『マクロスなのは』第20話「過去」
オークションが終わって隊長陣の警備任務が解けた頃、地上部隊の技研の調査隊がすでにガジェットの破片の調査を開始していた。
「・・・・・・えっと、報告は以上かな?現場の調査は技研の調査隊がやってくれてるけど、みんなも協力してあげてね。あとしばらく待機して何もないようなら撤退だから」
普段の動きやすい青白の教導官の制服に戻ったなのはが、フォワードの4人を前に告げる。
ティアナ達は返事をすると、きびきびと陸士部隊の土嚢の撤去や調査隊の手伝いに散っていった。
(*)
ホテル内の喫茶店
そこには警備を終えて一息入れているフェイトとはやて、そしてオークションが終了して手持ち無沙汰になったユーノが仲良く談笑していた。しかし、そこで少し寂しい話題が提供された。
「そう・・・・・・ジュエルシードが・・・・・・」
「うん。局の保管庫から地方の施設に貸し出されてて、そこで盗まれちゃったみたい」
「そっか・・・・・・」
寂しそうな顔をするユーノ。仕方ないだろう。彼がその災悪の根源であるジュエルシードを掘り出した張本人なのだから。
「まぁ、もちろん次元の海は本局が目を光らせているし、地上も私たち六課が追っていく。だから必ず見つかるよ」
「・・・・・・うん。ありがとう」
そこに、この話題には沈黙を決め込んでいたはやてが話に介入してきた。
「・・・・・・実はまだ非公開なんやけどな、この前ガジェットについての報告書が回ってきたんや」
元々物理メディアだったらしい。ホロディスプレイに表示される報告書の表紙。提供は地上部隊・技術開発研究所。しかし表紙には『SECRET(シークレット)』の印が押されている。
「・・・・・・これって僕が見てもいいのかな?」
ユーノが戸惑いながらはやてに聞く。SECRET(機密)の印が押されている書類は規定では管理局の佐官以上でなければ閲覧すらできない。
フェイトですら一等海尉なのに、管理局員でもない民間人に見せていいものではないはずだった。
「大丈夫や、問題あらへん。どうせもうすぐ公開される。・・・・・・でや、まずこの動力機関なんやけど、どうやら簡易化されたジュエルシードみたいなんや」
「「!!」」
「どうやら泥棒さんはジュエルシードの簡易量産に成功したみたいやな」
ホロディスプレイに映し出されているバッテリーに相当する部分の中枢は、ジュエルシードに間違いなかった。
「でも悲観することはあらへん。これと同時にガジェットの製作者も判明した。それが現在、違法研究で広域指名手配されているこの男─────」
ホロディスプレイの画像が切り替わる。瞬間、フェイトの顔色が変わった。
「スカリエッティ!?」
「ん?フェイトは知ってるの?」
ユーノが問う。
「うん。なのはが次元航行部隊、機動課(ロストロギア探索を主な任務にする部隊)に協力していた5年前に。その時、なのはとヴィータ、それと私で彼の秘密基地を強襲したの─────
──────────
フェイトは何十体目になるだろう魔導兵器をバルディシュで一閃のもとに葬ると、周囲を見渡す。
周りには太古の遺跡があり、岩でできた建造物が朽ちている。
またすでに魔導兵器の大半は撃破されて、雪の積もる大地に遺跡同様構成部品をさらしていた。
「ヴィータちゃん!」
「おうよ!」
「「これでラストォォ!!」」
上空からのヴィータの魔力球が敵を囲むように着弾。追い詰められて集まった敵を、続くなのはの砲撃で全て葬った。
「ナイスショット。2人とも!」
フェイトの掛け声に、なのはとヴィータはハイタッチした。
(*)
「さて、ここが入り口だね」
フェイトの撫でたその扉は鋼鉄製で、なのはの砲撃でもなかなか破れそうにない程に頑丈だった。
しかし押しても引いてもダメ。無論スライドさせることもできず、開けられなかった。当然だが鍵がかかっているようだ。
「『鍵開け』するから、2人は周りの警戒をお願い」
「うん、お願いね。フェイトちゃん」
「周りは任せときな」
ヴィータとなのははそれぞれ別方向に飛んでいった。フェイトはそれを見送ると高ランク魔法である『鍵開け』を実行する。
この魔法は電子ロックから物理的な鍵までほぼすべての鍵に有効だが、時間がかかるのが難点だった。
