『マクロスなのは』第15話その2
(*)
それは第3波が終わり「さて次だ!」と構えた時だった。
今までのようにⅠ型がなく、Ⅲ型が横一線になって進撃してくる。
それがどうしたと精密照準した時、違いに気づいた。 Ⅲ型は以前ボールとあだ名したように完全な球に近い。しかし、そいつは何かの箱を両側に装備していた。
(なんだありゃあ?)
しかしロバートは躊躇わず発砲。部下達も続いて6体が大破した。
そこで残りの無事だった機体が箱の蓋を展開し、それぞれ数発〝何か〟を発射した。小さなそれは白煙を噴き出しつつ一直線にやってくる。
この光景に彼らはようやくそれが何か理解した。
「た、退避!!」
命令が早いか道路に展開していた部下達は蜘蛛の子を散らすように車のシールドから退避して、より頑丈な建物の陰へと飛び込む。
しかし足がすくんでしまったのか飛来するミサイルを見つめたまま固まってしまった部下の1人が目に入った。
ロバートは反射的に彼へと跳ぶと、押し倒して伏せさせる。
直後に襲う衝撃。そのマイクロミサイルはバルキリー隊のミサイルのように魔力爆発となっていたが、車に残っていた水素燃料に引火して大爆発を起こした。
莫大な熱量によって空気が加熱され、ロバートは自身の上を相当な質量物が通過するのを感じた。
ようやく衝撃が収まる。
耳が『キーン』という不快な耳鳴りを鳴らし、潤滑油が燃える嫌な臭いが鼻をつく。しかしそれこそ生きている証だ。
ロバートは衝撃でクラクラする頭を根性で起こして顔を上げる。
目前には大破した水素自動車が建物に突っ込んでいた。どうやら先ほど感じた質量物とはあれのことらしかった。
続いて爆発地点を振り返る。そこには隕石でも降ったかのようにアスファルトが砕け、クレーターを形成している。その向こうには悠々と進撃してくる敵が見えた。
無事だった両隣の建物から友軍の阻止砲・銃撃が続いていたが、まったく意に介されていないようだった。
防御の正面を無力化されたこちらと敵の新兵器。こうなると戦線の維持は困難だった。
「総員撤退!撤退だ!・・・・・・オイ!こんなとこで寝るな!」
先ほど押し倒した部下に右肩を貸しながら後退しようとする。
彼に外傷はない様子だったが、バリアジャケットの自動遮音設定をしくじったのか片耳が聞こえない様子だった。
「隊長!早く!」
退避していた部下達が遮蔽物から躍り出て遅滞行動(撃っては後退、撃っては後退という戦術機動を繰り返して敵の進攻を遅らせる戦術)をしながら呼び掛けてくる。
そこへ爆音が再び轟く。振り返ってみるとあの両隣のビルから白煙が舞い上がっていた。どうやらミサイル攻撃を受けたようだ。
『こちらAWACS『ホークアイ』。ビルの部隊は転送収容した。道路にいた部隊はそのまま第2次防衛ラインまで遅滞行動を続けよ』
「了解!」
ロバートは通信に応えると、肩を貸していた部下を他の部下に預ける。そしてバリアジャケットのヘルメットからガラス板のような片目型HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を引っ張り出した。
これは全隊員が装備している赤外線暗視装置などの情報端末でAWACS、バルキリー隊が導入したJTIDSに対応している。
本来ずっと着けておくことが望ましいのだが、まだ慣れていない(着けた方の目で照準すると距離感を掴みづらい)ことが常時装備の足かせとなっていた。
装備した右目に友軍の位置や状態、敵の侵攻ぐあいからエイトナインに装填された残弾までさまざまな情報が表示される。
「バノン班は右に見える遮蔽物に隠れてランチャーを曲射射撃しろ。それぞれ3発撃ったら後退だ。藤田班は引き続き負傷者を援護しつつ退避!」
『『了解!』』
出された指示に混乱もなく動いていく。JTIDSのおかげで上空からの視界があるため、それぞれが状況を把握した上で動けるのだ。さらにバルキリー隊がいれば適切な爆撃目標の指示などもっと高度に運用できるのだが、無い物ねだりはできない。
ロバートは指示を終えると振り返ってエイトナインの徹甲弾をフルオート速射。HMDの残弾カウンターが急激に減っていく。そこに再び放たれたミサイルが迫る。
やつらとは20メートル程しか離れていなかったため見る間もなく飛び退くが、後ろからやってきた魔力衝撃波によって吹き飛ばされた。目前に急激に迫る建物の壁。
頭に走馬灯のように過去の光景が過る。なぜか思い出すのがフロンティアに置いてきた恋人のことばかりだったのが印象的だった。
衝撃
体に鈍い痛みが走る。
(痛っつ・・・・・・今度こそ死んだかな・・・・・・)
しかし目が開けた。足も体重を支えている。
(まだ生きてる!?)
