アースラブリッジで、リンディは息子クロノの戦いをモニター越しに見つめていた。栗色の髪の女の子は、情報屋が送ってきた写真と合致する。小鳥遊と呼ばれた男が、情報屋の知人なのだろう。
『惜しい!』
拘束されたままの小鳥遊が、無念の表情でクロノを見る。
『はっ?』
『ものすごく惜しい!』
クロノは小鳥遊が何を言っているのか全然理解できない。
小鳥遊基準では、紙一重で年増にカテゴリーされてしまったのだ。見た目は少年でも、実年齢は十四なので間違ってはないのだが。
大好物を食べようとしたら、昨日で賞味期限が切れていたような、がっかり感を小鳥遊は味わう。せめて後数カ月早く会っていたら、ちっちゃいものの方にカテゴリーされていただろう。それほどわずかな差だった。
『馬鹿なこと言ってないで、逃げるんだよ!』
アルフが小鳥遊の拘束を破壊し、戦場から離脱しようとする。
『逃がすか!』
クロノの放つ魔力弾を、小鳥遊たちはぎりぎりで回避する。アルフがフォトンランサーを手当たり次第炸裂させ、周囲が爆煙で埋め尽くされる。
『待って!』
『邪魔をするな!』
モニターが煙に遮られ、音声だけが途切れ途切れに伝わってくる。
どうやら小鳥遊たちを追いかけようとするクロノを、栗色の髪の女の子が止めているようだ。
煙はまだ晴れない。やがてクロノがやや不機嫌な様子で通信を送ってきた。
『すいません、艦長。二人逃がしました』
「構いません。まずはそちらのお二人から事情を聞きましょう。アースラに案内して」
『了解』
返事をするクロノの声がいつもより高く聞こえ、リンディは眉を潜めた。
「クロノ執務官、喉をどうかしましたか?」
『特に問題ありませんが?』
ようやくモニターの煙が晴れる。そこに映っていたものを見て、リンディは思わず立ち上った。
「ク、クロノ執務官!」
クロノは怪訝な顔で、自分の手を見下ろす。ぷくぷくとした子供の手だった。
『な、なんじゃこりゃああああ!』
クロノの姿は三歳くらいの幼児のものになってしまっていた。
なのははぽぷらたちと合流し、アースラへと招かれた。
簡単な検査を済ませた後、クロノの案内で通路を歩いていく。クロノの歩幅が小さくなってしまったので、進行はゆっくりとしたものだった。
おそらく逃走時に小鳥遊が苦し紛れに放った魔法に当たったのだろう。クロノ、痛恨のミスだった。あるいは小鳥遊の執念の産物か。
通路の途中で、なのはがユーノに質問した。
「ねえ、時空管理局って何?」
「簡単に言ってしまえば、僕らの世界の警察かな。次元世界の法と秩序を守っているんだ」
手の平サイズの佐藤がクロノの隣に並び声をかけた。
「もう変身を解いてもいいか?」
「ああ、構わない」
クロノは心ここにあらずといった様子で返事をする。いきなり幼児の姿にされてしまったのだから、仕方ないだろう。装備も全て肉体相応に縮んでいる。
なのはとぽぷらが変身を解除し、佐藤も元の大きさに戻る。
「それじゃ、僕も」
ユーノが光に包まれ、金髪の男の子の姿に変身する。
「……ユーノ君、その姿は?」
なのはもぽぷらも目を丸くして驚く。
「あれ? なのはには前に見せたことなかったっけ? これが僕の本当の姿なんだ」
なのはは首を左右に振る。
「おい、その話はひとまず横に置いておけ。着いたみたいだぞ」
佐藤が注意する。
着いた先は艦長室だった。クロノと共に一行は入室する。
中では、リンディが人数分のお茶とお菓子の用意をして待っていた。赤い敷物の上で、なのはたちとリンディが向かい合って座る。
互いに自己紹介を済ませると、リンディが各人から事情を聴いていく。それを終えると、リンディは深々と溜息をついた。
「どうやら、あなた方はジュエルシードの危険性を理解していないようですね。でなければ、そもそもジュエルシードの魔導師と共闘など考えないはずです」
「どういうことですか?」
