聖王の揺りかご内部では、スカリエッティが通信画面越しに、ウーノからの報告を受け取っていた。
『私以外のナンバーズはすべて捕縛されたようです』
「そうか……死者は出ていないのだな?」
『はい。その点は、敵に感謝しないといけませんね』
「そうだな。奪われた物は取り返せばいい」
 スカリエッティは気だるげに告げる。目も焦点が合わず、どこかぼんやりとしている。
『どうやら、私もそろそろのようです』
 断続的な破壊音と振動が、ウーノの画面を揺らす。敵が近づいてきていた。ウーノのISフローレス・セクレタリーは隠蔽と知能加速能力のみで、戦闘能力を持たない。誰が突入してきても、勝ち目はない。
『ドクター。また髪が伸びてきましたね』
 ウーノはスカリエッティを見て言った。
 言われるまで気がつかなったが、前髪が目にかかっている。
「本当だ。君に切ってもらわないといけないね」
『わかりました。では、この戦いが終わりましたら……』
「ああ、お願いするよ、ウーノ。……今までご苦労だった」
『ドクター。あなたの勝利をお祈りしております』
 ウーノの手が画面に置かれる。スカリエッティはその手に自らの手を重ねた。
 衝撃と煙が画面を覆い尽くし、通信は途絶した。
「こちらもそろそろか。切り札を使う時が来たようだな」
 スカリエッティはまだ自らの勝利を疑っていなかった。

 戦闘開始から二時間半が経過した。ついに太陰と白虎が力を使い果たし戦場から離脱する。
 敵は空を先に制圧することにしたらしく、攻撃の手が空に集中する。
 六合も勾陣も朱雀も遠距離攻撃を持っていない。空で戦う連中の負担が激増していた。
 ルーテシアのインゼクトたちが、ガジェットを乗っ取り、こちらの手勢にしているが、焼け石に水だ。
 白炎の龍で空を焼き払いながら、紅蓮は舌打ちした。
「くそ、俺も空を飛べれば」
 地上からの援護では限界がある。
「泣き言を言うな、騰蛇!」
 剛砕破でガジェットを撃ち落としながら、青龍が怒鳴る。
「黙れ、青龍! こんな時まで突っかかってくるな!」
「二人とも、そこまでだ。余計な体力を消耗するな」
 勾陣が苛立ちを露わに注意する。勾陣は腹に包帯を巻いただけで、戦線に復帰していた。
 紅蓮と青龍は十二神将の中で、もっとも仲が悪い。距離を取ろうと、紅蓮はきびすを返した。
 その時、小さな影を弾き飛ばしそうになった。
「お前か」
 直立不動の姿勢を取ったアギトだった。やけに真剣な顔をしている。
「どうした?」
「師匠と呼ばせて下さい!」
 アギトが直角に腰を折る。
「はっ?」
 突然の申し出に、紅蓮は呆気に取られる。
「師匠の炎を見ていて感動したんです。苛烈にして繊細、大胆にして優美。それに比べたら、私の炎なんて…………へっ、ただの花火さ」
 アギトは手に灯した炎を寂しげに見つめる。
「それは俺を主に選ぶということか?」
「いえ、主じゃありません。師匠です」
 違いが紅蓮にはわからないが、アギトの中では明確な区分があるらしい。
「悪いが、俺は弟子は取らん。そもそも俺の力は生まれつきで、何も教えてやれん」
「それでいいです。盗ませてもらいます」
「お前は俺が怖くないのか?」
 紅蓮は全ての魔力を開放している。怖くないわけはないのだが。
 よく見ると、アギトは小刻みに震えていた。
「もちろん怖いです。でも、それ以上に師匠を尊敬してるんです。お願いします。私を弟子にして下さい!」
「ああもう、勝手にしろ!」
「はい、わっかりました。ユニゾン・イン!」
 アギトが勝手に紅蓮とユニゾンする。紅蓮の髪が金色に変化し、四枚の炎の翼が背中から生える。
 翼が羽ばたき、紅蓮の体が宙に浮く。
「これは……」
『私と師匠の力が合わされば、空を飛ぶくらい、どってことないですよ』
 頭の中から他人の声が聞こえてくるので、とても気持ち悪い。だが、贅沢は言っていられない。
「行くぞ、アギト!」
『はい、師匠!』