考える間もなくその場を退避。瞬間、その場を敵のレーザーが熱した。
そこでようやく自らの魔力残量が減っていることに気付いた。どうやらエイトナインが激突寸前に浮遊魔法をかけて勢いを殺してくれたようだった。
「インテリジェントデバイスにした甲斐があったぜ・・・・・・」
その呟きに腕の中でしっかりと保持する89式小銃がキラリと光った気がした。
前へと向き直ると自分達より先にいるバノン班が遮蔽物からようやくランチャーを発射。それらは自分達の上を通り過ぎ、迫撃砲のように侵攻してくる敵を真上から強襲した。
連続する爆音。
さらに第2、第3射が続く。
「やったか!?」
振り返ったがHMDを介した視界には敵を表す赤いレティクルがズラリと並んで、ほとんどの敵の健在を伝えた。
曲射では敵のシールドを破りきることができなかったようだった。
しかし時間稼ぎには十分だったようで、部隊のほとんどが無事第2次防衛ラインまで撤退した。
だがそれでも全く事態は好転しなかった。
リンカーコアの出力が低い陸士部隊には対抗できる強力な魔力誘導弾を形成する力はなく、圧倒的に不利になった。
言ってみれば弓矢しか使えない相手に大砲を投入するようなもので、射程も威力も段違いなのだ。
また大抵の陸士達のストレージデバイスには容量の問題でレーダーが搭載されていない。おかげでデバイス補正が利かないため、六課のティアナのようにミサイルを撃って迎撃するなど無理な相談だった。
レーザー攻撃しか想定していなかった防衛ラインは次々突破され、上空の制空権が無いためガジェットⅡ型が飛び交う。
第256陸士部隊は多数の負傷者を出しながら後退していった。
そして民間人を誘導した核シェルターまでたった200メートルしか離れていない最終防衛ラインにて、ようやく増援が到着した。
『こちらフロンティア基地航空隊と空戦魔導士部隊。これより貴、部隊を援護する!』
フロンティア基地から急いで飛んできた15機の編隊とそれに続く空戦魔導士部隊。
バルキリー隊は一斉に散開すると、ガジェットⅡ型との交戦に入った。
そして空戦魔導士部隊はヴィータを先頭に少数の部隊を伴って降下してくる。
どうやら空戦魔導士部隊はそれぞれの方面で戦っている陸士部隊ごとに振り分けたようだった。
「やっと来てくれたか!」
最前線を守っていたロバートは安堵するとともに、近くに降りてきたヴィータ達に駆け寄る。
「遅くなってすまねぇな。とりあえず、目の前の奴等をぶっ飛ばせばいいんだな?」
開口一番、ヴィータを知らないロバートはその控えめに言っても若い(正直に言えば幼い)魔導士の強気のセリフに目を白黒させたが、間違っているわけではないので頷いた。
「了解した。おまえたちは陸士達の援護をしてくれ」
彼女はどう見ても年上そうな他の魔導士達に指示を出すと、雄たけびと共に突撃していった。
「ちょ、ちょっと君―――――!」
彼女の実力を知らないロバートは止めようとしたが、逆に魔導士達から止められた。
曰く、
「機嫌が悪いから邪魔しないほうがいい」
とのことだった。
幼い魔導士を突撃させることに戸惑ったロバートだったが、突撃先で展開されている無双を見た彼は考えを改めた。
あれだけ自分達が苦労したⅢ型のミサイルをハエでも落とすように軽々撃破し、Ⅲ型本体をも一撃において吹き飛ばす。
彼女のハンマーが振るわれる度にⅢ型が姿を消していった。その後に残るのは少数のⅢ型とⅠ型のみ。
「それじゃ・・・・・・行きましょうか?」
ロバートは唖然としてその魔導士の声に頷くことしかできなかった。
