『マクロスなのは』第31話『聖剣』
EMP攻撃から数分後 電脳空間
フォールド波から電子の流れまで、全ての事象を解析・表示する電脳空間から事件を眺めていたグレイスは、先ほど災害現場に到着したらしいブレラの呼びかけに耳を傾ける。
「どうした?」
『周囲にフォールドネットの原始的生成を検知しました』
「ん?それはどういうことだ。ブレラ・スターン」
もちろん彼のセンサー情報はこちらでもリアルタイムで確認しているが、このように言語を介すのは、体を機械に置き換えてなお残る習慣であった。
こちらに問いにブレラは迷うことなくバジュラのEMP攻撃によって、置物と化していた車両のボンネットを剥がす。そしてパッと見回すと、電子の瞳でただ一点“バッテリー”を凝視する。
『・・・・・・この物質がフォールドクォーツへと変化するのを確認しました』
「バッテリーがフォールドクォーツに・・・・・・。ふふふ、了解したわ。命令変更、直ちにそのサンプルを採取し、帰還しなさい」
『ヤー』
短い応答と共に、彼は腕の単分子ブレードで車からバッテリーを分離させ、VF-27の待つ海岸への帰路についた。
5時間後 ミッドチルダ沖合20km 海上
「あれから5時間でまだこれかい?」
仮眠していたのか髪をボサボサにしたギャビロフは、損害報告モニターの表示に非難の声を上げる。
「面目ない・・・・・・」
はんだごて片手に電子基盤と格闘する部下が、小さく謝罪した。
「まったく・・・・・・それで、修理はどうなったんだい?」
「EMPでかき回された電子系は大方復旧できました。通信の方ですが、これを見る限りこっちは故障じゃないみたいです」
次元海賊「暁」所属、輸送艦「キリヤ」は次元空間からのワープアウト直後に謎のEMP攻撃を受けて航行不能に陥り、緊急浮上。そこで応急修理を行っていた。しかし浮上から5時間がたった今も、迎撃どころか管理局のレーダー波すら飛んでこないことを怪訝に思っていた。
「じゃあ、やっぱり〝アレ〟が動いちまったせいなのかい?」
「ええ。EMPで壊れた拍子に動いてしまったみたいなんで、今わかってるだけでもクラナガン全域をジャミングしてしまったみたいです。効果が予定通りなら、電磁波通信は明日までできないと思います」
「切り札のつもりだったけど、仕方ないね・・・・・・。それで、アマネからの連絡は?」
「はい、地上局の工作員経由の連絡によればなんですが・・・・・・」
「どうしたんだい?」
「それが・・・・・・合流ポイントに、この近くのネズミーランドを指定して来まして・・・・・・」
「あの子、遊びに来てるつもりなのかね・・・・・・」
海賊の首領たるギャビロフも少なくとも科学技術に関しては天才である部下の考えを読みかねて頭をかかえた。
事件翌日 フロンティア基地航空隊 格納庫
そこでは昨日の戦闘で傷ついた機体の補修作業が夜通し行われ、機体を失ったアルトも朝から他の機体の補修作業を手伝っていた。
(そろそろ時間か)
見上げた時計は0945時を示している。
昨日眠い頭にムチ入れつつ、ミシェルの言う通りに田所に連絡を入れていたアルトは、
「1000時までに技研に」
と言われていた。
そんな中、元VF-25専属整備士だったシュミットが、ぼこぼこになったVF-1Bの整備の傍ら聞いてきた。
「ところで昨日から休暇でどっかいっちまった諸橋が、隊長に聞きたいって言ってたことがあるんです」
「諸橋・・・・・・ああ、あの同性愛の新人か」
「え、ええ。まぁ、それでこいつらのエンジン周りのことなんですが、ここにいる連中にはわからない問題だったんで」
「・・・・・・俺にわかるのか?それ?」
「うーんどうでしょう。えっとコイツだと・・・・・・ここか。このブラックボックスのことなんですよ」
シュミットは整備していたVF-1のエンジンカバーをあけて、その箱を指差す。
「諸橋がVF-25にはこんなものついてないのに、他の機体には全部着いてる。どうして必要なんですか?って」
「ああ。そいつは確かメーカーが魔力炉のバックアップ回路が入ってるって触れ込みで、つけたんじゃなかったか?」
「はい。そこまでは我々でも分かるんですが、やっぱりそれ以上のことは分かりませんか?」
「・・・・・・そうだな。ここだけの話だが、VF-25なら魔力炉からの供給がなくても緊急時には質量兵器としての各種兵装が使えるから着けなかったって事ぐらいか」
「なるほど。やっぱりアレ、元質量兵器だったんですか」
「まぁな。黙ってたが、いい加減察していただろ?」
「ええ。主翼の付け根の銃口も観測機器って聞いていましたが、航法システムに全く干渉してこないし、カバー開けたら機器銘板に『25mm荷電粒子ビーム機銃』って書いてありましたから」
まぁ、管理局の封印を見てなんとなく事情はわかりましたけど。とシュミットは苦笑しながら付け足す。
管理局でのバルキリーの運用にはこうした明文化されていない察しを要求するところが多い。本来の技術開発をすっ飛ばして設計図から入ったり、自分のような次元漂流者の機体を改造して使ったりだから仕方ないのだが、いつかこのことがネックになる時が来そうだと漠然と思った。
「まぁ、そういうことだ。10時に技研に行く予定があるから、ついでに聞いてこようか?」
「そうしてもらえるとありがたいです。でも10時に技研に、ですか?もう50分過ぎてますけど」
「ん?バルキリーなら130キロぐらいひとっ飛び─────」
そこまで言って気づいた。
(俺、VF-25墜としちゃったじゃん!)