 紅蓮が炎の龍を召喚する。黄金の炎龍は先ほどの倍以上の大きさだった。増援のガジェットが一瞬にして灰塵となる。
「すごい威力やな」
 広域殲滅魔法が得意なはやても呆れる威力だった。
 炎の龍を次々と召喚し、敵を焼き尽くす。形勢が徐々に好転していく。
『師匠、武器持ってないですか?』
「武器だと? これでいいか」
 紅蓮が真紅の槍を召喚する。
『うーん。出来れば剣がいいんですが』
「ええい、注文の多い奴だ!」
 黙っていろと一蹴したいが、ユニゾンも飛行も経験したことのない紅蓮は、アギトに従うしかない。これではどっちが師匠かわからない。
 真紅の槍がほどけ、長く鋭い両手剣に再構成される。紅蓮の武器は魔力によって形作られているので、意思一つで好きな形に変化するのだ。
『師匠、最高です!』
 炎をまとった剣を紅蓮は構える。
『技名はどうしますか?』
「知らん。お前が勝手に考えろ」
『わかりました! では、即興で、業竜一閃!!』
 炎の斬撃が聖王の揺りかごの外壁を一文字に切り裂く。
 聖王の揺りかごにしてみれば些細な傷だが、紅蓮は確かな手応えを感じていた。
「フェイト、はやて、ここは俺たちに任せて昌浩たちの援護に行ってくれ。どうにも時間がかかり過ぎている」
「でも……」
「行こう、フェイトちゃん。私らがいたら、騰蛇の邪魔になる」
 初めてのユニゾンで、紅蓮もアギトも制御が上手く出来ていない。近くにいたら巻き込まれる危険性が高い。
 はやてとフェイトは揺りかご内部へと突入した。

 その頃、ヴィータと昌浩は揺りかごの駆動炉に到達していた。
 駆動炉は巨大な四角錐を上下にくっつけた形をしている。その前に、白衣を着た男が簡素な椅子にもたれて座っていた。
「スカリエッティ。お前の野望もここまでだ」
「それはどうかな?」
 スカリエッティの右手には、デバイスらしき鉤爪のついたグローブがはめられ、左の二の腕と、右足を黒い装甲に覆われている。バリアジャケットのようだが、それにしては覆っている部分が偏り過ぎている。
 スカリエッティが右手を上げると、立方体型の迎撃装置が多数出現する。
「昌浩、思いっきりやれ!」
「万魔挟服!」
 衝撃波が部屋の中を荒れ狂う。迎撃装置がすべて爆発する。
 そんな中、スカリエッティは涼しい顔で衝撃波を浴びていた。
「馬鹿な!」
「面白い術だね。だが、もう学習した」
 黒い甲冑が生物のようにうごめき、スカリエッティの体を侵食する。
「気持ち悪りぃんだよ!」
 ヴィータが鉄球を打ち出す。スカリエッティはそれも体で受け止める。
 攻撃を受けるたびに、黒い装甲が増殖し、スカリエッティを覆っていく。
「ああ、ようやく馴染んできた」
 やがて歪な装甲が、スカリエッティの全身を包み込んだ。
「攻撃が効いてない!?」
「ヴィータ」
 昌浩がヴィータの肩をつかむ。直感が全力で警鐘を鳴らしていた。理屈ではなく、直感が真実を指し示す。
 スカリエッティの体の上を、薄い虹色の光の膜をまとっていた。
「あれが……あいつが聖王の器だ」

 玉座の間に辿り着いたなのはは、ウーノと対峙する。ウーノは抵抗せずあっさりと捕縛された。
「あなたが聖王の器じゃないの?」
「違います」
 他に何も喋るつもりはないらしく、ウーノはそれきり黙ってしまった。
 ここが聖王の揺りかごの中枢のはずだが、作り変えられているらしい。たいした設備が見当たらない。
 新しい中枢を探すべく、なのはは通路を戻った。
「なのは!」
 途中でフェイトと合流する。
「フェイトちゃん、外は?」
「騰蛇とアギトが頑張ってくれてる。怪我人は多いけど、誰も死んでない」
「そっか。よかった」
 信じてはいたが、なのはは胸をなでおろした。これで心のつかえが一つ取れた。
「はやては、ティアナとスバルの救出に向かってる。昌浩君たちは?」
「まだ見てない。駆動炉に急ごう。凄く嫌な予感がする」
 なのはとフェイトは頷き合うと、駆動炉へと向かう。