ユーノが真剣な顔で尋ねる。
「あれは次元干渉型エネルギー結晶体。使い方次第では、次元震や次元断層すらひきおこす危険なものだ。もしかしたら、君たちのせいで世界がほろんでいたかもしれないんだぞ」
答えたのは壁際に立っていたクロノだった。話の内容はシリアスだが、三歳児の外見と舌足らずな声では台無しだった。
「クロノ執務官。説明は私がします」
リンディが咳払いして場の空気を整える。そして、クロノの姿を見て困り顔になる。
「それにしても、縮小魔法の使い手ですか。厄介ですね」
「すいません。不覚を取りました」
クロノは、心底情けなさそうだった。
「あ、でも、魔力を注げば元に戻るはず」
「それが駄目なんです」
ぽぷらの意見に、リンディは首を振る。
検査の結果判明したことだが、ぽぷらと佐藤が縮む際には、ただ全体的に小さくなるだけで、頭身、体の比率などに変化はない。しかし、小鳥遊の魔法で縮んだクロノは、肉体が若返っている。似ているようで原理がまったく違うので、ぽぷらの方法は通用しない。
リンディも機会があれば、少しかけて欲しいくらいだった。
アースラスタッフが総出で解呪方法を探しているが、おそらく小鳥遊本人でなければ解けないだろう。
「本来なら、後は私たちに任せてと言いたいところだけど……」
現在のクロノは、三歳の頃の筋力と魔力しかない。クロノの才能と経験があれば末端の隊員程度の働きはできるが、フェイト、アルフ、小鳥遊を相手にするには心もとない。いきなりアースラの切り札が封じられた形だ。
今から増援を手配して果たして間に合うかどうか。
「あの、私たちに協力させてもらえないでしょうか?」
なのはが提案した。
これで面倒事から解放されると思っていた佐藤が顔を引きつらせる。
「このまま黙って見ているなんてできません。フェイトちゃんは友達だから」
「……断ることはできないわね。切り札を失った以上、こちらも手札が多いに越したことはないから」
「艦長、まさか彼女も使うつもりですか!?」
クロノがぽぷらを示す。
「ええ、向こうがジュエルシードの魔導師を使ってくるなら、こちらも対抗策がいります。これまで何度も戦闘をしているのだから、暴走の心配は多分ないのでしょう」
少しでも危険な兆候があれば、すぐにジュエルシードを封印することを条件に、リンディが許可を与える。
「ありがとうございます!」
「そうだよね。最後まで頑張ろうね、なのはちゃん」
礼を言うなのはに、息巻くぽぷら。
「それじゃあ、四人ともお願いします。今日はアースラに泊っていって。エイミィ、彼らを部屋に案内して」
「はいはーい。」
リンディに呼ばれ、青い制服を着たショートカットの女の子が扉を開けて入ってくる。エイミィは壁に立つクロノを見るなり、奇声を発した。
「クロノ君、可愛いー!」
「エ、エイミィ!」
エイミィが駆け寄ってクロノを抱き上げる。
クロノはごついロングコートのようなバリアジャケットを着ているのだが、小さくなったことで、全体的に丸っこいシルエットになっている。それがまるでぬいぐるみのような愛くるしさを放っていた。
「モニター越しでも可愛かったけど、実物はもっと可愛いー!」
「あ、エイミィずるい。私もー!」
これまでは艦長の威厳を保つため、我慢していたのだろう。リンディも反対側からクロノを抱きしめる。
クロノが必死にもがくが、三歳児の筋力で抗えるはずもない。
「佐藤さん、ミニコンってどこの世界にもいるんだね」
「そのようだな」
客人などそっちのけではしゃぐリンディたちを、佐藤たちは遠巻きに見守る。誰もクロノを助けようとはしない。
「お待たせしてすいません。こちらになります」
ややあって、艦長室の異変を察知したオペレーターAが、疲れた顔でなのはたちを部屋に案内してくれた。
その頃、小鳥遊の自室で、小鳥遊とアルフは、フェイトに今日起きたことを報告していた。
