『ドラなの』第7章「夜天歴程」
日付がかわって翌日早朝。
八神家含めてなのはやフェイト達はアースラに残って一夜を明かし、朝食を取っていた。
しかし余りの興奮によって徹夜してしまった人物が、その興奮も醒め止まぬ様子で食堂に乗り込んできた。
「みんなわかったよ!歴程の場所!」
トロンと寝ぼけた目をしていた皆の瞳に生気が宿る。
「さっすがユーノくん!」
なのはの感嘆に続き、抹茶にリンディから差し出された砂糖を危うく入れそうになっていたはやてが、我に返って尋ねる。
「そ、それで場所はどこなんや?」
「第12管理外世界の北極!でもナルニアデスは力のある者が手に入れるのを防ぐために、リンカーコア保有者と夜天の魔導書の魔力の残留が少しでもある者を弾く結界を張っているみたいなんだ」
それにクロノは
「非魔力資質保有者は乗員の中に何名かいる。彼ら取りに行ってもらおう」
と展望を明るくした。
「後は夜天の魔導書さえあれば!」
「今度こそ破壊できますね!」
シグナムとシャマルも遂に魔導書の呪縛から逃れられると口調が浮き、ヴィータもガッツポーズ。そこへさらに明るい情報をエイミィが暴露する。
「実はもう魔導書の方にも手を回したんだよね~クロノくん」
「え?本当なの!お兄ちゃん!?」
すっかり妹が板に着いたフェイトはこのメンツではもはや言い直さない。しかしクロノにはその名称で呼ばれることに少々感じ入る所があるようだ。照れ隠しのためかホロディスプレイ越しに返事する。
「・・・・・・ああ。解読が思った以上に早そうだったから本部に話をつけたんだ。今から12時間後には護衛艦隊の1個艦隊が魔導書を持ってこちらへ来るはずだ」
クロノはホロディスプレイに掌をかざすと、おもむろに壁に向かって勢いよく押し出した。ディスプレイは壁に衝突すると、壁にべちゃっと貼り付いたような勢いで縦横共に5~6倍ほどに伸びてシアターのような大型のホロディスプレイとなっていた。
そこには管理局の命令書が映し出されていた。内容は歴程の場所が判明しだい確保して艦隊と合流。即座に魔導書を破壊せよ。というものだった。
「ほう・・・・・・管理局にしては手際がいいな」
「ああ、ちょっとしたコネを使ったからな」
クロノはそう言うと、わかった風に静かに砂糖入りの抹茶をすする上官に視線を投げた。
「エイミィ、こちらに向かっている第3艦隊に歴程の場所の旨、報告を頼む。・・・・・・それでは本艦はこれより第12管理世界に進路取るが、なのは達はどうする?」
「もちろん行くよ!」
「ここまで来て置いて行くなんて言ったら怒るからね」
2人ともそれを聞かれただけで不服なようだ。頬を膨らませて拒否のモードに入った。
「そうか、来てくれるなら心強い。君たちのような戦力は貴重だからね」
クロノは我が意を得たように頷くと、出航のために食堂から出て行った。
しかし彼らはそれから1時間もしないうちに予想外の事態に遭遇することとなった。
(*)
「本艦左舷方向に大艦隊。・・・・・・IFF(敵味方識別信号)に応答、次元航行部隊護衛艦隊所属、第3艦隊です」
次元振動レーダー(ソナー)を睨んでいた要員が報告し、通信士が通信を試みようと亜空間通信回線を開いて呼びかける。
「こちら次元航行部隊機動課、機動三課のL級巡察艦「アースラ」。第3艦隊、応答願います」
『こちら護衛艦隊第三艦隊旗艦『クレイトス』。夜天の魔導書を護送してきた。本艦隊はポイント2367、マーク8749にてランデブー予定。ディスト―ション・シールド周波数は156THz(テラヘルツ)。数値を合わせて次元統合に備えよ』
「了解。ランデブーポイントとシールド周波数を復唱します。ポイント2367、マーク8749―――――」
「思ったより早かったね」
通信を横目にしながら聞いていると、近くに持ち場を持つエイミィが呟く。
「ああ、これなら明日、なのは達の学校を休ませなくてもすみそうだな」
「クロノくんのお兄ちゃんっぷりをもう見れなくなるのかぁ~。せっかくかわいかったのに」
「おいエイミィ・・・・・・!」
「その様子だとまだ艦長席の引き出しの中身、フェイトちゃんにばれてないみたいだね~」
「いや、あれは誤解だ!ただの・・・・・・そう、家族写真なんだよ」
「ふ~ん~」