途端に冷たい汗が背を伝う。
(いろいろ準備しなきゃいけないし、格納庫の予備機は・・・・・・勝手には使えないよな。EXギアでは・・・・・・だめだ。なのは達ならともかく、俺には音速は出せない。遅刻すると伝えるしかないか・・・・・・)
そこでシュミットがこちらの思考に気づいたのか、代替案を提案してきた。
「確か天城二尉が技研に出向になるそうで、出発が10時だったかと。今ならバルキリーの発進を早めればあるいは・・・・・・」
「それだぁ!サンキュー、シュミット!」
礼を言うのももどかしく、その場を離れて修理されたばかりのVF-1Bを点検する天城に通信をつないだ。
(*)
3分後
自室で準備を済まして戻ると、すでに天城のVF-1Bは滑走路に待機していた。
(飲み込みが速くて助かる)
アルトは開いたキャノピーから後部座席に飛び込み、EXギアを固定した。
管理局の機体はホバリング機能などから来る汎用性から救助作業
その他のために全ての機体に後部座席が存在し、必要ならいつでも使えた。
「アルト隊長、技研行きの特急便、発進OKっすよ!」
「よし、出してくれ。」
「了解!」
天城はスラストレバーを上げると、所々被弾孔の残る鋼鉄の鳥を飛翔させた。
(*)
4分後
特急便はすでに技研に併設された格納庫で翼を休めていた。
「時間ぴったりだな。結構結構」
通信機から聞こえた田所の声に、腕時計を確認する。
1000時ジャスト。
バルキリーでなければまず間に合わなかっただろう。
安堵のため息が自然に出て、ドヤ顔を見せる天城に礼を言うと、機体から飛び降りた。
(*)
久しぶりに見る技研は更に改装が進んでおり、もうひび割れたビルなど残っていなかった。
「ずいぶんきれいになったろ」
田所の問いに、アルトは骨組み状態の5階建てビルから目を離して同意の仕草をする。
「最初に来たときは技術棟なんて4つか5つしかなかったのにな」
「まぁな。今では大企業並の予算と設備だ。おかげで陸士部隊の装備のアップデートや新兵器の開発だって上手く行っている」
「新兵器?」
問い返すアルトに、田所は研究施設の一角を指差す。
全てが舗装された他の敷地とは違い、そこにはオフロードと呼べるほどの荒れ地─────いや、よく整備されたコースがあった。
そこを走るは、8輪で鋼鉄の身体を動かし、全方位旋回する箱から伸びる特徴的な長い〝筒〟を備えた車だった。
それは走りながら筒を横に向けると火を吹いた。
次の瞬間には標的だったものは吹き飛び、跡形もなくなった。
「今度は『ベアトリーチェ』か・・・・・・」
もう頭を抱えることしかできなかった。
『ベアトリーチェ』とはフロンティア船団の新・統合軍、首都防衛隊の装備していた装甲偵察車である。
その身に105mm速射砲を装備していたことから俗に戦車とも呼ばれ、バジュラの初襲来時にはアイランド1で迎撃に当たった。
しかし敢えなく撃破されており、以後は対バジュラ戦には投入されず、住民の誘導や治安維持に使われていた。
「ああ、前線からの要請だ。陸士部隊の移動手段の拡充が主な狙いだ。あの砲ならⅢ型など目じゃないし、安全性は従来のトラック輸送と比べて格段に向上する」
「しかし、ねぇ・・・・・・」
走行射撃しながら順調に標的を撃破していく装甲車は、分類上魔導兵器なのだろうが、質量兵器にしか見えなかった。
「すぐに慣れるさ」
人間は順応性が高い。最近バルキリーの運用に違和感がなくなってきたのがその例だ。
しかしこれらは果たして慣れて良いものなのか、アルトにはわからなった。
(*)
それから5分ほど歩いて着いた場所はまるで地下鉄の入り口のような地下に続く道だった。
「ところで俺達はどこに向かってるんだ?」
堪えきれなくなったアルトが、田所に問うた。
「ん? なんだ、ミシェル君から聞いてないのか。まぁいい。とりあえず腰を抜かさない覚悟はしておけよ」
田所はまるで宝物を見せようとするガキ大将のような笑みを浮かべると、階段を降りていく。その先には果たして、地下に入るのか?というほど巨大な実験場があった。
