『マクロスなのは』第15話「魔導士とバルキリー」
後方のはやては爆撃のチャージに入っていた。
「『ホークアイ』、敵の正確な座標を送ってください!」
『了解。二佐の火器管制デバイス(はやての場合はリィンフォースⅡ)へ座標を送信します。1発でかいのを頼みますよ!』
「了解や。任しとき!」
「・・・・・・来ました!未来位置予測開始・・・・・・着弾位置、高度1万メートル。座標、0120-333-906。30秒以内に爆撃してください!」
リインフォースⅡが報告する。
(なんだか聞いたことある番号やな・・・・・・)
一瞬思考を巡らせたはやてだが、今はそんな時ではない。先ほどと同様、合計6つの魔法陣を展開。時間がないため負担が大きいが予備チャージ と詠唱を破棄する。
「フレース、ヴェルグ!」
すると魔法陣より再び白い光の奔流が発射される。しかし予備チャージしなかったので同時にデバイスの魔力コンデンサがオーバーフローして セーフモードに突入した。
バリアジャケットを除く全ての魔法が消失し、融合するリィンの飛行魔法で何とか高度を保つ。
そして詠唱破棄したときの全身に来るピリピリとした痺れにも似た痛みに耐えながらAWACS経由のJTIDS(統合戦術情報分配システム)の戦術俯瞰図を流し見る。
そこではバルキリー隊と魔導士各隊が指示通りの位置に防衛ラインを構築している様子が伺えた。
範囲攻撃に特化した自分はこれから起こるであろうガジェットとの戦闘への参加は、この一撃が最初で最後となる。
確かに全く関与しないわけではないが、それは指揮任務であって実際に目視して戦う彼らとは次元が違う。
彼女は心の中で『みんな頑張ってや!』とエールを送ると、意識を誘導に集束させた。
(*)
ゴーストは高空へ。ガジェットは低空にそれぞれ分かれたため、集合したフロンティア基地航空隊は高空にて迎撃態勢に入っていた。
演習に参加した25機の内15機が演習で撃墜され、演習中止までフロンティア航空基地で整備していた。
そのため迎撃するフロンティア基地航空隊の戦力は残った9機(ライアン二尉は現在急行中)と、付近に警戒配備されていた2期生操るVF-1A部隊25機の合計34機。
50を超えるゴーストを相手にするには少し心許ないが、これでも現状出来うる限りの全戦力だった。
しかしそれでも隊の士気は高い。なぜならMMリアクターは一定時間無負荷で休ませたため満タンになっているし、弾薬もVF-1A部隊の持ってきた実弾を補給、換装していた。
そして何よりスペック上ではなく、本当に高ランク魔導士部隊と対等以上に渡り合える事が証明された事が大きかった。
彼らの横を白い光の奔流が通りすぎていく。はやての魔力爆撃だ。
それは遥か前方で炸裂すると、敵をその圧倒的な魔力衝撃波で破砕していった。
この凄まじさに隊の者は一様に息を飲む。
『自分たちはあんなものに狙われていたのか・・・・・・』
と。
幾つかの編隊に分かれていたゴーストだが、その衝撃波に触れた瞬間粉微塵になる。
あのゴーストはどうやらリニアレール攻防戦の時の自律AIでも、最新ゴーストの純正AIである『ユダ・システム』も搭載していないようだ。おそらくガジェットの物を流用して一本化しているのだろう。
狡猾な彼らは本来なら退避する所だが、愚直なまでに直進。その半数ほどが撃破された。
『すげぇ・・・・・・』
2期生の1人が呟く。
VF-25のセンサーによると、それは5発でキロトン級の対空反応弾2発に匹敵する空間制圧力を示していた。
だがアルトはいつの間にかディスプレイから目を離し、その〝花火〟に見とれていた。それは破壊の光だが、反応弾と違ってただひたすら美しい光景だった。