そんな会話が続く内にもレーダーに表示される艦隊が並走するように近づいてきて、お互いが展開するディスト―ション・シールドの位相空間が接触する。
次元空間は真空の宇宙空間とは一線を隔す。もっとも近い例をあげれば水中のようなものだ。周囲は重量子による高次元の圧力がかかっており、
その中に3次元の物体が取り残されるとその圧力に耐えられず瞬時に圧壊、アースラなら分子レベルの塊に成り果てる。
そこで小さな3次元空間を泡にように周囲に展開する機構がディスト―ション・シールド(時空歪曲場)であり、次元航行の要だ。
次元空間に浮かぶ各次元世界を超自然的に維持しているのと同じこの仕組みから、お互いのディスト―ション・シールドの周波数を同調させて統合する「次元統合」という作業は俗に「互いの宇宙をつなげる行為」とも呼ばれていた。
「3,2,1,次元統合!」
瞬間的にアースラを包んでいた四方数百メートル程にしか過ぎなかった宇宙が、艦隊の展開するディスト―ション・シールドによって一気に広がり、
視界が開ける。目前にには整然と護送隊形を組む第3艦隊の雄姿があった。しかし安心するのもつかの間、部下の一人が異常を報告する。
「え?魔導砲の照準警報!?か、艦長!本艦は友軍艦多数よりアルカンシェルを照準されています!」
「な、何!?我々は浸食されたわけではないぞ!」
脳裏を過るは闇の書に汚染、浸食されて自沈処理させられた父の船。奇しくも同じL級巡察艦の3番艦だったが、あれから時を経て56番艦となった今ではその対策は万全だ。
それどころか魔導書を護送してきたのは艦隊で、こちらが照準されるいわれはないはず。しかし考えてみればまったく身に覚えが無いわけではなかった。
「(八神はやてか・・・・・・)」
事件の中心人物にして、現夜天の魔導書の管理者権限保有者。
仮に今回の騒動が彼女と守護騎士達の自作自演の場合、管理局が引き離した魔導書との接触を容易に果たすことが可能となる。
もちろん魔導書の破壊方法発見は事件とは全く別のアプローチをしたユーノ・スクライアの手柄であることもあるし、はやて達と親しくなった自分達にはそんなことが天地がひっくり返ろうがありえないことが明白である。
だが報告書を読むだけの上層部には、あまりにうまく進んだ事態に注視してそんな現場の声を無視したようだ。
そんな自分の読みを肯定するように、静まり返ったアースラのブリッジに通信回線が開いた。
『クロノ・ハラオウン艦長、私は本艦隊司令のコンラッドだ。手荒い方法ですまないが、八神はやてと守護騎士達をただちに拘束。一時的に軟禁してもらいたい』
「もし断ったら―――――」
『君はこの要請を断ることは許されない。それは君も分かっているはず』
目配せする彼の視線の先には、鍵が刺さって真っ赤になったファイアリングロックシステム(火器発射管制装置)があった。
それの意味することはアルカンシェル、もしくはそれに準ずる魔導砲が即時発射可能な状態で待機されているということだった。
「しかし今後八神はやて達の処遇はどうなるのでしょうか?」
『安心しろ。本作戦が何事もなく成功すれば1年の次元渡航禁止あたりで決着できるはずだ』
「・・・・・・了解しました」
『うむ』
閉じられる通信回線。しかしクロノは拘束に関するアクションを起こす様子は見られなかった。
「いいの?」
「我々は”アースラ艦内に”はやて達を軟禁しているんだ。依存はあるか?」
「ああ~ないない!オールジャスト完璧!」
「よろしい。第3艦隊に打電。第12管理外世界への道中、護送を頼むと―――――」
しかしそのクロノの指示が実行させることはなかった。
「艦長!後方より戦艦クラスの次元移動物!IFF反応なし!まっすぐこちらへと向かってきます!」
「第3艦隊、対象に対して迎撃陣形に移行中」
レーダーの中で旗艦を中心に輪形陣を取っていた艦隊が転舵していき、旗艦とこのアースラを守る壁のように展開していく。
「全艦戦闘配置!武装隊、なのは達もエアロックから出撃。艦の周囲に展開して警戒にあたれ!」
第3艦隊は宇宙空間から次元空間に入ったらしく、ディスト―ション・シールドの内部空間に空気はない。しかしバリアジャケットが宇宙服の役目を果たせるし、魔法を使うのに必要な魔力素も艦の推進排気で出てくるので、魔導士たちは艦の外に出て戦闘するのが常道だった。