「ほぅ、これはすごい・・・・・・」
田所の開けたドアの先は、どうやらエンジンの実験場のようだった。
自分達のいる管制所と、土台に据えられた丸裸の熱核タービンエンジンが存在する実験場とはガラスで隔離され、安全を確保している。
田所は何事かを研究員と話すと、何かのプラグを抜き、手渡してきた。
「なんだこりゃ?」
「とりあえず持っていてくれ」
答えるとともに彼は研究員に次々指示を出していく。
「―――――テストエンジンの反応炉、停止。―――――外部電源カット。―――――システムAからBへ移行」
研究員達は流れるような手つきでコントロールパネルを叩き、田所の指示を実行していく。
「反応炉、完全に停止。強制冷却機スタンバイ」
「全システム、モードBへ移行・・・・・・完了」
次々と準備を行って行く研究員達の傍ら、アルトの目にhPa表示のデジタルメーターが映る。徐々に小さくなって行く数値に、どうやら実験空間を真空近くまで減圧している事が見て取れた。
「・・・・・・減圧完了。実験場内0気圧。理想的な完全真空です」
研究員の報告に田所の口が動いた。
「ファーストステージ開始!」
「了解、実験のファーストステージ開始します。試作MMリアクターへの魔力注入開始」
「おっと・・・・・・!」
持っていたプラグからコードを伝わって、自らの青白い魔力が流出していく。
どうやら実験に使う魔力は俺から流用しているらしい。
「俺は電池代わりかよ」
思わず悪態が口をついて出たが、誰も相手にしてくれなかった。
逆らうこともできたが、それほど多い量でもないので妨害は見送る。
「・・・・・・試作MMリアクターの作動状態は良好。実験をセカンドステージに移行します」
「テストエンジンへの流入魔力量、125M/h。〝炎熱コンバーター〟、想定のパラメーター内で作動中!これなら行けます!」
「よし、点火!」
田所の号令一下、研究員はパネルの一際大きな赤いボタンを押した。
すると今まで沈黙していたエンジンに火が入る。
(なん・・・・・・だと・・・・・・)
それはあり得ないことだった。
今あの中は宇宙空間も同然の真空なのだ。その場合、酸素と燃料から成る推進剤がなければ酸化還元反応は起こらず、火など燃えようはずがないからだ。
しかしそれは青白い炎を噴射口から吹き出していた。
「出力、4分の1でホールド。現在推力は15420kgf」
「タービンの回転運動による起電力で本体反応炉が再起動しました」
「推力を最大まで上げろ」
その指示に噴き上げる噴射炎が2~3倍に大きくなった。
「・・・・・・現在推力64500kgf!テスト段階の数値目標を達成しました!」
「MMリアクター内、魔力素消費率0.02%!従来型の100倍の省エネに成功!」
沸き立つ研究員達。ここまで来て初めてアルトはこの実験の目的を悟った。
ミッドチルダ製のバルキリーは推進剤を完全魔力化しており、推進剤のタンクの替わりにMMリアクターを搭載している。ちなみに、今は亡きVF-25改も同じである。
しかし推進器は自分が追加装備として出すFAST/トルネードパックのように、魔力素の直接噴射により推進力を得ていたので、推進効率は劣悪であった。
そのためFAST/トルネードパックのような無茶な使い方をすると10分と持たない。
しかしこのように炎熱変換して炎として噴射すれば効率は桁違いだ。
簡単に言えば、今まで車を動かすのにガソリンをエンジンで燃やさず、高圧ホースでそれを後ろに噴射していたと言えば分かりやすいだろう。
だが炎熱変換はシグナムのような先天性のレアスキルの持ち主か、カートリッジ弾のように強制撃発させて制御不能の爆発を発生させるのが精一杯のはずだった。
そのため案の定というべきか、雲行きが怪しくなってきた。
研究員の操作するコントロールパネルに1つ、赤いランプが灯った。
「・・・ん?MMリアクターの出力に変動あり」
「なに?うーん、コンバーター側で調整してみよう」
「反応炉過熱中。強制冷却機、出力100%」
「─────ダメだ!変動が不規則過ぎて追いつけない!」