フェイトが動けないそんな時、それは起こった。
「なのは!後ろ!」
「え・・・・・・!?」
ヴィータの警告に振り返るなのは。彼女はその半透明の何かを見切ると間一髪で回避。空に退避する。
そしてそれはヴィータの放った鉄球によって大破、沈黙した。
しかし姿を晒したそれが足の付いた地上型だったことや、それが撃破された安心感でなのはは1つの可能性を見逃していた。
『地上型がいるなら、理論上より簡単に姿を消せる航空型がいるかもしれない』と言うことを。
寸前で気づいたなのはは、優秀の一言に尽きる。そして普通の状態であれば問題なく回避できたはずの攻撃。しかし溜まった疲労は彼女の回避行動を寸秒遅らせた。
「「なのはぁぁぁ!!」」
フェイトは確かに見た。空に浮かぶなのはの、小さな体を貫く刃を。
彼女の赤い鮮血によって目視出来るようになった鋭い刃はまるで悪意の塊が友人の体から〝生えた〟ように見えた。
それは人間ならば絶対傷ついてはならない器官の納まっている胸の真ん中から生えていた。
次の瞬間には彼女の体は5メートルほど落下。その衝撃は雪が受け止めるが、ドクドクと怖いほど流れ出る鮮血が雪を染めた。
力なく横たわる大親友の姿と半泣き顔になって彼女に駆け寄るヴィータの姿がぼやけていく。
目の前の光景に現実感が失せていき、いつの間にか視界はブラックアウトしていた。
──────────
「そんなことがあったんだ・・・・・・」
ユーノが呟く。
この案件は『TOP SECRET(最高機密)』とされていて、彼女の経歴を見てもその事実は確認できず、半年近い入院期間は『持病の悪化に伴う病養』となっている。
そのため家族など極めて親しい者しかこの事実を知らなかった。
だがここで1つ疑問が浮かぶ。
『なぜたった1人の撃墜をそうまでして隠さねばならないか?』という疑問が。
実はすでに流星の如く突然現れ『エース・オブ・エース』という二つ名で呼ばれていたなのはは世間一般に知られ、ヒーローとして祭り上げられていた。
事実それだけの実績もあったし、実力もあった。クラスSのリンカーコアを有しているいわゆる超キャリア組でも、たった14歳で一等空尉に登り詰めるのは容易ではない。
その頃のフェイトやはやてですら、両名とも地上部隊で三尉相当の階級であったことが比較としては適当だろう。(しかし断じて2人が無能な訳ではない。フェイトの所属する本局は事件が少なく、1発が大きい。はやては上級士官を目指し、ミッドチルダ防衛アカデミーの学徒となっていたためだ)
そんな出世街道まっしぐらで国民的人気を誇る彼女が撃墜され、瀕死の重傷を負ったのだ。
それがどんな理由であれ公表されれば、管理局全体の士気と信用に関わる。こうなると管理局としては隠さざるをえなかった。
「そう。なのはは今でこそ元気に振る舞ってるけど、一時は「二度と歩けないんじゃないか」って言われて・・・・・・」
俯くフェイト。その背中からは、なのはを撃墜したスカリエッティに対する負のオーラが立ち昇っていた。
「それにあいつは母さんの─────プレシア母さんの研究を続けているらしくて、それがわたしには許せないんだ」
フェイトの母であるプレシア・テスタロッサは、かつては管理局の大魔導士として日夜研究を続けていた。
しかしある日、彼女の実の娘であるアリシアを事故で亡くしてしまった。そこで悲しみに暮れた彼女が手を出したのが禁忌の技術として知られる全身のクローン技術と人造魔導士技術だった。
こうして誕生したアリシアのクローン、それが彼女『フェイト』だ。しかし結局プレシアには受け入れてもらえず、とても悲しい思いをしていた。
「・・・・・・まぁ、とりあえずガジェットの製作者はそのスカリエッティや。ゴーストは第25未確認世界の元の設計から反応エンジンを主機に据えた独自のものらしい。「使われてるオーバーテクノロジーと設計が管理局から漏れたのか?」って揉めてるみたいやけど、当面六課はスカリエッティの線で追っていく。だからユーノくんは無限書庫で関連しそうな情報を調べて欲しいんや」
(そうか。わざわざ機密を聞かせたのはそういうことか)