(*)
ヴィータが蹴散らした後を逆進撃する陸士部隊+魔導士部隊の行程は順調だった。
AMFによってAランク魔導士の魔力砲撃であってもなかなか破れないガジェットⅢ型のシールドはランチャーを直接照準さえできれば陸士達にとっては無いも同然。次々撃破していく。
苦労させられたミサイル攻撃もAランク魔導士の手にかかっては全く脅威になりえなかった。
また所々で敵の強固な抵抗があったが、JTIDSの恩恵に預かるバルキリー隊の空爆とバトロイドによる強烈な肉弾攻撃によって軽々突破していった。
こうして共同歩調をとった管理局部隊は順調に侵攻し、ついに市街からガジェットを一掃した。
同時に上空の戦闘も終わったらしかった。
(*)
演習中止から3時間後
ガジェットは諦めたのか撤退し、民間人の帰宅も管理局の手配したバスによって開始されていた。
しかし大半の部隊が民間人の誘導か警戒配備されている中でロバートの第5小隊は『ポイントデルタ』、つまりさっきの市街入り口まで来ていた。
実は彼の小隊は1人だけ、ここで行方不明を出していた。分隊長の佐藤曹長だ。
爆発からすぐに撤退したが、その時彼だけがいなかったのだ。
JTIDSにも同時刻に死亡ではなくシグナルロストというタグが残っているだけだった。
そのため部隊はまだ見つかっていない彼の捜索に来ていた。
(*)
爆心クレーターに戻ってきたロバートは、まずギリギリまで彼がいた車の後ろを見てみる。
そこにはまるでトマトケチャップを蒔いたような跡が・・・・・・なかった。
「チッ・・・」
どっちが残念なのかわからないような舌打ちをしつつ、次に退避していそうな建物の陰を見る。最有力候補であったそこは大型の瓦礫で埋まっていた。
他も見たがそれらしい形跡はない。つまり彼はこの下らしい。これならシグナルロストも頷ける。ここのロストテクノロジーとなってしまった建築材料は電波のみならずフォールド波の遮断性能に優れており、JTIDSを始めとする機器も建物の中ではほとんど使えなかったのだ。
ともかく合致する事象から行方不明の佐藤曹長は瓦礫の下であることは確実だった。それの暗示することは明白だったが、ロバートは自らの89式小銃を一瞥すると手をメガホンのようにして瓦礫に大声で呼びかける。
「佐藤、君はいい友人だったが、君の父上がいけないのだよ!」
そして芝居がかったように
「ふっふっふ、ハッハッハッ!」
と高笑いし始めた。
突然の隊長の乱心に当惑する部下達だったが、理由はすぐに知れた。
『シャ〇・・・・・・、謀ったな!シ〇ア!』
瓦礫の下から聞こえるくぐもった微かな声。それは紛れもなく佐藤の声だった。
「やっぱり生きてやがったか。このガン〇ムオタクめ!」
ロバート・ジョセフはそう言うと、瓦礫に笑いかけた。
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その後瓦礫を撤去しようと様々な努力がなされたが、それは膨大かつ大きすぎてとても人力では動かせなかった。もちろん砲撃で砕くなどもっての外だ。
「重機を持ってきてもらうしかないかな・・・・・・」
ロバートはそう思ったが、ここは旧市街。到着まで3日はかかるだろう。
(さてどうするか・・・・・・)
思考を巡らせていると、頭上から爆音が聞こえた。
フロンティア基地航空隊のVF-11だ。制空権維持のため、ガウォーク形態で上空警護をしてくれているのだ。
そこで彼の頭の電球的なものが灯った。
(バルキリーの馬力があればあの瓦礫ぐらい退けられるじゃないか!)
