その日、ミッドチルダの時空管理局地上本部では、公開意見陳述会が行われていた。
 会議開始からすでに四時間が経過し、雲の多い空は夕暮れの紅から、夜空の藍色へと変わりつつある。
 地上本部の外周部を、茶色い制服を着た二人の少女が歩いていた。
 機動六課スターズ分隊所属、青い髪をしたボーイッシュな少女スバル・ナカジマと、オレンジ色の髪をツインテールにした勝気な瞳の少女ティアナ・ランスターだ。
 機動六課は、他の部隊と共に会場の警備任務に就いていた。スバルとティアナは、緊張した面持ちで見回りを続ける。
 聖王教会の騎士カリムの預言では、公開意見陳述会が襲撃されると出ている。
 おそらく犯人は、稀代の科学者にして、広域指名手配されている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティだ。ガジェットドローンと呼ばれる無人兵器群と、機械と人間の融合によって高い能力を得た戦闘機人を配下に従えている。
 これまで機動六課とはロストロギア、レリックを巡って幾度も戦ってきた。
 実はスバルの正体も戦闘機人だ。製作者はスカリエッティではないが、この巡り合わせに何か因縁めいたものを感じていた。
「おい、お前たち。そっちはどうだ?」
 赤い髪を二つの三つ編みにした、鋭い目つきの小さな少女がやってくる。スターズ分隊副隊長のヴィータだ。ヴィータの肩には、手の平サイズの少女、ユニゾンデバイスのリインフォースⅡが腰かけ、後ろにはライトニング分隊の二人が控えていた。
 明るい雰囲気の少年がエリオ、大人しい雰囲気の少女が竜召喚師のキャロだ。
「異常ありません」
「今のところ、どこも異常ないみたいです」
 青い髪を腰まで伸ばした女性も、スバルたちと合流する。陸士108部隊から機動六課に出向しているスバルの姉、ギンガだ。
「このまま何事も起こらなければいいんですが」
『未知の高エネルギー反応確認! 敵戦力は推定AAAランクが三人です』
 機動六課ロングアーチスタッフ、シャーリーから、敵出現の連絡があったのは、その直後だった。
「未知のエネルギー? 戦闘機人か?」
 ヴィーが訊いた。戦闘機人は魔力とは異なるエネルギーを使用する。
『違います。魔力反応に似ていますが、これまで観測されたことがないものです。ガジェットの反応もありません』
「スカリエッティじゃないのか?」
 スカリエッティが関わっているなら、大量のガジェットが現れるはずだ。ガジェットに搭載されたAMFによって、相手の魔法を妨害するのが奴らの基本戦術だ。
 ヴィータは周辺の地図を投影する。三人の襲撃者はまったく別方向から一直線に地上本部を目指していた。
 ヴィータは敵の正体を詮索するのを後回しにする。どうせ誰であろうと、敵ならば倒さなければならないのだ。
「三人か。エリオとキャロは、はやてたちにデバイスを届けろ」
「わかりました!」
 地上本部内はデバイスの持ち込みが禁止されている為、中にいるはやて、なのは、フェイト、シグナムのデバイスは、ヴィータたちが預かっていた。
 デバイスを受け取ったエリオとキャロが、急いで建物の中に戻っていく。
「北は私とリインが担当する。お前たちは東南の敵に当たれ」
 残りの敵は他の部隊に任せることにする。
「了解!」
 全員バリアジャケットを装着し、戦闘準備を整える。
「行くぞ、リイン!」
「はいです。ユニゾン・イン!」
 リインがユニゾンし、ヴィータの真紅のバリアジャケットが白へと変わる。
 ヴィータとスバルたちは、それぞれの戦場へと向かって行った。

 スバル、ティアナ、ギンガの三名は目的地へと急ぐ。敵はすでに警備部隊と交戦を開始している。
「何よ、これ!?」
 警備部隊の情報に目を通していたティアナが、突然大声を出した。
 地上本部の警備には質、量ともにかなりの人員が割かれている。しかし、その反応が急激に減っていく。
 スバルたちが現場に到着した時には、すでに戦闘は終わっていた。
 武装した局員たちが折り重なるように倒れ、かすかな呻き声を上げている。その中心でただ一人立っているのは、異様な風体の人物だった。
 魚を模した、太陽の如き輝きを放つ黄金の鎧。目深にかぶった兜のせいで、その表情はうかがえない。右手には、凄惨な現場には不釣り合いな黒いバラの花を持っている。
「何、あいつ?」
 ティアナが戸惑いの声を上げる。
