翌日、小鳥遊がバイトに出ると、なのは、佐藤、ぽぷらがフロアで待ち受けていた。
「皆さん、お、おはようございます」
「おう」
「小鳥遊さん」
 なのはが真摯な瞳で小鳥遊を見上げる。奥では、小鳥遊が変な動きをしたら即座に反応できるよう、恭也と美由希がナイフとフォークを構えていた。
「フェイトちゃんは、どうしてジュエルシードを集めているんですか?」
「……ごめん。言えないんだ」
「それはわかってます。でも、小鳥遊さんが協力するってことは、それだけの理由があるんですよね?」
 小鳥遊が理由を言えないのは、フェイトに義理立てているからではなく、本当に知らないからだ。どう答えようか考えあぐねていると、来客を告げるベルが鳴った。
「あ、俺、行ってきます!」
 小鳥遊は逃げるように速足で入口へと向かう。
「いらっしゃいませ。ワグナリアへようこ……」
「おはよう、宗太」
 客は小鳥遊の姉の梢だった。長身の美人だが、まだ日も高いのにお酒の匂いを漂わせ、全体的にだらしない雰囲気がする。職業は護身術の講師。宗太が護身術を扱えるのも、梢の影響だ。
「ここには来るなって言っただろ。梢姉さん」
「宗太が冷たーい。私、お客なのに」
「そうだよ。お客は丁重に持てなさいとね」
 梢の背後から現れたのは、人間形態のアルフだった。耳と尻尾を隠して、Tシャツにジーパンというラフな格好をしている。
「ア、アルフさん!?」
「あれ、宗太、アルフちゃんと知り合いなの?」
「梢姉さんこそ、どうしてアルフさんと?」
「いやー。店の前にいるのを話しかけたら意気投合しちゃって。ねー、アルフちゃん」
「おお、小鳥遊、あんたいいお姉さんがいて幸せだねぇ」
 梢とアルフは肩を組んで笑いあう。
 入口にずっと陣取っているわけにはいかないので、小鳥遊は二人を客席に案内する。騒いでも被害が少ないよう、なるべく端の席に座らせる。
「とりあえず、ビール! じゃんじゃん持ってきて!」
「昼間っから飲むな!」
「おや。お客の言うことが聞けないのかい?」
「くっ!」
 梢一人なら、家族特権で強気に出れるが――ほとんど効果はないが――アルフがいるのでそれもできない。これでは完全に嫌な客だ。
 さっさと酔いつぶして寝かせた方が静かになると判断し、小鳥遊はビールを取りに戻った。その途中で、念話をアルフに送る。
(どういうつもりですか?)
(鈍いねぇ。あんたが不用意なことを喋らないように、監視だよ)
(俺、何も知りませんよ?)
(そんなことないさ)
 小鳥遊の知っているフェイトとアルフの能力をばらされるだけでも、いずれ戦う時に不利になる。
 フェイトは小鳥遊を疑っていないようだが、アルフは違う。いざとなれば、付き合いの長い、なのは、ぽぷら側と結託する危険性があると考えていた。
(どんな些細でも、あんたがフェイトの不利になるようなことを言ったら、その時はガブッといかせてもらうよ)
 アルフが低い声音で恫喝する。
(もう少し信用して下さい。俺は約束を破ったりしません)
(そういう台詞は、証を立ててから言うもんさ)
 小鳥遊は梢のテーブルに大ジョッキに入れたビールを二つ置いた。
「よーし。それじゃあ、今日は飲もう、アルフちゃん!」
「いいねぇ。今日はパーッとやろう、梢ちゃん!」
「ただ飲んで騒ぎたいだけじゃないですよね?」
 すでに宴会モードに入っている二人を見ながら、小鳥遊は静かに溜息をついた。

 店の一角を占拠し、アルフと梢がどんちゃん騒ぎをしている。従業員は梢で慣れているのか、とりわけ大きな反応をしていない。小鳥遊は頭痛を堪えていたが。
