夢を、見ていました。
優しくて、暖かくて、懐かしく――
――そして、救いがたいまでに理不尽な夢を
『フェイト・T・ハラウオンの悪夢』
落ち着こう。
落ち着いて、現状を確かめなきゃ。
朝、リニスが私とアリシア姉さんを起こしに来てくれた。
これはいい。
朝食の席でプレシア母さんとアルフが私たちを待っていてくれた。
これもいい。
でも、誰なんだろう、この緑色の髪をした女の人は?
「あ、アリシアにフェイト、おはようロボ」
ロボ!?
今、この人ロボって言ったよね?
「おはようエルザ姉さん、アルフ」
アリシア姉さんが何か聞き逃せないことを言った。
「エルザ姉さんって……この人の事なの?」
思わず口をついて出た私の呟きに、その場にいる全員の視線が私に集まった。
「何当たり前のこと聞いてくるの、フェイト」
「そうだよ、エルザはフェイトたちの姉さんじゃないかい」
「あら、まだ寝ぼけているようね。早く顔を洗っていらっしゃい」
「あ、それなら今タオルを持ってきますね」
アリシア姉さん、アルフ、プレシア母さん、リニスがそれぞれ私に言葉をかけて来るのだけど、その言葉のどれもが『エルザ姉さん』を極自然に受け入れていた。
まるで、私のほうが変みたいに。
「フェイト、エルザの顔を忘れたロボか?」
少し悲しそうな眼で私を見つめる『エルザ姉さん』。
その表情に少しの罪悪感を覚えながら、私は目の前の女性を観察してみた。
緑色の長い髪に尖った耳、私やアリシア姉さんよりも女性的な体つきの『エルザ姉さん』の姿は――どんなに考えても私の記憶の中にはなかった。
「そんなんじゃないよ、単にまだ眼が覚めてないだけだって」
「そうそう、エルザみたいなキャラは忘れようとしたって忘れられないからね」
アリシア姉さんとアルフがなにやらフォローを入れてくれているみたいだけど、それでも思い当たらないこの人にどう接すればいいのか悩んだ。
「確かにエルザはお父さんに似ているからね」
そんな中、プレシア母さんの声が私の耳に響いた。
「お父さん?」
私に父親がいたなんて、初めて聞いた気がする。
確かに子供が産まれるには母親だけではなくて父親が必要だということは知っているけど、そう言えばお父さんの話は今まで一度も聞いたことがなかったっけ。
「ああ、確かに緑色の髪を受け継いだのってエルザだけですからね」
リニスの話から判断すると、この『エルザ姉さん』は父さんに似ているらしい。
正直な所、私はその『父さん』に興味を持った。
私は生まれてから一度も父さんの顔を見たことがなかったからだ。
「あ、父さんが来たロボよ」
そんなことを考えていると、『エルザ姉さん』が私の後ろの方に向けて手を振った。
母さんたちもそれに気づくと口々に『父さん』に向けて朝の挨拶をしていく。
私もそれに続こうと後ろを振り返ると、そこには『父さん』が―
「ええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
自分で自分の声に驚いて飛び起きると、そこはテスタロッサ家ではなく、見慣れたアースラ内の私の部屋だった。
「夢……だったんだ……」
安堵の息をつきながら、私は額の汗を拭う。
全身汗でびっしょりで、このままシャワーを浴びなきゃ。
「途中まではいい夢だったのにな……」
そう、夢の中とはいえ、久しぶりに『家族』と会えたのだ。
一人見知らぬ人が混ざっていたとはいえ、それも悪くないと思える程度には。
「でも……最後にあれはないよね……」
そう、あの夢の最後に出てきたあの人はいくらなんでもあんまりだ。
リニスの言った通りの緑の髪に、白衣を着てエレキギターを掻き鳴らしながら食堂に入ってきた、あの……
「ううん、どうせ夢だったんだし、忘れちゃおう」
首を左右に振ると、私はそのままベッドから起きてシャワーを浴びにいくことにする。
それで、あの夢のことを忘れてしまおうと。
この目覚めからしばらくたって、フェイトはあの夢が予知夢の一種であったことを知ることになる。
とある管理外世界の犯罪組織に籍を置く、キ●●イ科学者事、
「ぬぅぁっはっはっはっはっはっはっはっは!ドクタァァァァァァァァッウェェェェェェェェ~~~~~ストッ!!!!!!」
と対面することにより。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
最終更新:2007年08月14日 17:42