魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS 第2部

―――1

第17無人世界にある惑星ホスは、鉄とニッケルから成る核の部分以外は総て氷で出来ている不毛の世界である。
表面は猛烈なブリザードが常に吹き荒れていて、例えしっかりした防寒装備を身にまとっていようとも、数時間も
経てば氷のオブジェと化してしまう。
広域次元犯罪者の刑務所がここに作られたのも、その苛酷な環境が脱走を防ぐのにうってつけだったからである。
収容されているのはジェイル・スカリエッティ以下JS事件の主犯全員で、惑星の核の中に作られた監房区画に
隔離されている。
外部との接点は、表面にある居住・運営区画からエレベーターを通じて毎日決まった時間に送られる食事のみであり、
侵入・脱獄共にほぼ不可能という点において、まさに理想的な重罪犯の刑務所と言えた。

猛烈な風と共に横殴りに吹き付ける雪で日中も薄暗い空を切り裂いて、隕石が一つ落ちてきた。
激突時の物凄い爆発音はブリザードの轟音に掻き消され、立ち上った煙も雪と風によってたちまちの内に吹き散らされる。
雪が積もり始めたクレーターの底では、隕石が例のゴガガギギという音と共に変形を始めた。
第97管理外世界ではジャガーまたはピューマと呼ばれる、獰猛な猫科の大型捕食生物へと姿を変える。
違いは全身金属製である事と、一つ目で腰の上に機関銃付きのミサイルランチャーが付いている事だ。
“デストロン軍団諜報破壊兵ジャガー”は、身体を揺すってこびりついた氷を払い落とすと、強力な肢を振るって一気に
クレーターを駆け上がって行った。

“ピッ”
警告音と共にオペレーターの眼前にある空間モニターに、“隕石が衝突”というデータが表示された。
近くに小惑星帯があるホスでは、隕石の落下は日常茶飯事で気にする者など誰もいない。
この時も、焦点の見当たらない眼に骸骨そのもののような顔立ちをしたオペレーターが、うんざりした様に
首を横に振っただけだった。
「おかしいな…」
オペレーターはそう呟きながら表示を消すと、天井を仰ぎながら背伸びをする。
「近くの基地と連絡はまだ付かないか?」
ライオンの頭に四枚の鳥の翼を背に生えている士官からの問い掛けに、オペレーターは姿勢を正してから
振り向いて答える。
「はい。更に付け加えるなら、軍用通信はおろか民間用のネットワークも使用不能になっております」
「確かにおかしいな…」
士官もそう呟くと、腕を組んで考え込む。
「警戒レベルを引き上げますか?」
オペレーターの言葉に、士官は渡りに船とばかりに頷いて言う。
「うむ、そうだな。
所長とちょっと話し合ってみよう」

普通の生物なら足を取られる深い雪の中を、滑って転びそうな氷河の上を、ジャガーは強力な肢と岩をも砕く鋭い爪
でもって難無く駆け抜ける。
障害物はミサイルポッドの上にあるレーダーで探知するので、行く手を妨げるものは何もない。
やがてジャガーの眼前に、ブリザードを除ける為に深く丸く掘り下げられた窪地が見えてきた。
窪地の縁に立つと、ジャガーはゆっくりと縁を廻りながら、光学・赤外線・紫外線などの映像やレーダーで下の状況を
詳しく調べ上げる。
窪地の中心には、イヌイットのイグルーと同じドーム型の造りをした刑務所への入口がある。
その周囲には重さを検知できる感圧センサーがびっしりと張り巡らされ、更には建物の頂上部分にはレーダーが設置
されていて気付かれずに侵入する事は不可能となっている。
ジャガーの口から、小さな昆虫型ロボットが一匹出て来た。
それは“インセクトロン”と呼ばれる、諜報と偵察を主任務とする超小型トランスフォーマーである。
あまりに小さいくてレーダーにまったく映らないこのメカイノイドは、悠々と空を飛んでレーダーサイトの基部に取り付く。
インセクトロンは基部の上を動き回ってレーダーの制御基盤と繋がっているケーブルを見つけると、そこに口吻を突き
刺してレーダーの中枢システムと直結する。
“案内人”から得たデータを基にシステムを解析すると、インセクトロンは偽のレーダー情報を流し始めた。

レーダーが無効化された旨を伝えられたジャガーは、縁から少し下がって距離を取ると、助走を付けて建物の屋根まで
一気にジャンプした。
レーダーサイトの隣にある通気孔のカバーとフィルターを前肢で破壊すると、口を大きく開いて屈み込む。
すると口の中から大量のインセクトロンが湧き出し、滝の如くダクトの中へと流れ込んで行く。
インセクトロンの大群は床に落ちる前に羽根を広げて飛び立ち、音を立てる事なくダクト内を探索する。
分岐に差し掛かれば二手に分かれ、通風口があれば二~三匹が降り立って外の様子を偵察する。
この数にものを言わせた人海戦術(?)で、たちまちのうちに刑務所内部の構造――職員の居住区画、指揮統制を行う
中央管制室、監房区画へ通じるエレベーターといった重要施設の場所――が白日の下に曝される。

ジャガーの口の中から、今度は十数体の掌サイズの小型ロボットたちが飛び出し、通気孔へと飛び込む。
彼等は“リアルギア”という名の、破壊活動や暗殺などの潜入工作を主任務とする特殊部隊であった。
リアルギア達はダクト内へ降りると、二体はエレベーターの方へ、残りは中央管制室へと二手に分かれて向かった。

刑務所内は一切の装飾が排除された実用性一点張りの造りで、勤務する人間にとっては非常に退屈な場所
である。
「くそっ。トンタークの軌道ステーションで酒と女が待ってるってのに突然警戒レベルを引き上げやがって…。
上は何考えてやがんだ?」
偃月刀型のデバイスを持った、彫りの深い顔立ちのアラビア系と思しき魔導師が、休暇を邪魔されたグチを
デバイスにこぼしながら、殺風景な廊下を巡回していた。。
「私に言われても困ります」
デバイスの方はそんな様子の主に対して冷静に答えを返して来る。
「そんなこと言うなよ、お前と俺の仲じゃないか~」
「いつから私たちはその様な関係に? マスターは変態ですか?
それよりとっとと任務に戻ってください」
泣き落しを受け流された上にどん底に叩き落とされた魔導師は、肩をがっくりと落としながら角を曲がって姿を消す。
それと同時に、天井の通風口からインセクトロンが湯船から溢れ出すお湯の如く、大量に湧き出始めた。
インセクトロン達は天井全体へ絨毯のように拡がると、軍隊蟻を彷彿とさせる動きで、いくつかの場所に集まって
団子を形成する。
団子は次第に大きくなり、それぞれが合体を始めて一つの大きな物体を形成する。
やがて物体は複数の鎌を持つ、一つ目のカマキリのような化け物へと姿を変えた。
“リードマン”という名前を持つそれは、光学迷彩を展開して周囲の景色に溶け込む。
しばらくして別の魔導師が二名巡回にやってきたが、天井で息を潜めるリードマンにまったく気付かなかった。

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最終更新:2012年09月26日 21:00