『こちら『ホークアイ』。今の爆撃によりガジェットは4分の1、ゴーストは3分の1が撃破された。今後爆撃の支援はない。各隊市民の安全を確保し、敵を撃退せよ!』
『『了解!』』
ホークアイの指令にこの空を駆け、戦う者達の声が唱和した。
同時にゴーストから中距離ミサイルが雨あられと発射される。その数、250以上。
『迎撃ミサイル発射!』
間髪入れぬミシェルの掛け声に各機から6発ずつ、合計で204発の中HMMが発射され、ゴーストの発射したミサイルへと突入を敢行していった。
(*)
低空域
フロンティア基地航空隊と違って長距離誘導兵器のない魔導士部隊は、目視照準で己が魔力を込めた砲撃を運河のごとく攻め寄せるガジェットに送り込んでいた。
しかしまだどこからか送られているらしく、ガジェットは減らなかった。
また、演習で生き残り空中に残った魔導士は約80名。撃墜組は遠い所に集められて来るのに時間がかかる。それに来た所で民間人の退避と、新たに出現した陸戦型ガジェット(Ⅰ型及びⅢ型)の対応に追われるだろう。空への増援は望みようがなかった。
防衛ライン上ではひっきりなしに魔力砲撃と無線が飛び交う。
『こちら第1小隊、あれから2人やられた!八神隊長、早く増援を!』
『被害が大きい第1小隊は第2小隊と交代。第3小隊は交代を援護しつつ─────』
『こちら第14小隊、敵が多すぎる!高町空尉に援護砲撃を要請する!』
『こちら高町なのは。現在中央で手一杯なので支援砲撃はできません!〝宮原君〟、教導を思い出して、何とか持たせて!』
『り、了解しました!第1、第2分隊で左右に展開!全力で迎撃!なのはさんはオレらを覚えてるぞ!叱られたくなかったら体を盾にしてでも、奴らを決して後ろに通すな!』
『『了解!』』
『ワレ第10小隊第1分隊。孤立した!至急援護を!』
『こちら独立遊撃隊のフェイトです。第10小隊第1分隊、そこを動かないで!今行く』
現在魔導士部隊は14の小隊に再編成され、旧市街(廃棄都市)を守るため南北に小隊間を500メートル間隔にして並んでいる。
両側からこぼれるガジェット逹もいるが、このラインを放棄したら旧市街に現在の10倍以上の数のガジェットが雪崩れ込むことになる。おこぼれは地上派遣隊(撃墜された演習
参加者)に任せるしかなかった。
また、初動が早かったため即座に防衛ラインを築けた魔導士部隊だが徐々に押されて来ていた。
そして遂にラインにほころびがでてきた。
『こ、こちら第12小隊、ガジェットにラインを突破された!突破された穴が塞げない!支援を!』
『こちら第11小隊。手が回らん。わかってくれ』
『こちら第13小隊。すまないがこちらも無理だ』
フォローするはずの左右の小隊も自分の持ち場だけで手一杯だった。そこに他から無線が入る。
『こちら特別機動隊空戦部隊だ。第12小隊、これより支援する』
演習中、ガジェットの出現に備えるために温存されていた地上部隊きっての対テロ特殊精鋭部隊『特別機動隊』が遂に到着したのだ。
彼らの到着に戦線の穴が塞がれる。しかしこの濃度のAMFの中では既にラインを突破した20機を超えるガジェットまでは手が回らない。
『誰かラインを抜けたガジェットを迎撃して!』
ホークアイとともに指揮を任されているはやてが無線の向こうから指示を飛ばす。しかし前線の誰もが手が離せない状況だった。
だが後方から飛来した紫と青白い2つの魔力砲撃がそのうち10機近くのガジェットを一瞬で葬った。
急行してきたのはシグナムとライアンのVF-11Sだった。
『『隊長!』』
機動隊の面々が歓喜の声をあげた。
(*)
シグナムとライアン、そして特別機動隊空戦部隊の参入により徐々に戦線を盤石なものへと変えつつあった。
