『マクロスなのは』第19話「ホテルアグスタ攻防戦 後編」


シグナムが敵を発見した頃、地上の戦線に変化が起こっていた。
突然北西5キロの位置に巨大な魔力反応があったかと思えば魔法が行使され(この時の魔法はキャロの報告により召喚魔法と判明している)、同時にガジェット達の動きが変わった。
いままで陸空でガジェットが展開していても共同で組織的に何かをすることはなかったのだが、彼らは突然連携を始めたのだ。
陸戦型の進攻を阻止している陸士にⅡ型が上空からレーザーによって空襲。たまらず塹壕から飛び出した陸士に陸戦型がレーザーを集中射する。
結果、戦線は一気に総崩れになった。

「後退!六課のラインまで後退するんだ!!」

森の中に命令という名の怒声が響き渡る。しかしその声は敵の攻撃と友軍の砲火の前にすぐかき消される。もちろん各人を無線という通信回線で繋いでおりその意図は全体にすぐに伝わるが、激しい空襲と陸戦型の追撃を前になかなかうまくいかなかった。
MINIMI(軽機関銃)が放つフルオートの発砲音を轟かせながら陸士部隊の1個分隊が後退していく。
後退の援護は2人1組で構成され、片方が後退する時はもう片方が敵へと援護射撃して頭を押さえる。MINIMIに代表される分隊支援火器の登場で分隊でも容易になったこの戦術機動だが、今回の敵は手強すぎた。
後退を援護していた片方が、被弾を恐れず突入してきたⅢ型のレーザー攻撃を足に受けて転んでしまったのだ。援護射撃が止み、後退中の相方が無防備となる。

「この野郎!」

一部始終を目撃していたロバートは振り返りざまにそのガジェットⅢ型を照準すると、装填されていたカートリッジ弾を撃ち込む。だがその1発はすんでのところで〝回避〟された。

「チッ!」

ロバートは銃のセレクタレバーをフルオートにすると、トリガーを引き絞った。
レールガン方式を採用したため、この銃に薬莢はない(廃莢口は適正によってベルカ式カートリッジシステムを着けることができるよう、残されている)。そのためマガジンは純正89式小銃の約2倍の装弾数(66+1発)を誇り、まだ半分程残っているはずだ。
最初の5、6発が敵の滑るような機動で回避されたが、後退中だったあの相方が援護して十字砲火を形成。その後は命中し、途中で完全に沈黙した。

「くそ!動きまで良くなりやがった!」

吐き捨てると足を撃たれた部下に肩を貸し、すぐに後退する。
だがあることに気づいた。
その部下は足に命中弾を浴びたはずなのに外傷がなかったのだ。

「負傷者の搬送はお任せください」

「頼む!」

駆け寄ってきた隊員の左腕に赤十字の腕章を認めると、彼を託して後退援護の射撃を後方に放つ。
相方の退避を確認。即座に銃撃を止めて遮蔽物から出て後退する。その間は阿吽の呼吸で相方の援護射撃が放たれた。
しかし小隊長である自分がいつまでもこうしてはいれない。後退しながらHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を一瞥して増援として近くにいた1人を呼び寄せた。
その間に頭に引っ掛かっていた事象を確認するためJTIDS(統合戦術情報分配システム)に届く負傷者情報を呼び寄せてみると、やはり誰1人出血を伴った負傷者が出ていなかった。このやられ具合だと軽く10人以上の重傷者が出ても不思議ではないはずだ。
その時、後方監視していた自身の89式小銃『エイトナイン』が音声とHMDで警告を発する。

『Get down!(伏せろ!)』

愛機の情報を疑いなく信じると、考える間もなく伏せる。
数瞬後、立っていたら腰あたりを薙ぐはずだったレーザーは射軸上にいたすべてを焼いていく。
それに構わず伏せたままランチャーにカートリッジ弾を装填し発砲。弾体はⅢ型のシールドを対シールド機構とその物理的な推進力を盾に突き破ると、そこで内包されていた魔力を爆発的に炎熱変換して自爆した。
目標の沈黙を確認すると後方に振り返る。薙いだレーザーは射角的に先ほどの衛生兵と負傷者を巻き込んだはずだった。しかしそこには問題なく搬送していく彼の姿があった。