ユーノは納得すると、その依頼を引き受けた。そこに1人の女性が喫茶店の入り口に現れた。
「あ、なのは・・・・・・」
「久しぶりぃ~ユーノくん、元気だった?」
その笑顔に一点の曇りなく、さっきのフェイトの話が嘘だ。という錯覚をおぼえた。
「あ、なのは丁度よかった。これから交代しに行こうと思ってたところなんだけど、交代できる?」
「うん。フォワードの4人は調査隊と陸士さん達の手伝いに行ってるから見てきてあげて」
「わかった。はやても行こう」
「了解や。じゃあお2人さん、〝ごゆっくり〟ぃ〜」
はやてはそう意味ありげに言って外に出ていった。
(はやてここでそのセリフじゃ気まずいよ~!)
こころの中で涙声になってしまう。
2人っきりの現状でそのセリフを吐かれては、どうしても彼女を意識してしまうではないか!
それについさっきまでその彼女の話をしていたのだ
そうでなくとも相手は意中の女性であるというのに・・・・・・
その想いを本人はともかく、周囲に隠し果せているつもりの青年は
「いってらっしゃ~い」
と見送るなのはに視線を向ける。―――――と同時に彼女が振り返った。
「本当に久しぶりだね!ユーノくん!」
「う、うん・・・・・・」
(ダメだ!まともに顔見られない~!)
しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。相手がいつも通り接して来てくれている以上、こちらもそれに応えなくては嘘だ。
ユーノは何とか自分に言い聞かせながら顔を上げる。
するとどうだろう?なのはもこちらの事を直視しているなどということはなかった
彼女は少し視線を逸らしつつ、頬を赤らめて口を開く。
「えっと・・・・・・今日は偶然、なのかな?」
(か、可愛い・・・・・・)
ユーノはそんな幼なじみの仕草に無意識のうちに胸を高鳴らせていた。だがお互いに意識し合っていたらしいことがわかって反対に落ち着くことができた。
「うん。そうだと思う。聖王教会の騎士カリムからの直々の依頼でね」
カリムによれば、どうやらはやてが
「考古学者さんを探しているんだけど、いい人紹介してくれない?」
というカリムに自分を紹介したらしかった。
「それにオークションの鑑定も本命の1つなんだけど、騎士カリムはこの玉の調査を「どうしても」ってお願いされたんだ」
ユーノの手にはさっきフェイトが落下から救った紫色の水晶が乗せられていた。
(*)
所変わってはやてとフェイトの2人は出入り口の玄関で2人の人物と鉢合わせしていた。
「お、アルトくんにさくらちゃんやないか」
「よぉ。やっと見つけたぜ」
「なんや? 探しとったんか?」
はやての問いに、さくらが答える。
「はい。ちょっと今回の敵がどうも妙だったので、そちらはどうだったのかな?と思いまして」
「そっか・・・・・・実はこっちも妙な報告が上がって来ててな。立ち話もなんやし、もっかい喫茶店に行こうか。フェイトちゃんは外の方をよろしく」
ことの成り行きに戸惑うフェイト。なぜなら今あそこは─────
「・・・・・・それはいいんだけど、今喫茶店に行くのはちょっと・・・・・・」
「あ、そうや。なのはちゃんが─────」
「お、なのはもいるのか。丁度いい。頼みたいことがあったんだ」
スタスタ・・・・・・
喫茶店に向かって歩いていく2人。それを見たはやては人生でそうない大ポカをしたことを悟った。
5日前にカリムにユーノを紹介したのも実は伏線だった。
カリムにその日
「ある〝物品〟の調査ができそうな人と、ホテル『アグスタ』のオークションで鑑定してくれる人を探しているのだけど、いい人知らない?」
と問われたはやては、迷わずユーノの名を出していた。
能力面になんの問題もなかったし、なにより都合がよかった。ユーノはなのはの撃墜事件以降お互い顔を合わせた事がない。
それはなのはが
「こんな姿を(彼に)見せて心配させたくない」
と言ったことにある。
またユーノも、以前地上本部ビルで偶然会った時、仕事の都合でなのはと全く会えないと嘆いていた。
そこではやてはお節介かもしれないがこんな方法をとったのだった。しかし─────
(どないしよう!?2人をくっ付けるなんて簡単やと思っとったのに!)