「そう、時空管理局が……」
報告を聞き終え、フェイトが思案する。
「これ以上はやばいよ。もうやめよう?」
「ううん。もうちょっとだから」
「でも、後七個もあるんだよ?」
探している間に捕まってしまう公算の方が高い。
「これだけ探しても見つからないってことは、多分海の中だと思う。ちょっと危険な賭けになるけど、残りを集める方法ならあるから」
フェイトは小鳥遊に向き直る。
「宗太さんの家の場所って、佐藤さんと種島さんは知ってますか?」
小鳥遊家には、かつてのフェイトたちの隠れ家と同様に二重、三重に探知を妨害する結界が張ってある。いくら時空管理局でも、魔法での発見は当分心配しなくていい。
「いや。知ってるのは伊波さんと山田、後は店長くらい。でも、調べればすぐばれるよ?」
「なら、平気です。時空管理局も今すぐには動かないはず。今日はゆっくり休みましょう。明日ですべての決着をつけます」
フェイトはきっぱりと宣言した。
深夜、リンディの元に通信が届いた。
「こんな時間にかけてくるなんて、少し非常識じゃないかしら? 相馬君」
『すいません。ちょっと急を要したもので』
リンディが通信画面を開くと、ワグナリアスタッフ相馬博臣の顔が映し出される。
「今日は携帯じゃないのね」
『今回はデータを送らないといけないので、パソコンからです。ところで、あの携帯、もう少しどうにかなりませんかね? ごつくて持ち運びには不便だし、音質が悪くて会話しづらいし』
「それは開発部にお願いしてちょうだい」
情報屋の正体は、相馬だった。あの怪しい通信は一応わざとではない。
魔力を持たない普通の人間のはずなのに、相馬の情報網は時空管理局の内部に深く食い込んでいる。次元間通信を可能にするあの携帯電話も、時空管理局から特別に貸与されたものだ。
リンディも任務の際に、何度か相馬の情報の世話になったことがある。
「それで、何かわかったの?」
『はい。どうやら事件の首謀者は、フェイト・テスタロッサの母親、プレシア・テスタロッサのようですね。詳しいデータは今そちらに送っています』
「助かるわ」
テスタロッサの名から、プレシアまでは割り出していたのだが、情報のガードが堅く少し苦戦していたのだ。
送られてきたデータにざっと目を通し、リンディは顔を険しくした。
「この名前……」
『はい。プレシアの娘は一人だけ。名はアリシアで、フェイトじゃありません。しかもすでに鬼籍に入っています』
相馬が職場で知り合ったフェイトは、素直ないい子だった。いずれ彼女が真実を知ることになるかと思うと、相馬は陰鬱になる。
「どういうこと?」
『おそらくこれが関係しているでしょうね』
次のデータは、プロジェクト・フェイトと名付けられた人造生命の研究だった。
目を通し、リンディも相馬と同じく陰鬱になる。
「後味の悪い事件になりそうね」
辛い現実と相対する覚悟はできている。しかし、少しでもよい未来を選ぶ為に、リンディはこの仕事を選んだ。
この事件を悲劇では終わらせないと、リンディは固く誓っていた。
アースラであてがわれた部屋にて、佐藤は煙草を吸っていた。
「この事件、いつになったら終わるんだろうな」
佐藤の能力は、直前か十年後のことしか予知できない。しかも十年後の予知は、なのはたちだけ。どうやら魔力資質が高い者ほど、遠くまで予知できるようだ。
だから、佐藤にもこの事件の結末はわからない。肝心なところで役に立たない能力だ。
その時、扉がノックされた。佐藤が促すと、人間の姿になったユーノが入ってくる。
「夜分遅くにすいません、シュガー」
「そのネタ、まだ覚えてたのか。変身してない時は佐藤でいい。どうでもいいが、お子様は寝る時間だぞ」
「大事な話があるんです」
ユーノは佐藤の前の椅子に腰かける。佐藤は煙草の火をもみ消した。