 敵が着ているのは、下手をすれば自らの動きを阻害しかねない全身鎧だ。バリアジャケットにしては、あまりにもごつい。では、敵の正体は一体何なのか。
「ピラニアンローズ」
 こちらを察知した黄金の闘士が、黒バラを投擲する。
 スバルは咄嗟にバリアを展開した。まるで投げナイフのような黒バラが、バリアを食い破りスバルの袖を掠める。それだけでバリアジャケットの袖が抉れ、下の皮膚に一条の赤い線が走る。
 破壊力が尋常ではない。この黒バラの前では、バリアジャケットなど紙同然だ。
「スバル、行くよ!」
 ティアナが二丁拳銃型デバイス、クロスミラージュから魔力弾を撃つ。スバルとギンガのローラーブーツが大地を疾走し、挟み込むように接近する。
「もらった!」
 スバルとギンガが渾身のストレートを繰り出す。しかし、その瞬間、敵の姿が視界からかき消えた。
「えっ?」
 スバルとギンガが呆気に取られる。
「スバル、後ろ!」
 ティアナからの警告。振り向く間もなく、スバルは背中を強く蹴られ、無様に地面に倒れ伏す。
「この!」
 ティアナとギンガが躍起になって黄金の闘士を攻め立てるが、繰り出す攻撃がことごとく空を切る。
(速い! まさかフェイト隊長以上!?)
 一方的に攻められながら、敵からは明らかな余裕が感じられた。最初の一撃以来攻撃してこないのも、できないのではなく、己がどれだけ速く動けるか試しているようだった。
「私を忘れるな!」
 起き上がったスバルが、右側から足払いをかける。敵の動きが一瞬乱れるが、それだけだった。スバルの頭上を飛び越えて、はるか後方に着地する。
(今の見た?)
 ティアナが念話で仲間たちに話しかける。
(うん。あいつ、右側の攻撃に反応が一瞬遅れた。もしかしたら怪我してるのかも)
(なら、そこを狙うしかない)
 スバルたちは呼吸を合わせ、突撃するタイミングを計る。
「ふむ。やはり視界が悪いな」
 その矢先、敵が兜を脱いだ。長い銀色の髪がこぼれ落ち、右目を覆う黒い眼帯が露わになる。黄金の闘士の正体は、小柄な少女だった。
「お前は!?」
「私はナンバーズ、チンク。タイプゼロ、お前たちと同じ戦闘機人だ」
 スバルの疑問に、少女が答えた。タイプゼロは、スバルとギンガの異称だ。
「あっれー? まだ終わってなかったっスか?」
 朗らかな声と共に、新たな少女が乱入してくる。
 翼を生やした黄金の鎧に、右手に弓を携えている。チンクの物とは違い、兜はヘッドギア型で、楽しげに笑っているのが良く見える。
「ウェンディ」
 チンクが弓を持った少女の名を呼ぶ。
「こっちはまあまあ強かったっスよ」
 ウェンディの笑みに残酷なものが混じる。翼の後ろに隠していたものを、スバルたちのそばに投げ捨てる。
「ヴィータ副隊長! リイン曹長!」
 スバルが悲鳴を上げる。
 ウェンディが投げたのは、ぼろぼろになったヴィータとリインだった。ティアナが容体を調べるが、命に別状はないようだった。
「そんなヴィータ副隊長が負けるなんて」
 ギンガも動揺を隠せない。
「へえ。チンク姉が手こずってるとなると、少しは骨がありそうだな」
 続いて、黄金の鎧を着た赤い髪の少女が、スバルたちの後方からやってくる。色こそ違うが、顔立ちはスバルに瓜二つだった。
「ノーヴェ、そっちももう終わったのか?」
「ああ。手応えのない連中ばっかりで、準備運動にもならなかった」
 ノーヴェと呼ばれた赤い髪の少女が、たてがみを模した兜の下で、唇を不機嫌そうに尖らせる。
 ティアナの背を冷たい汗が滑り落ちる。チンク一人でも倒せなかったのに、おそらく同等の実力を持った戦闘機人が二人も増えた。
 ユニゾンしたヴィータでさえ敵わなかった相手だ。普通なら撤退を考えるところだが、囲まれていてはそれも難しい。
「チンク姉とウェンディは休んでてくれ。こいつらは私がやる」
「まだ実戦テストは充分じゃないんだ。あまり無茶はするな」
「わかってるよ。チンク姉は心配性だな」
 ノーヴェが気のない返事をする。
 ノーヴェの注意が、こちらからそれたと見るなり、スバルが走り出した。リボルバーナックルのカートリッジをロードし、魔力を右拳に集中させる。
 ノーヴェは煩わしそうに振り向くと、同じように右拳を繰り出す。
「一撃必倒、ディバインバスター!」
「ライトニングボルト!」
 空色の拳と黄金の拳が正面から激突する。ノーヴェの拳がわずかに押し戻される。
(いける!)