それが合図だったかのように一斉に赤いランプが灯った。
「反応炉、出力上昇中!安全域を超えます!」
「駆動系、ガタつき始めました!」
「強制冷却機、安全基準を突破!120%で稼動中!」
そして事態は最終局面を迎えた。
ガーッ、ガーッ、ガーッ
施設全体に響き渡るサイレン。既に研究員達が操作するコントロールパネルやホロディスプレイは真っ赤に染め上げられている。
「全冷却システム焼き切れました!反応炉の温度上昇止まりません!」
「減速剤注入、反応を抑制しろ!」
「了解。注入開始・・・ダメです!エンジン内部の減速剤、効果なし!」
「伝達系ダウン!反応炉、完全に暴走!」
「炉心のエネルギー転換隔壁、融解を始めました!」
「全電力で融解を阻止しろ!」
「・・・・・・効果なし!第1隔壁融解。第2隔壁を侵食し始めました!」
この段に至り田所はコントロールパネルに張り付くと、それを叩き割り、中のボタンを押し込んだ。
直後実験場内の外壁が開け放たれ、大量の水が流入した。
急流となった水流はエンジンを飲み込み、白い蒸気を吹き上げた。だが温度上昇の方が早かった。
「温度上昇止まりません!反応爆発します!」
刹那、眩いばかりの光が周囲を飲み込んだ。
(死ぬなら空の上が良かった・・・・・・・)
思ったがもう遅い。アルトの意識と肉体は、突然出現した太陽の灼熱地獄によって分子レベルにまで還元された。
「ちっ・・・」
静寂の中、誰かの舌打ちが聞こえる。
「え?」
意識の上では既に昨日、今日とで三途の川を渡りきっていたアルトは再び現実世界へと引きずり下ろされた。
(あれ?熱くない)
一瞬で蒸発するはずであり視界は全天を白が覆っていたが、指先も足先も感覚が有り、地面にしっかり立っている感覚もあった。
田所の声が部屋に木霊する。
「コンピューター、プログラムをテスト前に戻せ」
ピッピロリッ
軽やかな電子音と共に周囲の光度が下がる。そして一瞬さっきの管制所程の無骨な壁の覆う狭い部屋となり、再び何事もなかったかのように管制所と実験場に戻った。
「ホ、ホログラムだったのか・・・・・・」
当に仮想現実技術の極限とも言える完成度の高さだった。
確かにこれならプログラム次第でどんな実験でも行える。
また、地下空間にエンジンテストを行えるだけの設備を整えるのには年単位のスパンが必要になる。
となればこのホログラム施設を作るほうが遥かに現実的だった。
しかしこれほど違和感がないのは、おそらくこの施設はミッドチルダのバルキリー製作委任企業『三菱ボーイング社』辺りに本当にある施設なのだろう。
1人で納得している内に、田所がコントロールパネルに指を走らせる研究員に問う。
「原因はなんだ?」
「人間側の出力変動が予想値を遥かに上回っていて、炎熱変換機が対応しきれなかったんです。これから改良に入りますから試作した本物のエンジンでの実践は─────」
「まだ無理か」
田所は肩を落とし、ガラスの向こう(とはいえ全てホログラム)のエンジンを仰ぎ見た。
「えっと・・・田所所長、こいつをもう置いていいか?」
いつの間にか、また握られていた魔力電源プラグを掲げる。
田所は我に返ると、それを受け取り元の場所に戻した。
「すまないな。ウチにはアレを必要出力で起動できるほどの魔力資質保有者がいないんだ」
「なるほどな。・・・あ、そういえば所長が見せたかったのはこのエンジンなのか?」
しかし田所はこちらの問いに不敵な笑みを見せると首を振った。
「いや、これからが本番さ。・・・コンピューター、〝アーチ〟を」
すると入って来たドアと別の、現実世界への扉が現れた。
(*)
扉の先は行き止まりだった。
田所は扉の右に着いたボタン群から〝地下2階〟を押すと、扉が閉まり、体が軽くなった。
2人を乗せたエレベーターは下降していくが、大して深く降りぬ内にガラス張りのエレベーターの壁から急に視界が広がった。
その空間は地上の格納庫ほどの広さと高さを誇り、下界の研究員と整備員達が動き回る。彼らの中心には、優美なフォルムをした白鳥が鎮座していた。
(あれは!?)