さっそく通信を送ってみると、
『要救助者ですね?了解、今行きます!』
と快く了承してくれた。
戻ってきた翼に射手座のマークを着けたVF-11Gはガウォークでゆっくり降りてくると静かに着地する。そしてキャノピーを開けたかと思えばパイロットが降りて来た。
EXギアをしているからわかるその小柄で華奢なボディライン。バルキリーのパイロットは女性らしかった。
「要救助者はここでしょうか?」
彼女はヘルメットを取ってこちらに問うた。
意志の強そうなパッチリとした瞳が特徴的な、まだ16歳ほどの少女だった。胸の名札には「Sakura Kudou」とある。
この歳でバルキリーのパイロットになれるということはよほど優秀らしい。マクロスフロンティア船団、新・統合軍のバルキリーパイロットの倍率が平時で20倍ということはザラにあった。
しかしロバートのその考えは勘ぐりすぎだった。実はただバルキリーが戦力になるか未知数で適応力の高い若者が起用されただけだったからだ。
「そうだ。要請に応じてくれてありがとう」
彼は礼を言うとそこへ案内する。
「ここにうちの部下が下敷きになって立ち往生しているんだ。バルキリーでどかしてもらえないか?」
彼はその瓦礫─────5メートルを優に越えるコンクリートの塊の下を指差す。彼女はその慘場を見て痛々しい顔をした。
「ああ・・・・・・わかりました。救護班・・・・・・とか一応呼んだほうがいいですね。いろいろ〝確認〟とかあるでしょうから・・・・・・」
そう言ってバルキリーに戻ろうとする勘違いした少女を、ロバートは慌てて呼び止めた。
「あぁっ、クドウ三尉、大丈夫なんだよ。アイツは下敷きだけど、ぴんぴんしてるから」
「はい? でも・・・・・・」
彼女は見上げる。そのコンクリート塊の出どころは5メートル上のビルの外壁だった。
確かにあんな高さからあんな物が降ってくれば、即死を想像するのも無理はなかった。
「まぁ、持ち上げてもらえばすぐにわかるよ」
彼女は終始首をひねっていたが、そうしていても仕方ないと思ったのかバルキリーに乗り込んでいった。
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コックピットにEXギアが接続され、機体の一部となる。
さくらは深呼吸すると左手に握ったスラストレバーをさらに45度立てて倒立させる。するとVF-11Gはガウォークからバトロイドに可変。重く長すぎるライフルを地面に置く。
そして彼女はスピーカーで注意を呼び掛けると、下の陸士達を踏まぬよう細心の注意を払いながら現場に向かう。
バトロイド視点は普段の人としての視点より約10倍もの高さにある。そのためさくらは昔読んだ「ガリバー」というどこかの次元世界にある童話の主人公になったみたいで、この形態が好きだった。
そうして彼女はどけるべき塊を前にすると、マニピュレーターを精密作業用の設定に変更する。そしてかがむと手を伸ばした。
EXギアシステムの恩恵から、これらの制御は操縦者の動きをトレースして行われる。そのためガウォーク・バトロイド形態は比較的すぐに慣れることができるようになっていた。
VF-11は自身の拳よりはるかに大きなそのコンクリート塊を両手でゆっくり持ち上げ、横に下ろした。
他にも大きな瓦礫が取り除かれ、後は比較的小さな瓦礫のみとなったため陸士達が引き継ぐ。
そして〝それ〟が現れた。
「・・・・・・いったい、何なの?」
コックピット内から見守っていたさくらは、その異様な物体に唖然とする。そこには円筒形をした〝風船〟があったのだ。
レーダーに連動したIFF(敵味方識別装置)とJTIDSはそれを陸士部隊の佐藤曹長と認識している。
刹那それは周囲の安全を確認したのか破裂し、中からヒトが出てきた。
彼は体の各部を確認すると
「う~ん!」
と、大きく伸びをした。
その後彼は無事を喜び合う同僚達にどつかれたりしていたが、確かに元気なようだった。
「・・・・・どうなってるの?」
バルキリーは無駄にさくらの動きをトレースし、首をひねった。
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あとで聞いた話である。
陸士部隊は装備改変計画で、第97管理外世界のJSSDF(日本国陸上自衛隊)の装備を参考とした。
その後彼らはオーバーテクノロジーなどを用いた通常持たせられない機能を多数アップデートしていったのだ。
その1つがこの対衝撃・対爆・対圧・耐弾用のこの機能だった。
これは緊急時使用者が通常小さな金具を引っ張ることによって作動し、作動後0.5秒で最大に膨らむ。
そして一度膨らんでしまえば使用者は最大瞬間圧力100トンに耐えられ、簡単な生命維持装置も備える。そして必要なら光学迷彩もオプションで着ける事のできる究極の籠城装備だった。