『ライアン、そっちは任せたぞ』
「了解。隊長こそ抜かれないで下さいよ」
ガウォークに可変したライアンのVF-11Sとシグナムの2人は左右に分かれて敵へと斬り込み、最も敵の集まる中央と少数の敵が展開する左右の3つに分断する。
そんな2人の分けた左右のエリアを制圧するは特別機動隊の魔導士達だ。
元々同じ部隊の一同は絶妙な連携で敵を排除していった。
そして中央は本隊の鶴翼陣形によるクロスファイア(十字砲火)によって撃破されていった。
(*)
ライアンは愛機VF-11Sで担当のガジェット群を切り裂いていく。しかし撃ち漏らした1機がファイター形態のVF-11Sに特攻を仕掛けてきた。
ファイター形態ではエネルギーの大半を推進に使うため、アドバンスド・エネルギー転換装甲の出力が下がって耐久性はバトロイドの時の10分の1以下に低下する。
これは他で例えると20世紀末の重装甲車程であるが、例え人間大の物体であっても相対速度が音速を超えているだけで大破は免れない。
ガウォークに可変するも、もはや回避は間に合わないと見たライアンは反射で目を瞑ってしまう。しかし覚悟した衝撃はいつまでたっても来なかった。
目を開けるとキャノピーの外には懐かしい顔があった。
『よう、ライアン。危なかったなぁ』
彼がいつものお気楽調で言う。
彼─────ウィリアム・ハーディング三等空尉はライアンが特別機動隊に所属していた頃の同僚で、彼とライアンは同部隊で名の知れたコンビだった。
彼は転送魔法のエキスパートであり、同隊では幾多の戦闘を共に駆け抜けてきた。
どうやら、彼の転送魔法に救われたらしい。見るとさっきまで自分のいた位置にミッドチルダ式魔法陣が展開されていた。
「ああ、サンキュー。ウィル」
彼は手をヒラヒラさせると
『気にするなって』
とあしらった。
そんな彼の後ろにキラリと光る物を視認した。ガジェットだ。どうやらウィリアムを狙っているらしく、急接近してくる。
ライアンはスラストレバーを倒して即座にバトロイドへ可変すると、何が起きたか分からない友人を尻目に彼の背後のガジェットとの間に割って入った。
それと同時にガジェットのレーザーが放たれる。ライアンはそれをバトロイドの左腕に装備した防弾シールドで防ぐと、間合いを見て回し蹴りを放った。
空を切り裂き高速でやってきた巨大な足に蹴り飛ばされた哀れなガジェットは、急速に金属部品へと還元されていった。
「借りは返したぜ」
ライアンが外部フォールドスピーカーを通して伝えると、ウィリアムは
『相変わらず律儀な奴だな、お前は』
と笑った。
(*)
その後再会したこのコンビは、後の手本となる画期的な戦法を編み出す。それはバルキリーと魔導士の連携だ。
魔導士はなのはやフェイトのようなハイクラスリンカーコア保有者以外は絶望的なまでに殺傷設定の攻撃や、連続する強力な物理衝撃を伴った攻撃に弱い。だがバルキリーの陸戦兵器並の耐久性には定評がある。
またバルキリーはレーダー等が補助するがファイター、ガウォーク形態の時は圧倒的に視界が悪い。しかし魔導士はなんと言っても生身なのでそんな制約はない。
こうして短所が相殺されると長所が生きてくる。
バルキリーでは操縦者はバルキリーと常にコネクトし、武装や
その他に魔力を使ってしまう。そのためリンカーコアが最低Aクラスでなければまともな魔法は使えない。一方魔導士はバルキリーとは違い、各種魔法(高速移動魔法や転送魔法など)が豊富だ。
バルキリーも常時、クラスBのリンカーコアにしてクラスAA以上の砲撃力。撃ちっぱなしミサイルの大量使用による制圧力。そして高い耐久性に汎用性。