そう、このままアルト達が行けばせっかくの2人きりの雰囲気が台無しになる。
はやての頭はフルドライブ。脳内緊急国会を召集、急いで審議が始まった。
第1案、今すぐ呼び止める。
しかし野党の
「何か言い訳はあるのか?」
という反論と牛歩戦術によってタイムオーバー。廃案。
第2案、なのは達を通信で呼び出す。
衆議(直感)院は通過。しかし有識者(理性)会である参議院が
「それでは本末転倒ではないか!」
という理由で否決。衆議院での再可決は見送られ廃案。
第3案、本当のことを話す。
内閣は衆議院解散(思考停止)を盾にごり押し、参議院を通過させる。しかし肝心の衆議院の大多数が
「なんか嫌な予感がする・・・・・・」
と独特の理由で難色を示し、否決。廃案となった。
それによって脳内人格八神はやて内閣総理大臣は伝家の宝刀を行使。衆議院を解散した。
こうして思考停止に陥った〝はやて〟は、『これだから人間は何にも決まらんのや!』と自らの脳内人格(政治家)達を批判する。そして─────
(ええい!もう、なるようになれ!)
彼女はついに最終手段である神頼みに入った。
(どうかお願いします。神様、仏様、夜神月様─────あれ?)
しかし天はご都合主義(クリスマスも祝うし、正月には神社・お寺に参拝に行くため)で基本的に無信教の彼女を見捨てていなかったようだ。
なんとアルト達が乗ろうとしていたエレベーターになのはとユーノの2人が乗っていたのだ。
「あれ?どうしたんだ?喫茶店にいるんじゃなかったのか?」
「ああ、うん。そうなんだけど人がいっぱい来ちゃって、席が足りないみたいだったから出てきたの」
なのはのセリフを聞いた時、はやては神の存在を信じたという。
自分達が席を離れた時、まだ客は自分達しかいなかった。でなければ、公衆の場で堂々と機密情報の漏洩などやれるはずがない。当に神のみわざといえるピンポイントさだった。
「そうですか・・・・・・どうしましょうアルト隊長?機密もありますし、ここはまずいと思いますが・・・・・・」
「う~ん・・・・・・」
頭をもたげるアルト。胸をなでおろしていたはやては彼らに他の場所を提案した。
「じゃあヴァイスくんのヘリに行こう。あそこなら機密も保てるし、この人数でも十分や」
この案は即採用され、新人たちの所へ行くフェイト以外はヘリに向かった。
(*)
「―――――で、お前は誰なんだ?」
ヘリに入るとアルトは単刀直入にユーノに問うた。
「彼はユーノくん。私達の幼なじみで、管理局の情報庫である無限書庫の司書長をしてるの」
「なるほど。俺はフロンティア基地航空隊の早乙女アルトだ。ついこの前まで六課で世話になってたんだが、異動になってな。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。・・・・・・ところでそちらの方は?」
ユーノがフロンティア基地航空隊のフライトジャケットを着た黒髪の少女を示す。
「彼女は俺の小隊の2番機を務める工藤さくら三尉だ」
「はじめまして、真宮寺・・・・・・いえ!工藤さくらです」
なぜかは知らないが彼女がいつも使う偽名を名乗ろうとしたが、アルトが先に紹介してしまったことに気づいたのか軌道修正した。
一方ユーノはなぜか『なるほど』という顔になった。
「はじめまして。やはりあなたがあの〝工藤家〟の当主になられたさくらさんですね。騎士カリムからお話は伺っております」
ユーノがおずおずと頭を下げる。
「そんな、頭をお上げになってください。あたしそんなたいそうな者ではありません。ただ工藤家に生まれてきただけの小娘ですよ」
(工藤家?あいつの家そんなに有名なのか?)