 スバルが再びカートリッジをロードする。速度はノーヴェの方が上かもしれないが、威力はこちらがわずかに勝っている。畳みかければ、勝機はある。
 スバルを援護しようと、ギンガが飛び出し、ティアナがクロスミラージュを構えた。
 ノーヴェは無造作に右腕を前に突き出した。
『エネルギー反応さらに増大! 推定オーバーS!』
「ライトニングプラズマ!」
 シャーリーの警告と、ノーヴェが技を放ったのは、まったく同時だった。
 スバルたち三人の視界を、閃光が縦横に瞬いたと思った次の瞬間、体が宙に舞っていた。
「……えっ?」
 わずかに遅れて、激痛が全身を駆け巡る。想像を絶する速度で、滅多打ちにされたのだ。スバルが、ティアナが、ギンガが受身も取れず地面に激突する。
「よし。これで終わりだな」
「そうでもないみたいっスよ」
 勝利を確信したノーヴェを、ウェンディがからかう。
「まだ……負けてない」
 痛みを訴える腕と足を無理やり動かし、スバルとギンガが立ち上がる。だが、強がりなのは明白だった。膝は震え、両腕を上げる力すら残されていない。
 必殺技を使って仕留めきれなかったことは、ノーヴェの癇に障った。舌打ちと共に、再びライトニングプラズマを放つ。
 ギンガが最後の力を振り絞り、スバルをかばう。
「ギン姉―――――――――――っ!!」
 スバルが絶叫した。目の前で、ギンガが黄金の閃光によって徹底的に打ちのめされていく。それだけでは飽き足らず、閃光はギンガごとスバルを吹き飛ばす。
 今度こそスバルたちが動かなくなったのを確認し、ノーヴェがウェンディに尋ねた。
「タイプゼロは捕獲だったな?」
「なんか、してもしなくても、どっちでもいいって言ってなかったスか?」
「そういうの一番困るんだよな。はっきりしてくれないと」
「悩む必要はない。連れて行って、ドクターの判断を仰ぐとしよう」
 チンクがスバルに手を伸ばす。その手を、突如飛来した鎖が阻んだ。
「そこまでだ!」
 ペガサスの意匠が施された白い鎧と、赤い服を着た少年が、ノーヴェたちの前に立ち塞がる。
「君たち、大丈夫?」
 駆けつけたもう一人が、スバルたちを気遣う。輝く薄紅色の鎧に、長い一本の鎖を両腕に巻きつけている。
(女の子?)