こんな長所を持つ両者が手を組むとどうなるか。彼らはその答えを示した。
(*)
雨のように降り注ぐレーザーの弾幕の中を突入していくVF-11S。その後ろにウィリアムが続く。
VF-11Sはウィリアムの最高速度である亜音速に合わせており、エンジン出力に余裕ができたため、余剰エネルギーはPPBSと火器に回されている。
そのため前部に展開したPPB(ピン・ポイント・バリア)の出力は4割向上し、この弾幕の中でも耐え抜く。また魔力砲撃の出力も2割ほど向上し、火力と防御力がパワーアップした。
ウィリアムとしても盾代わりがいて安心だ。
しかし通常この速度で飛ぶと、ガジェットはその数と機動力に物を言わせて多方向から攻撃してくる。
その場合加速して振り切るか可変して迎撃することが通常の対処法だ。
今回もガジェット数機がライアンの死角から攻撃しようと忍び寄る。
しかし彼らは後ろで警戒するウィリアムによって発見、迎撃が行われた。
彼はエンジンノズルの真後ろに居るため、青白く光る粒子状の推進排気に曝される。しかしこれは悪い訳ではない。ミッドチルダ製のバルキリーや今のVF-25は推進剤を完全魔力化している。
これは圧縮した魔力を噴射して反動を得るという効率の悪い推進方式だが、今回は好都合だ。魔導士から見れば圧縮した魔力をわざわざ(予備)チャージせずに受け取れるのだ。
仮にこれが莫大なチャージ時間を要するなのはのスターライトブレイカ-であっても魔力のフィードバックやデバイス冷却を無視すればカートリッジを使わず10秒毎。エクセリオン状態のディバインバスターであれば1秒毎で速射できる。となれば通常の魔力砲撃など理論上常時照射すら可能なのだ。
クラスAAのウィリアムの魔力砲撃は空冷の影響もあってまるで速射砲の如き驚異的連射速度で撃ち出され、敵を残らず叩き落とした。
ライアンは死角を心配せず、前方の敵にだけ集中すればいいためずいぶん気楽だ。
2人はそのまま分散していた敵を追い回して暴れ回る。そして敵が包囲作戦に移ったと見るや敵中真っ只中で即時転送魔法を行使。脱出した。
突然目標を見失ったガジェットは一瞬棒立ちになる。そこに集中するは後ろに控えた本隊の130(演習参加組80人、特別機動隊50人)近い魔力砲撃だ。
〝たくさん飛ぶ蚊も集まって止まってしまえば叩きやすし〟
はやての発案のもと実行されたこの囮作戦は、なのは達オーバーSランクを含め魔導士部隊だけでもバルキリー隊だけでもできない。双方が手を組んで初めて実現出来る作戦だった。
しかし敵は多い。まだまだガジェットはたくさんいた。だが遂に高空より援軍が到着した。
その援軍は青に塗装されたVF-11SGを先頭に編隊を組んでいる。
『こちらフロンティア基地航空隊。上空のゴーストは掃討した。これより援護する!』
放たれる大量のミサイル。
逆落としに迫るミサイルにガジェットは一瞬にして火葬にされた。
この時、初めて防衛側は優勢になった。
(*)
時系列は戻って演習中止直後
地上では旧市街(廃棄都市)のスタジアムから近い「核シェルター」への民間人の誘導と避難が進んでいた。
しかし出現した陸戦型ガジェットがそれを襲わんと市外から迫る。
そこで総合火力演習に参加していた陸士達は民間人の安全を確保しようと奮戦していた。
陸士部隊の中には約3ヶ月前にリニアレール攻防戦で活躍した第256陸士部隊もいた。
その部隊でも同攻防戦でロストロギアを守りきった第1分隊隊長であったロバート・ジョセフ准尉は昇進し、小隊を任されていた。
彼の小隊はガジェットを市街に入れぬよう市外に広がる森林に防衛ラインを設定。踏み止まって迎撃していた。
「ロバート隊長、北東40メートル先よりガジェットⅠ型が8機、Ⅲ型が1機接近中。」