しかし周りを見ると六課のみんなも知っていたようだった。
そこでよく知っていそうなはやてに念話を送る。
『(すまん。水をさすようだが、工藤家ってなんだ?)』
『(・・・・・・なんや知らんかったんかいな。通りでさくらちゃんを普通に使ってると思った)』
すると彼女は懇切丁寧に説明してくれた。
工藤家とは100年前のミッドチルダ、ベルカ間の全面戦争を終わらせた者の末裔らしい。
元々聖王教会とはその彼らが作ったもので、伝承によれば今では主神として祭られている聖王の力を借りて戦争を終わらせた。
聖王は当時の核兵器や衛星軌道兵器、ベルカ側陣営による隕石の落下すら無力化し、この地に平和を呼び込んだという。
映像や写真すら残っていないが、小学校の教科書にすら載っているこの実績ある神を崇める者も少なくない。そのため聖王を使役した工藤家は代々神との対話役として大切にされていた。
そして工藤家は管理局の魔導士になることが伝統とされており、彼女をバルキリー隊へ推薦をしたのは聖王教会らしい。
さくらはこの工藤家の末裔で、両親が早くに事故で死んでしまっていた。
そのため聖王教会に所属する騎士カリムは工藤家最後の1人になってしまった彼女の身を案じているという寸法だったらしい。
また、あの偽名も工藤家という事を隠したかったのだろう。との事だった。
(育ちがいいとは思っていたが、まさか本物のお嬢様とはな・・・・・・)
アルトは彼女のトレードマークである大きな赤いリボンで結わえた麗しい黒髪を見た。するとそれが右に流れていき、さっきまであった場所が少し赤く染まった肌色に変わった。彼女が振り返ったのだ。
「・・・・・・どうしました?」
「いや、なんでもない。それでな、はやて、こっちではゴーストの連中と交戦に入ったんだがいつもより動きが良かったんだ。ここまでは聞いてるか?」
「うん、シャマルから報告は受けとるよ。なんでも賢くなったとか」
「そうだ。それでうちの3番機が早まって特攻しやがった。そしたら奴らどう対応したと思う?」
アルトの問いかけになのはが
「普通に考えたら迎撃だと思うけど、違ったの?」
と問い返す。
「違うんだよ。アイツらギリギリまで逃げて、激突寸前に自爆しやがったんだ。お陰でバカなまねした3番機は無事だったんだが、どうも解せねぇ」
「なるほど・・・・・・」
はやては腕組みしながら自らの考えを更に補強した。
今回ガジェット達を操作した召喚士は、本気で人死(ひとじ)にが出ることを恐れているらしい。
でなければ無人機とはいえ〝タダ〟ではないはずだ。トチ狂った敵のために自爆など、そうそうできることではない。
「聞いた話によればそっちも何かあったみたいだが、何があったんだ?」
アルトの問いに、はやてはガジェットの非殺傷設定と戦闘員への選択的攻撃について話す。
「─────と、こういう訳で陸士部隊の被害が少ないのや」
はやてはヘリの窓から近くに設営されている野戦病院を指さす。
確かにそこにいる陸士達はいずれも軽傷で、陸士部隊の救急搬送用のドクターヘリも駐機したまま、飛び立つ様子はなかった。
「でもおかしいよ。目的がわからない。こっちの被害がないんじゃ『本気を出せばこんなんなんだ!』って言いたい訳じゃなさそうだし・・・・・・」
ユーノの言に、なのはも
「そうだよね・・・・・・」
と同意する。
「やっぱり、シグナムが言っとった車上あらしが怪しいんかな・・・・・・」
はやての呟きに視線が集まる。
「どんな車上あらしだったの?」
「うん、実はな、人間じゃなくて召喚獣や使い魔らしいんや」