「なに?」

だが攻撃が幻覚でなかった証拠に増援として来た1人の陸士が腰辺りを抱えてうずくまっていた。

「おい、大丈夫か!?」

「は、はい・・・・・・」

苦しそうに応える彼に駆け寄ってみるが、抱えていたその患部に外傷は見られなかった。これには彼も驚いたようだ。
これではっきりした。どうやら敵は非殺傷設定で攻撃しているらしかった。しかも非戦闘員を巻き込まないよう選択的に。
とにかく彼に訓練に使う魔力火傷用の簡易的な麻酔魔法をかけると、肩を貸しつつ戦線に復帰させた。

「どうやら今までの奴よりは、理性ある奴が操作してるらしいな・・・・・・」

その後ロバートの小隊は第2次防衛ラインまで後退すると、六課の4人を加えて迎撃を始めた。

(*)

上空でも突然動きの良くなった敵に翻弄されかけていた。

「まとめて、ぶち抜けぇー!」

ヴィータが鉄球を10発生成するとアイゼンで加速、向かってくるガジェットⅡ型に当てようとした。しかし─────

「なに!10機中3機だけだと!?」

驚くのも無理はない。いままで奴等が自分の攻撃の回避に成功した記憶はない。それが突然、自らの攻撃が避けられるほど動きが良くなったのだ。
しかしヴィータにはあまり関係ない。

「めんどくせぇ!アイゼン!」

「Raketen form.(ラケーテンフォルム)!」

アイゼンは1発ロードするとクラスターエンジンを展開する。

「ラケーテン、ハンマー!!」

雄たけびも高らかにそのまま敵に突貫し直接叩き潰してしまった。

(*)

『どうやら有人操作に切り替わったようだ。各員、注意して敵に当たれ』

ホークアイの指示が飛ぶ。その指示に戦術が一新された。
いままでの数に物を言わせた戦いから、いつもの戦いに。
バルキリーは空を舞い、景気良くミサイルをお見舞いする。そして魔導士部隊も砲撃を惜し気もなく撃ち込む。
外したミサイルや砲撃、ガジェットの破片は六課のザフィーラとシャマルの展開した広域バリアによってすべてがホテルとの衝突を免れた。

(*)

そして六課のラインでは、すでに第256陸士部隊の全部隊が防御の正面であるホテル前のC-3エリア付近に集結。迎撃が行われていた。

『第3小隊損耗率30%!後退します』

「安心しろ、ラインは支える。後ろで休んでろ」

『了解。感謝します』

『こちらスターズ3。C-2エリアに孤立していた第4小隊第2分隊と合流。本隊と合流するため、支援願います』

「第5小隊了解。10秒後20秒間全力射撃する。その隙にこっちに走って来い!」

『スターズ3、了解』

『第2分隊、了解』

ロバートは無線から手を離すと、隊に呼びかける。

「俺の合図で〝あっち〟に20秒間全力射撃。向かってくるスターズのお嬢ちゃんと第2分隊の連中に当てるな!・・・・・・3、2、1、今だ!」

その合図に第5小隊の保有する合計25の火器が一斉に弾幕を形成した。
頭のよくなったガジェットたちはそれに当たるまいと遮蔽物に隠れる。
その隙に遅滞行動(撃っては後退、撃っては後退という戦闘機動を交互に行い、敵の進攻を遅らせる戦術的後退術)をしていていつの間にか包囲されてしまった第2分隊はスターズ3、スバル・ナカジマを先頭に走って来た。彼女は猛烈な突破力を武器に敵の群れを突貫していく。
既定の20秒が経ったときには隣にいた。
そしてさらに上空のあの赤く幼い魔導士からの空爆とオレンジ色の髪をツインテールにした二丁拳銃使いの誘導弾が、動きの止まったガジェット達を撃破していった。

(やっぱり六課は心強い!)