「ねえ、恭ちゃん」
「どうした?」
「このお店って、カップル多くない?」
 やたら嬉しそうに美由希が耳打ちしてくる。古今東西、女性は色恋の話が好きだ。
「そうか?」
 恭也に思い当たる節はまったくない。
「ほら、見てよ」
 今オーダーは入っていないので、厨房で佐藤がぼんやりとしている。その視線が自然と八千代を追っている。言われてみれば、佐藤は八千代には優しい。
「それから、ほら」
 伊波がフロアの片隅を指差す。
 仕事をする小鳥遊を、物陰から伊波が荒い息で見つめている。
「ね? 熱い視線でしょ?」
 小鳥遊はミニコンを治す為、伊波は男性恐怖症を治す為、なるべく一緒にいるよう杏子に指示されている。
 最初は犬猿の仲だったのだが、殴る伊波に小鳥遊が我慢強く付き合い続けた。やがて伊波家の問題を小鳥遊が解決し、それがきっかけとなって伊波は小鳥遊に惚れてしまった。
「きゃあああああああ!」
 後ろを振り返った小鳥遊に、伊波が殴りかかっていく。小鳥遊が店の奥へと飛んでいく。どんな鍛え方をしたらあんな腕力がつくのか、恭也は教えて欲しいくらいだった。
 小鳥遊の技量なら防御くらいできそうなものだが、どういうわけか常に無抵抗で殴られている。
「きっと今のは照れ隠しだね。伊波さん、可愛い」
「俺には獲物を前に舌なめずりしている猛獣にしか見えん」
 殴られる恐れがないせいか、美由希の伊波の評価はやけに甘いようだった。
「そう言えば伊波さんって、私を見るたびに、悲しそうな顔するんだよね。何か悪いことしたかな?」
 美由希が首を傾げる。まさか美由紀の胸を見るたびに、スレンダーな伊波が敗北感に打ちひしがれているとは夢にも思っていなかった。
「あー。腹減ったなぁ」
 杏子がフラフラと恭也たちの背後を通り過ぎる。初日に宣言した通り、杏子はこれまでほとんど仕事をしていない。
「八千代ー。パフェ」
「はい、杏子さん。ただいまお作りします」
 八千代が慣れた様子でパフェを杏子に差し出す。ちなみに今日これで五杯目だ。他にもせんべいなど、ひっきりなしに食べている。どれだけ巨大な胃袋なのだろうか。
 パフェを食べる杏子を、八千代はうっとりと眺めている。
「あの二人、十年来の付き合いなんだって。ラブラブだね」
「……女同士だぞ?」
「だから?」
 美由希はこともなげに言う。
「あ、でも、そうなると、佐藤さんと三角関係か。うわ―。恋愛小説みたい」
 美由希まで赤い顔で喜んでいる。
「仲がいいと言えば……」
 これ以上踏み込んではいけない気がして、恭也は厨房に目を向ける。
「彼らも仲がいい……な!?」
 厨房の中で、相馬が山田をおぶっていた。いや、おぶっているのではなく、山田が無理やりしがみついているようだ。
「山田を、山田を甘やかしてください! 甘え界のホープ、や、ま、だ!」
「山田さん。仕事ができないんだけど」
 相馬は迷惑そうにしているが、山田はまったく気にせず同じ台詞を連呼している。
「恭ちゃん。あれは恋愛じゃないよ」
「……そのようだな」
 直球過ぎるが、妹が兄に甘えるような感じだ。もちろん美由紀となのはがあんな甘え方をしたことはない。
「で、誰から聞いたんだ?」
 美由希は恋愛に聡い方ではないので、情報源がいるはずだ。
「ばれちゃったか。山田さんだよ。八千代さんと白藤店長って仲がいいねって言ったら、この店の恋愛模様を全部教えてくれた」
 佐藤にばれたらお仕置きを受けるだろうが、自業自得だろう。