 スバルは朦朧とした意識で相手を見上げる。
「後は僕たちに任せて」
 肩まで伸びた緑色の髪に、綺麗な顔立ち。しかし、声はやや高めだが男のものだった。色といい、丸みを帯びた形状といい、鎧が女性的なので、ややこしいことこの上ない。
 二人の少年が肩を並べ、ナンバーズたちと対峙する。
「お前たち、聖闘士(セイント)か?」
 チンクが問いかける。
「ああ、そうだ。盗んだ黄金聖衣(ゴールドクロス)、耳をそろえて返してもらうぜ!」
 白い鎧の少年が、威勢よく言った。

 その頃、地上本部の指揮管制室は、大混乱に陥っていた。
「何故だ!? 何故、たった三人の賊が抑えられん!」
 指揮官が腹立ち紛れに机を叩く。
 モニターに表示されているのは、おびただしい数の倒された武装局員たち。このままでは全滅も時間の問題だ。
「システムの復旧はどうした!」
「もう少し時間がかかります!」
 戦闘機人の襲撃とほぼ同時に、本部のシステムがクラッキングを受けていた。建物内では隔壁が勝手に締まり、人々を中に閉じ込めている。エレベーターも使用不能だ。
「とにかく残っている部隊の再編成を急げ。賊を絶対に中に入れるな!」
「それがとっくに入ってるんだな」
 場違いに明るい声が、耳元で囁く。指揮官は凍りついたように動きを止めた。いや、比喩ではなく、本当に凍りついていた。
 驚く管制官たちの前で、黄金の鎧を着た水色の髪の少女が、頭上で両腕を組み合わせた。前腕部の装甲が水瓶を形作る。
「オーロラエクスキューション!」
 振り下ろされた水瓶の先から、絶対零度の凍気が撃ち出された。室内が氷で覆い尽くされていく。
「手加減はしたから、多分死んでないよね。それにしてもすごい能力」
 氷の彫像と化した管制官たちを、ナンバーズ、セインは感心したように眺める。
 ミッドチルダとは別の世界に、聖闘士と呼ばれる正義の闘士たちがいた。彼らは星座の聖衣(クロス)を身にまとい、小宇宙(コスモ)と呼ばれるエネルギーを燃やし戦う。その拳は空を裂き、蹴りは大地を割る。
 八十八いる聖闘士の中でも、黄道十二星座を司る最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)に至っては、放つ拳は光速に達する。
 セインは自らがまとう水瓶座(アクエリアス)聖衣を愛しげに撫でる。苦労して盗み出した甲斐があったというものだ。
 かろうじて生き残ったモニターには、姉妹たちの姿が映し出されている。
 魚座(ピスケス)聖衣のチンク。射手座(サジタリアス)聖衣のウェンディ。獅子座(レオ)聖衣のノーヴェ。誰も彼も絶好調のようだ。
「ドクターはやっぱり天才だね」
 聖衣の胸部装甲の裏側に、結晶型の小型機械が取り付けられていた。
 聖衣にはこれまでの装着者の記憶が蓄積され、聖衣の意思を形成している。スカリエッティの開発したこの機械は、聖衣の意思に働きかけ、ナンバーズを本来の装着者に、敵対する者を邪悪な戦士と誤認させる。
 さらに黄金聖衣の持つ力を、体内に直接送り込むことで、装着者のコスモを強制的に覚醒させ、黄金聖闘士の域まで高めてくれる。
 コスモ自体はあらゆる人が持つエネルギーだが、習得には長く厳しい命懸けの修行が必要になる。スカリエッティの発明は、その過程を省略する画期的な物だった。
 難点は、黄金聖闘士ぎりぎりの力しか発揮できないことと、聖衣が男性用なので胸元が少々窮屈なことくらいだ。
「さてと、お仕事、お仕事」
 引き続き破壊工作と、内部の連中の足止めをしなければならない。セインは軽い足取りで、指揮管制室を出て行った。

 次元を超えて現れた白い鎧の少年、ペガサス星矢は、ナンバーズを見て、苦々しい表情を浮かべた。
「全員女かよ。やりにくいな」
「油断しないで、星矢。どんなからくりかわからないけど、彼女たちは黄金聖闘士の技が使えるみたいだ」
 薄紅色の鎧の少年、アンドロメダ瞬が鎖を構える。
 二人とも、聖闘士の中では最下級の青銅聖闘士(ブロンズセイント)だが、かつて黄金聖闘士と戦い勝利を収めたことのある猛者たちだ。
「わかってるよ」
 星矢と瞬が戦闘態勢を取る。
「面白ぇ。腕試しの相手になってもらうぜ」
 ノーヴェが右腕を前に突き出すと、機械が聖衣の意思から技のデータを読み取り再現する。
「ライトニングプラズマ!」
 光速拳が、連続で放たれる。