 通路には無数のガジェットの残骸が散らばっていた。それらを乗り越え、なのはとフェイトが目的地に辿り着く。
 そこには折り重なるように、血まみれの昌浩とヴィータが倒れていた。
「ヴィータちゃん!」
「昌浩君!」
 なのはとフェイトが悲鳴を上げる。胸がかすかに上下しているので、二人ともかろうじて生きているらしい。
「ああ、ようやく来たかね?」
 黒い全身鎧をまとった男が、くぐもった声を漏らす。
「スカリエッティ!」
 フェイトが鋭く睨みつける。顔はマスクで見えないが、覗く眼光と声に覚えがある。
「陰陽師とは、つまらない人種だね。理屈もなしに答えに辿り着く。おかげで私が答えを言う暇がなかったじゃないか」
 とっておきのなぞなぞを解かれて、拗ねている子どものようだった。
「まさか……あなたが?」
「そう、新たな聖王の器だ」
 見鬼の才を持つものなら、スカリエッティの体を取り巻く光の膜が見えただろう。
 人の想念を具現化する技術を用いて作った魔力の聖王の器。聖王の器の贋作だが、これをかぶったおかげで、聖王の揺りかごは、スカリエッティを聖王と誤認している。
 当初は、スカリエッティ自身が逮捕されてもいいように、別の安全策を講じていたのだが、残念ながらそちらは間に合わなかった。野望実現の為には、スカリエッティ自らが無敵の聖王の器となるしかなかったのだ。
「贋作でも、性能は本物と変わらない。まあ、少しばかり見た目が悪くなってしまったがね」
「なら、あなたを倒せば終わりだね。エクセリオンバスター!」
 なのはが抜き打ちで、魔力砲を放つ。スカリエッティは軽く体をよろめかせただけだった。
 フェイトが踏み込み、ザンバーを振るう。手応えはあるのに、傷一つつかない。
「これが聖王の能力、聖王の鎧だ。あらゆる攻撃を学習し、無力化する。さあ、もっと私に学習させてくれ!」
 スカリエッティが愉悦に満ちた声で言う。
「何が聖王の鎧だ。どう見ても悪魔の甲冑じゃないか!」
「フェイトちゃん、リミットブレイク、行くよ!」
「わかった。魔力ダメージであの鎧を破壊する」
 なのはがブラスターモードを、フェイトが真・ソニックフォームを開放する。
 なのはの周囲に四基のブラスタービットが舞い、フェイトのバリアジャケットがレオタード状の物に変化する。
 フェイトの姿がかき消える。トーレのライドインパルスを超える速度で飛行しているのだ。フェイトのデバイス、バルディッシュが二本の剣、ライオットザンバーに形を変える。
 フェイトはあらゆる角度から、スカリエッティを切りつける。ライオットザンバーの斬撃に鎧の表面に亀裂が走る。
「なのは!」
 フェイトが距離を取った。
 ブラスタービットがスカリエッティを包囲し、魔力をチャージする。
「スターライトブレイカァァー!!」
 まるで瀑布のように、全方位から大規模魔力砲がスカリエッティに降り注いだ。
 床が陥没し、スカリエッティの鎧が砕けていく。威力に耐えかねたかのように、スカリエッティが膝を折る。
「やった!」
 なのはとフェイトは肩で息をしていた。ブラスターモードも真・ソニックフォームも高い威力と引き換えに、著しく体力を消耗する。その上で最大の必殺技を放ったのだ。これで倒せないわけがない。
「素晴らしい技だ。学習させてもらったよ」
「「!」」
 スカリエッティがゆっくりと立ち上がる。破損していた鎧も、すぐに修復される。
「そんな、どうして!?」
 あれだけの攻撃を受けたのだ。スカリエッティには、もう欠片も魔力は残っていないはずなのに。
「不思議かね。では、ヒントだ。私がどうして玉座の機能をここに移したと思う?」
「まさか……」
 答えに思い至り、なのはとフェイトの顔が青ざめる。
「そう、私と駆動炉を直接つないだのだよ。私は今聖王の揺りかごすべての魔力を、この身に宿している。もはや誰にも倒すことはできない」
「そんなことをしたら……」