 ふと美由希が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ねえ、私となのはに彼氏が出来たらどうする?」
「お前はともかく、なのはは早すぎるだろう」
「そんなことわからないよ。女の子は早熟なんだから」
「確かに大人びているが、さすがに恋人となるとな」
 恭也は時々、なのはが小学三年生だと忘れそうになる。なのはだけではなく、友人のアリサとすずかも年齢以上にしっかりしているので、尚更だ。いくら子供っぽいとはいえ、高校生のぽぷらとなのはが対等の関係を築いているのがその証拠だろう。
「なのはちゃーん!」
「ぽぷらちゃん、どうしたの?」
 ぽぷらがなのはに泣きつく。
「さっきのお客さんがね、『君、中学生?』だって!」
「ぽぷらちゃん、高校生なのに失礼しちゃうね」
 よしよしとぽぷらを慰めるなのは。確実に間違っている光景だ。
 しかし、どんなに大人びていても、なのはには親しい男友達がいないので、恋人のいる状態が想像しにくい。
「あ、それなら、ユーノ君は? ユーノ君を人間の男の子だと考えてみたら?」
「蛙じゃなくて、フェレットの王子様か。ファンタジーだな」
 恭也は苦笑しながらも、もしユーノが人間だったらと考えてみた。
 きっと金髪の可愛い男の子だろう。何故かパーカーに半ズボン姿まで詳細に想像できた。
 なのはとユーノが二人で手をつないで歩いている光景を思い浮かべてみる。
(うん。なかなかお似合いだな)
 なんだか楽しくなってきて、恭也はさらにユーノを人間に置き換えてみる。
 二人で一緒に食事をし、お風呂に入り、同じ部屋で寝る。この前、ユーノがなのはの頬を舐めていたが、あれはつまりキスということか。
「…………美由希、ここ任せていいか?」
「どこ行くの?」
「ちょっとあのフェレットを三枚に下ろしてくる」
 恭也の両手にはいつの間にか、二刀の小太刀が握られていた。
「ねえ、どこから刀を出したの? さっきまで持ってなかったよね!?」
「じゃあ、すぐ戻る」
「待って! 今のはただの空想だから! ユーノ君はただのフェレットだから!」
「放せ、美由希! 男には殺らなきゃいけない時があるんだ!」
「それ、前に私の使った台詞!」
 血気にはやる恭也を美由希が押しとどめる。その姿を、客たちが諦めたように眺めていた。すでに二人とも、ワグナリアの変人リストに名を連ねていることに、当人たちだけ気づいていなかった。
 その頃、音尾の家では、ユーノが得体の知れない悪寒に襲われていた。

 時空管理局所属、L級次元巡航船アースラ。
 艦長室の赤い敷物の上で、リンディは静かに緑茶を湯呑に注いでいた。緑茶の中に大量の角砂糖を投入し、おいしそうに飲む。
『どうもー』
 そんなリンディの横に通信画面が開いた。ただし、画像は真っ黒で何も映っていない。聞こえてくる声も音質が悪く、会話に支障はないが、相手の年齢どころか性別さえも判別できそうにない。怪しさ満点の通信だった。
「あら、久しぶりね。元気にしてた?」
 しかし、リンディはにこやかに通信画面に話しかける。
『ええ、それはもう。実は今日はお願いがありまして』
「あなたがお願い? 珍しいわね」
 リンディは姿勢を正した。ただ事ではなさそうだ。
『地元の知人が厄介事に巻き込まれてしまって、解決して欲しいんです。ロストロギア絡みと言えば、興味がおありでしょう?』
「ええ。もちろん。詳しく聞かせて欲しいわ」
『名称はジュエルシード。数は全部で二十一個。使い方次第では、次元震どころか、次元断層すら引き起こす危険な物です。これを二人の魔導師が奪い合っています』