ロバートは彼女達がいる限り、管理局は無敵だ。と実感した。

(*)

ホテル東部 高度4000メートル

元々動きの良かったゴーストはバルキリー隊が対応に当たったが、更に頭の良くなったゴーストは危険な存在になっていた。
高空より侵入してきたゴースト6機は連携とりつつ接近してくる。
ホテル東部を担当することになったサジタリウス小隊はさくらの狙撃に援護されながらそれに応じた。
しかし狙撃は当たらず、天城の放ったマイクロハイマニューバミサイルの弾幕も絶妙な連携プレーで突破してきた。
これまで4カ月という訓練期間の短さをハード(機体性能)によって補ってきた感のあるバルキリー隊は苦戦を強いられることになった。

(*)

ドッグファイトに持ち込まれたサジタリウス小隊の2機は徐々に分断。距離を離されていく。

『離されるな天城!』

アルト隊長の声が耳朶(じだ)をうつ。

「しかし・・・・・・くそ・・・・・・」

ゴースト3機に囲まれた自分は、さくらの支援狙撃もむなしく隊長のVF-25と完全に分断されていた。
最高速度で優越しているため、ファイターに可変して振り切ることも選択肢だろう。しかしそれでは防衛ラインに穴を開けることになり、隊長や下界の陸士達、つまり友軍を見捨てる事となる。
隊長も3機のゴースト相手では分が悪い。それが増えたら尚更だ。
天城は持ちうる技術を結集して何とかさばこうと努力するが、ゴーストの機動性、バルキリーの火力、賢い頭脳を与えられたそれは徐々に彼を追い詰めていった。

(転換装甲のキャパシティがやべぇ・・・・・・)

空戦では余剰エネルギーが最大限利用できるガウォークで戦闘しているにもかかわらず、構造維持エネルギーが限界に到達しようとしていた。それは限界を超えたとき、自機の損壊を意味する。

(そろそろ潮時かな・・・・・・)

度重なる被弾の衝撃で精神の参っていた天城は自暴自棄になっていた。
彼は左手に握るスラストレバーを45度倒してファイターに可変する。そして目前で丁度旋回してきたゴーストに狙いを定めると突撃した。余剰エネルギーの関係でPPBSは作動しない。
しかし彼は躊躇わなかった。
こちらの乱心に気づいたのか通信機ががなりたてているが、彼には聞こえない。そして目前のゴーストが視界いっぱいに広がり─────

(*)

「天城ィィィーッ!!」

『天城さん!!』

アルトとさくらの声が空にこだまする。
爆発したその場所からは大量の金属片が下に力無く落ちていき、これまた大量の黒煙がその場を包んでいた。
イジェクト(緊急脱出)は・・・・・・・確認できない。
ゴーストが撤退していく。いや、ガジェット達も同じく撤退するらしい。

『そんな・・・・・・天城さん・・・・・・!』

さくらの茫然とした声が聞こえる。

「畜生!」

自らの担当した3機のうち2機を叩き落としていたアルトは、あと少しだったのに!とコックピットの内壁を叩く。

(また俺は失ったのか!?スミスやマルヤマ、ジュンのように!!)

暴発しそうな激しい感情と共に、バジュラ本星突入作戦で散って行った部下2人の顔が脳裏を過る。
しかし視線を落としたアルトは、ディスプレイの表示に息を呑んだ。
天城のVF-1BとのJTIDS(相互データリンク)が接続されたままだ。

(これは、ひょっとして・・・・・・)

顔を上げたアルトの目に飛び込んできたのは、ガウォークでホバリングしたVF-1Bだった。

『・・・・・・あれ?』

モニターに拡大された天城のアホ面(づら)が印象的だった。

(*)