「気にしないでください。僕の部族でも煙草を吸う人はいましたから慣れっこです」
「さすがに本当のお子様の前では吸えん」
「優しいんですね」
ユーノに笑いかけられ、佐藤は苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「それで、話ってのは?」
「なのはのことです」
佐藤とぽぷらが初めて変身した時、佐藤はなのはが悪魔と呼ばれる女になると予言した。ぽぷらもなのはもすっかり忘れているようだが、ユーノはそれがずっと気がかりだったのだ。
「佐藤さんが予知した未来、詳しく教えてくれませんか?」
ユーノも最初は佐藤の勘違いだろうと思っていた。しかし、これまでの戦闘で、佐藤の予知は、確実だと証明された。そして、それは回避可能な未来なのだということも。
「……お前と高町妹の仲は、十年後もまったく進展ないままだ」
ユーノが派手にずっこける。
「佐藤さん、そういう話をしてるんじゃ……。しかも、まだ高町妹なんですね」
「興味ないか?」
「ありますけど……」
ユーノが少し赤くなっている。ユーノがなのはを好きなことなど、片思い歴の長い佐藤には丸わかりだ。
「まあ、それはさておき」
佐藤はどう説明したものか、顎に手を当てて考え込む。
「十年後の高町妹は、キャリアウーマンと言うか、仕事だけが生きがいの生粋の軍人って感じだったな。多分時空管理局に所属してる」
「やっぱり」
偶然出会っただけのユーノを助け、敵であるフェイトと友達になっていることからも明らかなように、なのはは困っている人を放っておけない。
天才魔道師であるなのはが、時空管理局で仕事をすれば、より多くの人を助けられる。将来的になのはが時空管理局に所属するのは当然の帰結だった。
「なのはは幸せそうでしたか?」
ユーノは不安そうに訊いた。
「お前たちの切り札、スターライトブレイカーだったな」
「そうですけど?」
それは最近ようやく完成した、なのはが決戦様に用意した魔法だ。同じくぽぷらも新技を用意している。
魔力を集束していく様が流星に似ていることから、スターライト(星の光)と名付けられた。何故ここでその技名が出てくるのか、ユーノにはさっぱりわからない。
「何というか、高町妹にぴったりの名前だな」
流星には、願い事を叶える力があると伝えられている。なのははまさにそれだった。
誰かの願いを叶える為に、その身を炎に焼かれながら飛び続ける流星。一瞬で燃え尽きてしまう儚くも美しい輝き。
「放っておいたら、どこまでも遠くに行ってしまいそうな、危うい感じだった」
「なのはが死ぬようなことがあれば、僕のせいです。僕がなのはを魔法使いなんかにしたから」
「あいつはお前に感謝してるんじゃないか? 望む将来が選べたって」
「でも……」
「責任を感じるんなら、お前があいつを引き止めてやればいい。さっき言ったろ。十年後、お前たちの仲は進展していないって。恋人でもいれば、あいつもそう無茶をしないかもしれん」
「佐藤さん…………耳まで真っ赤ですよ?」
「やかましい!」
柄にもなく臭いことを言ったと、佐藤は後悔していた。
ユーノの顔にわずかだが笑顔が戻ってくる。
「そうですね。僕、少し頑張ってみます。事件が解決したら、なのはに告白します」
「高町妹は強敵だぞ。せいぜい頑張れ」
八千代と同じレベルで恋愛には鈍そうだ。振り向かせるのは並大抵ではない。
「ありがとうございます。おかげで元気が出ました。それじゃあ、お休みなさい」
ユーノが退室するのを見届け、佐藤は煙草に火をつける。
他人の恋愛を応援するなど佐藤の柄ではないし、そもそも四年間も行動を起こしていない自分に何かを言う資格などないのだ。
「俺も頑張らないとな」
考えるだけで胃が痛くなる。佐藤はもう一本煙草をくわえた。
「あ、そうだ」
ユーノが慌てて部屋に戻ってきた。
「応援してくれたお礼に、佐藤さんに一つ教えてあげます」