声を潜めた観測班の報告を受けたロバート三等陸尉は、小隊に指示を発する。
「Ⅰ型には89式かMINIMI(ミニミ軽機関銃)で対応しろ。Ⅲ型は俺が吹き飛ばす。いいな?」
彼の部下は
「了解」
と応ずると散開していく。
第97管理外世界のJSSDF(日本国陸上自衛隊)の装備をまるまるバリアジャケット化した彼らの緑に溶け込む迷彩は、日本型の森の色彩に合って更に威力を発揮。すぐにどこへ行ったか見えにくくなった。
続いてロバートは自らの愛銃である89式小銃に指令を発する。
「『エイトナイン』、ランチャーパック装備」
『Alright.』
89式小銃のハンドガード下にM203グレネード・ランチャー(米軍の装備する40mmグレネード弾発射機)の口径を小さくしたものが生成された。
彼は弾帯に付けられたパウチを探ると1発の弾を取り出す。それはベルカ式カートリッジシステムの大容量カートリッジ弾だった。だが少し違う。弾頭の部分に後付けの信管が着いているのだ。
ロバートは信管を遅発に設定し、ランチャーに装填。草に隠れて伏せ撃ちの姿勢になる。彼の突然の出現に驚いたのか蛙がピョコピョコと逃げていく。その逃げていく先に敵を視認した。
同時にこちらへと進撃するガジェットに向かって部下達の銃撃が始まり、にわかに騒がしく動き回る。
頭の悪い〝あいつら〟は、多方向同時攻撃に対して一瞬パニックに陥るのだ。
(まったく馬鹿で助かる。バジュラじゃこうはいかないからな・・・・・・)
彼は以前の職場を思い出す。
マクロスフロンティア船団の新・統合軍『アイランド3・地上防衛隊』に所属していた彼は、第2形態のバジュラの大群が船内で暴れた際に同船で必死に市民を守ろうとした1人だった。
(しかしなんで脱出挺なんかに避難民を誘導しちゃったかな・・・・・・)
彼はそう考えて思考の脱線に気づいた。
ロバートは邪念を振り払って意識を集中する。そして目標を狙うと発射機の引き金を引いた。
ひゅぽんっ
シャンパンの栓を抜いたような音をたてながら、魔力(で発生させた電磁気)によって加速されたカートリッジ弾が発射された。
音はショボいが、その実音速で飛翔するカートリッジ弾は目標であるⅢ型に着弾した。
しかし遅発のためシールドと装甲を破って内部に侵入。そこで強制撃発すると内包する魔力を解放した。
内側から文字通り吹き飛んだⅢ型。そして部下達がⅠ型を撃破したことを確認すると一息入れた。
そして自身のインテリジェントデバイスである愛銃『エイトナイン』に礼をいう。
「いつも補正ありがとな」
『No problem. This is my job.』
「ふっ、生真面目なやつだ」
彼は銃身を擦ると笑いかけた。しかし休憩もそこそこ再び観測班から通信が入った。
「続いてガジェットⅠ型が5、6・・・・・・くそっ!24機!Ⅲ型も7機確認!続々増加中!」
さっきの数程度なら小隊単位で対処できるが、これだけ増えると手に負えない。
「佐藤分隊、吉田分隊、共に後退しろ。ポイントデルタに集合だ。両隣の第4,6小隊にも後退の旨伝えろ」
隊の皆に指示を出すと、自らも伏せ撃ちの姿勢から起き上がり後退する。
バリアジャケットである各種装備(ヘルメットや防弾チョッキ、野戦服)は純正の物より軽く、物理・魔法攻撃に強く、コンパクトにできていた。
そのため例え森林であっても動きに支障はなかった。
(*)
1分後
ポイントデルタ─────つまり旧市街入り口にロバートが到着した時にはすでに小隊全員の集合が完了していた。
周りを見ると両隣だけでなく、森に展開していた第256陸士部隊全ての小隊が後退していた。