「逃がしたか・・・・・・」

こちらは地下駐車場。謎の人型甲虫と遭遇したシグナムだが、取り逃がしてしまっていた。しかし〝それ〟が抱えていた箱は斬撃によって吹き飛ばされ、床に四散していた。
シグナムはそんなこと全く関しなかったが、敵は違ったようだ。身軽になった体で意外に小さな〝箱の中身〟を拾い上げ、光学迷彩を再起動して闇に消えていった。

「大丈夫ですか!?」

さっきの警備員だ。派手に戦闘をやらかしたので様子を見に来たのだろう。

「ああ。犯人はとり逃してしまったが」

「そう、ですか・・・・・・」

彼は周囲を見渡す。
めくれ上がったコンクリートの床。
深い切り傷の残る柱や壁。
最早廃車であろう高級車。etc、etc・・・
その場は破壊の限りを尽くしたような光景が広がっていた。

(*)

「ぶつかる前に相手が自爆しただとぉ?」

天城に生還の理由を聞いていたアルトが驚きの声を上げた。
彼によるとその時は気にしなかったが、特攻の瞬間なぜか相手は銃撃を止めて回避に専念したらしい。

『何か無人機のくせに端々の挙動が人間ぽかったんですよね・・・・・・まるで事故を回避しようと急ハンドルした感じでした』

天城は元々突っ込むつもりのため当然追う。VFは可変という特殊機構を持つため小回りでは負けない。
結局天城は衝突を免れないコースをとり、今まさにぶつかる!という時に自爆したらしい。

「う~ん・・・・・・」

アルトは理解出来ずに頭を捻る。
無人機なのだから戦術・戦略上必要なら自爆や特攻することはよくある。しかし突っ込む天城を撃墜して止めようとせず、全力で回避し、なおかつ回避不能とわかると自爆してくれるとは・・・・・・

「有人操作だから術者に良心が働いたのか・・・・・・?まぁいい、とりあえず天城、もう二度とあんなことするなよ!」

『すいません・・・・・・』

天城に釘を刺すと、被害報告を待つホークアイに回線を繋ごうとした。しかし今度はさくらから通信が入った。

「どうした?」

『お願いがあります』

(おいおいなんだ、このデジャブは)

アルトは一瞬躊躇うが、先を促す。

『はい。実は─────』

その願いはまたしてもアルトを驚かせた。

(*)

「まぁ箱はしかたないよ。邪魔者が強すぎただけだから。・・・・・・うん、お疲れ様。あとは中身をそのままドクターに届けてあげて」

ルーテシアはデバイスを通した通信を終えると魔法陣を解除する。
すると自らが操作していたガジェットとゴースト達の縛りが解かれた。しかし完全にではない。彼女が最後に発した命令は〝速やかな撤退〟だった。
インゼクト・ズークによってプログラムを根こそぎ書き換えられた機械達はこれに従って撤退を始めた。

「・・・・・・結局、品物の中身は何だったんだ?」

ゼストがローブを片手に聞いてくる。

「よくわかんないけど記録媒体だって。オークションに出す品物じゃなくて密輸品みたいだけど・・・・・・」

「・・・・・・そうか」

彼はそう言ってローブを手渡し、自身は交戦地帯だった所に視線を投げた。
そこでは突然攻撃を止め、撤退していくガジェット達を見送る管理局員達の姿があった。

「管理局も強くなったものだ。以前のままなら突破されていただろうに・・・・・・」

彼は上空を警戒飛行する空戦魔導士部隊とバルキリー隊を一瞥する。その時少女の手が彼のローブを弱く摘まんだ。

「・・・・・・さて、お前の探し物に戻るとしよう」

ルーテシアは頷くと、転送魔法を行使。魔力反応を感知したバルキリー隊が駆けつけた時にはすでにもぬけの殻であった。

(*)

「甘いな」

変装したグレイスが呟く。

「やはり子供だ。それほどまでに人を傷つけたくないか」

「なァに、目的が遂行されるなら良心を通してもいいさ」

スカリエッティはそう言うと、先ほど転送されてきた『ガリュー』という人型甲虫から受け取った記録媒体を自らの端末に繋いだ。
立ち上がるウインドウ群。その一番上のタイトルには〝ユダ・システム〟とあった。