「ああ、一カ月と生きられないだろうね。だが。それだけ時間があれば十分だ。管理局を破壊し、私の記憶を持ったクローンを作り上げる。それを繰り返せば、私は死なない。誰にも邪魔されず、永遠に研究を続けられる!」
「狂ってる」
 わかっていたが、フェイトは改めて口にせざるを得なかった。
「君たちは頑張った。だが、私の勝利は絶対に揺るがない」
「そんなことない。まだ手はある。ディバインバスター!」
 なのはの魔力砲が駆動炉を狙う。駆動炉を破壊してしまえば、スカリエッティへの魔力供給も止まるはずだ。
 駆動炉が展開した漆黒のバリアが、ディバインバスターを防ぐ。
「対策を立てていないとでも? 駆動炉ももちろん聖王の鎧によって守られている。さて、もう諦めたまえ」
「私たちは絶対に、諦めない!」
 打開策が見つからない絶望的な戦い。なのはとフェイトは、それでもうつむくことなく、スカリエッティに挑んで行った。

 爆音と叫びが、昌浩を覚醒させた。
 なのはとフェイトがスカリエッティと戦っている。余裕で迎え撃つスカリエッティと違い、なのはとフェイトには焦燥と疲労が色濃く出ていた。
 昌浩は自分の胸に手を当てた。深い裂傷があり、鮮血が手を真っ赤に染める。
(そっか。俺、負けたんだ)
 昌浩とヴィータのあらゆる攻撃は無効化された。スカリエッティの放つ光弾が、結界を破砕し、昌浩とヴィータは倒された。
 昌浩に覆いかぶさっているヴィータも、重傷を負っている。昌浩はヴィータをどうにか横に寝かせると、傷口に血止めの符を張っていく。シャマルの回復魔法には遠く及ばないが、止血と痛み止めくらいはできる。
 手当の途中で、ヴィータはうっすらと目を開けた。昌浩の手をつかんで止める。
「……昌浩、私はいいから、お前の手当てをしろ」
 ヴィータは人間よりよほど頑丈に出来ている。手当てをするなら、昌浩が先だ。しかし、昌浩は首を横に振って、儚げに微笑む。
「できないよ。だって、俺、ヴィータに死んで欲しくないから」
「……馬鹿野郎」
 ヴィータは泣きそうな顔で怒る。昌浩の笑顔は、先代の昌浩がヴィータをかばった時に浮かべたものと全く同じだった。
「あんなに説教したのに、お前、ちっとも反省してねぇじゃねぇか」
「ごめん。だから、帰ったら、また説教してよ」
「いいぜ。覚悟しておけよ」
 ヴィータの手当てを終え、昌浩は自分の治療を始める。
 その時、なのはたちの戦いに終止符が打たれようとしていた。スカリエッティが右手を動かすと、赤い光の線がなのはたちを拘束する。カートリッジはまだ残っているが、もう振り払う体力が残っていない。
 普通に戦ってもスカリエッティは倒せない。
 ならば……。
「……スカリエッティ」
 ゆっくりと昌浩が立ち上った。流れ出た血が赤い衣をどす黒く染めている。止血が完全ではないのか、歩くたびに血が滴る。
「昌浩君、動いちゃ駄目!」
「ゆっくり寝ていたまえ。君の体は人造魔導師素体として有効に活用してあげよう」
 昌浩はふらふらと体を左右に揺らしながら、スカリエッティに近づいていく。
「スカリエッティ、今日初めてお前に感謝する」
「おや、出血で気でもふれたかね?」
「お前のおかげで、俺たちは勝てる!」
 昌浩は額から流れる血を拭い去る。その目には、勝利を確信した輝きが灯っていた。

 戦闘開始から、そろそろ三時間が経とうとしていた。
 駆動炉の前で、昌浩とスカリエッティが睨みあう。
「ハッタリにしても笑えないな。満身創痍で、どうやってこの聖王の鎧を破壊する?」
「破壊する必要なんてない」
 昌浩の歩いた軌跡が光り輝く。光は北斗七星を描いていた。素早く呪文を唱え、術を完成させる。
「急々如律令!」
 光の柱が、スカリエッティを包み込んだ。
「ふん。どんな攻撃も無意味……何!?」
 スカリエッティが驚愕する。
 聖王の鎧が少しずつほどけ、消えていく。
「これは攻撃じゃない。浄化だ!」
 人の心から生まれる邪念や穢れを浄化するのも陰陽師の仕事だ。
 スカリエッティの無限の欲望は、聖王の鎧を侵食し汚染した。それなら浄化し消滅させることができる。