 次元震と聞いて、リンディの顔が険しくなる。下手をすれば、幾つもの次元世界が滅びかねない。
「他に情報は?」
『奪い合いをしている魔導師の写真は後で送ります。でも、俺が教えられるのはその程度ですね』
「どうして?」
『巻き込まれた知人が二派に分かれてしまって、どちらかに肩入れするわけにはいかないんですよ。こちらに来れば、すぐにわかると思いますので、それじゃあ、よろしくお願いします』
 通信画面が消えると同時に、艦長室の扉が開く。入ってきたのは、黒いロングコートを着た少年だった。リンディの息子、クロノだ。
「母さ……艦長、今、謎の通信が。一体誰からですか?」
「そうね。一言でいえば情報屋さんかしら」
「情報屋? 魔導師ですか?」
「いいえ。次元移動したこともない一般市民よ」
「それがどうして僕らのことを知ってるんです?」
「さあ、どうしてかしらね。それより任務です。アースラはこれより第97管理外世界『地球』北海道へと向かいます」
 アースラは進路を北海道へと向けた。

 ワグナリアで、相馬は一人携帯電話をロッカーにしまう。やたらとごつい、まるでトランシーバーのような携帯電話だった。
 山田が休憩室に入ってくる。まだ休憩時間ではないはずなので、さぼりだろう。
「おや、相馬さん。どなたに電話を?」
「うん。昔の知り合いにね」
「えっ? 相馬さんにお友達がいたんですか? かわいそうまさんのはずなのに?」
「勝手に可哀想にしないでもらえる? さてと仕事に戻ろうかな」
 相馬は笑みを顔に張り付けたまま厨房に戻っていった。

 その日の夕方からジュエルシード集めが始まった。
 森の中で、怪鳥が羽ばたく。
「ぽぷら、右だ!」
「必殺ぽぷらビーム!」
 敵の飛ぶ先を佐藤が予測し、ビームが怪鳥を貫く。
 怪鳥が鳥とジュエルシードに分離する。
「ジュエルシード封印っと。やったね、佐藤さん」
 ぽぷらはジュエルシードを拾い上げる。
 ぽぷらが使える魔法は、飛行と直射型ビーム、念話だけだ。防御はバリアジャケットのみという貧弱さだが、そこはスピードと佐藤が敵の行動を予知することでカバーしてくれていた。
 今日はほとんど縮んでいない。初戦では常に最大出力のビームを撃ってしまったので、あっという間に縮んでしまったが、最近では威力の調整もできるようになり、戦闘持続時間も延びていた。
「これで今日の仕事は終わりだな、ぽぷら」
「佐藤さんって、普段は種島って呼ぶのに、変身してる時だけぽぷらって呼ぶね。どうして?」
 ぽぷらが不思議そうに佐藤の顔を覗き込む。
「当り前だ。変身してる時は、魔法少女が名字で、ぽぷらが名前なんだから。なのはと被るから名字では呼べん」
「そうなの!?」
「そうだ。つまり、変身したなのはを英語名風に表記すると、なのは・リリカル・魔法少女になる」
「リリカルってミドルネームだったんだ」
「略すと、なのは・R・魔法少女だな」
「佐藤さん。リリカルの頭文字はLだよ」
「……略すと、なのは・L・魔法少女だな」
「何事もなかったかのようにやり直した!」
「さっさと戻るぞ」
 佐藤は少し赤い顔をしていた。

 住宅街の片隅で、まだ発動していないジュエルシードを前に、なのはとフェイトは向かい合っていた。
 なのはは唾を飲み込む。休戦条約はかわしているが、前は同じ状況で、問答無用で戦闘になった。どうしても身構えてしまう。
 フェイトがバルディッシュを左手に、ゆっくりと近づいてくる。
(左手?)