「なるほど、有機ネットワーク構造による人工生命か・・・・・・」

彼の顔に徐々に笑みがこぼれてきた。
コンピューターに意識を持たせるという命題には誰一人として成功していない。
しかし例外を言えば製作元でも解析不能なデバイスの基本フレーム、特にインテリジェントデバイスだ。現在その製作技術は戦争で完全に失われており、戦前から稼動していたオートメーション工場にその生産を100%依存している。
だがその意識を持たせる方法が目の前に転がっているのだ。学者として興奮しないはずがなかった。

「どうだ?品物は」

「あぁ、実に素晴らしい。・・・・・・だがこのシステムのプログラムは・・・・・・変だな?この矛盾したサブルーチンはなんだ?これではこのシステムの良いところである自己保存本能が働かない」

実はそこはシャロン・アップルの事件をきっかけにこのシステムに追加されたところだ。
2040年に試作されたゴーストX-9のメインコンピュータはマージ・グルドアの手によって完成を見た。
彼は伝説のバーチャル・アイドル「シャロン・アップル」のシステムエンジニアであり、彼の構築したシステムは仮想空間の中で生物の自我、無意識レベルの感情をもエミュレートする恐るべきものだった。
事実自我を持ったシャロンはマクロスシティにおいて暴走している。理由について統合軍は、機密事項としてそれ(暴走の事実すら)をひた隠しにしているが、彼らも詳しいことは知らないらしい。
ともかく、それでもブラックボックス化したマージの基礎システムはゴーストの中に生き続けていた。なぜなら誰も彼の基礎理論を理解できず、これを分離してしまうとシステムが完全に崩壊してしまうからであった。
そこで封印サブルーチンをL.A.I社が幾重にも掛け、自我を、自己保存本能を完全にオーバーライドしていた。
お陰で最新のゴーストは、ユダ・システムを解放してもまず安心になったのだ。
更によいことに、自らを守ろうとする考えがなければ戦術・戦略及び効果面でしか物を考えないので、彼ら無人機は必要ならば平気でその身を捧げる事ができる。
ユダ・システムを解放したゴーストが、優秀で重要な有人機を守るために、自ら敵弾に当たりに行った例が少なくないのはこのためだ。
ちなみにユダ・システムを自我レベルまで完全解放できるのは、オリジナルを押さえているフロンティアのL.A.I社だけだ。
しかしスカリエッティはプログラムを斜め読みしただけでその機能が封印されていることを言い当ててしまった。これはまさに生身の人間では最高峰の天才と言えた。

「まあ、好きにしろ。こちらとしてはどんなものが完成するのか楽しみだ」

「ご期待に沿えるよう、頑張ってみよう」

彼はほの暗い不気味な笑みを浮かべると、改良のため前時代的なキーボードに手を伸ばした。
グレイスの扮装する男はそれを見届けると、手の内にあったトラックのキーを握り折った。

(*)

ホテル内部では予定通りオークションが開始されていた。
しかしその茶髪でドレスを着た美女は会場には入らず、身内からの報告に耳を傾けていた。

『─────という顛末(てんまつ)でガジェットは撃退できたんだけど、召還士は追えませんでした』

『でも近隣の部隊に要請はしましたから、転移座標ぐらいならわかるかも知れないです』

その身内─────シャマルと彼女を手伝うリィンフォースⅡの報告にはやては、六課には負傷者もいないし目立った被害もなく、自らの任務も順調なため良しとした。

『それじゃ、任務を続行するわね』

「ああ、お願いな」

映像通信を切ったはやては、暫し思考の海に浸る。今回の襲撃は不可解な点が多かった。
ガジェット達の襲撃はわずか25分で終わりを告げ、即座に撤退してしまった。
最初の15分はいつも通りだが、後が違った。突然召還士が現れてガジェット達の動きが良くなったかと思えば、まるでこちらを気遣ってくれたかのように非殺傷の攻撃に終始した。
どうやらいままでガジェットを使っていた敵と、今回ガジェットを操った召喚士は別の考えを持っているらしい。
少なくとも召喚士の方は、目的のためなら人殺しもためらわない〝彼〟のような人物とは思えなかった。

(人間がやることには必ず意味がある。これほどの良心がありながら、その召還士がやろうとしたことはなんやろうか?)