どうもあの佐藤曹長はロバートという隊長と一緒にインテリジェントデバイスへと換装していたそうで、その決断があの絶望的状況から彼を救ったらしい。
陸士の新型バリアジャケットにはこのような〝びっくりドッキリ機能〟がまだまだあるが、それはまたの機会に記述しよう。
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その後順調に民間人の帰宅は進み、ほどなく完了。技研の調査隊が現場検証する中、各部隊も別れを惜しみつつそれぞれの基地に帰還した。
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「―――――それで、なんでわざわざ管理局の展開している地域にガジェットを送ったの?」
グレイスが男に問う。
ここはクラナガン郊外の秘密地下基地だ。彼女は男―――――スカリエッティのやり方を理解しているつもりだったが、今回は常軌を逸していた。
管理局に打撃を与えるためならば撤退があっさり過ぎるし、レリック等の回収なら演習が終わった後にゆっくり取りに行けばいいはずだ。しかし彼は飄々とした様子で答えた。
「いやぁ、魔導士とバルキリーの連携した時の実力を見てみたかったんでね~」
そんなことのために陸戦型ガジェット500機、ガジェットⅡ型300機、QF-2200「ゴースト」を70機も費やしたらしい。
しかし、所詮は機械。今スカリエッティは最新の工業ラインによってこれらを量産。今消費したのは4割に過ぎなかった。
〝ゲート〟と〝時空差〟の関係上マクロスギャラクシーの工業ラインは使えないが、持ち込んだ小規模の移動式工場があった。
その工場では今もガジェットドローンとゴーストの量産が進んでいる。
ミッドチルダの工業技術などゼントラーディの自動生産工場を参考にオーバーテクノロジーをふんだんに利用したこの工場の技術に比べれば、工場制手工業とオートメーション工場程の違いがあった。そのため、これでも十分と言えた。
また彼は、無人兵器を主戦力としては期待していないようだった。
「・・・・・・でも嬉しそうね。どうして?管理局が強くなるのがそんなに面白い?」
「ああ、ようやく管理局も〝目が覚めてきた〟と思うとね。・・・・・・これまでの苦労がようやく報われそうだよ」
そのセリフを吐くスカリエッティの顔からは狂気が去り、どこか人間らしさが漂っていた。
「そう・・・・・・ところで面白そうな情報があるの。興味あるかしら?」
グレイスの誘いにスカリエッティは乗ってくる。
「・・・・・・ほう、どんな?」
「これよ」
彼女はホロディスプレイを展開すると、インプラントの視覚情報を送る。
そこに写し出されたのは第25未確認世界の地球を回る人工衛星からの映像だった。しかしタイムラインは2040年のものだ。
そこでは空中戦が行われている。片や前進翼が特徴的なベージュの機体と深い青に塗装された機体。そしてもう片方は2機に比べて一回り小さい赤色の機体だ。
赤色の機体はその機動性に物を言わせて2機を翻弄する。しかし結局青い機体と刺し違えて撃墜された。
「これはあるシステムが暴走して、私たちの世界を恐怖に突き落とした時の記録よ」
グレイスはそのシステムが現在最新のゴーストのAIとして動作していること等を説明する。
「それがわたしとどんな関係があるのかね?」
「私達はあなたの裏切りを恐れてそのシステムをあなたには渡さない方針だった。でも、〝どういう訳か〟この世界の密輸業者の手に渡ってしまったの。それは1週間後にあるホテルで密売されるらしいわ。それで、あなたはどうする?」
グレイスの問いに暫し沈黙していたスカリエッティだったが、突然笑い出した。
「ククク、いいねぇ、実に面白い!もちろん貰いに行こう。さァ、オーバーテクノロジーを使ったAI、どんなものか楽しみだ!」
そして彼は
「では、ごきげんよう」
と言って奥の部屋に消えた。そこは彼の本命の研究であり、主戦力として期待する〝戦闘機人〟製造の機材が一切合財入っている。
グレイスも見たがインプラント技術の進んだ彼女から見れば幼稚なものだった。わざわざ胎児の段階から改造を始めなければいけないとは・・・・・・
しかしグレイスはそんなスカリエッティを買っていた。
科学の万能を信じ、それを実施できる能力を持った彼はありし日の自らそのものだった。
それに今の彼にはランシェやマオのような邪魔者はいない。そこで邪魔者がいなかった場合の自分を彼と重ねているのだろう。
(情に絆(ほだ)されたものね・・・・・・)
本来銀河中に広がるこの計画の幹部達の許可が必要な技術供与だが、今回はグレイスの独断だった。
「さて、どう出るかしら。ミッドチルダの皆さん」
グレイスは誰に言うでもなく呟いた。
次回予告
対決が過ぎて彼らは・・・・・・
次回マクロスなのは第16話『大宴会 前編』
イベントの歌、銀河に響け!
最終更新:2011年02月07日 17:52