピーチは飛び込んでいった。
空中で距離を詰めながら左腕を引いて、モエルンバに向かって拳を放つ。
赤い巨躯が吹き飛ぶ一方で、キュアピーチは地面に降り立った。

『SWORD VENT』

凍てついた空気が漂う戦場に、機械音声が響く。
それは、カードデッキから取り出した一枚のカードを、ブラックドラグバイザーに挿入したことで鳴った音。
リュウガの頭上に、ドラグセイバーの名を持つ青龍刀が現れる。
宙より振ってくるそれを左手に取り、赤い両眼をトーマに向けた。
対するトーマの肌に殺気が突き刺さるも、それに怯まない。
向かってくるリュウガを前に、彼はECディバイダーを振りかぶる。
その直後、二つの刃が激突した。
微かな火花が飛び散り、甲高い金属音が響く。
互いに一歩引き、距離を取った。
再びリュウガはドラグセイバーを掲げ、勢いよく振り下ろす。
トーマはその一撃を紙一重の差で避けて、ECディバイダーを横に薙ぎ払った。

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最終更新:2010年11月27日 12:21