まずガジェットが主でないのは確かだ。彼らは防衛部隊をかき回しただけで本質的にはなにもしていない。

(となると本命があるはずやけど、まだ何の報告も上がって来て─────)

「主、はやて」

振り返ると、バリアジャケット姿のシグナムがいた。しかし彼女の頬には一筋の切り傷があり、血がにじんでいる。

「なんや?階段でも転げ落ちたんか?」

はやてのジョークに彼女は

「いえ」

と、無愛想に応対する。

(職務に徹するのもいいけど、もうちょい愛想よくしても良いと思うんやけどなぁ・・・・・・)

はやては生真面目な身内に、胸の内で場違いな評価を下すと先を促した。

「はい。私は地下駐車場の警備に付いていたのですが、巡回中妙な車上あらしに遭遇しました」

「どんな風に妙なんや?」

「それが人間ではなくて、人型の甲虫のようなフォルムをしていました。残念ながら追いきれませんでしたが・・・・・・」

「そうか・・・・・・」

使い魔や他の次元世界の多様な生態系があるためそのような生物がいること自体は不思議ではない。しかし管理局が遭遇してきた使い魔以外は、生命体であってもほとんどが知性体ではなかった。つまり、牛や魚などと同じだ。
また、生態系の問題から次元世界間の移動はほとんど禁止されていた。
例外として召還魔法により古来から使役され、安全性の確認されている種については召還魔法による呼び出しなど一時的に連れ出すことは認められている。
となると召還士という共通点から今回の事件との関わりがある可能性は高い。

「・・・・・・それで、何を荒らしてったん?」

「はい、密輸品を運んでいたトラックの荷台らしいのですが、何を盗んだのかなど、それ以外は不明です。目下のところトラックの持ち主を捜させています」

「了解や。その生物について管理局のデータベースで調べといて。他にも何か分かったら知らせてな」

「は!」

シグナムは敬礼すると一階に続く階段を降りていった。

(*)

その頃なのはとフェイトは会場内で警備に着いていた。
しかしフェイトが合流したのは1分程前からだ。
フェイトは出動しようとシャマル達と合流して準備していたが、敵が本気になってからたった10分で撤退したため出鼻を挫かれていた。
彼女は

「外のガジェットは撤退したから、出動待機は解除。私達は警戒任務に集中してだって」

と、シャマルからの要請をなのはに伝える。
ずっと会場内で警備に着いていたなのははフォワード4人組を含め防衛部隊に目立った被害がないことを聞いて肩をなでおろした。

「あともう1ついいニュース。懐かしい人に会ったよ」

「え?だれ?」

「それは・・・・・・あっ、来たみたい」

フェイトの視線はオークション開催寸前の舞台に向けられている。仕方ないのでなのはも彼女にならった。

『─────ではここで、品物の鑑定と解説を行って戴けます、若き考古学者をご紹介したいと思います』

拍手のなか現れた青年はなのはにとってとても馴染深い人物だった。
そう、彼女を普通の少女からこの世界に引き込んだのは他でもない彼であった。

『ミッドチルダ考古学士会の学士であり、かの無限書庫の司書長、ユーノ・スクライア先生です』

『あ・・・・・・どうも、こんにちは』

彼はマイクの前で少し緊張した様子で挨拶した。

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次回予告

なのはの過去とさくらの出生秘められたものとは?
そしてさくらの願いとは?
次回マクロスなのは第20話「過去」
追憶の歌、銀河に響け!

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最終更新:2011年04月14日 21:41