「次元統合まで3,2,1!」
ディスト―ション・シールドの位相空間に小さな穴が空き、何か出てくる!と思った瞬間には画面がブラックアウトしていた。それどころか照明がすべて消え、光源が真っ赤な非常灯のみとなっていた。
「どうした!?」
「わかりません!突然メインシステムがダウンして・・・・・・チーフ、また新人のミスなの!?」
「違う、瞬間魔力サージだ!闇の書以来『コンピュータを壊されるより前に一旦落とすようにしろ』と言ったのはお前らだろ!?大方センサーが設定値以上のサージを探知したんだろうよ。待ってろ、今ブレーカーを上げてやる!・・・・・・よし!」
暗い赤色灯の中、技術班のチーフ(主任)がコンソールパネルに潜って電源を落とした遮断機をリセット。おかげで航法、通信、センサー系統が復旧し、明るい照明も戻る。しかし事態は明るくなっていなかった。
「なんだこれは・・・・・・?」
回復した画面には、謎の巨大触手群と第3艦隊前衛部隊の戦闘が映っていた。
触手は各艦の真下に展開された魔法陣から出てきている物で、展開する魔導士達もそれが艦に取りつくのを防ぐので精一杯。すでに取りつかれた艦は完全に航行不能となっているようだった。
その中を悠々と直進してくる艦。それこそこの事態の元凶だった。しかし船というにはその外観は生物的で、圧倒的な禍々しさを湛えていた。
『ピー!』という着信とともに通信が開く。アースラの直掩についているなのはからだった。
『クロノくん!はやくなんとかしてよ!』
真下を映す画面には他艦と同様の魔法陣が展開されており、武装隊となのはの砲撃が、フェイトのザンバーが触手を近づけまいと一進一退の攻防を繰り広げていた。
おかげで現状ではまだ取り付かれるには至っておらず、航行は可能なようだ。
「『クレイトス』は!?」
「すでに艦の8割が取りこまれています。・・・・・・は!?クレイトスより入電!『魔導書は貴艦に転送済み。貴艦の任務の成功を祈る』以上です」
直後画面の中のクレイトスが、非常用反動推進エンジン(化学ロケット)の火を噴かせて向かってくる敵艦へと進路を取った。
「く・・・・・・操舵主、シールド周波数を変更しろ!」
「しかしそれでは艦隊の空間から弾き出されてしまいます!」
「構わんからやれ!」
「了解!全艦、対ショック態勢!本艦は艦隊の空間より緊急離脱する!」
歪みゆく艦外の視界。そのなかでクレイトスはあの船と共に光になっていった。
(*)
1時間後 第97管理外世界 野比家
はやてやなのはといった同級生が欠席していた学校から帰宅したのび太は、件の如く隠していた零点の答案をママに発見され、勉強机にて教科書を使って行う望まぬ労働を強いられていた。
「強いられているんだ!!」
「な、なに!?」
のび太の突然の叫びに、マンガを読みながら勉強の監視をしていたドラえもんが文字通り飛び上がって驚く。
「いや、なんでもないんだけどさ・・・・・・」
のび太は握っていた鉛筆を鼻と口の間に挟むと、両肘をついて腕で頭を支えて続ける。
「はやてちゃん達、大丈夫かなって」
「ああ。多分だけど、時空管理局が介入してくれるなら大丈夫だと思うよ」
「どうして?」
椅子を引いて向き直って聞くのび太に、ドラえもんは平然と答える。
「だって時空管理局は僕の時代でも有名でね、実はタイーーーーー」
直後、のび太がなんの前触れもなくドラえもんに向かって射出された。
なにが起きたかと言われれば、机の引き出しが物凄い勢いで開けられ、その前にあったのび太のイスが押されたというもの。のび太がイスを引くのがあと少し遅ければ半端でないボディブローを食らっていたはずだったが、彼にそれを幸運に思う暇はなかった。
「痛い痛いいたぁーい・・・・・・」
ドラえもんと正面衝突して、痛みで半ば涙声になったのび太は、自身の頭を抑えながら机を振り返る。そこには本来いるはずのない人物が不安そうに周りを見回していた。
「はやて・・・・・・ちゃん?」
「あ、のび太くん、ドラちゃん!お願いや!みんなを助けて!!」
突然の状況にのび太達は頭をひねることしかできなかった。
To be continue・・・・・・
最終更新:2012年09月20日 00:41