「燃えろ、俺のコスモよ!」
 星矢が叫び、黄金の拳の嵐の中に踏み込む。常人では視認することさえ不可能な連撃を星矢は紙一重でかわしていく。
「所詮はサル真似だな。本物のライトニングプラズマより、速度も精度も劣る!」
 ライトニングプラズマは一秒間に一億発の拳を相手に叩き込む技だ。しかし、ノーヴェのライトニングプラズマはそれより一万発少ない。
「聖闘士に同じ技は通用しない。まして劣化コピーなんて話にならないぜ!」
 星矢とノーヴェの隣で、瞬とチンクも戦闘を開始する。
「ピラニアンローズ!」
「ネビュラチェーン!」
 瞬の鎖が生き物のように動き、チンクの投げる黒バラを絡め取る。
「どうやら、あなたたちは全ての技を使えるわけではないようだね」
 チンクの黒バラはよく見ると、金属で出来た造花だった。
 威力の低下を武器で補ったのだろうが、これではピスケスの他の技、ロイヤルデモンローズとブラッディローズは使えない。
 ピスケスの黄金聖闘士アフロディーテは、香気だけで人を死に至らしめる恐ろしい毒バラの使い手だった。しかし、毒バラを使うには、自らもその毒に耐えねばならない。技は真似できても、耐毒性まで再現はできなかったのだろう。ならば、恐ろしさは半減する。
 星矢の蹴りが、瞬の鎖が、ノーヴェとチンクを後退させる。
「これで終わりだ!」
 星矢が勢いよくノーヴェに接近する。ノーヴェはにやりと笑った。
「ライトニングプラズマ!」
「同じ技は……何!?」
 次にノーヴェが放ったのは、光速の蹴りだった。拳とは異なる軌道を描くそれを避けきれず、星矢が天高く蹴り上げられる。
「私は蹴りの方が得意なんだよ!」
 ノーヴェの足元から、光の道が螺旋を描いて伸び、空中にいる星矢を取り囲む。ノーヴェの能力、エアライナーだ。
「聖闘士は飛べないんだよな」
 ノーヴェは光の道を駆け、落下しようとする星矢をサッカーボールのように蹴り上げていく。空中では、星矢に防御以外の選択肢はない。
「星矢!」
「余所見をするとは余裕だな。IS発動ランブルデトネイター」
 チンクが指を弾くと、鎖に絡め取られていた黒バラが爆発を起こす。
「うわぁああああああっ!」
 チンクのISは無機物を爆発物に変える。バラを造花に変えたのはこの為だった。
「私たちの技を、劣化コピーと言ったな」
 チンクは両手に新たなバラの花を構える。
「認めよう。しかし、我らにはそれを補う別の能力がある!」
 聖闘士は相手の技を見切ることを得意とする。しかし、それは相手も同じコスモの使い手だからだ。異なる原理で動く戦闘機人のISを、容易く見切ることはできない。
 黒バラが、瞬の周囲で次々と爆発する。鎖と聖衣で多少軽減されているが、爆風が瞬をその場に縫いつける。
「そろそろ私も参加させてもらうっス。ISエリアルレイブ」
 サジタリアスの翼が発光し、星矢とノーヴェを追いかけて飛ぶ。
 ウェンディのISは、固有装備のライディングボードを扱う為のものだが、今はサジタリアス聖衣と連動している。元々若干の飛翔能力を持っていたサジタリアスの翼と、ウェンディのISの相乗効果により、自在に飛行が可能となっていた。
「同じ技は通用しない。なら、見たことない技ならいいんスよね」
 ウェンディがコスモを右拳に集中させる。
「アトミックサンダーボルト!」
 サジタリアスの黄金聖闘士アイオロスはすでに故人であり、星矢たちは実際に会ったことがない。まして、その技を知るはずがない。
 ウェンディの光速拳が星矢に迫る。
「エクセリオンバスター!」
 星矢の背後から発射された桜色の光線が、ウェンディの拳と激突し、威力を相殺しあう。
「!?」
 ノーヴェとウェンディの攻撃の手が止まる。
 地面へと落下を始めた星矢の体を、誰かが受け止めた。
 星矢は痛みに顔をしかめながら、助けてくれた相手を仰ぎ見た。
「あんたは?」
「私はなのは、高町なのは」
 白を基調としたバリアジャケット。栗色の髪は白いリボンでツインテールにまとめられ、左手には赤い宝石がついた長い杖を持っている。
「話は後で。まずはこの状況をどうにかしないと」
 なのはは険しい面持ちで、ナンバーズたちを見据えた。

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最終更新:2012年12月25日 22:54