しかし幸いなことにどこも戦略的後退で被害はないようだった。
(*)
ロバートの部隊はその後市街入り口にて水際戦をやることになった。
任務はできるだけ時間を稼ぐこと。その間に残りの部隊は後方にトーチカ(防御陣地)を設営する。
幸い入り口付近に木はなく、森から入り口までの間30メートルほどが比較的開けているため間を渡ろうとする移動物の迎撃は容易だ。
また、入り口以外の場所は当時戦時中だったためか鉄条網(100年以上放置されても錆びていないことから〝鉄〟製でないため、この表現が正しいかわからないが・・・・・・)が張り巡らされており、実質的な入り口はこの付近では唯一だった。
部隊は入り口の両隣に建ったビルの2階と道路に展開する。
道路は遮蔽物がなかったので、特殊合金のためか100年経っても原型を保っていた車3台を押してきて横倒しにし、盾代わりとした。
車の背後に隠れたロバートは部下がしっかり展開しているか確認する。
今、彼の小隊の全ての89式小銃にランチャーパック(15mmカートリッジランチャー)が装備されている。
しかしこれらは彼らの魔力によって生成したものではなく、工場で生産されたものだ。
魔法で物を生成するにはインテリジェントデバイス、またはアームドデバイスの補助と、クラスB以上のリンカーコア出力が必要なのだ。
だが大半の隊員は量産された安価なストレージデバイスでクラスCの者が多い。
予算が増えても隊員のリンカーコアの出力が上がるわけではない。昔も今も陸士は空戦魔導士と違って泥臭く、大変な職場だ。そうなると空にいるディーン・ジョンソンのようなポストを狙って本局から来た転職組に代表される優秀な人材は陸士にはならなかった。
しかし昔と違って今はミッドチルダの誇る工業力が彼らを支えていた。
ちなみにロバートの装備するインテリジェントデバイス『エイトナイン』は支給品ではなく、彼が大枚叩(はた)いて買った貴重な代物である。
閑話休題。
小隊は4挺のMINIMIと21挺の89式小銃を保有している。MINIMIは面制圧を得意とするため両ビルに配備され、虎視眈々と待ち受けている。
現在ロバートの小隊は道路に13人、両隣のビルに6人ずつ分散配置されており、上手く立ち回れば撃墜組が到着する20分後(撃墜組は演習空域
の外まで転送されていたため時間が掛かる)まで足止めが効くはずだった。
そしてついに、奴等は姿を現した。
ガジェットⅠ型が数十機、一斉に森から姿を見せたのだ。
「撃ち方始め!」
彼の号令が飛ぶと、MINIMIや89式小銃が一斉に火蓋をきった。
魔法の世界とは思えない〝タタタッ〟という喧しい連発音(これはできうる限り微小な魔力で無理矢理電磁気を産み出しているために発生する音で、〝断じて〟設計者の趣味ではない)。
超音速で飛翔する5.56mm徹甲弾によってガジェットは確実に倒され、骸を中間地点にさらしていく。
銃撃が小康状態になった。
どうやら第1波は重武装、重装甲のⅢ型の姿がない事から斥候部隊だったようだ。
時を置かず、次はⅠ型、Ⅲ型の連合部隊がやってきた。Ⅰ型はともかくⅢ型は通常の徹甲弾ではダメージが少ない。
ここで役立つのが新開発のランチャーパックだ。
ロバート達は待ってましたとばかりにⅢ型にカートリッジ弾を撃ち込む。
一番前にいたⅢ型は他の隊員からも放たれたカートリッジ弾数発を受けて擱座。後続もほとんど同じ運命をたどった。
「圧倒的ではないか我が軍は!」
ロバートの部下である佐藤曹長が高笑いながら言う。確かにこの分なら後方のトーチカはいらないかもしれない。そう思い始めたロバートだったが、
こういう快進撃は長続きしないのが世の常だった。
最終更新:2011年01月13日 01:56