 他のナンバーズでは、こうはいかなかっただろう。残忍な性格の者もいたが、どれもスカリエッティが植え付けた紛い物でしかない。
 マスクが消え、スカリエッティの顔が露出する。しかし、鎧が再生を始める。消えるそばから再生し、両者の勢いが完全に拮抗した。
(魔力が足りない)
 昌浩の術が徐々に押し返され始める。
「なのは! フェイト!」
 ヴィータが、ひび割れたグラーフアイゼンを掲げる。
「わかったよ、ヴィータちゃん!」
「昌浩君、これを使って!」
 なのはとフェイトがそれぞれのデバイスを昌浩に投げ渡す。
 左手にレイジングハート、右手にバルディッシュを受け取り、体の前で交差させる。
「カートリッジ、ロード!」
 昌浩の指示で、装填されていたカートリッジがすべて吐き出される。膨大な魔力が昌浩に流れ込み、髪が突風に煽られたようになびく。
 体内を魔力が暴れ狂い、昌浩の口から血が溢れる。
(やばい、意識が……)
 出血で視界が暗くなる。ふらついた昌浩を、後ろから誰かが優しく支えた。
「どうやら、間に合ったようやな」
 夜天の書を携え、翼を羽ばたかせた、はやてだった。
「はやて姉ちゃんに任せとき。リイン!」
「はいです。祝福の風、リインフォースⅡ、行きますです。ユニゾン・イン!」
 リインと昌浩がユニゾンする。昌浩の全身に活力がみなぎり、髪が白銀に、瞳が蒼く、衣は白に、体が光に包まれる。
 黒き翼の堕天使に守られた、光り輝く少年。まさに光と闇を司る陰陽師の体現だった。
『魔力制御完了。いつでも行けます!』
「スカリエッティ。あんたは最高の科学者なんだろう」
 昌浩が言った。
 どんなものも突き詰めれば最高になる。スカリエッティは研究の為に、あらゆるものを傷つけ、他人の命すら平然と犠牲にした。それは最高の一つの姿だ。
「でも、俺は違う。俺が目指すのは、誰も傷つけない、誰も犠牲にしない、最高の陰陽師だ!」
 この力は守るために、救うために使うと誓う。
「やめろ、やめろぉぉぉー!」
 スカリエッティが断末魔の悲鳴を上げる。
「これで終わりだ、スカリエッティ! 急々如律令!!」
 純白の光がスカリエッティを飲み込む。
 光が晴れた先には、すべての力を浄化され、骨と皮だけになったスカリエッティが倒れていた。

 聖王の揺りかごとガジェットの群れが停止する。
 はやてから通信を受け取り、シャマルが晴明を振り返る。
「全員脱出完了。晴明さん、みんな無事です!」
「晴明、最後の仕上げだ」
「わかっているよ、天空」
 晴明は両手を打ち鳴らした。
「謹んで勧請し奉る……急々如律令!」
 神の力を借りて、晴明が術を放つ。
 聖王の揺りかごとガジェットの残骸が、次元の彼方へと強制的に転送される。
 後は次元航行艦隊が、破壊してくれるのを待つだけだ。機能停止した聖王の揺りかごなら、四分の一の艦隊でも容易く破壊できる。
「やれやれ、老体に無茶をさせる」
「私たち、勝ったのね」
 シャマルが感極まって泣き出す。あれだけの死闘を潜り抜け、一人の死者も出していない。まさに奇跡だった。
「私たち、負けたっスね」
 捕縛されたウェンディが、複雑な表情を浮かべる。ナンバーズたちは皆似たり寄ったりの表情だ。
「私たち、これからどうなるんだろう?」
「ま、はやてたちがいるんだ。それほど悪いようにはせんだろう」
 いつの間にか戻ってきたもっくんが、セインの疑問に答える。
「あー」
 もっくんを見るなり、ウェンディ、チンク、セッテ、セインが卒倒する。
「おいこら。人を見るなり気絶するとは、どういう了見だ。お前ら、あれは演技だと言ったろーが!」
 もっくんが憤慨するが、その声は届かない。
 真夏の強い日差しだけが、戦いを終えた勇者たちを見守っていた。

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最終更新:2012年07月16日 22:06