はやてはシグナムからの報告を全て話した。手法から撤退まで。ちなみにトラック自体は盗難車であることがわかっていた。
「この流れで行くとその召喚獣が本命っぽいね」
「でも、何を盗んだのかわからないのが困りますね」
「「う~ん・・・・・・」」
一同頭を捻るが、そこまでだ。
ホテル側やシャマルとシグナム、そしてAWACSに聞いてもそれ以上の情報はなかった。
こうなると、今後は調査隊の報告を待つしかなさそうだった。
(*)
「ところでアルトくん、なんかなのはちゃんに頼みごとがあったんやなかったか?」
「え? アルトくんどうしたの?」
考え込んでいたなのはがアルトに向き直る。
「ああ。それなんだがな、さくらがお前のところで1週間でいいから戦技教導してくれって言うんだ」
えっ!?となるなのはにさくらが畳み掛ける。
「お願いします!今日アルト隊長や天城さん─────僚機を守りきれなくて・・・・・・あたし、もっと強くなりたいんです!やる気はありますから、どうかお願いします!」
深々と頭を下げるさくらになのはは困った顔をした。
「え~、う~ん・・・・・・アルトくんやミシェル君には教えてもらえないの?」
「いえ、アルト隊長にもミシェル隊長にもよくしてもらっています。・・・・・・ただミシェル隊長は長距離スナイピングしか教えてくれないし、アルト隊長も主戦術が高速機動による撹乱と誘導弾との連携攻撃なので、あたしの特性に合わないんです。・・・・・・あっ、アルト隊長、全く役に立たないなんて言ってませんからね!」
あたふたしながら否定するさくらに、アルトは
「仕方ないさ。人それぞれの特性があるんだから」
と流した。
「そっか・・・・・・でも私はうちの新人達の面倒を見てあげなきゃいけないからなぁ・・・・・・さくらちゃんは何がやりたいの?」
「近・中距離での機動砲撃戦です。今日の戦いで、長距離からの援護狙撃という戦術に限界を感じたんです」
長距離からの狙撃にはどうしてもタイムラグが出てしまう。そこがスナイパーの腕の見せどころだったりするが、彼女には今が限界だった。
さくらの言った戦術はなのはの十八番とも言える戦術で、彼女が魔法を手にしてから10年間磨いてきた戦術機動だった。
「だったら1週間、なんて中途半端な期間はダメだね。さくらちゃん、3週間でも頑張れるかな?」
「はい!もちろんです!!」
さくらが嬉々として応える。なのはは頷くと、人指し指と中指を立てていわゆる〝ピース〟の動作をすると続ける。
「でも条件が2つ。まず1つ目に、アルトくんがさくらちゃんの面倒をみてあげること。わたし、魔導士としてのスキルしか教えられないから、それをバルキリー用に転換してあげないと」
アルトは仕方ないな。と肩をすくめる。
「2つ目に、どうしてもうちの新人の教導がメインになっちゃうから、教導は早朝と夕方ぐらいしかできないんだけど、それでもいい?」
「はい、構いません!お願いします!」
「うん、いい返事。明日の早朝には始めたいから、部隊に帰ったら荷物をまとめて、アルトくんと一緒においで」
「はい!ありがとうございます!」
さくらは最敬礼して言った。
これが地獄への入り口であった。
To be continue・・・・・・
――――――――――
次回予告
試験駐屯を名目に機動六課に派遣されるサジタリウス小隊
しかし開始されたさくらの教導はあまりに―――――
次回マクロスなのは第21話「サジタリウス小隊の出張」
『なのはさんが、あんな人だったなんて・・・・・・』
――――――――――
最終更新:2011年05月20日 02:57