エレベーターが最下点に到達し、扉が開く。と同時にアルトは持っていた硬貨を投げる。
それは目測で10メートル、20メートルと離れるが、いつまでたってもホログラム室の見えない壁にはぶち当たらなかった。
どうやら自分の見ている光景はマジ物らしい。
「どうだ?本物だと信じるか?」
「あ、あぁ・・・・・・」
田所の声に生返事を返しながら、その機体を仰ぎ見る。
キャノピーの後ろに突き出した2枚のカナード翼。しかしそれはVF-11のそれと違い、水平でなく斜めに突き出している。
エンジンナセルはず太く、その力強さを印象づけるのに対して、機首は一振りの剣のような鋭く美しい曲線を描いている。
そして何より、その翼は鳥がそれを広げたように、大きく前に突き出していた。
「VF-19・・・・・・」
しかしそれは自分の見たことがある新・統合軍制式採用機VF-19のF型又はS型とは違った。
前述のように2枚のカナード翼が存在し、エンジンナセル下にはベントラルフィンがある。
更に主翼も5割ほど大きくなっていた。
アルトはこの特徴を併せ持った機体を4機種ほど知っている。
1つはある惑星や特殊部隊で採用された超レアなVF-19『エクスカリバー』のP型とA型と呼ばれるモデル。
2つ目は20年前、マクロス7においてパイロット「熱気バサラ」の乗機として有名になったVF-19改『ファイヤーバルキリー』。
そして最後の1機は、AVF計画(スーパーノヴァ計画)で試作された試作戦闘機YF-19だ。
この試作戦闘機はある胡散臭い神話を持つ事から有名だ。
惑星「エデン」から地球に単独フォールドし、地球絶対防衛圏を〝正面突破〟。当時迎撃してきた最新鋭試作無人戦闘機「ゴーストX9」を〝単独〟で撃破し、マクロスシティに鎮座するSDF-01の対空砲火を掻い潜ってブリッジにタッチダウンした。というものだ。
アルトはどんな兵装を持ってしても地球絶対防衛圏を単独で正面突破するのは不可能だと思うし、当時慣性抑制システムOT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』はもう1機のYF-21にしか装備されていなかった。
そのためパイロットがどんなに優秀でも、当時のゴーストの機動に追随できたはずがない。
SDF-01も現在、モニュメントとしての要素が強く、対空砲火を打ち上げられたのかどうか・・・・・・
そのためこれは統合軍がVF-19の優秀さをアピールする目的で流されたデマだということが定説だった。
しかし実はこの歴史改変は統合軍の情報制御の成果だった。
この神話にはこの事件に大きく関わったシャロン・アップルの名は一度も出ないし、一緒に来たYF-21も伏せられている。
また当時現場にいた市民・軍属を問わずその時の記憶を失っている。となれば情報の制御は容易だった。
上記した2つの関係者を事実から抹消し、衛星に写っていたYF-19の武勇伝を誇大主張することで現実味を無くしたのだ。
しかし統合軍すら原因を正確に知らず、新・統合軍の機密事項を読める各船団の提督クラスや、それをハッキングして読んだグレイスらすらシャロンがなぜ暴走したのかは謎のままだ。
そのためこの事実を正確に知っているのは最近もエデンでYF-24『エボリューション』(VF-25の原型機)のテストパイロットをした、事件の当事者であるイサム・ダイソン予備役と民間人ミュン・ファン・ローンの2人だけだった。
「そう、VF-19〝P〟『エクスカリバー』だ」
田所が誇らしげに言った。
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次回予告は
ここの一番下にあります。
できれば「読みましたよ」ってのでもいいので、ついでにコメントしていってください。とても励みになるのでよろしくお願いします。
また、何らかのミスや小さなアイデアもあったらお願いします。
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最終更新:2013年01月15日 20:52