ユーノは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「佐藤さんは種島さんが発動させたジュエルシードに割り込みましたよね。普通そんなことできません。それができたってことは、佐藤さんが種島さんを助けたいってすごく強く願った証拠なんです」
「つまり?」
「つまり佐藤さんにとって、種島さんは自分の命を犠牲にしても構わないと思えるほど、大事な人ってことです」
佐藤が盛大にむせる。
「それじゃあ、佐藤さんも頑張ってください」
「好き放題言って行きやがって」
佐藤はユーノが出て行った扉を忌々しげに睨みつける。心の中では、ユーノが投じた一石が静かに波紋を起こしていた。
翌日、フェイトたちは家を出ると、海へと一直線に向かった。空は雲に包まれ薄暗い。海も波が荒く不吉な印象を醸し出している。
ワグナリアには、小鳥遊の代わりに妹のなずなに行ってもらった。とにかく飲み込みが早く要領がいいので、仕事振りも身長同様、小鳥遊に比肩する。
その成長の早さが、ミニコンの小鳥遊の悩みの種になってしまっているのだが。
「宗太さん。お願いします」
「わかった。やってみるよ」
小鳥遊はフェイトに事前に説明されたとおり、ジュエルシードに意識を集中させ、脳裏に好きな物を思い描いていく。
「子供……子犬……子猫……」
小鳥遊の欲望に反応して魔力がだんだん高まっていく。
バルディッシュに搭載されたジュエルシードが、小鳥遊の魔力に反応してカタカタと揺れ動く。フェイトは自分の考えが正しかったと、確信する。
ジュエルシードは最初、海鳴市周辺にばらまかれたはずだった。それがいつの間にか北海道へ移動していた。北海道にジュエルシードを引き寄せる何かがあるのだ。
これまで集めたジュエルシードの場所を確認すると、一直線にワグナリアを目指しているようだった。
決定的だったのは、伊波が拾ったジュエルシードだ。あれだけ店の近くにあって、フェイトが入店時気づかないはずがない。あれはフェイトの後からやってきたのだ。
ワグナリアでジュエルシードを引き寄せる存在など一つしか思いつかない。どうやらジュエルシードの波長と、小鳥遊の欲望の波動は非常に相性が良いようだ。名づけるなら、ジュエルシードの申し子と言ったところか。
「ミジンコー!」
小鳥遊の魔力がさらに高まる。呼応するように、海からジュエルシードが現れ、徐々に数を増やしていく。
アルフが出現した七個のジュエルシードを拾い集める。
「宗太さん、お疲れさま」
フェイトに差し出されたハンカチで、小鳥遊は額の汗を拭う。ジュエルシードを引き寄せる作業は、小鳥遊にかなりの消耗を強いていた。
「これで全部か」
しかし、フェイトの表情は暗かった。ジュエルシードの回収を終えた以上、残された道は一つしかない。
「来た」
すぐ近くで空間転移の反応。なのは、ユーノ、ぽぷら、佐藤が現れる。
「フェイトちゃん、ワグナリアでの時間、楽しかったね」
懐かしむようになのはが言った。
「うん。楽しかった」
短い間だったが、フェイトにしてみれば、久しぶりの心穏やかな日々だった。でも、いつまでも優しい時間に浸ってはいられない。約束を果たす時が来たのだ。
フェイトとなのはが空中に十九個のジュエルシードを浮遊させる。小鳥遊とぽぷらの分を合わせて二十一個。全てのジュエルシードがここに集結した。
「これが終わらないと、私たちは先に進めない」
「うん。だから、決着をつけよう。それが最初からの約束だから」
なのはがレイジングハートを、フェイトがバルディッシュを構える。この戦いに勝った方が全てのジュエルシードを手に入れる。
決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。
最終更新:2013年01月19日 22:03