 フェイトの利き手は右だったはずだが。
 フェイトが無造作に右拳を突き出し、
「じゃんけん」
「へっ?」
「ぽん」
 反射的に、なのははグーを出した。フェイトはチョキだ。
「……私の負け」
 フェイトは意気消沈して去ろうとする。
「待って!」
 約束を守ってくれたことが嬉しくて、なのはは思わずフェイトを呼び止めていた。
「何?」
「もし良かったら、私たち、友達になれないかな?」
 なのはは自然とそんな言葉を紡いでいた。
「……さよなら」
 しかし、フェイトは最後まで聞かずに飛んで行ってしまう。

 夜も深まり、フェイトは集合場所に帰ってきた。
 アルフも小鳥遊もまだ戻っていない。
「あの子は……どうして」
 なのはの顔を思い出す。敵である自分と友達になりたいと言う少女。どうしてそこまで他人の為に必死になれるのか、フェイトには理解できない。
「ただいま」
「フェイト~。こいつ、何とかしておくれよぉ」
 小鳥遊と一緒に帰ってくるなり、気味悪そうにアルフがフェイトの後ろに隠れる。アルフには魔法の知識のない小鳥遊についてもらっていたのだ。
「どうしてですか? 可愛いじゃないですか」
 小鳥遊は両手に目玉のついた綿飴のような物体を抱えていた。暴走したジュエルシードだ。魔法で小さくされて、小鳥遊に頬ずりされている。
 ジュエルシードは悲鳴を上げて嫌がっていた。
 小鳥遊の攻撃魔法は縮小のみで、ジュエルシードの封印はできない。
「ジュエルシード封印」
「ああ、酷い!」
 フェイトがいきなりジュエルシードを回収する。フェイトも少しだけかわいいと思ったのは内緒だ。
「アルフ、小鳥遊さんはどうだった?」
「う~ん。とにかく偏ってるねぇ」
 アルフが困ったように頭を描いた。
 防御は鉄壁だが、縮小魔法は射程距離が短く、飛行速度も遅い。相手がスピードで勝っていた場合、追いつく術がない。
 今夜の戦いでも、逃走しようとするジュエルシードに置いて行かれそうになり、アルフがバインドで足止めしてどうにか捕獲できたくらいだ。
 高速戦闘を得意とするフェイトとは真逆の能力だ。小鳥遊の当面の課題は、スピードアップと補助魔法の習得になるだろう。
「フェイトの方はどうだったんだい?」
「ごめんね。私はじゃんけんに負けちゃった」
「フェイト~。そんな約束守らなくても……」
「いいんだよ。私も母さんの為に早く集めたいし」
「母さん?」
 小鳥遊の疑問に、フェイトとアルフは顔を見合わせる。
「ちょうどいいかも」
「フェイト、まさか」
「うん。小鳥遊さん、明日、時間ありますか?」
「朝ならバイト入ってないけど」
「よかった。じゃあ、明日、母さんに会ってもらえますか? 小鳥遊さんと協力するように言ったのって、母さんなんです」
「わかった。フェイトちゃんのお母さんか。きっと優しい人なんだろうね」
 フェイトの頭を撫でながら承諾する。小鳥遊の言葉に、アルフは複雑な面持ちをしていた。
「それじゃあ、アルフ帰ろうか」
「先に行ってておくれ。あたしは少しやることが」
「? わかった。じゃあ、先に帰るね」
 フェイトは一足先に隠れ家に帰っていった。
 二人きりになり、アルフは小鳥遊に指を突きつける。
「単刀直入に訊くよ? フェイトのことをどう思ってるんだい?」
 アルフにはどうしても不安なことがある。もし小鳥遊がフェイトに邪な感情を抱いているようなら、ここで倒しておかないといけない。
「どうって?」
「どうもこうもない。あんた、フェイトと恋人になりたいなんて考えてんじゃないだろうね?」
「まさか。むしろ父親になりたいです」
「はっ!?」
 返答は、アルフの想定のはるか斜め上だった。
「ええと……つまり……付き合うつもりはないってことだね?」
 どうにかそこだけ理解する。
「だから、そう言ってるじゃないですか」
「……なら、いいのかな?」
 釈然としないものはあるが、アルフは無理やり自分を納得させた。
「その言葉、忘れるんじゃないよ!」
 捨て台詞を残し、アルフもフェイトを追って夜空に消える。
 小鳥遊にとって、ちっちゃいものはすべて愛すべき対象である。子供だろうと、小動物だろうと、虫だろうと、ミジンコであろうとそれは変わらない。
「さすがにミジンコと付き合えるわけないでじゃないですか」
 もし最後の言葉を聞かれていたら、小鳥遊は今頃土の下に埋められていただろう。

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最終更新:2012年08月23日 23:24